成人女性に対する「乳酸菌クレモリスFC株」の腸内環境改善作用と食生活の関連について発表
日本食品科学工学会 第60回記念大会 / 第60回日本栄養改善学会学術総会
フジッコ株式会社(代表取締役社長 福井正一)では、コーカサス地方を発祥とする乳発酵物から分離したLactococcus lactis subsp. cremoris FC株(ラクトコッカス ラクティス 亜種 クレモリス エフシー株、以下クレモリス菌FC株)を用いた製品開発を行い、現在、「カスピ海ヨーグルト」として広く親しまれています。カスピ海ヨーグルトの最大の特徴は強い粘りであり、この粘りはクレモリス菌FC株が産生する菌体外多糖(EPS:exopolysaccharide)に由来します。
当社では、これまでにクレモリス菌FC株牛乳発酵物の健康効果についてさまざまな研究を行ってきました。今回は、武庫川女子大学国際健康開発研究所(所長 家森幸男)、理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室(特別招聘研究員 辨野義己)との共同研究により、成人女性に対するクレモリス菌FC株牛乳発酵物の摂取試験を実施し、腸内菌叢や便通、食生活との関連について検討した結果を2題発表いたします。
■ 研究の概要
<摂取試験>
健康な成人女性66名(平均年齢45.3歳)を対象として、EPSを産生するクレモリス菌FC株と、対照としてEPSを作らない菌種でそれぞれ調製した牛乳発酵物を6週間毎日摂取してもらいました。摂取前、摂取2、6週目、摂取後に採便を行い、得られた便に含まれる細菌のDNA情報をもとに腸内菌叢を網羅的に調べました。また、試験期間中の排便状況の調査、試験開始時には食物摂取頻度調査を実施しました。
<発表1>
クラスター分析という手法を用いて腸内菌叢によるグループ分けを行いました(クラスターX、Y、Z)。その結果、クレモリス菌FC株牛乳発酵物の摂取に伴って、クラスターYの菌叢パターンに収束する傾向がありました。また、クラスターYを形成する上で最も影響が大きい構成要素はビフィズス菌であることが明らかになりました。
しかし、一方、6週間の摂取期間でクラスターXまたはZから全く移動しなかった被験者は全体の半分以上を占めていました。そこで、これらの被験者のビフィズス菌占有率を調べたところ、EPSを含まない牛乳発酵物では摂取2週目で、EPSを含むクレモリス菌FC株牛乳発酵物では摂取2週目、6週目ともに、いずれも有意に増加していることが認められました。また、クラスターの移動がなかった被験者とその他の被験者を比較すると、前者では、食物繊維を含む食品群の摂取が少なく、摂取前のビフィズス菌占有率が低い傾向がありました。
クレモリス菌FC株牛乳発酵物は、食物繊維を含む食品の摂取率が比較的低く、菌叢が変化しにくいと考えられるような人に対しても、ビフィズス菌占有率を有意に増加させる効果が認められました。
<発表2>
食物摂取頻度調査の結果から、被験者全体では食物繊維の摂取が少なく、総摂取エネルギーに占める脂質の割合が高いことが分かりました。また、1週間当たりの排便日数が5日以下の被験者を便秘傾向者とした時、便秘傾向者は正常者と比較して緑黄色野菜および乳類の摂取率が低い傾向がありました。
EPSを含む、含まないにかかわらず牛乳発酵物の摂取によって一週間あたりの排便回数および日数が増加しました。この作用は排便が正常な被験者よりも便秘傾向者に有意な効果が認められました。また、便秘傾向の有無によらず、試験食の摂取によって腸内のビフィズス菌占有率が増加する作用が認められましたが、この作用は、特にEPSを含むクレモリス菌FC株牛乳発酵物に強い働きがあると考えられました。
以上の事から、今回の被験者の食事内容は、腸内環境にとって望ましくなく、便秘にもなりがちな傾向があると考えられましたが、クレモリス菌FC株により産生されたEPSを含むヨーグルトを日常的に摂取することによって、ビフィズス菌を増やし、お通じの改善にも役立つことが期待されました。
■ 発表学会情報 <発表1>
【学会名】
日本食品科学工学会 第60回記念大会
【大会HP】
http://www.jsfst.or.jp/nenzi/2013/60taikai.html
【会期】
2013年8月29日(木)~31日(土)
【講演会場】
実践女子大学(東京都日野市)
【発表演題】
「成人女性の食習慣とLactococcus lactis subsp. cremoris FC牛乳発酵物の摂取が腸内菌叢に与える影響(その2)」
【発表日時】
2013年8月30日(金)12時00分~、D会場
【要旨】
