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ソフトバンクホークスが発明した「新しい野球の楽しみ方」。マルチでつながるファンコミュニケーションとは?

40,000人から、0人に。

この数字は、新型コロナウイルス感染症の拡大前後における、福岡PayPayドームでのプロ野球観戦の観客動員数です。開幕延期が決まり、開幕後も無観客試合が行われたことがありました。

「Withコロナ」ともいわれる昨今において、福岡ソフトバンクホークスでは、選手とファン、球団とファン、スタッフ内でのコミュニケーションのあり方を劇的にチェンジ。4万人が球場に来れなくても、各種SNSでは222万人(2022年8月時点)とつながり、ファンとのコミュニケーションを広げることに成功しています。

今回は、未曾有の状況の中で「新しいエンターテイメント」を提供するために奮闘した福岡ソフトバンクホークス広報室の裏側をお届けします。

福岡ソフトバンクホークス株式会社の最新のプレスリリースはこちら:福岡ソフトバンクホークス株式会社のプレスリリース

福岡ソフトバンクホークス株式会社 広報室 室長代行

池田 優介(Yusuke Ikeda)

福岡県大牟田市出身。関西大学社会学部マスコミ学専攻を卒業後、熊本の遊園地にてイベント企画や宣伝広報業務に従事。2016年福岡ソフトバンクホークス株式会社に入社。宣伝・ブランド管理部門を経て、広報室広報企画課 課長として事業広報・PRを担当。PayPayドーム隣接の大型エンターテインメント施設BOSS E・ZO FUKUOKA(ボス イーゾ フクオカ)の開業時の広報に携わるなど、野球事業のみならずホークスが手掛ける幅広い事業のPRを担った。2022年6月より現職。

「頼れるキャッチャー」を目指す広報室

── まず、全社にとって広報室はどのような立ち位置ですか。

池田さん(以下、敬称略):わたし自身は2019年12月にマーケティング・コミュニケーション部から、広報室に異動しました。広報室には、チームに帯同して選手関連のメディア対応を行う「球団広報課」とイベントやグッズ、グルメ等会社が行う事業の広報活動を行う「広報企画課」の2つがあります。球団広報課には5名、広報企画課には7名。全体としてはわたしもいれて13名のチームです。

マーケティング・コミュニケーション部ではテレビCMを作ったり、広告出稿したり、潤沢な予算の中で活動をしてきましたが、広報室は予算が限られている中で、ホークスの活動をファンを中心とした多くの方に知ってもらうことが役割です。異動してから「全社に対する広報室の理想的な立ち位置」について、メンバー間で話す場を何度も設けてきました。

野球の守備のポジションに例えて考えた際に出たのは「キャッチャー」でした。キャッチャーは守備の選手の中で、唯一グラウンド全体を見渡せます。バッターの特徴や試合の状況に合わせて的確にピッチャーや野手に指示を出すこと、ピンチの時には味方を鼓舞する空気作りが必要です。

「会社や部署がどのような狙いで施策を練っているのか」「社会がどのような流れで動いているのか」「顧客はどのようなことを求めているのか」。

広報室はキャッチャーのように、全体を俯瞰しながら適切なアシストをすることで、各部署が安心して力を発揮できる、そんな頼れる存在でありたいと思っています

── いろいろな部署を巻き込みながら推進されていると感じます。コロナ禍になって各部署と連携した企画づくりも増えているようですが、どのような工夫をされていますか。

池田:コロナ禍から意識しはじめたことですが、他部署の施策に企画段階から関わることを大事にしています。というのも、メディアとのコミュニケーションに関しては、提供する情報を工夫する必要が出てきたためです。

コロナ禍以前は、大変ありがたいことに、福岡のテレビ各局がホークスコーナーを5分〜10分ほど確保し、球場に自由に来て選手の密着をしてくださっていました。

ですが2020年はプロ野球の開幕が延期され、開幕後も無観客試合が決定されてから密着取材ができなくなり、メディアに別の観点での情報を渡す必要が出てきたのです

まずはテレビ局の方に「どのようなネタを求めているか」を聞いてみたところ、「どのようなネタでも良いので、何かあったらお知らせください」と言ってくださったんです。このような密接な関係性は、地元に根ざしたプロ野球チームである、ホークスならではだと思うのですが。

── メディアが報道しやすい情報を作る必要性に迫られて、各部署とのコミュニケーションも強化していかれたのですね。

池田:広報室ではもともと、メンバーをそれぞれ社内の各部署の担当窓口として割り振りをして原稿チェックなどの広報確認や相談を受ける体制づくりを行っていました。そこで、メンバーがそれぞれの担当部署に「いま各部署が何をしているのか」を聞いてまわってもらうようにしました。それまでは週次の社内会議で、完成したグッズやグルメなどの商品を初めて知ることが多かったのですが、広報室が積極的に情報を取りに行くようにしたのです。

