世界初、千葉大学でわずかな光刺激で螺旋の巻方向が反転した分子集合体の構築に成功

太陽電池などの材料設計の重要な指針になることを期待

千葉大学(学長:徳久剛史)大学院工学研究科共生応用化学専攻の矢貝史樹准教授を中心とした研究チームは、生体螺旋高分子であるDNA二重鎖への紫外光照射により生じる「光損傷」と類似した現象を利用し、人工分子からなる螺旋状ナノファイバーの螺旋の巻き方向を逆転させることに世界で初めて成功した。
  • 研究の概要
 生体螺旋高分子であるDNA二重鎖への紫外光照射により生じる「光損傷」(注1)と類似した現象を利用し、人工分子からなる螺旋状ナノファイバーの螺旋の巻き方向を逆転させることに世界初めて成功した(図1)。

図1:(中央)光損傷による螺旋の巻き方向の変化の模式図、(左)右巻き及び(右)左巻き螺旋ナノファイバーの原子間力顕微鏡像

 

  • 研究成果のポイント
・紫外光照射によるDNAの損傷と類似の現象を合成系螺旋ナノファイバーで実現
・光損傷した螺旋ナノファイバーを加熱処理によって再構築すると、螺旋の巻き方向が逆転することを発見
・外部刺激によって集合体内に異物を形成させ、それらが均一に混ざり合って単一の別な集合体を形成する「Stimuli-Responsive Integrative Self-sorting(注2)」を初めて実現
 
  • 今後の展開と本研究が社会に与える影響
今回、紫外線の照射によって固さが変化する洗濯バサミ型の分子により、わずかな光刺激で螺旋の巻方向が反転した分子集合体を構築することに成功した。本手法は、外部刺激を利用した機能性材料創製の新たな手法となりうる。また本成果は、有機薄膜太陽電池材料などの光を利用する固体有機材料において、光反応によるわずかな分子構造の変化でも薄膜構造全体に影響が及ぶ可能性を示しており、今後の材料設計の重要な指針になると期待される。
 
  • 研究の背景
生体高分子からなる螺旋構造体は生体内で重要な役割を果たしている。例えば、遺伝情報の保存と伝達を担うDNAやtRNAの二重螺旋はその代表例である。2本のDNA鎖が水素結合によって二重螺旋になる際に、核酸塩基がπ電子間の相互作用によって積層し、螺旋構造を安定化している。この積層した核酸塩基は、強い光をあてると光反応を起こして、螺旋内に異物が生成する。その結果、遺伝機能に障害が生じ、結果として細胞の変異を引き起こす(光損傷)。このように、多数の分子の緻密かつ複雑な相互作用によって機能が発現する生体では、外部からのわずかな刺激で異物が生成し、生命をも脅かすことになる。これはもちろん生体にとっては好ましくない現象であるが、人工分子からなる集合体において同様の現象を実現できれば、わずかな刺激でも大きな変化をもたらす新しいスマートマテリアル(注3)の開発が可能になる。しかしながら、人工分子からなる集合体においては、多くの場合、光反応して生成した「異物」は、自己と非自己の認識によって「無傷の分子」とは別々の集合経路をたどる(Narcissistic self-sorting(注2))。
 
  • 研究の成果
本研究では、光反応して生成した「異物」が、「無傷の分子」と混合するように、洗濯バサミのような構造をした分子をデザインした。この洗濯バサミ型分子の先端部には、紫外線をあてることで2量化とよばれる光反応を引き起こす、スチルベン注4,5とよばれるユニットが導入されている。また、洗濯バサミ分子が集合した時に螺旋の巻き方向が偏るように、不斉炭素注6を導入した。紫外線をあてる前は、分子はバネが無い洗濯バサミのような「ゆるい状態」にある。紫外線をあてると、分子内の2つのスチルベンが2量化し、通常のバネがある洗濯バサミのような「固い状態」になる。すなわち、この洗濯バサミ分子は、閉じた状態でもともとグラグラするが、紫外線をあてることでかっちりとした閉じた構造をとることができる(図2)。洗濯バサミはバネがあってもなくても形そのものに変化がないように、紫外線照射前後でもこの分子の形状にはほとんど変化はない。したがって、両者はうまく混合して集合すると予想した。

