プログラミング教育必修化へ。CA Tech Kids代表自らが奔走した、コミュニケーションを通じた世論形成

SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回は、サイバーエージェント傘下でプログラミング事業に取り組む株式会社CA Tech Kidsの代表取締役社長・上野さんにインタビューしました。

2020年度からすべての小学校で必修化された「プログラミング教育」。必修化の流れを受けて全国各地にプログラミング教室が広がっており、子どもにさせたい習い事上位にも選ばれています(※)。

(※)子どもがいる親世代に聞いた「2020年子どもの年末年始に関する調査アンケート」子どもにさせたい習い事は「英語・英会話スクール」「プログラミング教室」が人気!

子どもがプログラミングを学ぶということがまだ一般的ではなかった2013年に創業したCA Tech Kids。プログラミング教育の必修化に向けて広報・PRを活用し、世論形成や積極的に行政へ働きかけていったそうです。広報・PRを活用してどのように社会全体が動くほどの変化を起こしたのか、その裏側を聞いてきました。

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 

上野 朝大(Ueno Tomohiro)

2010年、新卒でサイバーエージェントに入社。2013年5月同社グループとして(株)CA Tech Kidsを設立し代表取締役社長に就任。事業の経営を行う一方で、新経済連盟 教育改革プロジェクト プログラミング教育推進分科会 責任者の他、文科省プログラミング教育関連各種委員も務め、プログラミング教育の普及、推進に尽力する。現在、国内最大の小学生向けプログラミング教室を全国展開する株式会社キュレオの代表取締役社長、およびサイバーエージェントエデュケーション事業部部長も兼任。

サイバーエージェント初の教育事業。社会的価値向上を目指し、広報・PRに注力

ー 今でこそ当たり前になった「プログラミング教育」ですが、その黎明期である2013年に創業されたんですよね。どのような経緯から創業されたのですか?

上野さん(以下、敬称略):創業自体は私の発案ではなく、サイバーエージェント役員陣が行った合宿中の雑談で出たアイデアでした。2013年のタイミングでプログラミング教育事業に参入を決めたきっかけは大きく2つあります。

1つは、大手IT企業間で起きていたエンジニアの争奪戦。どの企業も、成長の源泉となる優秀な人材を欲していました。人材不足を感じる中で、エンジニアの育成というテーマに話が及んだ時に、プログラミングを子どもの頃から学べる機会が日本にはまだ足りていないが、自分の子どもたちには習わせる機会を設けたいよね、という話があったようです。

もう1つは、サイバーエージェントも参画する新経済連盟の中でプログラミング教育の話が出始めていたこと。新経済連盟の代表理事を務める楽天グループ代表の三木谷会長を中心に、プログラミングを公教育で必修化すべきだという政府への働きかけが始まっていました。当時、オバマ大統領がプログラミングを学ぶ必要性を語るなど、欧米でもプログラミング教育が叫ばれ始めたタイミングでもありました。

そういった背景から、プログラミング教育事業をサイバーエージェントの新規事業として立ち上げることが決まり、私が代表として選任されました。それまで広告営業やマーケティングなどを担当していたので、プログラミング教育事業を担う社長をやってくれと言われた時は、とても驚きました。正直ビジネスとしてはかなり難しいのではないかと思ったのですが、プログラミング教育は、子どもに新しい武器をもたらすことができる、と感じました。そうした人材を育てることは、IT企業のみならず日本の全産業のためにもなる、非常に価値がある普及すべきものだとも確信しました。

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 上野 朝大氏1 

ー 上野さん自身、プログラミングを経験していない中での抜擢だったということですか?

上野:そうですね、実務でプログラミングを使う職種ではなかったですし、教育ビジネスに詳しいわけでもありませんでした。なぜ自分が抜擢されたのか明確に理由を聞いたことはないのですが、おそらく「マジメ」な印象があったからだと思います。保護者の方や学校の先生などとお会いすることが多い事業領域なので、ほかの事業以上に代表の印象を大事に考えていたのではないかと。また、いつか会社経営に携わりたいと考えていたので、そのような希望も汲み取ったうえで抜擢してもらえたのだと思います。

ただ、CSR文脈で立ち上がった事業だったため、サイバーエージェント内のほかの事業とは異なる立ち位置でした。そのため、いかに会社としての価値を創造していくべきか悩みました。それまでの部署では、売上に集中することが会社の価値創造に直結していましたが、CA Tech Kidsはそれだけではいけない、むしろ収益以上に社会に対して善であるということが大きな存在価値だと考えるようになりました

