シリア:国境なき医師団の病院に負傷者殺到
包囲地域への無差別攻撃で
爆撃・砲撃と同時に包囲自体も拡大され、締め付けがさらに厳しくなっている。ダマスカス北部の3地域(人口約60万人)も新たな包囲の対象とされ、住民は医療を受けられないだけではなく、食糧や燃料などあらゆる生活必需品が手に入らない事態に直面している。
1日150人以上を治療、25%は15歳未満
MSFは東グータで、仮設病院を13軒支援している。そのうち6軒で8月12日~31日に受け入れた患者のうち、亡くなった人が377人(15歳未満が104人)、負傷者が1932人(同546人)にのぼった。一方、連日の攻撃で地域の通信網が破壊されたため、残りの7軒については正確な統計が得られていない。
MSFのオペレーション・ディレクターを務めるバート・ジャンセン医師は「8月は“血塗られた月”となってしまいました。化学兵器を使った陰惨な攻撃があった2013年8月以来、最悪の事態です」と話す。
MSFが運営している病院施設は緊急対応のための仮設であり、そこで行われる医療行為にはリスクや制約がともなう。そうした施設で活動するシリア人の医療者たちが、1日あたり150人以上の患者を受け入れて対応を続けたことについて、ジャンセン医師は「通常では考えられないことで、命を救うために大変な努力を続けていることに心が揺さぶられます。ただ、患者やMSFが現地で直面しているのは完全な“異常事態”です」と話す。
包囲作戦の拡大で、重症患者の救急搬送も不可能に
ダマスカスの包囲作戦は拡大され、厳しさを増している。北部の3地域(アッ・タル、アル・ハマー、クドゥサーヤ)が7月22日、新たに包囲の対象とされた。地域の住民約60万人が、医療、食糧、燃料、その他の生活必需品へのアクセスを断たれたことになる。
一方、モアダミエのようにすでに厳しい包囲下にある地域では、医療や食糧が手に入らないだけでなく、外出さえできなくなっている。また、包囲されている地域の大半で、命の危機に直面している患者を救急搬送することさえほぼ不可能になっている。
ジャンセン医師によると、東グータでは、8月だけで腕や脚の切断手術を約400件も行ったという。「医療を受けることがこれほどまでに阻害されていなければ、ほとんどは切らずに治せたケースです。MSFはシリア内の医療ネットワークを通じて包囲されている地域への医療・人道援助を続けていますが、それも日に日に難しくなってきています」
さらに、医療物資も底を尽きかけている。特に、点滴5000袋と輸血用血液1500袋の確保が急務で、MSFは基礎医療物資の補充を急いでいる。
「死も、包囲も、流血も、惨劇も、もうたくさんです」
シリア内戦の影響で、国内で避難生活を続けている人は400万人、周辺国で難民生活を続けている人は数百万人にのぼるとみられている。命の危険や拘留されるリスクをおかしてでも、海路や陸路で欧州を目指す人びとも後を絶たない。また、東グータの住民のように、包囲された上に攻撃にさらされ、最低限の生活さえも妨げられている人びとは200万人にも及ぶ。
MSFが支援している仮設病院の院長は「8月は最悪でした」と話す。「けがをしなかった人、命がある人は“ラッキー”なのです。死も、包囲も、流血も、惨劇も、もうたくさんです」
MSFのシリアでの活動
MSFは、シリア北部で病院を6軒運営している。また、野外病院や簡易診療所など計100ヵ所以上の医療機関を直接支援している。特に、包囲されている地域への援助を重視している。支援している医療機関の大半は仮設でMSFスタッフも不在だが、シリア人の医療者が膨大な医療ニーズに対応している。MSFは物的援助と遠隔からの研修・サポートという形で彼らの活動をサポートしている。こうした体制は、シリア内戦が勃発した2011年から4年以上かけて築き上げてきたものだ。
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