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元記者の挑戦。関西の発信力を底上げする「プレスリリースの型」の普及を目指して──プラススターエイチアール 加星宙麿

地方紙の記者やデスクを歴任されながらも、昨年新聞社を退職された加星さん。2025年の大阪・関西万博に向けて関西の企業の発信力をあげるべく、独立し『〝そのまま新聞記事にできる〟プレスリリースの型』(デザインエッグ社)を上梓されました。

プレスリリースを用いた情報発信力の底上げに尽力しようと思われた加星さんに、広報活動に関する考えを聞きました。

株式会社プラススターHR(エイチアール) 代表取締役社長

加星 宙麿(Kaboshi Okimaro)

2003年4月から大阪の地元紙で18年半記者、2014年からデスクを経験。行政や経済を担当し、デスク時代に整理した「新聞記事の型」を基に〝そのまま新聞記事にできる〟レベルを目指した「プレスリリースの型」を考案。2021年に起業。企業、財界の関係者などに講演や研修を展開し、多彩な事業者のプレスリリース作成を支援している。

関西企業の情報発信に課題を感じていた記者時代

── 加星さんは記者時代から、「プレスリリースに掲載する効果的な画像の撮り方」「プレスリリースの書き方」などプレスリリースにフォーカスした講演をされていたように思います。プレスリリースが大事だと実感したきっかけは何ですか。

2014年にデスクになった時からです。少ない人手で紙面を回していくため、まずは記者から上がる記事の生産性を高められないか試行錯誤していたんです。当時、記者から出てくる記事の質がばらばらで、修正や確認で時間がかかる課題がありました。そこで記事に最低限必要な内容として「新聞記事の型」を整理し、記者へ周知したことにより、記事の精度が上がりました。

そんなときに並行して着目したのが、各企業からのプレスリリースでした。たいていの記者はプレスリリースを見た後、企業に疑問点を確認し、記事を作ります。もし、最初から最低限必要な内容が記載されていたら、そのやりとりの時間は大きく削減され、記者の生産性が向上できます

実際に、あらかじめほしい情報が揃っている企業だと、プレスリリースを読んでから記事化に1時間もかからないケースが多々ありました。それが〝そのまま新聞記事にできるレベル〟のプレスリリースの必要性を強く実感した瞬間でした。記者の生産性が上がれば、より多くの企業や案件を取材できる時間が捻出できる。そこに向けて取り組みを始めたんです。

── 取り上げられなかったプレスリリースには、どんな情報が不足していたのでしょうか。

私は記事化の際、「希少性」「時事性」の2軸を重視してきましたが、その観点から価値が伝わってこないものが多かったと感じます。

プラススターエイチアール 加星宙麿氏インタビュー1

飲食品メーカーの新商品発表や飲食店の開店プレスリリースでよく見られるのが、「〇〇を新発売(オープン)しました」とだけ書かれているケースです。これが例えば、社会の需要をどう満たすかといった説明や開発の背景が前面に押し出されていれば、その価値がより明確になり、記事になりやすいです。その点、同じ新店オープンのプレスリリースの中でも、労働環境の悪い業界で「働き方改革」という目的を打ち出した店のプレスリリースは、社会的意義が明確で大きく記事化できました。

記事になるということは、より多くの人に知ってもらうきっかけになります。そして、大きく記事化されれば、その商品や店舗への想い、背景がより詳しく書かれます。結果、世の中の人に重要な出来事として知ってもらえる可能性が高くなるのです。

私の提唱する「プレスリリースの型」は、見出し、写真、リード文など、少なくとも9ブロック(区分)で整理するものです

プラススターエイチアール 加星宙麿氏インタビュー2

記者は、当日の発表内容を当日出稿する場合は、締め切りの関係で1、2時間でまとめなければならない場合があります。たとえ興味を持って問い合わせた場合でも即座に回答が得られないと、別の企業の情報に当たらざるを得ないのです。

ところが、9つの情報があらかじめ整理されていれば、記事化に向けたやり取りの時間は短縮され、掲載の可能性が高まります。以前、広報担当者向けにプレスリリースの型について講演したことがありました。後日、それを忠実に実践してくださったメーカーの広報さんからプレスリリースをいただいたのですが、記事化にかかった時間は20分程度でした。これには私自身驚きましたね。

