2011年に誕生したSUBRINAは、国内初の海底熟成ワインを通して、頑張っている自分を労る、大切な人へ感謝の気持ちを伝える、そんな心が安らぐひと時をお届けしています。

およそ7か月間、海底セラーにて熟成されたSUBRINAは、角がなく丸みのある優しく豊かな味わいの赤ワイン。また、SUBRINAのワインはどれも一点物。それぞれ海底で眠っていた証とも言える石灰藻やフジツボなどの海の贈り物をまとっています。

海底セラーの場所は、南伊豆の沖合、水深15m。ありのままの自然が残された、伊豆有数の透明度を誇る、紺碧に輝く南伊豆の美しき海にあります。その場所にワインを沈めてくれているのは、南伊豆のダイビングメンバー。彼らや地元漁協の協力があってこそ、SUBRINAのワインは生み出せています。

今回は、ブランドの創設者、株式会社コモンセンス 代表の青樹 英輔が、日本初の取り組みに至った経緯や、一般的なワインセラーでの熟成ではなく海底を選んだ理由、商品にかける想いについて振り返ります。

海底熟成という手法との出会い

私は幼少の頃から海が好きで、よく素潜りをして遊んでいました。大人になり、タイビングに出会うと、「水の中で息が吸えるんだ」という感動を知り、陸上とは違った美しさの景色に魅入られていくことになります。

海中の世界に夢中だった私は、様々な海底地形を持ち透明度も高い、沖縄の恩納村でダイビングを楽しんでいました。その地で出会ったのは、私のダイビングの師である山城さん。彼は、地元の漁業協同組合のトップとしてだけでなく、クローズドなダイビングショップを経営し、珊瑚保護の活動にも情熱を注ぐパワフルな人です。

海への愛に溢れた山城さんは、趣味でお酒のボトルをビールケースに入れて、珊瑚の保全棚の下に保管していました。「沖縄では泡盛を海に沈めておくと、時間とともに丸くなり、味わいがより豊かになる」と教えてくれたんです。

あるとき、山城さんに沖縄の海に1年間沈めた海底熟成ワインをプレゼントしていただきました。初めて手に取った時、ボトルに石灰藻やサンゴがついている無骨なワインボトルを前に「なんだこれ」とあまりポジティブな感想ではなかったことを覚えています。

ですが、一口飲んでみると、その感想が一変。これまでに飲んだワインの中でも、とても記憶に残る味わいに衝撃を覚えました。どっしりと重みはあるのにも関わらず、不思議なほどにスーッと喉を通っていくのです。ドライなワインですが余韻も印象的で、官能的な香りと、甘味が口の中に広がりとてもふくよかな味わい。

海底は、地上に比べて音による振動が多いことと、常に温度変化が起こっている環境です。そのため、通常とは異なる熟成がされることでお酒が美味しく仕上がるのではないかと私は思っています。

海底熟成ワインを作って、多くの方と感動を共有したい。毎年訪れていた南伊豆を海底セラーの場所に選ぶ。

以前より自分で事業をやりたいと考えていましたが、すでに世の中にあるものは誰かが頑張ればよいのであって、私は自分にしかできないことをやるべきだと思っていました。

そんなタイミングで出会ったのが海底熟成ワイン。無骨な見た目と繊細な味わいというギャップに惹かれ、「これをまた飲みたい」と記憶に残っており、自分自身でも「海底熟成ワインを作りたい」「このワインを再現し、多くの方と一緒に感動を共有したい」という思いが芽生えてきたのです。

また、細かいところにも手を抜けない性格もあって、妥協できない私には、この未知なるワインに向き合うということが合っているとも思いました。失敗も失敗と捉えずに、次の道筋ができたと考える私にとって、試験を重ね、アイデアを出して試行錯誤するのは、大変ながらも苦にはならなかった。だからこそ、SUBRINAを作り上げられたのだと思います。

実は最初、沖縄で山城さんの力を借りて事業を開始しようと思っていました。しかし、沖縄では通年多くの人が海に潜るため、セキュリティに難がある。また、海水温も夏場には30度を超えてしまうため、販売するワインの品質管理をするうえで向かないと感じ、別の場所にしました。

そのとき思い浮かんだのが、家族で毎年夏に訪れていた南伊豆の中木の風景。夏季はマリンレジャースポットですが、冬季はオフシーズンに入るし、川から注ぎ込む冷たい水が海水温を低く保ってくれるので、海底セラーにピッタリだと思いました。

