世界初、千葉大学でわずかな光刺激で螺旋の巻方向が反転した分子集合体の構築に成功
太陽電池などの材料設計の重要な指針になることを期待
- 研究の概要
- 研究成果のポイント
・光損傷した螺旋ナノファイバーを加熱処理によって再構築すると、螺旋の巻き方向が逆転することを発見
・外部刺激によって集合体内に異物を形成させ、それらが均一に混ざり合って単一の別な集合体を形成する「Stimuli-Responsive Integrative Self-sorting(注2)」を初めて実現
- 今後の展開と本研究が社会に与える影響
- 研究の背景
- 研究の成果
洗濯バサミ分子を有機溶媒中で加熱溶解させ、冷却すると、閉じた状態で分子が回転しながら積層し、右巻き螺旋構造を有する分子集合体(螺旋ナノファイバー)を形成することが、円二色性スペクトルと原子間力顕微鏡により明らかになった(図3)。この螺旋集合体に紫外光を照射すると、DNA光損傷と類似した光反応注4が内部のスチルベンユニット間で起こることが、核磁気共鳴分光法などにより明らかになったが、ファイバー構造そのものは壊れることはなかった。
光損傷部位(光反応で固くなった洗濯バサミ)を内部に含んだ右巻き螺旋集合体の溶液を加熱-冷却操作により再構築すると、もとの右巻き螺旋集合体は形成されず、光損傷部位の割合に応じて異なった構造が形成された。光損傷部位の割合が多い時は、螺旋性が失われたファイバー状の構造体が形成された。一方、驚くべきことに、光損傷部位の割合が少ない時は、螺旋の巻方向が反転した左巻き螺旋を有するナノファイバーが形成された。この結果より、光反応で固くなった洗濯バサミそれ自身は螺旋状に集合することができないが、無傷の洗濯バサミに少量混ぜることで、分子の配列様式を劇的に変化させ、全く異なる分子集合体へと導くことが明らかになった(図3)。
円二色性スペクトルを用いて螺旋構造の形成過程を精密に計測し、たんぱく質集合体形成の理論モデルを用いて解析すると、右巻きと左巻き螺旋集合体は、核形成-伸長メカニズムによって形成されるが、全く異なる核形成過程を経ることが示された。さらに、原子間力顕微鏡を用いてナノファイバー形成における核の精密観察などを行い、図3に示す集合経路を明らかにした。無傷の洗濯バサミと光損傷した洗濯バサミは、特定の割合で混ざり合うことで、円を描くようにつながってゆき、螺旋構造を形成することがわかった。このように、異なった分子が混ざり合って単一の集合構造を形成する現象はIntegrative self-sorting(注2)と呼ばれ、その例は珍しい。特に、異種の分子を外部から混ぜることなく、光刺激によって内部に発生させ、Integrative self-sortingを引き起こすことに今回初めて成功した。
- 本研究成果への支援
支援団体:独立行政法人日本学術振興会
1)研究課題 :「新学術領域研究(研究領域提案型)」
π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出(領域略称名「π造形科学」)「複合アセンブリーπ造形システム」
研究代表者 :矢貝史樹(千葉大学大学院工学研究科准教授)
研究期間:平成26~30年度
2)研究課題 :積層型ナノリングによる光応答性ナノデバイスの創製
研究代表者 :山内光陽(千葉大学大学院工学研究科 博士後期課程2年、特別研究員DC1)
研究期間 : 平成26~28年度
- 【発表論文概要】
著者:山内光陽*1、大場友則*2、唐津孝*1、矢貝史樹*1,*3
*1 千葉大学大学院工学研究科共生応用化学専攻
*2 千葉大学大学院理学研究科化学コース
*3 千葉大学分子キラリティー研究センター
公表雑誌:Nature Communications (DOI:10.1038/NCOMMS9936)
- 【語句説明】
注2)混合物中での集合は、同じ分子同士がそれぞれを認識して集合する「Narcissistic self-sorting」と、異なる分子同士が統合して共集合する「Integrative self-sorting」がある。
注3)スマートマテリアル:外部刺激に応答して、様々な反応を示す次世代材料の総称。
注4)スチルベン: 光反応性を示すπ共役分子(下図)
注5)今回の光反応は、[2+2]光環化反応と呼ばれ、光照射によって二重結合同士が環化し2量化する反応である(下図)。
注6)不斉炭素:異なる4種類の置換基が共役された炭素(下図)。R体とS体の鏡像異性体が存在するが本研究ではR体を使用している。
- 【参考論文】
1) S. Yagai, M. Yamauchi, et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 18205–18208.
2) M. Yamauchi, S. Yagai, et al., Chem. Lett. 2013, 42, 799–800.
- お問合せ先
千葉大学大学院工学研究科
Tel:043-290-3169 Fax:043-290-3401
- 関連リンク
千葉大学
http://www.chiba-u.ac.jp/
千葉大学大学院工学研究科
http://www.eng.chiba-u.ac.jp/
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像