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デザイン、マーケティング、広報。職種を超えて会社に向き合い続ける──ナリス化粧品 経営企画室 横谷泰美

芸大を卒業され、デザイナーとして化粧品会社へ入社。デザインで解決できない問題があると感じてマーケティングを兼任。それでも解決できない問題があると感じ、広報になったという横谷さん。さまざまな職種を経験された彼女が思う、広報PRにしかできないことをお伺いしました。

株式会社ナリス化粧品 経営企画室 広報担当部長

横谷 泰美 さん(Yokotani Yasumi)

芸術系大学でタイポグラフィのデザインを専攻後、株式会社ナリス化粧品に入社。
店頭什器開発の販促業務から始まり、パッケージ・プロダクトデザインを通じた製品開発、製品企画・ブランド開発を通じたマーケティング業務に携る。現在は経営企画室 広報担当。化粧品や美容はもちろん好きですが、「肌」が好き、「触ること」が好き

デザイナーとしてグッドデザイン賞に選定されるも広報に転籍

── まずデザイナーとしてキャリアを歩みだしたんですよね。

横谷さん(以下、敬称略):はい、芸大卒業後にデザイナーとして入社して、什器デザイン、パッケージ・商品デザインとキャリアを積み重ねてきました。そんな中入社3年目に自分がデザインした口紅をグッドデザイン賞に選んでいただきました。その当時はデザインが物事の川上にある仕事だと思っていたんです。デザインだけで解決しない問題に自分が向き合いたいと気づいたのはもっと後、デザインの仕事をして7〜8年経ってからです。

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 デザインをするにあたり、企画やマーケティングの部署から商品のスペックや製品企画の条件が上がってきます。デザイナーとしてその条件を叶えつつ、その意図を汲み取るにはもっと違うアプローチをした方がいいんじゃないかと別案をいつも用意していました。そうしていくうちに、デザインは決して川上の仕事ではないんだなと思い始めたんです

── そこでマーケティングの仕事も始めるようになったと…… ?

デザイナーは最終的に、どんな形やデザインで使う人にどんな感情を抱いてもらうかを具現化する仕事だと思っています。自分が関わった製品を成功に導きたいという気持ちが強く、企画やマーケティング担当者から示されたさまざまなスペックを、具現化するだけではなく、比較案としてもっとこうした方がいいのではという提案を続けていました。

やがて、マーケティングで製品企画開発の仕事をすればより根本の課題解決をできて会社にも貢献できるのではと思い、兼務するようになりました。当時の会社の柔軟な対応に感謝しています。

── マーケティングも兼務するようになり、気づいたことはありましたか。

デザインやマーケティングが目指していることは、ヒット商品を作ったり、売り上げをあげたりすることだと思います。ただ、たとえ「ヒット商品をつくれた」と思えていても、それは短期的で、長く続く成果ではないこともあります。


そこで改めて会社のためにできることを考えたところ、短期的に売り上げをあげることよりも良い人材に入社したもらう方が、長期目線で会社に貢献できるのでは、と思い至りました。会社は良い社員の集まりでしか存続しえないはずなので。


でも、人事担当には既存の業務があり、新たに企業の想いを広く発信していくことは難しいのではと思いました。また、その当時弊社では販促・広告担当が新製品の広報のみ行っており、いわゆる企業広報はいませんでした。新製品の情報以外に企業の想いを広く発信していくには、企業広報という新しいポジションを作る。それが既存の枠組みに囚われず、新しい会社の情報発信ができる一番の方法なのではと思い、企業広報を志願したんです。

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他の職種を経て思う、広報にしかできないこと

── 広報担当者としてどんなミッションに向かっていったのですか。

ナリス化粧品がなにを考え、取り組んでいるかを伝えることが使命です。

良い新入社員が入社しようと思ったり、転職したいと思ったりするためにできることは、人事でなくて広報だからこそ発信できることがあるのではと思いました。女性の活躍や、研究開発の技術リリースに力を入れたり、認知度を上げるためのNo.1広報をしたり。新卒や転職希望者以外の人にも広く正しく、ナリス化粧品のことを認知していただき、応募者の裾野を広げる。売り上げや応募者が短期的に上がる訳ではないけれど、当社のことを応援してくれる人が増えていくように……そんな中長期的な情報発信は広報ならでは。製品広報をするにしても、売り上げより認知度を上げるための広報を意識しています。


広報になったのは2016年、専任になったのは2019年から。世間では、広告費がないから広報をするとか、販促費がゼロでも広報ができるとうたわれることがありますが、私はそこに違和感を感じています

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デザインやマーケティングを経て思うのは、広告や販促でできることと広報でできることは全く違うということ。連携することは大事ですが、広報でしかできないことがある。だからこそ広報がしたかったんです。

販促ではできなかった広報しかできないことを考えた結果、最初に出したプレスリリースは「育児休業後定着率100%」という内容でした。最近では女性活躍が叫ばれて久しいですが、ナリス化粧品では創業の1932年から女性活躍を目指してきました。

