BPO、TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見を公表、放送倫理違反と判断

放送倫理・番組向上機構

 放送倫理・番組向上機構[BPO] の放送倫理検証委員会(川端和治委員長)は、審議していたTBSテレビ『珍種目№1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見(委員会決定 第24号)をまとめ、2016年12月6日、記者会見して公表した。

 委員会は、番組の制作体制や制作環境、そして、スタッフの意識の問題点などを指摘した上で、「出演者に無断でレースから脱落したことにしてその姿を消すという、出演者に対する敬意や配慮を著しく欠いた編集を行ったことを放送倫理違反」と判断した。
 また、局制作の番組といいながらも、制作過程のほとんどが制作会社によって担われているという実態は、番組に対する責任の所在をあいまいにする危うさをはらむこともあわせて指摘した。


■概要
TBSテレビの『珍種目№1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(2016年6月19日放送)のコーナー企画のひとつであった「双子見極めダービー」の出演者の1人が、名誉や信用を傷つけられたと抗議。実際の収録と異なり、勝手に問題の順番を入れ替えられ、得点ルールを変更され、途中で「脱落」させられ、ついには自分の姿を消されたからである。TBSも「行きすぎた編集」があったと認め、その出演者と視聴者に謝罪した。

■本件放送の原因と背景
○出演者に対する敬意・配慮を欠いていた
委員会が最も違和感を覚えたのは、「視聴者を楽しませるバラエティー番組とはいえ、“その道のプロ”として出演してもらった出演者の姿を無断で消してしまうのはいかがなものか」という点であった。聴き取りの際、出演者が本件放送をどのように受け止めるか危惧していたと述べたのは、出演者と接触したスタッフらであった。しかし、その心配が生かされることなく、出演者に対する敬意や配慮を欠いた編集のまま、番組は放送されてしまった。そもそも、今回の問題は、制作スタッフが出演者との信頼関係をもう少し大切にしていれば防げたのではないか。とりわけさまざまな人たちと接し、出演者とともに番組を作り上げることを職業とする放送人には、より高いレベルの配慮が求められる。

○スタッフ間の情報共有ができていなかった
TBSの報告書は、「行き過ぎた編集」の原因として、編集過程で行われた3回戦と4回戦の入れ替え、得点ルールの変更、出演者の「脱落」、およびその姿を消すという4つの判断が、本来なされるべき説明や引き継ぎがないまま、それぞれの担当者によってバラバラに行われ、共有すべき点が見過ごされたことも挙げている。収録内容の時系列に変更を加える編集の場合、映像全体の整合性という点に多かれ少なかれ影響を与える可能性がある。入れ替えたことをあまり気にも留めず、ほかのスタッフと情報を共有しなかったことは、収録内容の時系列に変更を加えることに対する緊張感が欠けていたと指摘されてもやむを得ないだろう。制作過程をチェックする体制が十分にとれていなかったことが、一連の判断と編集に“待った”をかけられなかった一因であることは否定できないであろう。

○意見を言いにくい番組制作環境
なぜ、出演者に対する敬意・配慮に欠けた放送がなされてしまったのか。なぜ、スタッフ間での情報共有ができていなかったのか。多くのスタッフが、最後まで「脱落」していなかったという実際の経過を認識し、その姿を消すことに対して不安を抱く者もいた。にもかかわらず、誰も総合演出の指示に対して意見を表明しなかったという現実は、疑問に思ったことを発言しにくい環境、あるいは雰囲気があった可能性を端的に物語る。スタッフ間の議論が不十分であったことをもって直ちに放送倫理違反との判断がなされるわけではない。しかし、率直な発言をためらってしまうような番組制作環境が、出演者への敬意や配慮に欠けた本件放送がされたひとつの要因であったと考えられる。

○局の存在感の希薄さと、その危うさ
『ピラミッド・ダービー』はTBSの局制作番組であるが、各コーナーのロケを含め、番組制作過程の大半を制作会社とそのスタッフが担っていた。委員会は、聴き取りを通じて、本件放送の制作過程における局プロデューサーをはじめとする局員の存在感の希薄さを感じざるを得なかった。局と制作会社側との間で、制作過程の適正さを確保する責任の所在があいまいになっていた面はなかったか。TBSはこの番組に限らず、制作会社との間でいま一度この点をよく確認してほしい。

■委員会の判断
“人を見る達人”として出演を求められ、実際のロケでは最後まで参加していた男性は、一連の編集によってレース途中で「脱落」させられただけではなく、4回戦では姿を消されてしまった。このような一連の編集を無断で行ったことは、出演者への敬意や配慮を著しく欠いたものであった。バラエティー番組の出演者に対する敬意や配慮の払い方は、番組内容や出演者によっても大きく異なると思われる。この点について、ストレートに明文化した放送倫理の規定や基準は見当たらない。しかしながら、日本民間放送連盟とNHKが定めた放送倫理基本綱領は、「放送は、適正な言葉と映像を用いると同時に、品位ある表現を心掛けるようつとめる」と定めている。
また、日本民間放送連盟の放送基準第12章「視聴者の参加と懸賞・景品の取り扱い」には、「(84)企画や演出、司会者の言動などで、出演者や視聴者に対し、礼を失したり、不快な感じを与えてはならない」という規定がある。委員会は、これらの規定に照らし合わせたうえで、本件放送において、出演者に無断でレースから脱落したことにしてその姿を消すという、出演者に対する敬意や配慮を著しく欠いた編集を行ったことを放送倫理違反と判断する。なお、上記の放送基準の規定は、視聴者参加型番組に参加する一般の視聴者や出演者を念頭に置いたものである。しかしながら、今は各局ともさまざまな番組で、芸能プロダクションには所属しない学者や弁護士、ジャーナリスト、小説家、評論家、各種の専門家といった、タレントとも一般的な視聴者とも言い切れない人たちが多数出演している。局や制作スタッフは、上記の規定の根底に流れる精神について改めて考えてほしい。そして、出演者との信頼関係のあり方について、スタッフ間で議論を深めることを望みたい。
 


■委員会決定の全文はこちら
http://www.bpo.gr.jp/?p=8858&meta_key=2016

<参考資料>
「放送倫理検証委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=903

■放送倫理・番組向上機構 概要
名称: 放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的と
した非営利・非政府の団体。言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送
への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって設置され、
以下の三委員会から構成される。

委員会:
放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)

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東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館

理事長:
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