BPO放送人権委員会、TBSテレビの「謝罪会見報道に対する申立て」事案で、人権侵害(名誉毀損)を認める「勧告」を公表
TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げた。この放送について、佐村河内氏は「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与え、申立人の名誉を著しく侵害した」等として委員会に申し立てた。
これに対してTBSテレビは「申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」等と主張してきた。委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
決定の概要は以下の通り。
■ 委員会決定の全文はこちら
http://www.bpo.gr.jp/?p=8346&meta_key=2015
委員会はまず、本件放送によってどのような事実が摘示されたかについて、申立人の指摘する問題点を中心に、以下の検討を行った。①謝罪会見の際に申立人が配布した聴力に関する診断書に記載された検査結果について、本件放送が客観的な検査については十分に言及せず、むしろ自己申告制の検査であることを強調するなどして、一般視聴者に対し、診断書の検査結果の信頼性が低いという印象を与えた。②アナウンサーが「普通の会話は完全に聞こえる」との説明を行い、申立人には健常者と同等あるいはそれに近い聴力があるとの印象を与えたが、その説明は不適切であった。③本件放送が紹介した専門家の所見のうち、「通常の会話は比較的よく聞こえているはず」とする部分は、②の印象を裏付け強化するものであり、詐聴の可能性を指摘する部分は、①と同様、検査結果の信頼性が低いことを印象付ける。④「普通に会話が成立」というナレーションとテロップが付されて放送された本件謝罪会見のVTR部分は、申立人が謝罪会見の際、手話通訳なしに会話を交わすことが可能であったという事実を端的に摘示するものである。
以上、④を中心としつつ、①から③をも総合して一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、本件放送において「申立人は、手話通訳も介さずに記者と普通に会話が成立していたのだから、健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装い会見に臨んだ」という摘示事実が認められ、これは申立人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する。
名誉を毀損するような放送であっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり、かつ、主として公益目的によるものであって、当該事実が真実であるか又は真実と信じることについて相当の理由がある場合には、結論的には名誉毀損には当たらない。この点について、本件摘示事実については公共性があり、また、本件放送3には公益目的があったと言えるが、TBSによる真実性の立証はない。さらに、相当性については、上記④に関し、放送されたVTR部分に先立つやり取りを踏まえた対応にすぎない可能性が十分にあり、また、謝罪会見を取材していたスタッフはこのようなやり取りについては承知していたはずであること、等から相当性も認められない。
以上より、本件放送は名誉毀損に該当すると言わざるをえない。
また、一般に、人権侵害を生じさせた放送は当然に放送倫理上の問題が存することになるが、本件放送に関して、委員会は、このような放送がなされてしまった背景に、TBSが申立人に対する否定的な評価の流れに棹さすごとく番組制作を行ったことがあるのではないかと考える。具体的には、事実をありのままに伝えること、専門性の高い情報を正確に伝えること、出演者への事前説明の努力、障害に触れる際の配慮の必要性、以上4点において放送倫理上の問題を指摘することができ、それらは決して軽視されるべきものではない。
バラエティー番組であっても、本件放送のような情報バラエティー番組には、事実を事実として正確に伝えることも求められる。とりわけ、本件放送は、聴覚障害という一般視聴者の予備知識が乏しい専門的なテーマに関するものであることから、番組による不正確な説明内容によって視聴者が容易に誘導されうることに配慮が必要であった。こうした問題は、本件放送が聴覚障害という人権に関わるセンシティブなテーマに触れるものであったことからすれば、より深刻である。
委員会は、被申立人であるTBSテレビに対し、本決定の主旨を放送するとともに、情報バラエティー番組において障害をはじめとする人権に関わる専門的な内容を含むテーマを取り扱う場合のあり方について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。
■ 委員会決定の「勧告」とは
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=1124#gradatio
「申立てから『委員会決定』までの流れ」
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=1124
「放送人権委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=1141
■ 放送倫理・番組向上機構 概要
名称: 放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性を踏まえて、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを
目的とした非営利・非政府の団体。言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するた
め、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって
設置され、以下の三委員会から構成される。
委員会: 放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