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創業社長夫人で副社長でもあった美容家の村岡愛が、知識や技術を身に付けることで女性が自立できる職業として訪問販売を定着させてきたという歴史があります。そんな当社だからこそ、説得力を持って発信できることでした。毎年内容をブラッシュアップして育児休暇に関する実績や、Forbes JAPAN WOMAN AWARD 2018の受賞、肌トラブルから起こる業務効率の低下を防ぐための肌休暇など「女性が活躍するのは女性だけの問題ではなく、社会全体の問題」という考えで、美容に関して化粧品会社らしさを活かした情報を発信し続けています

── 広報になって苦労されたことはありますか

私はナリス化粧品が中途半端な会社だと思われているように感じます。歴史はあるけど知っているのは社名だけ、ベンチャーのように勢いがある訳でもなく、大手とも違う。世間に認知されている「これが一番」というものがないように感じて、広報になりたての頃は悩んでいました。

ただ、わたし自身は会社の中に宝物がたくさんあることを知っていて、世間に知らせてないだけとも思っていました。「隠れた名品ですね」と言われることが多かったですが、隠してないのになあと反省していたんです。まずはこれを広報の力で解決しなくてはと思いました。

そこでネタを作ろうと思いたち、事実として日本でNo.1と言える会社になろうと調査を実施し、「国内で拭き取り化粧水販売数No.1」というプレスリリースを出しました。また、当社が日本一売っている拭き取り化粧水を知っていただくため、2月10日を「ふきとりの日」と日本記念日協会の認定を取得し、プレスリリースを出しました。

営業が広報を応援してくれるネタをつくる必要があったので出したプレスリリースでしたが、営業の売り上げに繋がりました。会社の中で広報への考え方が変わった瞬間でした。 

コロナ禍の広報活動を通じて、広報の原点に立ち返った

── コロナ禍で広報活動の手法や心境に変化はありましたか。

コロナ禍になり、プレスリリースの配信数はますます増えました。2019年度は26件、2020年度は54件、2021年度は約9ヶ月で41件に上ります。情報を出すのが難しいタイミングではありましたが、調査リリースを定期的に配信することで、メディア関係者とのコミュニケーションをはかりました。マーケティングの経験をいかして、いまでも調査設計・分析などすべて自分で行っています。

広報ができるのは自分の会社が信じられるから

── 最後に、横谷さんにとって「広報」とはどんな仕事ですか。

広報は大切な仕事だと思いますが、わたしは5年後10年後には広報をしてない可能性があります。広報を目指していた訳ではなく、その時その時に大事だと思う役割をやっているだけに過ぎないからです。

ただ、広報はやりがいがあり、年を重ねてから取り組む方がより楽しいと感じています。若い頃は目上の方とお話をすることが苦手で、相手がどんなことをして欲しいか察知する力も低かったと思います。化粧品の話はデリケートでパーソナルな内容が多いです。 また、はたらき方の件にしてもキャリアの件も、年齢を重ねたからこそ、伝えられることが多くなったなと。挫折も失敗もしてきたからこそ話せる言葉もあります。今の年齢の方がフラットに話せることも増えました。

広報という仕事は、会社のサービスや商品に自信がないのであればできません。特に化粧品は使っていただく時に、万が一肌トラブルが起きたらその人と今後会えなくなるという覚悟で広報しています。

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わたしはこの会社に化粧品が好きで入った訳ではなく、デザインがしたくて入りました。肌が弱く、化粧品に猜疑心を持っていた私を変えてくれたのは、当社の化粧品の安全性に対する徹底的な姿勢でした。だからこそ当社の化粧品ほど、こんなに肌の安全性が高いものはないと思っています。

20数年同じ会社で働いているのは、それだけ自分の会社を信じられるから。中でも広報は自社の商品に不満や不信感があったらできない仕事だと思います

ミーハーなわたしは、その時々でこれから人に求められるであろう職種に挑戦してきました。大学の時にデザインを学んでいたのは、当時はデザインが社会を動かしているように見えたからです。会社に入ったらマーケティングも社会を動かしていると実感したので取り組みました。広報の魅力は広告でできない「商品を購入するしないに関わらず、会社のファンになってもらう活動」をやれること。広報は今でこそ、必要性を認識されだしましたが、広告やCMが最先端で広報は見向きもされない時代があったと思います。

いまはまだ広報の楽しさを知り始めたばかりなので、当面は広報に取り組んでいくつもりですが、今後もできることが増えたり新しいアプローチができると感じたら、進んで変化する力をつけていきたいですね。

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色々な職種を経て、年齢を重ねたからこそ、広報を楽しめる

「わたしは広報がやりたいのではなく、この会社が好きだからここで広報をやっているんです」と言う横谷さん。新卒から広報になりたいという希望を持つ方もいる中、職種や年齢を重ねてから広報に挑戦する楽しさを教えてもらいました

今後も横谷さんはその時々で自分のできること、会社にとって必要なことを考え、常に変化をされていくことでしょう。

(撮影:三好 沙季)

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この記事のライター

永井玲子

東京・大阪でメディアリレーションを行う関西在住の広報パーソン。新卒でルート営業、2社目に入った会社で未経験ながら広報をゼロから立ち上げ、広報キャリアをスタート。2021年からフリーランス。自分が良いと思った「地方」の人・物・サービスを応援するために広報をやっています。日々頑張っている全国の広報パーソンが正しく評価されるよう、PR TIMES MAGAZINEで想いを紹介したいと思います。

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