大阪・関西万博を見据え、情報発信力の底上げのために独立

── ところで、加星さんはなぜ「いま」独立されたのでしょう。

「掲載の機会を提供する記者でいるよりも、プレスリリースの型そのものを普及させる方が、より広く社会に貢献できるのでは」と考えるようになったことが大きいです

そしてもうひとつ、2025年に開催が予定されている大阪・関西万博も関係しています。万博は地元の企業がPRする絶好のチャンス。大阪には優秀なものづくり中小企業が集積しており、日本のみならず、世界市場で存在感を示す企業も少なくありません。しかし、そうした企業の情報は、行政がまとめた発行物では見るものの、各社から日常的にプレスリリースが発信されているとは言い難いのもまた事実です。だからこそ、大阪の発信力をいま上げたいと思いました。

さらに、追い討ちをかけるように新型コロナウイルスが流行し、万博どころではない状況になってきました。新型コロナの収束が見通せない中、開催まで約3年半となり、情報発信力が低い企業はますます情報発信の機会が得られないのではと危機感を感じました。いま挑戦しておかなければ後悔すると考え、2021年9月に退社し起業しました。

プラススターエイチアール 加星宙麿氏インタビュー3

── 加星さんの思う、大阪を含む地方企業ならではの課題を教えてください。

日本新聞協会の会員数を見ても、東京の媒体数の多さは頭ひとつ抜けています。東京に比べ、大阪を含む地方企業は全国に情報発信できる手段やチャンスがそもそも少ないというのは間違いありません

地方新聞記者時代には東京の企業の広報担当者の方からも、年間10件近くはご連絡を受ける機会がありました。大阪の状況や、私が過去に書いた記事を踏まえた上での企画の提案力。取材に引き込む「いい意味での強引さ」は、地方の広報担当者と比べて印象に残りました。広報を活用しようとする企業側の姿勢が表れているのだと思います。

地方でも中小企業のレベルから広報を戦略的に展開し、経営に生かしていくべきです。東京の企業は媒体数が多い分、成功体験を多く積んでいる広報担当者が多いからか、メディアに対して臆することなく積極的に情報発信をしているようにも感じました。

もし地方企業が何もしなければ万博の機会を棒に振りかねません。SNSひとつ取っても情報発信の手段は広がりを見せており、配信サイトや自社のホームページにプレスリリースを載せ続けておくだけでも、検索される可能性は高まります

情報が溢れている中で全国ひいては世界中の企業を相手にしていくからこそ、「どこに出すか」の前に、まずは「何を出すか」が重要です。そこで今、〝そのまま新聞記事にできる〟レベルの「プレスリリースの型」を普及させたいんです。

プラススターエイチアール 加星宙麿氏インタビュー4

まずはプレスリリースの情報を整理すること

── 独立後、理想と現実のギャップはありましたか。

企業のプレスリリース作成をお手伝いさせていただくようになりましたが、企業の戦略や連携企業との関係性があるため、予想以上に出せる内容に制約があるなと感じました。限られた情報の中からいかに整理するかが、プレスリリース作成者の手腕の見せ所になると実感しています。

── あらためて、プレスリリースの重要性はどこにあると思いますか。

記者時代を振り返ると、単発のプレスリリースだけでなく、これまでの取り組みの説明を受けて取材してみたい内容が出てきたケースも多くありました。

それを踏まえると、まずは「プレスリリースの内容を整理すること」、次に長期的に記者とコミュニケーションをとるため「記者との関係性を構築し発信し続けること」の両輪を回し続けるのが重要でしょう。後者については、わたしはプレスリリースを元に支援先企業の広報として、試験的に今年の1月からメディアアプローチを始めたばかり。まだまだ駆け出しで、逆に企業広報のみなさんにその姿勢を学ばせていただきたいと思っているところです。

