画面の向こうに、まだ見ぬお客様がいる。だから僕は「言葉」を紡いで接客する──sio仕掛け人/料理人のオリタタクヤ

広報といえば「企業が認知拡大のために行うもの」のイメージが強くありました。しかし最近では、世間一般的な「企業」だけでなく、飲食店や職人が積極的に広報活動に取り組むことが増えています

SNSを使った広報活動で注目を集めるのが、代々木上原でミシュラン一つ星を獲得したレストラン「sio」を運営するsio株式会社。SNSやnoteを使い、店のこだわりや活動内容について発信し、大きな話題を呼んでいます。

サウナを連想させるプリン「#ととのうプリン」、究極のジャンクちらし「#チキントーバーライス」、ネオおふくろの味「#HEYバインミー」。これらのワードをタイムラインで見かけたことがある人もいるでしょう。

こうした話題化の仕掛け人が、sioのこだわりを広めるレペゼン仕掛け人として、広報業務を担当するオリタタクヤさんです。オリタさんは何を思い、レペゼン仕掛け人として発信を続けているのでしょうか? 話をうかがうと、飲食店や職人が「言葉」を扱うことの大切さが見えてきました。

sio株式会社 仕掛け人 兼 料理人
折田拓哉(オリタ タクヤ)@oritaku0123

鹿児島大学理学部を卒業後、IT業界で働くも料理が好きすぎて脱サラを決意し料理の世界に。料理を作りながらsioが持つ美味しい思考の言語化をsioのイズムとしてnoteで発信中。好きな食べ物は、卵かけごはんと #ととのうプリン 。

“おいしい”を作るためのこだわりを広めていく。レペゼン仕掛け人は、SNS時代の広報活動

──レシピ公開やお弁当のテイクアウトなど、sioの取り組みをSNSでよく目にします。今日は、そんなsioで広報を担当されているオリタさんに話をうかがえるのが楽しみでした。

ありがとうございます。改めまして、sio株式会社で料理人として働きながら、レペゼン仕掛け人として活動するオリタタクヤです。

──レペゼン仕掛け人とは、どんな活動をしているんですか?

「旨味・塩味・酸味・甘味・苦味の5味に、+1の味わいを重ねることにより、料理に奥行きが生まれる」など、sioにはおいしい料理を作るためのこだわりがたくさんありまして。そんなsioのイズムを言語化して、noteで解説し、SNSで広めています

味の判断は、個人の主観によるもの。うす味がおいしいと思うのか、濃い味がおいしいと思うのか、おいしさの基準はバラバラです。だからこそ、料理に込めた自分たちなりの意図を説明し、僕らのおいしさのモノサシを知ってもらう必要があります

──以前に、オリタさんが書かれたプリンのnoteがTwitterで拡散されていて、気になり読んだことがあります。

僕がsioのレペゼン仕掛け人になったのは、まさにそのnoteがきっかけでした。

noteを出した理由は、sioの系列店である純喫茶「パーラー大箸」のプリンが最高においしく、その存在をもっといろんな人に知ってほしかったから。店がオープンしてしばらく経ち、お客様が減っていたこともあり、プリンの魅力をまとめたnoteを書こうと決めました。

そのプリンの特徴は、sioのイズムのひとつである「サウナと水風呂をイメージして、味にギャップをつける」を体現していること。カラメルの苦味でサウナのような強いストレスを舌に与え、プリンの甘みで水風呂のようにストレスを解放する──。この味覚のギャップがあることで、料理に心地よさを感じられます。

そんなプリンに込められたsioのイズムを多くの人に伝えられるよう、「サウナに入ったみたいにととのうプリン」と書いたんです。すると、TwitterやFacebookで見る見るうちに拡散されまして。この反響を見た代表の鳥羽さんが「名前を“ととのうプリン”に変えよう」と提案し、次の日から名称が変わりました。

──noteが出てから、「#ととのうプリン」でいろんな人がツイートしていたのを覚えています。

本当にありがたいことです。結果的に、売り上げや客数がだいぶ伸びてきて、パーラー大箸が息を吹き返しました。純粋に「サウナのようなプリンを知ってほしい」と書いたnoteでしたが、思い返せばSNS時代にうまくハマった広報活動だったと思います

この一件で、鳥羽さんが「料理に込めたこだわりはたくさんあるけれど、今まで言語化してくれる人がいなかった」と喜んでくれて。この日から、僕のレペゼン仕掛け人としての毎日がスタートしました。

……と、こうして今は料理人兼広報として活動していますが、広報はまったくの未経験。広報どころか、sioに入るまではプロの料理人としての経験もなかったんですよ。

僕は代弁者。だから、シェフの頭のなかをコピーする

──プロの料理人として、広報として、経験値がない状態からsioでの活動をスタートされた、と。

はい。フリーランスの料理人として活動していたこともあるのですが、完全に独学だったので、レストランなどに所属するプロとして働いたことはありませんでした。ゼロからのスタートだった分、頭を悩ませることも多くありましたね。

そんな僕が未経験なりに形にできているのは、広告営業の仕事をしていた頃に参加した「企画でメシを食っていく(※1)「明日のライターゼミ(※2)」の存在があったからだと思います。

(※1「企画でメシを食っていく」:コピーライターの阿部広太郎さんが主宰する企画講座)
(※2「明日のライターゼミ」:クリエイティブディレクターの西島知宏さんが主宰するライティングに特化したオンラインサロン)

特に、今の僕を作っているのは、阿部広太郎さんの教えですね。講座で「言葉を常に疑う」「言葉が相手に届いたとき、どんな気持ちになるかを想像してアウトプットする」など、言葉の扱い方や影響力について学びました。

