世界初!潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法の有効性を確認

~新たな腸内細菌療法の展開へ ~

順天堂大学大学院医学研究科・消化器内科学講座(渡辺純夫教授)の石川大准教授らの研究グループが2014年7月より開始した「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法」の臨床研究の結果、その有効性が明らかになってきましたので報告いたします。本研究により、抗生剤併用便移植療法による腸内細菌叢の変化が、潰瘍性大腸炎の治療効果と病勢に関連していることが判明しました。本成果は便移植療法などの腸内細菌療法が、潰瘍性大腸炎の有効な治療法になりうる可能性を示したものです。本研究結果は、米国の学会誌「Inflammatory Bowel Disease」電子版(米国時間11月22日)で発表されました。


【本研究成果のポイント】
・潰瘍性大腸炎に対する抗生剤併用便移植療法の有効性を確認
・腸内細菌のバクテロイデス門*1が治療効果と潰瘍性大腸炎の病勢に関連する
・抗生剤併用便移植療法による効果的な腸内細菌叢の再構築が、潰瘍性大腸炎の新たな治療法の確立につながる可能性


【背景】
本邦において難病指定疾患である潰瘍性大腸炎の患者数は毎年約1万人の増加を認め、2015年度では17万人を超えています。潰瘍性大腸炎は「増悪、寛解を繰り返し、治癒がない疾患」であり、新規薬物療法の登場で治療効果は飛躍的に向上したものの、長期使用での副作用発生のリスクもあり、長期予後の改善については未だ不透明です。

 一方、便移植療法は副作用の少ない治療として注目され、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染性腸炎への適用では高い奏功率を示したことが報告されました。そのため、糖尿病やメタボリックシンドロームなど代謝疾患に対しても積極的に臨床研究がおこなわれています。しかしながら、潰瘍性大腸炎に対する便移植療法のランダム化比較試験では、治療効果が十分でない、または効果がないとの報告もあり、従来の方法では治療効果は不十分といえます。そこで、私たち研究グループはより効果的な腸内細菌叢の再構築と便移植療法の効果増強を狙い、便移植前に前処置として抗生剤3種類(AFM:アモキシシリン,ホスミシン,メトロニダゾール)を投与する「抗生剤併用便移植療法」(図1)を提唱し、2014年7月から臨床研究「潰瘍性大腸炎に対する抗生剤療法併用便移植療法の有効性の検討(UMIN ID000014152)」を開始しました。
 

 

抗生剤併用便移植療法は①~③の3つのステップからなります。①乱れた腸内細菌叢の状態:腸内細菌のバランスが乱れ、多様性の低下しています。②抗生剤の服用で腸内細菌叢をリセット:抗生剤3種の服用により腸内細菌量を極限まで減らし、乱れた腸内細菌叢をクリアにします。③内視鏡による便移植:ドナー便から生成した溶液(腸内細菌)の注入により、バランスのとれた腸内細菌叢の構築を図ります。

 


【内容】
臨床研究では、2014年7月から2016年3月にかけて41例の潰瘍性大腸炎の患者さんを対象に抗生剤併用便移植療法(21例)、抗生剤単独(20例)の治療を実施し、治療経過中の腸内細菌叢の変化について次世代シーケンサーを用いて解析しました(図2)。その結果、抗生剤併用便移植した21人の患者中17人が治療を完遂し、14人(有効率82.4%)に有効性を認めました。一方、抗生剤単独群では20人中19人が治療を完遂し、有効性を認めたのが13人(68.3%)であり、治療後4週間の経過においては、抗生剤併用便移植の治療効果が高いことが明らかになりました。
 

 

潰瘍性大腸炎(UC)患者に対して、まず、抗生剤療法(AFM療法*2)を便移植(FMT)施行日2日前まで2週間行いました。次に、ドナー便約200gを生理食塩水と処理した約400mlの溶液とし、ドナー便採取後6時間以内にUC患者の盲腸付近へ大腸内視鏡を使って注入移植しました。ドナーの便と患者の治療前、AFM療法後、FMT後4週間の便を次世代シークエンサー用い腸内細菌叢の分析を行いました。


さらに、腸内細菌叢の分析では、抗生剤療法後には腸内細菌のバクテロイデス門の割合が著明に減少します。便移植療法後4週間で効果があった症例ではバクテロイデス門の割合が有意に回復し、効果が出なかった症例ではバクテロイデス門の回復は認めませんでした(図3)。そして、バクテロイデス門の回復は、潰瘍性大腸炎の病勢を表す内視鏡スコアと相関を認めました。一方、抗生剤単独群では、 治療後4週間経過してもバクテロイデス門の割合の回復は十分でなく、回復した症例と治療効果の関連性は認めませんでした

 

腸内細菌の分析では、AFM療法後はバクテロイデス(Bacteroidetes)門(赤色)の割合が著明に減少します。治療が有効だった症例(左図)においては、 便移植後4週間でバクテロイデス門の割合が有意に回復することがわかりました。一方、治療が有効でなかった症例(右図)では、十分なバクテロイデス門の回復を認めませんでした。また、AFM療法単独の群では 治療後4週間経過しても、治療効果あるなしに関わらずバクテロイデス門の割合の回復は不十分でした。これは、便移植がAFM療法で生じた腸内細菌叢の乱れを是正し、腸内細菌叢に大きな変化をもたらしたことを示しています。


以上の結果は、ドナー便中のバクテロイデス門が治療効果と病勢に関わっていることを示すものであり、抗生剤を併用することで、便移植による腸内細菌の移植がより効率的に達成できると考えられます。


​【用語解説】
*1 バクテロイデス門 (Bacteroidetes)
潰瘍性大腸炎と腸内細菌の乱れが関連していることが言われている。肥満との関連も報告されている。いわゆる日和見菌でヒトの腸内細菌叢を構成する代表的な細菌門である。

*2 AFM療法
潰瘍性大腸炎の誘因または増悪因子と疑われる嫌気性グラム陰性菌のFusobacterium variumを除菌することを目的に確立された。抗菌薬3種類(アモキシシリン、テトラサイクリンまたはホスホマイシン、メトロニダゾール)の抗生剤を2週間内服する治療である。多施設共同の臨床試験でその治療効果、安全性が確認されている。


【原著論文】
論文タイトル:
Changes in Intestinal Microbiota Following Combination Therapy with Fecal Microbial Transplantation and Antibiotics for Ulcerative Colitis

筆者:
Dai Ishikawa, Takashi Sasaki, Taro Osada, Kyoko Kuwahara-Arai, Keiichi Haga, Tomoyoshi Shibuya, Keiichi Hiramatsu, and Sumio Watanabe

掲載誌:
Inflammatory Bowel Disease
DOI: 10.1097/MIB.0000000000000975

【研究助成先】
本研究はJSPS科学研究費基盤研究C(16K09328)の助成を受け実施されました。

 

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