-住宅 「ニカイメノイエ」 が2026年度グッドデザイン金賞を受賞- ほどくことはつくること
建築は完成して終わりではない。暮らしとともに姿を変え、次の時代へと受け継がれていく住まい。

株式会社中田製作所(所在地:神奈川県逗子市、代表取締役:中田裕一)が設計を手がけた住宅「ニカイメノイエ」が、公益財団法人日本デザイン振興会主催の2026年度グッドデザイン賞において、グッドデザイン金賞(GOOD DESIGN GOLD AWARD)を受賞しました。
2026年度は5,111件が審査対象となり、そのうち1,484件が受賞しました。「ニカイメノイエ」は、その中からグッドデザイン金賞に選ばれました。
「ニカイメノイエ」は、約10年前に購入した築45年の木造住宅をほどき、そこで使われていた材料を新しい建築へと受け継ぎながら、将来の更新や解体までを考えて設計された住宅です。
「ほどくことはつくること」
建築を完成した瞬間だけで捉えるのではなく、使い、直し、姿を変えながら、次の時代へと受け継いでいく。ニカイメノイエは、設計と施工を行き来しながら、建築のこれからのあり方を考えた実践です。
■ ニカイメノイエについて(神奈川県逗子市)
「ニカイメノイエ」は、神奈川県逗子市の谷戸に建つ、1階が鉄筋コンクリート造、2階が木造の住宅です。1階に小さな店舗と、賃貸住宅や宿泊として利用できる空間、2階に家族の住まいを設けています。
2階は天井高3.3mの大きなワンルームを基本とし、木の構造体を現しにした開放的な空間。ロフトや小さな間仕切りによって家族の居場所をつくり、森への視線や季節ごとの光、風を暮らしに取り込んでいます。また、古い住宅から受け継いだ木材や板金、石材などと、新しく加えた材料が混ざり合い、異なる時間を持つ材料がひとつの建築を形づくっています。
「ニカイメノイエ」という名前には、この先の時間への考え方が込められています。
イッカイメノイエからニカイメノイエへ。そして、サンカイメ、ヨンカイメ、ゴカイメへ。
今の姿を最終形とせず、暮らしや時代に合わせて変わり続けていく住宅です。

■ 家ではなく、材料を買った
約10年前、築45年の昭和な木造住宅を購入しました。私たちは、その家を住まいとしてだけでなく、次の建築へ受け継ぐ材料としても、みていました。柱や梁、床板、建具、板金、石材。
そこにあるものは、いつか次の建築の材料になる。
その家を「イッカイメノイエ」と呼び、自分たちで改修をしながら7年間暮らしました。改修で新しく加える材料についても、将来取り外して使えるように考えていました。
7年間の暮らしの中で、季節ごとの光や風、森への視線、周囲の環境を知ることができました。
受け継いだのは材料だけでなく、その土地で暮らした経験でもあります。

そして、2024年イッカイメノイエをほどきました。
柱や梁、床板、建具、屋根や外壁の板金、擁壁の石材などを、できる限り壊さず一つずつ取り出し、材料の行方を記録しました。
昨日まで家だったものが、解体した瞬間に廃棄物になる。
けれど、一つずつ取り出して並べてみれば、まだ十分に使える材料がたくさんありました。
「捨てるもの」として見るのか、「これから使う材料」として見るのか。
その違いによって、解体の仕方も、次の建築のつくり方も変わっていきます。
ニカイメノイエの設計は、約10年前イッカイメノイエを購入したときから、すでに始まっていました。