言葉の真髄に触れ、表現する楽しさも難しさも感じてきた経験は、今の広報活動の土台になっています。

──オリタさんは今、まさにレペゼン仕掛け人として“言葉”を扱われていますもんね。

はい。あとは、早い段階から現場を経験できたことも、広報活動に大きく活きています。料理人の世界では、素人がいきなりキッチンに立てるものではありません。しかし鳥羽さんは、独学で料理をしてきた僕に「習うより慣れろ」とすぐに現場を教えてくれました。

料理を提供するとき、お客様に向けて鳥羽さんの口から語られる、sioのイズムに聞き耳を立てる毎日。そうしてインプットしたこだわりを、目の前の料理でアウトプットすることで、イズムを体に刻み込ませていきました

──イズムを言語化するには、鳥羽シェフの思いを正しく受け取ることがポイントになると思います。なかなか難しいことだと感じるのですが、オリタさんのなかで意識していることはありますか?

「僕が代弁者になるんだ」という意識をもち、日頃から鳥羽さんの思考になりきることを心がけています。

これまでの取材記事に目を通し、どんな思考をもつのか分析して理解する。考え方がアップデートされていたら「その話、初めて聞きました。詳しく教えてください!」とヒヤリングする。このように、鳥羽さんと僕のなかで意識のズレがないか、日々チェックしながら対話しています。

鳥羽さんの頭のなかをコピーするようにしてから、1から10まで説明してもらわずとも、鳥羽さんの言いたいことを言語化できるようになった気がします。分刻みのスケジュールをこなす鳥羽さんが話すのは、物事の本質だけ。だから、その本質を僕なりに咀嚼して、誰にでもわかるように前後の文脈を想像しながら、代弁者として文をつづっています

SNSでの発信は、言葉による接客。まだ見ぬお客さんに想いを馳せて

──そもそも、なぜsioはイズムを伝えるスタイルを貫かれているのでしょうか?

すべては、sioの理念である「幸せの分母を増やす」ためです。世の中に、sioによって幸せになる人を少しでも多く増やしたい。その手段のひとつとして、sioのイズムを伝えることで、お客様の体験価値を上げられたらと思っています。

例えば、sioのコース料理には、計算されたストーリーがあります。まずは繊細な味のスープからスタートし、来たるメイン料理に備えて舌を整えていく。

店内では、そのイズムを「メイン料理のおいしさを引き立てるために、スープや前菜は伏線になっている」とお客様一人ひとりに直接プレゼンしています。すると、「なるほど。そんな意図が込められているのか」と腹落ちできて、お客様の体験のレベルが上がるんです。

──確かに、何も知らずに味わうより、イズムを知ったほうがおいしく感じられそうです。

そうなんです。ただ、リアルな空間だと、来店されたお客様にしか伝えられない。もし毎日新規のお客様で満席になったとしても、僕たちが幸せにできる人の数は席数に制限されてしまいます。

だから僕たちは、無限の可能性が広がるインターネットという手段を使い、発信しているんです。インターネットには、sioのことをまだ知らない人との偶然の出会いがたくさん転がっていて、リミットなくイズムを伝えられますから。

──実際、私もインターネットを通してsioを知りました。「#ととのうプリン」の件でもいえるように、sioの発信を目にして、店に足を運ぼうと思った人は多いと思います。

sioのことを知る人が増えれば、sioのイズムに共感してくれる人も増えます。共感してくれる人が増えれば、「noteに書かれていたイズムの答え合わせをしたい」と来店してくれる人も増える。このようにSNSでの発信は、店のファンを育てることにつながるんです

だから、未来の種まきをするためにも、飲食店で働く人や職人さんには、SNSでの発信にチャレンジしてみてほしいと思います。

──SNSの力を実体験されたオリタさんの言葉には、重みがありますね。最後に、これからSNSでの発信を始めようとする方に向けて、アドバイスをお願いします。

偉そうなことは言えませんが……SNSでの発信を、言葉の「接客」だと捉えてみてください。

リアル店舗の場合は、ドアを開けたときにかけられる「いらっしゃいませ」が、店に対する最初の印象でした。しかし、SNSが生活に根付いた今、お客様と店のファーストコンタクトは、SNSのタイムラインに流れてきた言葉かもしれません。あなたの紡ぐ言葉を見て、店のファンになるかもしれないんです。

だからこそ僕は、画面の先にいるまだ見ぬお客様に向け、SNSというツールを通して、言葉の接客を続けたい。これからも、鳥羽さんから受け取ったイズムの原石を、大切に大切に磨き上げて言語化していくつもりです。その言葉と出合ったお客様が、いつかsioに来店されて笑顔を見せてくれることを信じて。

画面のなかではなく、お客さんという人間に矢印を向けて

飲食店で働く人や職人さんが、いざSNSで発信しようと画面に向き合ったとき。コミュニケーションの対象が、お客さんという人間から、スマホやパソコンの画面になるので、何を発信すればいいのかわからなくなるかもしれません。

そんなときは、オリタさんの言葉を思い出してみてください。

「SNSを使った広報活動は、まだ見ぬお客様への、言葉による接客」

お客さんの顔を見たとき、どんな言葉をプレゼントしたくなるのか。大切なお客さんに伝えたい、自分たちの信念とは何か。こう考えたとき、自然と内側から言葉がにじみ出てくるでしょう。

(撮影:原 哲也)

この記事のライター

kashimin

kashimin

1994年生まれのライター・編集者。BtoBメディア運営会社とWebコンテンツ制作会社をへて、フリーランスに。企業の経営者や担当者を取材して約4年、ビジネス系の記事を中心に執筆しています。“働く人”のウラ側にあるストーリーを伝えていきたい。人生のBGMはサザンオールスターズ。散歩の時間と眠りにつく瞬間がだいすきです。

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