ハラール・ビーガン・グルテンフリー・・・世界の様々な食制限に挑戦する懐石料理

海外からの予約客が絶えない正統派日本料理店の秘密とは

西麻布にある懐石割烹　伊勢すえよしでは、２０１６年春から世界中のあらゆる食制限保有者に向けて、「ハラール懐石」「ビーガン懐石」「グルテンフリー懐石」のサービスを開始した。複雑な懐石料理の献立の英語翻訳に加え、日・英・中・西・仏・韓、６カ国語の懐石料理のガイドブックも揃え、世界中からの来客を準備万端で迎え入れる。

◆多様化する食のニーズ
日本でも「ハラール」や「ベジタリアン」など、食にまつわる様々な制限をあちこちで耳にするようになったここ数年。訪日観光客の劇的な増加により、飲食店の利用客にも外国人が目立つようになって久しい。
外国人の集まる飲食店の特長には何種類かあるが、その中でも特に外国人から支持を集めるのが「ハラール対応」の出来る店、「ベジタリアン専用」のメニューがある店だ。こういった飲食店は、イスラム圏の郷土料理店や洋食店である場合が多い。その一方で、訪日観光客の旅において「和食を食べる」ということは大きな目的の一つであることも事実である。食制限を持つ多くの観光客は、「和食を食べたいのに食べられない」という悩みを常に抱えながら日本に滞在している。

夏の献立の一例

 

◆求められるのはプラスの付加価値だけではなくマイナスの排除
彼らにとっての食制限は「できれば避けたい」という程度の軽めのものから、アレルギーと同じように心身に支障をもたらす重度のものがある。そういった重度の食制限を持つ人々は当然「和食を食べたい」という気持ちよりも「食べてはいけないものを食べない」という気持ちの方を優先する。

◆懐石料理の可能性に挑む若き才能
食制限を持つ人にも日本の料理を楽しんでもらいたい、そう立ち上がったのは世界一周経験のある料理人、伊勢すえよし（http://isesueyoshi.blog.fc2.com/）店主の田中佑樹(28)だ。彼は英語が話せる板前として海外で多くの外国人と接する中で、世界中に存在する食制限と触れ合う機会があった。彼は懐石料理の持つ可能性についてこう語る。

「南米やヨーロッパなど８か国のレストランを研修しながら周ったんです。現地の料理を教えてもらう代わりに自分がまかないを作ったりして。懐石料理を知っているか？と尋ねると誰も知らないんです。寿司やしゃぶしゃぶは知っているのに。懐石料理は日本文化の魅力がたくさん詰まっているのに知らないなんて勿体ないと思っています。」

 

ベジタリアン向けの蒟蒻と湯葉のお造り

 

「完璧なハラール対応は今の設備的に不可能です。なので、当店では独自のハラールポリシーを設けて事前にお客様にご確認いただいています。ご納得いただけた場合に限りお料理を提供することによってお客様にご安心頂いております。それから、出汁のベジタリアンに対応は正直大変です。しかし昆布やきのこのローストによって深みのある味わいの出汁を開発したり、ベジタリアンでも食べられるお刺身を蒟蒻で表現したり、精進料理の”もどき”料理などにヒントを得ながら１年間かけて開発しました。」通常のメニューに比べて何倍もの労力を費やしてまで彼は挑戦し続ける。

英・中・西・仏・韓国語に翻訳されたミニ懐石ガイドブック

 

「世界中の人に懐石料理という文化を食べて知ってもらいたい」
 

そのために、食制限を持つ海外顧客に対しては、予約時にきめ細やかなヒヤリングを行い、5カ国語に翻訳されたオリジナルのミニ懐石ガイドブックと万全の準備を整え、安心して食べられる懐石料理を楽しんでいただくというスタンスを貫いている。食制限を持つ海外顧客のための懐石コースは13000円（税・サ別）。単なる食事ではなく、懐石料理を体験するという内容を考えれば決して高くない価格だと評価されている。今では彼の創る美しい懐石料理とカウンター越しのコミュニケーションを求めて世界中から毎日メールが届く。



◆体験者の声

伊勢すえよしの懐石料理を楽しんだ人たちからの声は「美味しかった」だけではない。

「家族皆で一緒に懐石料理のディナーを楽しめたのは初めてだ。妻はベジタリアンだからお刺身は無いかと思っていた」（アメリカ・男性）
「野菜だけでこんなに色々なバリエーションが楽しめて美味しくて良かった」（カナダ・女性・オボ・ベジタリアン）
「他の店では、今自分が食べているものが何なのか分からないままに終わってしまい不安だった。
伊勢すえよしでは事前に細かくヒヤリングをしてくれたし、食べながら質問しても答えてくれるから安心して食べられた。」（スウェーデン・女性・ベジタリアン）
「今日食べたベジタリアン和食の作り方や和包丁の使い方まで教えてくれる！」（シンガポール・女性）
「ベジタリアンの方の来日に合わせて接待で利用した。プロの料理人による英語での説明が聞けるので自分にとっても勉強になったし、ゲストにも大変満足いただけた。」（日本・男性・外国人接待利用）
など、食に対する安心感やコミュニケーションにより満足度が高かったとの声が寄せられている。


◆今後の展望
「日本の伝統文化であり、とても健康的で豊かな文化でもある懐石料理の世界を世界に向けて発信していきたい」
というのが田中の目標だ。懐石料理を楽しむことは日本人のもてなしの心を楽しむことであり、また「季節」を楽しむことであり、自然の恵みに感謝をすることでもある。もっとこの素晴らしい考え方が世界に広まるべきだと彼は考える。そのために今必要なことは、日本に来た旅行者が、懐石料理を心ゆくまで堪能できる場所の提供であり、そんな店でありたい。海外からの常連客が来ることを夢見て、世界中全ての人が楽しめる懐石料理を日夜開発している。