また、サービス向上や商品企画に活きればと思い、他球団のニュースに留まらず、他スポーツや他業種のユニークな情報、流行りのトレンドや言葉など、一見野球と関係なさそうな情報も社内にメールで配信しはじめました。

── 広報室を起点に、社内・社外に対して積極的にコミュニケーションを取っていることが伝わります。

池田:社内の情報をメディアに伝えることも、メディアが欲している情報を広報が社内に聞いてメディアに取り上げられやすいように現場に伝えることも心がけました。まさにキャッチャーのように、全体を俯瞰しながらコミュニケーションを調整していきました。

球場に行けないファンが楽しめる代替策

── 各部署と連携した企画で印象に残っているものを教えていただけますか。

池田:2020年4月に始めた、飲食部門との連携の「Uber Eatsで球場グルメデリバリー」です。飲食部門の活動をヒアリングしている中で、「球場内で食べられるグルメを届けたら、少しでも野球を思い出してもらえるのではないか。少しでもファンの人に喜んでもらえるんじゃないか」という話が出たんです。

グルメデリバリー

球団グルメのフードデリバリーは、プロ野球業界初の取り組みでした。テレビ局の方にも話したところ、「コロナ禍ではじめたユニークな施策はニュースになりますよ」と言っていただき報道につながりました。それから新聞やWebメディアからも取材していただき、他球団やJリーグにもこの取り組みが広まっていくことになりました。

ファンの方々に野球シーズンに関係なく、好きな時に好きな場所で、選手プロデュースメニューも含めた球団グルメを楽しんでもらえることも、報道を通して他スポーツにも広がっていけたことも嬉しかったですね。選手メニューのレシピと制作動画も公開しているので、自宅で楽しめる企画として多くの反響を呼びました。TwitterなどのSNSで作った料理を公開してくださるファンの方も見受けられました。

── 企画段階から知っていたからこそ、情報発信を最大化できたのですね。

池田:現場がユニークな企画を考えてくれている分、広報が情報を広く届けて、ファンの人に楽しんでもらえるのは一番のやりがいです。

また情報量を増やすだけでなく、発信内容の質にもこだわるようになりました。例えば、日本プロ野球界では初めて「福岡PayPayドームのファウルポール(※)のネーミングライツ契約を締結」した際の発信です。

(※)打球がファウルかフェアかを判定するために外野に立てられた柱で、打球が直撃した場合はホームラン判定になる

── ファウルポールのネーミング契約ですか。

池田:ホークスにはたくさんの企業様がスポンサードしてくださっており、球場内にはさまざまなネーミングライツがありますが、福岡で即席棒状麺製造・販売をしているマルタイ社が、同社の主力製品にちなんで「マルタイ棒ラーメンポール」と名付けてくださいました。

マルタイ-ファウルポール
©SoftBank HAWKS

仕掛け人は、球団営業部の男性で、ソフトバンクの元投手。きっかけは彼がマルタイ様に訪れた際に「外野のファウルボールって棒ラーメンに似ていないか?」と聞かれたことでした。しかしファウルボールのネーミングライツは広告商材にはなかったので、新商品として建てつけるために、社内各部署を回って調整し実現に至ったのです

── このストーリー自体が素敵ですね。

池田:そうなんです。ただ日本初のファウルポールのネーミング契約が締結したことだけでなく、「営業メンバーとスポンサー企業のストーリー」も含めて伝えていこうと、球団公式noteでもその裏側を綴りました。すると、地元テレビ局に報道していただくだけでなく、新聞やWebメディアからも、担当者への深掘りの取材をしたいとお問い合わせをもらい、合計112媒体への露出につながりました。

── ある記事内には「球団公式noteによると」と、引用されている文章もありましたね。

池田:noteは、コロナ禍になって始めた試みでした。「ホークス社員である私たちが何を考え、どんな想いで日々を過ごしているかというストーリー」を伝えるために発信しはじめたので、文章を引用してもらえて素直に嬉しかったです。

ファンの方が、PayPayドームに来た際は「あれがマルタイ棒ラーメンのファウルポールか」と楽しむきっかけにもなれたらと思っています。ホームラン直撃時や、近いところに打球が飛んできたときには、SNSで「マルタイ棒ラーメンポール」のワードが多く使われ、認知度の高さに驚きました。

遠方のファンも楽しんでもらえるように

── 全国にいるホークスや野球ファンが「野球観戦」を楽しめる工夫についても教えていただけますか。

池田:2022年の開幕戦の相手は、BIGBOSSこと新庄剛志監督が率いる、北海道日本ハムファイターズ。日本中が注目するであろう一戦で、「藤本監督は神興に乗って登場、新庄監督は箱から現れる」という開幕戦セレモニーを企画したのがマーケティング本部でした。

