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【慶應義塾】両耳に聴神経腫瘍を発症する神経線維腫症Ⅱ型の日本人症例で遺伝子型と臨床経過の関連性を解析

-聴力悪化の原因究明の一助に-

慶應義塾

国立病院機構東京医療センター臨床研究センター聴覚・平衡覚研究部の松永達雄部長、および慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室の大石直樹准教授らの研究グループは、希少な遺伝性疾患である、神経線維腫症Ⅱ型(NF2)の日本人14症例の、病気の原因となる遺伝子の状態(変異)を解析し、その結果と患者の臨床経過について、比較検討を行いました。NF2は音を脳に伝える聴神経に、左右両側とも腫瘍ができてしまい、両耳とも聞こえが悪くなることが特徴の疾患で、本研究では、発症年齢や腫瘍の大きさなどの他、特に聴力の臨床経過について詳細に検討しました。

研究の結果、遺伝子の変異のタイプと発症年齢に関連性が認められ、遺伝子からタンパク質が作成されなくなる変異(truncating変異)を持つ症例のグループでは、全例が20歳未満で発症していました (図1)。一方、腫瘍の増大率や、聴力の悪化率については、遺伝子の変異のタイプごとに、一定の傾向は認められませんでした(図2,3)。また同一の症例であっても、右と左の耳で腫瘍の増大や聴力の悪化が非対称的となっている場合もあり、腫瘍の大きさや聴力の変化には、遺伝子の変異のタイプ以外にも影響を与える因子があることが示唆されました。これらの因子を解明してゆくことで、さらに疾患の病態が解明されてゆくことが期待されます。本研究成果は、2023年4月22日(英国時間)英国ネイチャー出版グループのScientific Reports電子版に掲載されました。

1.研究の背景と概要
我々の体を構成する細胞のタンパク質は、遺伝子という設計図を元に作られています。遺伝子の情報に個体間で違いが生じた状態を変異といい、遺伝子に変異が存在すると、生成の途中で破棄されてタンパク質が作られなくなったり、通常とは異なったタンパク質が生成されたりします。今回の研究で解析したNF2遺伝子は、Merlinというタンパク質の設計図となっており、Merlinは細胞内の情報の伝達に関わり、正常なMerlinは腫瘍の発生を抑制する働きがあると言われています。NF2遺伝子に変異が起こると、音の情報を耳から脳に届ける聴神経に、左右両側ともに腫瘍を生じて聞こえが悪くなったり、その他にも脳や脊髄の神経に腫瘍が多発したり、若くして白内障を発症したりする、神経線維腫症Ⅱ型(NF2)という疾患が起こることが知られています。
NF2は病気を有している人の割合が、人口5-6万人に1人程度と稀な疾患で、NF2遺伝子の変異のタイプと病気の重症度に関連性があることが知られています。遺伝子の変異のタイプには、タンパク質が生成過程で破棄されてしまい、結果的に作られなくなる変異(truncating変異)と、通常とは異なったタンパク質が作られる変異(non-truncating変異)があり、両者を比べるとtruncating変異を持った症例の方が、重症化しやすいと言われています。また遺伝子の変異が体中の細胞に存在している方が、体の一部の細胞に限定して存在しているよりも重症化しやすいと言われています。なお、変異が一部の細胞に限定して存在していた場合は、体の多くの組織から細胞を集めなければ、その変異のタイプを特定できない(not detected)ことがあります。
希少な疾患で症例数が限られていることもあり、変異のタイプと病気の重症度に関する報告は欧米からのものが大半で、日本やアジアからの報告はほとんどなく、特に聴力の経過について詳細に報告したものはありませんでした。そのため、今回日本人14症例の血液の細胞から取り出したNF2遺伝子を解析し、変異のタイプを調べ、発症年齢や腫瘍の大きさなどの他、特に聴力の経過との関連性について詳細に検討しました。なお、症例の経過については、腫瘍への手術や放射線などの治療の影響を排除するため、無治療の期間中の経過を対象としました。

2.研究の成果と意義・今後の展開
14症例のNF2遺伝子の解析を行ったところ、変異のタイプは14例中7例でtruncating変異、3例でnon-truncating変異が見つかり、残りの4例では病気の原因となりそうな変異は見つかりませでした(not detected)。この3つにグループ分けして年齢分布を調べると、グループ間で統計学的に有意な差を認めました。特にtruncating変異のグループでは、全例が20歳未満での発症となっており、発症年齢については遺伝子のタイプとの関連性が認められました(図1)。一方、腫瘍の体積や、聴力に関しては、変異のタイプに応じた一定の傾向は認められませんでした(図2,3)。また左右両方の腫瘍の体積や聴力経過を追えた症例において、左右の経過を比較した場合に、非対称的となっている症例もありました(図2,3)。

【図1】 変異のタイプと発症年齢

発症年齢の分布はグループ間で統計学的に有意な差を認めた。

truncating変異のグループは全例が20歳未満の発症であった。

【図2】 変異のタイプと腫瘍体積の経過(左右それぞれを表示)

腫瘍体積はほぼ全例で増大傾向だが、変異のタイプごとに一定の傾向は認められず。

同一の症例の中で、右と左の経過が非対称的となる場合も存在した。

【図3】 変異のタイプと聴力経過(左右それぞれを表示)

全体的に悪化傾向だが、変異のタイプごとに一定の傾向は認められず。

同一の症例の中で、右と左の経過が非対称的となる場合も存在した。



今回の報告では、無治療で経過中の聴力については、変異のタイプごとに一定の傾向は認められませんでした。また同一の症例であっても、左右の経過が対称的とはなっていない場合もあることから、個別の腫瘍ごとに遺伝的な因子以外にも、大きさや聴力に影響を与える因子が存在し、病気の重症度に影響している可能性が考えられました。それらの因子を究明することで、患者の聴力の予測や、新たな治療のターゲットの模索につながると考えられます。NF2は希少で不明な点も多い疾患ですが、今回の報告が難聴の病態解明の一助になることが期待されます。


3.特記事項
本研究はJSPS科研費JP17K16944、18K16869、国立病院機構ネットワーク共同研究(R3-NHO(感覚器)-02)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業:新生児・乳幼児の視覚聴覚二重障害に対する遺伝学的スクリーニングの研究開発、厚生労働科学研究補助金難治性疾患政策研究事業JPMH20FC1057 の助成を受けたものです。

4.論文
タイトル:Correlation between genotype and phenotype with special attention to hearing in 14 Japanese cases of NF2-related schwannomatosis
タイトル和文:14例の神経線維腫症Ⅱ型の日本人症例における遺伝子型と特に聴力に重点を置いた表現型との相関
著者名:大石直樹、野口勝、藤岡正人、奈良清光、和佐野浩一郎、務台英樹、川北理恵、田村亮太、唐津皓介、森本佑紀奈、戸田正博、小澤宏之、松永達雄
掲載誌:Scientific Reports(電子版)
DOI:10.1038/s41598-023-33812-w
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※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、各社科学部等に送信しております。


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教育・学習支援業
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伊藤 公平
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未上場
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設立
1858年10月
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