図2:洗濯バサミ型分子の光反応の模式図


洗濯バサミ分子を有機溶媒中で加熱溶解させ、冷却すると、閉じた状態で分子が回転しながら積層し、右巻き螺旋構造を有する分子集合体(螺旋ナノファイバー)を形成することが、円二色性スペクトルと原子間力顕微鏡により明らかになった(図3)。この螺旋集合体に紫外光を照射すると、DNA光損傷と類似した光反応注4が内部のスチルベンユニット間で起こることが、核磁気共鳴分光法などにより明らかになったが、ファイバー構造そのものは壊れることはなかった。

図3:洗濯バサミ型分子とその光生成物の存在比に依存した共集合過程

 

光損傷部位(光反応で固くなった洗濯バサミ)を内部に含んだ右巻き螺旋集合体の溶液を加熱-冷却操作により再構築すると、もとの右巻き螺旋集合体は形成されず、光損傷部位の割合に応じて異なった構造が形成された。光損傷部位の割合が多い時は、螺旋性が失われたファイバー状の構造体が形成された。一方、驚くべきことに、光損傷部位の割合が少ない時は、螺旋の巻方向が反転した左巻き螺旋を有するナノファイバーが形成された。この結果より、光反応で固くなった洗濯バサミそれ自身は螺旋状に集合することができないが、無傷の洗濯バサミに少量混ぜることで、分子の配列様式を劇的に変化させ、全く異なる分子集合体へと導くことが明らかになった(図3)。

円二色性スペクトルを用いて螺旋構造の形成過程を精密に計測し、たんぱく質集合体形成の理論モデルを用いて解析すると、右巻きと左巻き螺旋集合体は、核形成-伸長メカニズムによって形成されるが、全く異なる核形成過程を経ることが示された。さらに、原子間力顕微鏡を用いてナノファイバー形成における核の精密観察などを行い、図3に示す集合経路を明らかにした。無傷の洗濯バサミと光損傷した洗濯バサミは、特定の割合で混ざり合うことで、円を描くようにつながってゆき、螺旋構造を形成することがわかった。このように、異なった分子が混ざり合って単一の集合構造を形成する現象はIntegrative self-sorting(注2)と呼ばれ、その例は珍しい。特に、異種の分子を外部から混ぜることなく、光刺激によって内部に発生させ、Integrative self-sortingを引き起こすことに今回初めて成功した。
 

  • 本研究成果への支援

支援団体:独立行政法人日本学術振興会

1)研究課題 :「新学術領域研究(研究領域提案型)」
π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出(領域略称名「π造形科学」)「複合アセンブリーπ造形システム」
研究代表者 :矢貝史樹(千葉大学大学院工学研究科准教授)
研究期間:平成26~30年度

2)研究課題 :積層型ナノリングによる光応答性ナノデバイスの創製
研究代表者 :山内光陽(千葉大学大学院工学研究科 博士後期課程2年、特別研究員DC1)
研究期間 : 平成26~28年度
 

  • 【発表論文概要】
研究論文名:Photoreactive helical nanoaggregates exhibiting morphology transition on thermal reconstruction
著者:山内光陽*1、大場友則*2、唐津孝*1、矢貝史樹*1,*3
*1 千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻
*2 千葉大学大学院理学研究科化学コース
*3 千葉大学分子キラリティー研究センター
公表雑誌:Nature Communications  (DOI:10.1038/NCOMMS9936)
 
  • 【語句説明】
注1)光損傷:DNA二重螺旋へ紫外線が当たると、内部の核酸塩基同士が2量化反応することを指し、後に遺伝情報に悪影響を及ぼす。
注2)混合物中での集合は、同じ分子同士がそれぞれを認識して集合する「Narcissistic self-sorting」と、異なる分子同士が統合して共集合する「Integrative self-sorting」がある。
注3)スマートマテリアル:外部刺激に応答して、様々な反応を示す次世代材料の総称。
注4)スチルベン: 光反応性を示すπ共役分子(下図)

スチルベン

注5)今回の光反応は、[2+2]光環化反応と呼ばれ、光照射によって二重結合同士が環化し2量化する反応である(下図)。

光照射

注6)不斉炭素:異なる4種類の置換基が共役された炭素(下図)。R体とS体の鏡像異性体が存在するが本研究ではR体を使用している。

不斉炭素

 

  • 【参考論文】

1) S. Yagai, M. Yamauchi, et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 18205–18208.
2) M. Yamauchi, S. Yagai, et al., Chem. Lett. 2013, 42, 799–800.
 

  • お問合せ先

千葉大学大学院工学研究科

Tel:043-290-3169 Fax:043-290-3401



 

  • 関連リンク

千葉大学
http://www.chiba-u.ac.jp/
千葉大学大学院工学研究科
http://www.eng.chiba-u.ac.jp/

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