住所: 東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館
理事長: 濱田 純一
URL: http://www.bpo.gr.jp/
これに対してTBSテレビは「申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」等と主張してきた。委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
決定の概要は以下の通り。
■ 委員会決定の全文はこちら
http://www.bpo.gr.jp/?p=8346&meta_key=2015
委員会はまず、本件放送によってどのような事実が摘示されたかについて、申立人の指摘する問題点を中心に、以下の検討を行った。①謝罪会見の際に申立人が配布した聴力に関する診断書に記載された検査結果について、本件放送が客観的な検査については十分に言及せず、むしろ自己申告制の検査であることを強調するなどして、一般視聴者に対し、診断書の検査結果の信頼性が低いという印象を与えた。②アナウンサーが「普通の会話は完全に聞こえる」との説明を行い、申立人には健常者と同等あるいはそれに近い聴力があるとの印象を与えたが、その説明は不適切であった。③本件放送が紹介した専門家の所見のうち、「通常の会話は比較的よく聞こえているはず」とする部分は、②の印象を裏付け強化するものであり、詐聴の可能性を指摘する部分は、①と同様、検査結果の信頼性が低いことを印象付ける。④「普通に会話が成立」というナレーションとテロップが付されて放送された本件謝罪会見のVTR部分は、申立人が謝罪会見の際、手話通訳なしに会話を交わすことが可能であったという事実を端的に摘示するものである。
以上、④を中心としつつ、①から③をも総合して一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、本件放送において「申立人は、手話通訳も介さずに記者と普通に会話が成立していたのだから、健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装い会見に臨んだ」という摘示事実が認められ、これは申立人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する。
名誉を毀損するような放送であっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり、かつ、主として公益目的によるものであって、当該事実が真実であるか又は真実と信じることについて相当の理由がある場合には、結論的には名誉毀損には当たらない。この点について、本件摘示事実については公共性があり、また、本件放送3には公益目的があったと言えるが、TBSによる真実性の立証はない。さらに、相当性については、上記④に関し、放送されたVTR部分に先立つやり取りを踏まえた対応にすぎない可能性が十分にあり、また、謝罪会見を取材していたスタッフはこのようなやり取りについては承知していたはずであること、等から相当性も認められない。
以上より、本件放送は名誉毀損に該当すると言わざるをえない。
また、一般に、人権侵害を生じさせた放送は当然に放送倫理上の問題が存することになるが、本件放送に関して、委員会は、このような放送がなされてしまった背景に、TBSが申立人に対する否定的な評価の流れに棹さすごとく番組制作を行ったことがあるのではないかと考える。具体的には、事実をありのままに伝えること、専門性の高い情報を正確に伝えること、出演者への事前説明の努力、障害に触れる際の配慮の必要性、以上4点において放送倫理上の問題を指摘することができ、それらは決して軽視されるべきものではない。
バラエティー番組であっても、本件放送のような情報バラエティー番組には、事実を事実として正確に伝えることも求められる。とりわけ、本件放送は、聴覚障害という一般視聴者の予備知識が乏しい専門的なテーマに関するものであることから、番組による不正確な説明内容によって視聴者が容易に誘導されうることに配慮が必要であった。こうした問題は、本件放送が聴覚障害という人権に関わるセンシティブなテーマに触れるものであったことからすれば、より深刻である。
委員会は、被申立人であるTBSテレビに対し、本決定の主旨を放送するとともに、情報バラエティー番組において障害をはじめとする人権に関わる専門的な内容を含むテーマを取り扱う場合のあり方について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。
■ 委員会決定の「勧告」とは
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=1124#gradatio
「申立てから『委員会決定』までの流れ」
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=1124
「放送人権委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=1141
■ 放送倫理・番組向上機構 概要
名称: 放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性を踏まえて、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを
目的とした非営利・非政府の団体。言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するた
め、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって
設置され、以下の三委員会から構成される。
委員会: 放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)
住所: 東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館
理事長: 濱田 純一
URL: http://www.bpo.gr.jp/