結果が出るまで行動を続けることが大事

── メディアとのコミュニケーションに悩んでいる、PRパーソンへのアドバイスをお聞かせください。

私もそうでしたが、記者は本当に忙しく、返信ができないことは日常茶飯事です。それでもくじけず記者がその時に求める内容を模索する。需要と合致するまでプレスリリースを出し続けてみてください

大切なのは、その際にひとりで悩まず、広報関連のコミュニティーや、社外の広報仲間の方に相談することではないでしょうか。記者時代に、会社を超えた広報の皆様の結束力が、地域全体の発信力を底上げするのを目の当たりにしました。ひとりの広報さんが、自社の事業と関連のない別の会社の広報さんを紹介。それが数珠つなぎとなり、1社では取り上げにくい内容でも、複数の事例が集まることで記事にできた経験があります。その自他共栄の精神は素晴らしいなと感じ入っていました。

プラススターエイチアール 加星宙麿氏インタビュー5

── 加星さんの今後の目標を教えてください。

子どもたちが義務教育の段階で「情報発信力の不平等」を解消する力を習得し、それぞれが持つ価値について、社会から正当に評価される社会を実現していきたいです。

現状、義務教育では、実社会に直結した「情報整理」「情報発信」に関するカリキュラムが不足していると感じています。必修の単元ではないため、育ってきた環境や興味関心により情報発信力に差が開いてしまいます。そんな状況を打開していければ本望です。

私はライフワークの一つに「キャリア教育」というテーマを掲げています。世界80か国以上で「教育に新聞を(NIE:Newspaper in Education=学校などで新聞を教材として活用する活動)」という取り組みが実施されていますが、情報が溢れる現代だからこそ、正しい情報を取捨選択し、読み解く情報活用力、そしてなにより「情報発信力」は子どもの将来に不可欠な力です。

以前、大阪の小学校で「あったらいいなを実現する道具」を考える授業をする機会がありました。子どもたちは生き生きと商品の魅力を説明し、授業が終わっても話し合っている児童もいました。

新聞はあらゆる分野の情報が網羅され、その一つひとつの記事が複数の目によるチェックを経て世に出ている、信頼性の高いメディア。子どもが地域や社会の中で課題を見つけるための教材にはもってこいだと思っています。同時に、プレスリリースは全く情報を知らない第三者に伝えるための手段なので、適正な情報を発信する力を養うのにぴったりなのではと考えます。いずれは、新聞記者の経験やプレスリリースの型を生かし、子どものころから当たり前のように、楽しんで情報発信力を磨ける社会になるよう尽力したいです。

── 加星さんにとって、広報とはなんですか。

プレスリリースは記者にとっての「新聞」ですから、私にとっての広報とは「記者向け新聞の発行」。それを作る広報PR担当者は、所属先の価値を簡潔かつ的確に社会へ発信する「自社専任の番記者」です。新聞の読者が、新しい情報を取捨選択して得る流れと、記者がプレスリリースから新しい情報を得る流れは同じ。だから簡潔で的確な情報を盛り込んだプレスリリースが不可欠なのです。

その役割を熱意を持って担えるのは、紛れもなく広報担当者のみなさんだと思っています。

プラススターエイチアール 加星宙麿氏インタビュー6

地方企業でも情報発信の力をつけチャンスを掴めば、大きく飛躍することができる

日本や世界へ発信する魅力を持つ企業が、地方にもまだたくさんあると言う加星さん。地方紙の記者として魅力ある企業を発掘・発信してきた加星さんだからこそ、地方の発信力底上げの一翼を担われるのではと感じました。

今後も加星さんは、地方企業ひいては未来の日本の情報発信力の底上げに、ご尽力されていくことでしょう。

(撮影:三好 沙季)

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この記事のライター

永井 玲子

永井 玲子

東京・大阪でメディアリレーションを行う関西在住の広報パーソン。新卒でルート営業、2社目に入った会社で未経験ながら広報をゼロから立ち上げ、広報キャリアをスタート。2021年からフリーランス。自分が良いと思った「地方」の人・物・サービスを応援するために広報をやっています。日々頑張っている全国の広報パーソンが正しく評価されるよう、PR TIMES MAGAZINEで想いを紹介したいと思います。

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