インドは適正価格の医薬品を揺るがす要請に屈しないで――MSF、世界規模キャンペーンを開始

国境なき医師団(MSF)は6月11日、米国、日本、スイス、EUがインドに対して強めている法改正・政策転換の要請に、同国のモディ首相が屈しないよう促す世界規模のキャンペーンを開始した。焦点となる法改正・転換が行われれば、インドが適正価格の医薬品を生産する能力は大幅に制限され、世界の何百万人もの人びとが頼みの綱としている薬が、価格高騰によって入手しにくくなることが予想される。キャンペーンは、京都で開催中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)貿易協定の第8回交渉会合に合わせ始動。同協定には、医薬品の入手に支障をきたしかねない有害な条項案も含まれている。

ウガンダのMSF病院でHIVの治療薬をもらう男の子

 

インドは「途上国の薬局」

MSFは世界各地で約20万人のHIV陽性者に治療プログラムを提供しているが、そこで使用する薬の80%以上はインド製のジェネリック薬(後発医薬品)だ。結核やマラリアといったHIV/エイズ以外の病気の治療に不可欠な医薬品も、インドから調達している。また、先進国においても高価な非感染性疾患の治療薬も、インドは低価格版を生産している。

MSFインターナショナル会長のジョアンヌ・リュー医師は「MSFの活動は、インド製の適正価格の薬・ワクチンに支えられてきました。患者にとって必要不可欠な薬が供給されなくなってしまう現状を、傍観していられません。インドが『途上国の薬局』であり続けられるか否か、世界中が不安げに見守っていますが、MSFからの強い支持表明をインドに伝えたいと思います」と述べた。

インド法は公衆衛生保護のため、特許の付与について他国よりも厳しい条件を設けている。これがジェネリック薬の健全な市場競争を継続させ、その結果の1つとして、基礎的なHIV/エイズ併用薬の価格が10年で99%引き下がり、1万米ドル(約1万2400円)から約100米ドル(約124円)となった。

日本、EU、米国が要求する不利な条項

日本政府はRCEP交渉を通じて、国際貿易法で定められているインドの義務の範囲を超える、いくつもの不利な条項の制定を目指している。その一つが製薬業界ではよく知られる「エバーグリーニング」と呼ばれる手法で、これが認められると、製薬企業が既存薬を改変することで永続的な市場独占が可能になる恐れがある。また別の条項案として、先発薬の臨床データの使用を禁止する「データ独占権」がある。これにより、薬がインド法の下では特許に値しない場合でも、製薬企業が長期間、高い薬価を保ちジェネリック薬の競争を遅らせることが可能となり、事実上の専売がまかりとおることとなる。臨床試験の再現は費用もかかり、倫理にも反するが、臨床データのないジェネリック薬は、医薬品規制局も登録できなくなるからだ。

EUおよび欧州自由貿易連合(EFTA)と交渉中の相互貿易協定にも薬の入手を阻む条項案が含まれるが、インド側交渉団と市民団体の懸命の抵抗を受け、ここ数年は進捗していない。ただ、この交渉も間もなく再開されるという情報もある。

米国政府は自国の製薬業界のロビー活動に強く背中を押され、インドに特許付与の基準を緩和するよう迫るだけでなく、「特許リンケージ」という規制システムの施行も執ように求めてきた。これは、別々に行われている医薬品の登録と特許の付与という2つを結び付け、特許のないものしか医薬品登録ができなくなるというもの。そして、インド保健省はその要求に沿った制度改正を本格的に検討している模様だ。

企業利益が人命に優先されるべきでない

MSF必須医薬品キャンペーンの南アジア地域ディレクターを務めるリーナ・メンガニーは「適正価格の薬によって命をつなぐ世界の何百万人もの人びとにとって、インドが命綱であり続けられるよう、MSFはこの15年間活動してきました。その全てが失われ、多国籍製薬業界にインド製ジェネリック薬の市場競争が骨抜きにされると思うとぞっとします。モディ首相は、多国籍製薬企業の圧力に屈し、人命を企業利益と引き換えにしないでください」と訴える。

スイスに拠点を置く製薬企業ノバルティスは、インドでがん治療薬の特許申請を却下されたため、2006年にインド特許法の改定を求めて政府を告訴し、話題となった。7年後の2013年4月、インド最高裁の歴史的な判決により同社は敗訴した。しかし今、国際貿易法の枠組み内で公衆衛生保護のための余地を最大限活用し、適正価格のジェネリック薬の普及拡大を目指すインドの法制・政策は、米国、EU、スイス、そして日本によって、再び圧力を受けている。
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