CSISが新調査を発表、海外デジタルサービスが日本の生産性向上と輸出力強化のカギに
戦略国際問題研究所(CSIS:the Center for Strategic and International Studies)は、新たな調査レポートである「海外デジタルサービスがもたらす日本経済への効果 - 開かれたデジタル貿易の効用」を、6月9日に公開しました。本レポートは、過去数年間における日本のデジタルサービス輸出の力強い成長を踏まえ、海外のデジタルサービスを活用する数百万社の日本企業にとって、開かれたデジタル貿易政策が極めて重要であることを示しています。
国際貿易の情勢が大きく変化する中で、日本は、ルールに基づく開かれた国際貿易を長年にわたり推進し、デジタル貿易の地域協定や多国間協定を先導してきた国家として存在感を示しています。また日本は、コンピューター、プロフェッショナル、テクノロジーを含むデジタルサービスの国際貿易推進のリーダーかつ、世界貿易機関(WTO:the World Trade Organization)における多国間電子商取引協定の交渉の重要な推進国です。
一方で、日本政府が2024年に公開した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でデジタルサービスの貿易赤字に懸念を表明したことを受けて、日本のメディアを中心に「デジタル赤字」に関する議論が活発化しています。日本は、デジタル赤字の文脈で、日本のデジタルサービス輸出、デジタルサービス提供企業とスタートアップの推進に努めています。しかし、多くの日本の専門家や学術研究が指摘するように、デジタル赤字の議論は保護主義的な貿易政策を促進するとの見方もでき、再考の余地があります。
本レポートの主な主張は、以下の5点です。
-
デジタル赤字に対する懸念は誇張されている。2014年以来、日本は電気通信、コンピュータ、情報サービスで貿易赤字を抱えている。一方で、日本は財、その他業務サービス、保険・年金サービスで、はるかに大きな貿易赤字を抱えている。
-
デジタルサービスの輸入に注目が集まる中、日本のデジタルサービス輸出は、輸入以上に拡大しており、日本は世界のデジタルサービス輸出国の上位10カ国に入っている。日本のデジタルサービス輸出は、過去15年間で輸入を上回るペースで成長しており、特に米国、欧州、シンガポールへの輸出は近年急速に拡大している。デジタルサービス輸出国としての日本の強さは、クリエイティブ産業の目覚ましい成長と、急成長するスタートアップエコシステムなどを反映している。
-
貿易赤字に焦点を当てることによって、日本企業が圧倒的に国内のデジタルサービスを利用しているという重要な点を見逃している。国産デジタルサービスによってもたらされる付加価値は非常に高く、日本の製造業とサービス業の生産と総輸出に含まれる付加価値の90%以上は日本で作られたものである。デジタルサービスの貿易収支に関する議論は、輸入を大局的な視点から捉え、日本企業にとって重要度の高い国産デジタルサービスも含めて議論されるべきである。
-
海外デジタルサービスの利用が日本企業の輸出競争力を高めている。この中で、デジタル貿易に関する障壁は、日本が比較優位性を有する産業において大きな負の影響を及ぼす。本レポートのために実施した企業調査によると、日本の製造業、サービス業、デジタルサービス業の企業は、生産や業務においてさまざまな海外デジタルサービスを利用している。また、海外デジタルサービスの利用が日本企業の競争力にとって重要であることが、この調査によって示されている。特に、輸出主導型企業は、海外のデジタルサービスを活用する傾向が強いことが明らかになった。そのため、海外のデジタルサービスに対する障壁は、すでに円安に苦しんでいる企業や輸出企業に対して追加のコストを生じさせるだけであり、日本の輸出を損ない、ひいては貿易赤字を拡大させることになる。また輸入障壁は、貿易相手国からの報復を招きやすく、日本のデジタルサービス輸出企業を弱体化させることもあり得る。
-
日本は長い間、テクノロジー主導のビジネス、イノベーション、自由なデジタル貿易を含む開かれた市場を推進してきた。そして、これらの取組を拡大することで大きな利益を得られる。デジタル輸出を強化し、あらゆる業種の企業が世界最高水準の輸入品にアクセスできるようにするために、日本ができることは、デジタル貿易協定の深化、協定間の融合の後押し、スタートアップエコシステムを促進するための取組の継続、世界中の顧客や投資家と日本企業の関係強化、デジタルサービス輸出を拡大するためのAI活用などが挙げられる。
本レポートの全文(日本語版)はこちらから、原文(英語)のレポートはこちらからダウンロードが可能です。
戦略国際問題研究所(CSIS:the Center for Strategic and International Studies)は、超党派的に政策調査を主に扱う非営利団体です。世界規模の課題を解決するための実践的なアイディアを推進することに尽力しています。
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。