(目的)腸内細菌は互いに影響しあい、複雑な腸内菌叢を形成している。腸内菌叢は生活習慣と密接に関連しているといわれ、一般にビフィズス菌などの有用菌は食習慣の乱れや加齢により減少することが知られている。本研究ではカスピ海ヨーグルトに含まれる乳酸菌Lactococcus lactis subsp. cremoris FC株(以下FC)の腸内菌叢に与える影響と食習慣について検討した。
(方法)健康成人女性66名(36~53歳、平均年齢45.3歳)を対象とした。試験食はFC牛乳発酵物100gおよび200g、あるいはFCより分離した菌体外多糖非産生株で同様に調製した発酵物100gを用いた。試験食摂取期間は6週間とし、試験食摂取前、摂取2週目、6週目および摂取後の便を回収し、ターミナルRFLP法により腸内菌叢の網羅的解析を行った。さらにリアルタイムPCR法により総菌数に対するビフィズス菌の占有率を算出した。なお試験開始前に食物摂取頻度調査FFQgを実施した。
(結果)ターミナルRFLPの結果をクラスター分析し、3つのクラスターに分類し、試験食摂取によるクラスター移動の有無とビフィズス菌占有率、食物摂取状況の関連について検討した。各試験食の摂取によってビフィズス菌の占有率は、クラスターの移動の有無にかかわらず増加した。特にクラスター移動がなかった被験者については、FC牛乳発酵物摂取群で摂取6週目に有意な差が認められた。またFC牛乳発酵物摂取群ではクラスター移動がなかった被験者は、移動があった被験者と比較して、穀類、イモ類、緑黄色野菜、豆類などの植物性食品の摂取率が低い傾向があった。EPSを含まない牛乳発酵物摂取群ではこのような傾向はなかった。以上より、FC牛乳発酵物は、植物性食品の摂取が比較的少ない人に対して、クラスターの移動が生じるような腸内菌叢全体の大きな変化を起こさない場合でも、ビフィズス菌の占有率を増加させる効果のあることが期待できた。
※ターミナルRFLP法・・・・・糞便の中にいる常在菌からDNAを取り出し、蛍光標識して増幅させた後、制限酵素で断片化して腸内細菌群のパターンを調べる方法。
※OTU・・・・・「操作的分類単位」という意味。本研究ではターミナルRFLP法で調べた各腸内細菌群の解析値のことを指す。
※クラスター分析・・・・・多変量解析の一つで、複数の要素(本研究では各腸内細菌群のOTU)をもつ集団を分類し、系統樹を作製して情報の近いもの同士をグループ化する方法。
※リアルタイムPCR法・・・・・試料に含まれる特定のDNAを増幅させて定量し、目的とする微生物(本研究ではビフィズス菌)がどの程度存在するか調べる方法。
■ 発表学会情報 <発表2>
【学会名】
第60回日本栄養改善学会学術総会
【大会HP】
http://www2.convention.co.jp/kaizen60/
【会期】
2013年9月12日(木)~14日(土)
【講演会場】
神戸国際会議場/神戸国際展示場/ポートピアホール/神戸ポートピアホテル/神戸商工会議所(神戸市 ポートアイランド内)
【発表演題】
「便秘傾向の成人女性における食生活および多糖産生乳酸菌を用いた牛乳発酵物の摂取が便通に与える影響」
【発表日時】
2013年9月14日(土)15時27分~、神戸国際会議場403号室 E会場
【要旨】
(目的)毎日の排便は生活習慣、特に日常の食生活と密接に関連しており、食事バランスの乱れは便秘を引き起こす要因と考えられる。また、一般的に腸内でビフィズス菌などの有用菌が増えると、整腸作用に伴い便通は改善するといわれている。本研究では成人女性におけるLactococcus lactis subsp. cremoris FC株(以下FC)を用いた牛乳発酵物の摂取が排便状況および便中のビフィズス菌占有率に与える影響について便秘傾向者ならびに便通が良好な者との比較を行った。またFCが産生する菌体外多糖(exopolysaccharide:EPS)の影響も調べた。
(方法)試験内容およびスケジュールは発表①に順ずる。なお1週間の排便日数が5日以下の者を便秘傾向者として解析を行った。
(結果)被験者の食事内容は食物繊維の摂取率が低く脂質のエネルギー比が高い傾向にあり、特に便秘傾向者では緑黄色野菜および乳類の摂取率が低かった。試験食の摂取により便秘傾向者において排便回数および日数の有意な増加が認められた。また、いずれの群においても便中のビフィズス菌占有率が増加した。
(結論)食生活において野菜類や乳類の摂取不足が便秘傾向となる要因の一つとして考えられた。また、EPS産生能の異なる乳酸菌牛乳発酵物の摂取による排便状況および腸内菌叢への結果から、FCの産生する菌体外多糖の整腸作用への関与が推察された。
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