そこで、広報・PRを経営戦略の肝に据え、社会的な価値を向上させていくことを目指しました

幸運なことに、創業から1〜2週間ほど経ったタイミングで、プログラミング教育必修化を検討するという政府からの発表があったんです。この追い風が絶えないように、風のふく方向性を微調整しつつ、うまくその風に乗ることが大事だと思いました。そこで、広報・PRによる世論形成に注力するとともに、政府に働きかけるロビー活動にも力を入れ、必修化の実現に貢献することで社会貢献と事業成長を両立させていこうと動き出しました。

必修化までの広報戦略は、大量のプレスリリースとそれに伴う高速PDCA

ー 広報・PRに関する組織体制や戦略はどのようにしていたのですか?

上野:そもそも立ち上げメンバーが私ともうひとりの2名しかおらず、彼がコンテンツやプロダクトの作り込みを担い、私がそれ以外の業務全般を担う体制で、広報業務も私が請け負っていました。私自身、過去に広報の経験はありませんでしたが、サイバーエージェントの全社広報室との関わりの中でなんとなく業務イメージはついていたので、見よう見まねで取り組んでいきました。

戦略としては、プレスリリースを大量に出すということだけを決めていましたね。特別テクニカルなことをしたわけではありません。話題が絶えないよう、プレスリリースの掲出本数を目標に設定して、初年度では21本のプレスリリースを配信しました。

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 上野 朝大氏2

ー 創業1年目のうちに21本ものプレスリリース!配信するプレスリリース自体も、上野さんが作成されていたんですか?

上野:そうです。プレスリリースのネタを考えるのはもちろん、自分で原稿も作成していました。一度取材にきていただいたメディア関係者にプレスリリースを送付したり、イベントへ呼び込みをしたりということも自分でやっていましたね。プレスリリースを作成→配信→メディア関係者からの反応確認→次のプレスリリース配信に活かす……という一連の流れを高速で回転させ、とにかく数をこなしていきました

確たる根拠や仮説をもとに自信を持ってやっていたというよりは、出せば何か当たるはずという感じですね。プレスリリース1000本ノックみたいなイメージです。そうして、どんどん経験を積んでいくことで、メディア関係者が関心を持つポイントや勘所もわかるようになりました。やっぱり子どもがパソコンに向かう画のインパクトが大きいので写真をたくさん撮影したり、メディア関係者に教室に足を運んでもらって実際の様子を見てもらわないとダメだと気づいたり、メディア関係者が興味を持ちやすい取り上げ方を汲み取って企画を練る必要がある、とか。

また、よりニュースバリューのあるプレスリリースにするため、他社とのコラボレーション企画を積極的に創出しました。創業から約2カ月後には、当時小学生向けのIT教育の促進を強化していた朝日学生新聞社さんとアプリ開発体験教室を開催したり、本田圭佑選手プロデュースのサッカースクールと連携した取り組みなどを企画し、プレスリリースとして配信しました。

すでにブランド力がある企業や人とのコラボレーション企画を重ねたことで、CA Tech Kidsへの信頼感を醸成できたと思います。それまでは、自治体や小学校に営業に行っても門前払いだったのが、逆にあちらから問い合わせがくるようになりました。

ー プログラミング教育必修化を目指しロビー活動にも力を入れていたということですが、どのように動いていたのですか?

上野:CA Tech Kids単体ではなく、新経済連盟を介して政府への政策提言などの働きかけをしていました。我々だけの力では限界があったので、新経済連盟を介して提言するようにしていましたね。この活動が実を結び、⽂部科学省の「⼩学校段階における論理的思考⼒や創造性、問題解決能⼒等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」委員や「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会基本問題検討ワーキンググループ」委員として自社の意見を周囲と対等に発言する機会がもらえるようになりました。議論の場、一回一回が貴重なチャンスなので、若手芸人がテレビ番組のひな壇で爪痕を残そうとする様子さながら、必ず意見を表明をして次につなげるようにしていました。

創業の翌月である2013年6月に必修化が検討されることが発表され、必修化が確定したのが2016年4月。この3年はそれはもう必死でした。必修化を検討すると決めるのは政治家ですが、実際に必修化を進めるのは官僚の方々なので、彼らにきちんと素材を提供することを意識して動きました

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 上野 朝大氏3

行政も一枚岩ではなく縦割り組織なので、正式な会議の場以外でもさまざまな組織の多様な立場の方々に積極的にお会いして、我々の取り組みや考えを丁寧に伝えていきました。

ひとつの政策が持ち上がってから実現に至るまでのプロセスを今まで体験したことがなかったので、手探り感はありました。ただ、その中で特段苦労した経験はあまりなかった気がします。追い風自体は吹いていたので、自分たちの意見を確立し、さまざまな場で伝えていくことを繰り返していきました。その時々でどう振る舞うのが最適か、都度空気を読んで動いていましたね。

これまでは離陸させるための広報。これからは飛び続けるための広報。

ー 必修化が始まり、今後はどのように広報・PRを活かしていきたいですか?