広報室では、セレモニー演出担当者への密着取材を誘致。リハーサルや準備の様子を放映してもらい、全貌を明かさないまま当日への期待感を醸成できました。

「全国のプロ野球ファンが『また球場に来たい』と思ってくれる楽しいことを提供したい」と、日本ハム側にも、新庄監督にも説明をして準備をしました。新庄監督も「こんな演出をしたらもっと面白くなるのではないか?」と提案をしてくださり、本当にありがたかったですね。

©SoftBank HAWKS

開幕戦のお知らせには広報も一緒に刺さるコピーを考え、「新庄監督への挑戦状」として、「好きに言わせても好きにはさせない」というメッセージと共に、球団公式Twitterを投稿しました。

するとTwitterで3,000件ほどリツイートされ、新庄監督のもとにも届くことに。Instagramでコメントを返してくださったことで、大きな話題になりました。

また、この企画は地元メディアのスポーツコーナーだけではなく、全国メディアのワイドショーにも取り上げられるであろうと、テレビを中心に、片っ端からメディアの方に連絡していきました。ありがたいことに、222媒体に放映していただき、全国のファンにも楽しんでいただけたと感じます。

── コロナ禍になり、SNSでの発信も大事にされていますよね。

池田:開幕が延期となりチーム活動が停止している頃は、「球団は何ができるのか、何をしていいのか、ファンや世の中は何を求めているのか」を考えて、公式YouTubeを使った「おうちでサァイコー!」プロジェクトを立ち上げました。

「おうちでサァイコー!」プロジェクト
©SoftBank HAWKS

工藤監督(当時)監修のもと制作した室内でできるトレーニングを選手が実演する動画「おうちで工藤塾」。5月5日の子どもの日に行なったオンライン野球教室では、Zoomの参加者上限に設定した300組は30分満たないうちに満席になり、Twitterライブでも同時配信をして多くのファンが視聴できるように工夫しました。合わせて最大960組の視聴がありました。

これまでは選手との触れ合いを重視していましたが、今は球団や選手を身近に感じられるようなコミュニケーションをつくることが重要になっています。オンラインのファンイベントには、台湾から参加していただいた方もいました。コロナ禍で、遠方にいるファンにも気軽に応援してもらえる環境になったと感じています。

SNS発信は、広報室と宣伝部門が連携して行なっていましたが、2021年12月にはオウンドメディア推進部(のちにメディア戦略部に組織変更)という自社SNS発信に特化した部署を設立しました。15年以上、ホークスのオフィシャルリポーターをしているメンバーも入りファン目線の発信で盛り上げています。

球団公式動画チャンネル「ホークスTV」も開始して、1軍戦をはじめ2・3軍の試合中継や、球団公式だからこそ撮影できる選手の素顔や裏側に迫ったオリジナルコンテンツの配信もしています。

── 新しいチャレンジを続々とされてきたんですね。最後に今後の目標を教えていただけますか。 

池田:新型コロナウイルス感染症拡大は、野球界・スポーツ界にとって大きな転換点となりました。ただ、一方で社内やメディアとのコミュニケーションの変化によって、地元の方だけではなく、SNSやテクノロジーを活用した全国・海外のファンとのつながりを生むことができました。

これからもホークスに注目してもらい、足が遠のいてしまったファンにも、まだ来たことがないファンにも、「PayPayドームで観戦したい」と思ってもらえるような企画づくり、発信をしていきたいです。

今回の事例のポイント

  • 「頼れるキャッチャー」をイメージした社内コミュニケーション
  • 企画の裏側にあるストーリーで共感や露出の最大化
  • 遠方のファンも一緒に楽しめるSNSでの仕掛け

コロナ禍という前代未聞の事態に翻弄されるのではなく、野球のような他部署との連携プレーで、独創的なアイデアをカタチにして広めていった広報室。

大事にしていたのは、「頼れるキャッチャー」のように、ファン、他部署スタッフ、メディア、それぞれの状況を見て、求めていることを考え、前向きに行動を重ねていたこと

会社の規模や業種業態にかかわらず、不測の事態にかかわらず、今できることを地道に積み上げていくことで、霧が晴れて、明るい未来が見えてくるのかもしれません。

(撮影:CURBON平島、取材はリモートで実施しました)

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この記事のライター

岡田 麻未

岡田 麻未

大学時代に所属していた教育系NPOで広報・採用のコミュニケーション領域に出会う。新卒で福祉系ベンチャー企業にてPRとマーケティングを経験したのち、現在は女性向けのライフキャリア支援サービス運営会社にて、広報PRとプロダクトづくりを担当。あるストーリーの裏側をことばに乗せて伝えていきたい。銭湯でぼーっとする瞬間がすきです。

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