地元の方からいただいたチャンスを活かし前例のないことに挑戦

前例のないことだったこともあり、どのように進めていけばよいのか課題は山積です。ものづくりの経験は豊富だったので品質管理には自信がありましたが、海の権利や作業に関しては全く知りません。台風や天災、水温、なども未知の世界。漁業者の力を借りなければこの事業は実現できないと考えました。

そこで出会ったのが、ダイビングショップ「中木マリンセンター」の山口さん。私の日本初のプロジェクトに賛同してくださった、男気ある山口さんの協力により海に関しての課題を共に解決していくことができ、今があります。

もちろん、最初から全てがスムーズだったわけではありません。前例のない未知なることですので、「冬季の海の荒れを舐めちゃダメだよ」「それくらいの設備じゃ流されちゃうよ」「漁業に支障が出るのではないか」など海に対するアドバイスや、海で生活する人たちの声をたくさんいただきました。

海は誰のものでもありません。しかし、私が海に対して害を及ぼしたとき、迷惑をかけるのは地元や漁業者の方たちです。海底熟成ワインを知っていただき多くの方に喜んでいただくためにも、誰かに迷惑をかけるような事業はやりたくありませんでした。

それでも諦めず、月に一回、足繁く通いました。地元の漁業に迷惑かけない形を模索し、伊豆の海にも負担をかけない方法を探求する私に、「まずは１ヶ月実験してみる？」と徐々にチャレンジの機会を与えてくれるようになったのです。

自ら設置の図面を引き、試験するたびに出てくるトラブルを「こうやったら問題ないですよね」と一つずつ提案してクリアにしていく作業は一年間続きました。

改良を重ねて、販売から今までの10年間、トラブルゼロを実現

海は大自然そのもので、私たちのワインのことなど関係なく荒れるときは荒れます。だからこそ、海底で安全に設置するためにはある程度大掛かりな基礎が必要。どのようなものを造れば安全に保管できるのか、建設業の方に相談しながら造ってもらい、アンカーはどのようなものを入れれば基礎が動かないのかなど漁業者にも相談し取りまとめました。

また、ワインが漏れ出さない、瓶の中に海水が入らないようにするのも、もちろん重要です。シーリングも耐水圧試験を繰り返し、浸水しないように特殊加工のシーリングで、海底に沈めても問題のないものを探求。それと同時に工夫を施したのは、ラベル張り。通常のものだと、海水に剥がれ落ち海を汚してしまいます。サンドブラストにて、ボトル表面に直接ロゴサインを刻印することで、環境に負荷を与えず保管することを叶えました。

準備段階でかなりの試験や、改良を重ねてこられたおかげで、販売を開始してから10年間で一度もトラブルを起こしたことはありません。

海底熟成の魅力を多くの方に知っていただくために。

「このワインを多くの方に愉しんでいただきたい」、「記憶に残る時間を過ごしてもらいたい」。そんな気持ちで始めた事業は思わぬ副産物も生み出しています。

一つ目は、冬場のマリンレジャー閑散期に地域の方に仕事を与えられるなど、地元に貢献できたこと。協力してくれた地元の方々には、海底に沈める際の作業費だけでなく、SUBRINAの売上の一部を地域に還元できています。

二つ目は、南伊豆の美しさを全国に広められたこと。SUBRINAがメディアに取り上げられたり、AmazonのCMで制作の風景が地上波で放送されたことで、美しい南伊豆の景色が全国に伝えられました。SUBRINAをきっかけに美しい南伊豆のことを知っていただき、地元が賑わい、この取り組みで地域が継続的に豊かになっていくことが目標です。

三つ目は、砂地に設置されたワインの隙間には小さな生き物が住み着き成長していること。海の中でものを作るとなると、気になるのはやはり環境への負担。先述した通り、ワインの漏れ出しや、ラベルのゴミなどが発生しないようには努めているものの、環境に対する影響は不安材料の一つでした。でも、小魚たちのすみかとして、SUBRINAが役立っているのであれば、これ以上に嬉しいことはありません。

これら三つの副産物を大切にしていきながら、事業をしっかりと続けていけることが私の望むことです。そして、海底熟成の魅力を多くの方に知っていただき、海底熟成＝SUBRINAとして認識してもらい、ワインを嗜む時間を楽しんでもらう。これを叶えるために、新しいチャレンジやタッチアップの機会をもっと増やしていきたいと考えています。