■ ほどくことはつくること
ニカイメノイエでは、古い家から取り出した材料を再利用するだけでなく、今使う新しい材料も、いつか古材になることを前提に設計しました。
どうつくるかだけでなく、どう直し、どうほどき、その先でどう使うか。
その考えを、材料の使い方、施工方法に取り入れています。
01|材料の可能性から、設計を考える
古い家から取り出した柱や梁は、30mmの厚さに製材して外壁材へ。屋根の板金は水切りや鱗張りの外壁へ。擁壁に使われていた大谷石は、半分に切ってアプローチなどに再利用しました。
古い屋根板金を裏返すと、45年間紫外線から守られていた緑色が残っていました。その面を新しい外壁の表側として使っています。
釘が抜けなかった柱も、用途を変えることで床下地として使うことができました。
「図面に合う材料を探す」のではなく、「目の前にある材料は何になれるだろう」と考える。
切る、裏返す、継ぐ、用途を変える。材料の可能性を探ることも、設計の一部です。
02|つくるときから、ほどくことを考える
材料を強く固定することは、将来の取り外しを難しくする場合があります。
ニカイメノイエでは、接着剤に頼らず、ビスやボルトなどで取り外せる納まりを積極的に採用しました。例えば、石膏ボードはビスやジョイントを埋めず、古材の目板でビスを隠しています。目板とビスを外せば、一枚ずつ取り外すことができます。電線や配管は将来交換できるようにし、窓まわりも性能や暮らし方の変化に合わせて更新できる納まりとしています。
長持ちすることだけでなく、直せること、取り外せること。
材料の寿命を生かすために、つくる段階から次の更新を考えています。
03|小さな部材で、大きな空間をつくる
2階の木造部分では、一般に間柱として流通する30×105mmの小断面材を組み合わせた柱や、トラス状の梁を採用しました。ボルト接合を基本とし、将来の分解や部材の交換、再利用を考えています。
人が持ち運び、加工し、組み立てられるサイズの部材を使うことで、建築に関われる人の可能性も広がります。また、現場で発生した残土を使った土壁や、古い屋根板金の鱗張りの外壁では、ワークショップを通して材料の加工から施工までを行いました。
つくることを、専門家だけのものにしない。
材料や構法の工夫は、建築に関わる人を増やすことにもつながっています。

04|材料は、時間とともに熟成していく
ニカイメノイエでは、材料を変わらない状態で保管するのではなく、使いながら時間を重ねていくものとして捉えています。木材は日に焼けて色が変わり、人が触れることで傷や艶が生まれる。土壁は風雨にさらされ、少しずつ表情を変えていく。外壁板金にも時間の痕跡が刻まれていきます。
材料は、使われながら時間を重ね、熟成していく。
今使っている新しい材料も、やがて古材になります。
建築を、未来の材料を蓄える「マテリアルセラー」として捉える。それは、材料をただ保管するのではなく、暮らしの中で変化しながら、次の役割を待つという考え方です。
時間がつくり出す美しさも、次の建築へ受け継いでいく。

■ 暮らしとともに変わる住宅
01|足してもいい、外してもいい
2階の住まいは、大きなワンルームとロフトを基本とした空間です。ロフトは、上下の距離を近づけ、家族の気配を感じたり、声をかけたりできる場所になっています。
子ども部屋も、最初から個室として完成させていません。成長に合わせてカーテンを掛けたり、壁を加えたり、その時々の家族に合った距離をつくっていきます。
最初からすべてを決めてしまうのではなく、暮らしながら、本当に必要なものを見つけていく。
必要になれば足せばいい。必要がなくなれば外せばいい。
建築が暮らし方を決めるのではなく、暮らしながら建築を変えていく。
未来の暮らしを決めすぎず、その時代の人が自由に手を加えられる余白を残しています。
02|住宅を、街へ少しだけ開く
ニカイメノイエは、家族だけのための住宅ではありません。
建物を敷地の南側へ寄せ、道路側に余白をつくることで、光や風、緑を街と分け合う構成としました。
1階には小さな店舗と、賃貸や宿泊として利用できる空間を設けています。
小さなお店がひとつ増えることで、住宅街の風景が少し変わる。
宿泊する人にとっては、逗子での暮らしを楽しむだけでなく、古材と新材が混ざり合う空間や、「ニカイメノイエ」という建築そのものを体験する機会にもなります。
また、将来の用途変更を考え、賃貸部分と店舗をつなげられるようにするなど、使い方を固定しない計画としています。
住宅を街へ少しだけ開き、余白を地域と分け合う。
家族だけでなく、訪れる人や地域の人も関わりながら、建築が少しずつ育っていくことを目指しています。
■ サンカイメ、ヨンカイメ、その先へ
いつか子どもたちが成長し、自分たちの家族を持ったとき、この家の2階で新しい暮らしを始めるかもしれません。一方で、私たち夫婦が1階へ移り住む未来も考えています。
そのときには、2階の一部をほどき、子どもたちと過ごした時間が刻まれた木材や建具を使って、1階を改修したいと思っています。それが、私たちの考える「サンカイメノイエ」のひとつの姿です。
かつて家族と過ごした場所の材料が、今度は別の場所で、新しい役割を持つ。
材料とともに、家族の時間や思い出も次の暮らしへ受け継いでいく。
さらにその先、この場所で建築が役割を終えるときには、材料を取り出し、別の建築へ受け継ぐことも考えています。
サンカイメ、ヨンカイメ、ゴカイメへ。
そのとき誰が、どんな暮らしをしているのかは分かりません。
だからこそ、未来の姿をひとつに決めるのではなく、その時代の人が自分たちで選び、手を加えられる状態を残しておきたい。
これまでの時間を受け継ぎながら、これからの時間は、次の人がつくっていく。