上野:プログラミング教育必修化は創業間もない頃からの念願でしたので、それが実現したことはとても大きなステップでした。創業から必修化実現までの7年間は、自分たちなりのプログラミング教育の形を確立するための期間だったので、次は確立した考えをさらに多くの方々にちゃんと届けていくフェーズになると思います

今まではムーブメントを作り出すための広報・PR。イメージとしては、飛行機を離陸させて一定の高さまで上昇するための広報・PRでした。ただ、これからはその高さで飛び続けられるパワーを保つための広報を展開して、世間との関係性をきちんと維持・向上していきたいです。

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 上野 朝大氏4

メディアにおけるトレンドや世間の関心の高まりと、市場の実態には時差がありまして。実際にはプログラミング教育は必修化も始まり、GIGAスクール構想で1人1台端末も配布され、ようやくここから本格スタートというところなのですが、「プログラミング教育」というと、ほんの少しだけ古いという空気もすでにあり、もう別のトレンドが出てきているんです。ただ、プログラミング教育とは日本の未来を変えうる重要なものであり、一過性のトレンドとしてかき消されたりするべきではありません。そのためにも、引き続き広報・PRを活用し、世間との関係構築に努めていきたいと考えています。

具体的には「TECH KIDS GRAND PRIX」という小学生のためのプログラミングコンテストを実施しており、全国各地からたくさんの子どもたちが参加してくれています。応募総数の推移をみると、初開催した2018年度は1,019件、翌2019年度は1,422件、2020年度は2,189件と毎年約150%ペースで増加しています。収益的には少し赤字が出るかトントンぐらいなのですが、コンテスト自体が大きなアドバルーンとして機能しています。巻き込める輪をどんどん拡げていけていますし、ムーブメントの仕掛け人としてのポジションを保ち続けるには欠かせない施策です

ー 代表自ら広報業務を担い、広報・PR観を確立できている方は多くないと思います。広報・PRに力をいれていきたいと考えている経営者や事業責任者にアドバイスがあればお聞かせください。

上野:やはり、風をよく読むというのはすごく必要だと思います。パブリック・リレーションズを世間との関係性だと考えると、世間の中に自分たちのプロダクトをキレイに置くことが大事です。流れの中に上手に置かないと弾き飛ばされていってしまったり、誰にもみてもらえなかったりしますから。

決して世間に迎合するということではないですが、迎合しようと思えばできるくらいの感度は必要でしょうね。自分たちが言いたいことを言うアウトプットと同じくらい、世間の空気や意見を取り入れていくインプットを絶えず行うことが大切です

株式会社CA Tech Kids 代表取締役社長 上野 朝大氏5

今回の事例ポイント

・プレスリリース掲出数を目標に置くなどメディアとの接点を生み出しつづけ、メディア掲載のための勘所を早々につかむ

・追い風が吹いたときにすばやく反応できるよう、世間に吹く風をよみつづける

・なぜ広報PRに注力すべきか明確にし、そのフェーズごとに最適な広報戦略を立てる

プログラミング教育の最前線で、代表自らが奔走した世論形成のための広報PR。

いま、「プログラミング教育」を当たり前に感じる世の中になったのは、感じた追い風が吹き止まないように、より強い追い風になるように、代表である上野さん自らが広報業務を担ってきた経験があるからかもしれません。

世論や行政を動かす力が広報・PRにはある。

そんな確信を与えてくれるインタビューでした。

(撮影:原 哲也)

この記事のライター

林 優

サイバーエージェント新卒入社、Makuake配属。イベント企画・運営を担当するとともに、ガジェット・ファッション・飲食店・日本酒…など、毎月数百件開始するプロジェクトの広報業務を担当していました。 多岐にわたるジャンルのプロジェクトPRを担当する中で積んできた広報業務経験を活かしたコンテンツづくりに取り組んでいます。

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