【日本俳優連合】生成AI時代における声の権利を守り、健全な業界発展を導く「音 声に関する生成AI利用ガイドライン」を発表
〜日本における「声の権利」の法的空白を埋め、実演家とステークホルダーを救う新たなルール作り〜

約2,600人の俳優・声優が加盟する協同組合 日本俳優連合(以下、日俳連)は、急速に発展する生成AI(人工知能)技術から実演家の権利と尊厳を守り、同時に制作会社、AI開発企業などの事業者(ステークホルダー)が安全にビジネスを展開するための指標となる「音声に関する生成AI利用ガイドライン」を正式に策定・発表いたしました。
■背景:音声実演家(声優・俳優)たちの危機的な現状
近年、生成AI技術の飛躍的な進歩により、テキストを入力するだけで人間の声を本物そっくりに合成する音声クローン技術やAI吹き替え技術が急速に普及しています。この技術革新は業界に新たな可能性をもたらす一方で、声を職業とする実演家たちを危機的状況へと追い込んでいます。
現在、多くの実演家の過去の出演作品や音声データが、インターネット上から無断で収集(スクレイピング)され、AIの機械学習の餌となっています。その結果、本人の全くあずかり知らない場所で、本人の声に酷似した合成音声が生成され、商業利用や悪意のあるフェイク動画に流用されるケースが後を絶ちません。
「声」は実演家にとって長年の研鑽の賜物であり、アイデンティティそのものです。無断学習と無断生成による声の盗用は、実演家の仕事を直接的に奪い、経済的基盤を破壊するだけでなく、その芸術的尊厳や人格権を著しく侵害する深刻な問題となっています。
■ガイドライン発表の理由と目的(動機):日本の法制度における「声の権利」の欠如
日俳連が本ガイドラインを策定した最大の理由は、現在の日本には、個人の「声」そのものを包括的に保護する明文法(いわゆる「声の権利」を定めた法律)が存在しないという深刻な事実にあります。
顔や姿に対する「肖像権」や「パブリシティ権」の議論はあるものの、音声の無断学習やAIによる合成音声の生成・利用を直接的に取り締まり、実演家を保護する包括的な法律は未整備のままです。法整備が技術の進化に完全に遅れをとっており、業界はいわば「無法地帯」の状態に置かれています。
この法的空白は、実演家にとっての生存の脅威であるだけでなく、AIを利用するステークホルダー(制作会社、配信プラットフォーム、AI開発者等)にとっても、後々大きな権利侵害訴訟や信用失墜のリスクを抱え込む極めて危険な状態です。
国による法整備を待つだけでは手遅れになるという強い危機感から、双方が安心して創作活動やビジネスに取り組めるよう、透明性と公平性を担保する自主的な基準として、本ガイドラインを発表するに至りました。
「音声に関する生成AI利用ガイドライン」概要
■ガイドラインの4つの重要課題と、実演家・ステークホルダーへの効果
本ガイドラインでは、特に重要な以下の4つの課題について、厳格な基準と運用ルールを定めています。これらは実演家を守るだけでなく、ステークホルダーに安全なビジネス環境を提供します。
1. どの段階においても、事前の許諾を取るということ(第3部・第7条、第8条、第9条)
AI技術においては、「学習(インプット)」「生成」「公開・利用(アウトプット)」の各段階が存在します。いかなる段階においても、対象となる音声の持ち主(実演家)に対して目的を明示し、事前の許諾を得ることを必須とします。
▶実演家にとっての意義:
自身の声がいつ、どこで、どのように利用されるのかをコントロールする「自己決定権」を完全に取り戻すことができます。自身の信念やイメージに反する利用(例:意図しないキャラクターを演じさせることや、政治的・暴力的な発言の生成など)を事前に防ぐことができます。
▷ステークホルダーにとっての意義:
明文法のない日本において、契約時に条件設定を確実に行うことで法的リスクを劇的に低下させます。クリーンなデータセットを提供することで、投資家や消費者に対して「倫理的で安全なAIサービス」としてブランド価値を高めることができます。
2. 対価について(第5部・第16条)
AIによって生成された音声の利用は、実演家の新たな形での「実演の提供」と同等であると定義し、適切な報酬が支払われるべきであると定めます。
▶実演家にとっての意義:
AIが「仕事を奪うだけの存在」ではなく、「自身の声を正当にライセンスし、収益を生み出す新たなツール」へと変わります。声の利用実績や利用範囲に応じた正当な対価(ロイヤリティ等)を受け取ることで、持続的な生活基盤を確保できます。
▷ステークホルダーにとっての意義:
AI利用における「相場観」と「支払いスキーム」が標準化されます。予算化が容易になり、不当搾取との批判を免れると同時に、実演家や所属事務所との良好なパートナーシップを維持したまま、効率的なコンテンツ制作を推進することが可能になります。
3. 多言語化について(第4部・第15条)
オリジナル言語での演技を、AIを用いて多言語(英語、中国語、スペイン語等)に自動翻訳し、本人の演技の質を保ったまま、吹き替え音声を生成する際の留意点について定めています。
▶実演家にとっての意義:
演技の芸術的同一性を保護します。言語が変わることで、意図しないニュアンスの変化が生じるリスクや、契約外の海外地域で無断利用されることを防ぎます。多言語化される場合でも、新たな利用許諾と、グローバルな展開に応じた追加の対価を得る権利が保証されます。
▷ステークホルダーにとっての意義:
海外展開(ローカライズ)における権利処理のロードマップが明確になります。海外市場での展開をスムーズにし、現地のファンにもオリジナル声優の声を公式かつ適切な形で届けるビジネスモデルを構築できます。
4. 物故者について(第2部・第6条)
亡くなった実演家(物故者)の声をAIで蘇らせる「AIクローン」に関する倫理的ルールの確立です。
▶実演家(および遺族)にとっての意義:
亡くなった実演家の尊厳、名誉、そして遺されたブランドを商業的な搾取から守ります。生前の本人の遺志を最大限尊重するとともに、AI生成を行う場合は、必ず権利を継承する遺族(または管理者)の厳格な許諾を必須とすることで、故人への冒涜を防ぎます。
▷ステークホルダーにとっての意義:
過去の名優の声をアーカイブ作品等で活用したいと考える制作陣に対し、道徳的な安全網を提供します。遺族との適切な合意形成プロセスを踏むことで、「感動的なオマージュ」として社会から好意的に受け入れられ、炎上リスクを回避した歴史的価値の継承が可能となります。
■今後の展望と呼びかけ
日俳連は、このガイドラインを業界内のルールとして定着させるだけでなく、「声の権利」の法制化に向けた国や政府機関への働きかけも強化してまいります。技術の進歩は止まることがありませんが、その中心には常に「人間の血の通った表現」と「権利への敬意」が存在しなければなりません。
私たちは、本ガイドラインが日本国内にとどまらず、世界の映像・音声コンテンツ産業におけるグローバルスタンダードの一助となることを強く願い、すべてのステークホルダーに対し、本ガイドラインの遵守と協力体制の構築を呼びかけます。
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