■ 審査委員による評価
担当審査委員
伊藤 博之/駒田 由香/手塚 由比/原田 真宏
評価コメント
築45年の住宅を次の建築へと受け渡される資材として捉え直し、ニカイメにとどまらず100年先まで更新し続ける建築のあり方を追求したプロジェクトである。「壊しやすく作りやすく運びやすい」という明快な原則のもと、設計者が長年培ってきた施工経験をもとに、資材を循環するための構法を徹底している点が素晴らしい。日本では、建てることを大工が総体的に担ってきた歴史がある。近代化によって失われた「手を動かしながらものを創る」文化を取り戻す、古くて新しい取り組みである。
■ ニカイメノイエ|作品概要
所在地:神奈川県逗子市
設計:株式会社中田製作所
設計チーム:中田裕一、中田理恵、岩永宗之、呉英里子
■ 展示情報
GOOD DESIGN EXHIBITION 2026
-2026年度グッドデザイン賞受賞展-
「ニカイメノイエ」は、2026年度グッドデザイン賞の受賞作品が一堂に会する「GOOD DESIGN EXHIBITION 2026」に出展します。
会期: 2026年10月31日(土)~11月4日(水)
時間: 11:00~19:00(最終日18時終了)
会場: 東京ミッドタウン(東京都港区赤坂9丁目)
「私の選んだ一品2026」
「ニカイメノイエ」は、グッドデザイン賞審査委員が個人的に気になった受賞デザインを選ぶ企画「私の選んだ一品2026」にも選出されました。
会期: 2026年10月31日(土)~11月13日(金)
時間: 11:00~20:00(最終日17時終了)
会場: GOOD DESIGN Marunouchi(東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F)
選出審査委員:林 厚見氏(建築・都市プロデューサー)
推薦コメント
中古でも新築でもない新しいあり方がここにある。建築家でありつつ住み手と一緒に施工もする仕事をしてきたこの家主は、古い戸建を解体してその材料を再び使い、素人も子供も一緒につくれる方法や、更新解体もリユースもしやすい作り方を、恐るべき志と知恵で細部まで突き詰め、住宅の未来に本質的な問いを提示している。
■ 今後に向けて
ニカイメノイエは、約20年間、設計と施工の両方に携わり、現場で手を動かしながら考え続けてきたことを、ひとつの建築として形にしたものです。
この建築を通して、たくさんの発見があり、まだ答えの出ていない課題があります。
つくることと、ほどくことを分けずに考える。
ニカイメノイエで生まれた小さな実践を、次の建築へ、そして社会へと広げていきます。
■ グッドデザイン賞とは
1957年創設の「グッドデザイン商品選定制度」を継承する、日本を代表するデザインの評価とプロモーションの活動です。
国内外の多くの企業や団体が参加し、暮らしの質の向上や、社会の課題解決にデザインを活かすことを目的として、毎年実施されています。
受賞のシンボルである「Gマーク」は、優れたデザインの象徴として広く親しまれています。
グッドデザイン賞公式サイト:https://www.g-mark.org/
ニカイメノイエ|公式受賞ページ:https://www.g-mark.org/gallery/winners/38266?years=2026
■ 株式会社中田製作所について
株式会社中田製作所は、神奈川県逗子市を拠点に、住宅や店舗などの設計から施工までを一貫して手がける建築設計事務所です。
設計と施工を分けることなく、自分たちで考え、自分たちの手でつくることを大切にしています。
代表取締役|中田裕一
1983年、栃木県佐野市生まれ。2006年、武蔵工業大学建築学科卒業。
施工会社で現場監督として経験を積み、2012年に中田製作所を創業。2013年よりHandiHouse projectを共同主宰。
取締役|中田理恵
1983年 神奈川県三浦市生まれ。
2006年 武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部建築学科卒業。
2008年 首都大学東京(現 東京都立大学)博士前期課程卒業。
日建設計にて意匠設計者として経験を積み、2013年に中田製作所に参画。
主な受賞歴
2013年SDレビュー入選、2014年・2018年「これからの建築士賞」受賞。
会社名: 株式会社中田製作所
代表者: 代表取締役 中田裕一
公式サイト: https://nakata-archi.com/
Instagram: https://www.instagram.com/nakataseisakusyo/
お問い合わせ: contact@nakata-archi.com
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