アーティスト・田中功起による実験的なイベント(ギャザリング)の撮影を一部公開「ケアリング・モビリティ、あるいはとどまる自由」3月16日・17日
田中は、多様なルーツや価値観、文化的背景を持つ人々の対話の場をいかに創造できるかを模索し、近年は様々な文化的・知的背景を持つ人々が集い、与えられたテーマに沿ってディスカッションを行うギャザリングに取り組ん
でいます。
新型コロナウィルスの蔓延は、移動(モビリティ)に関するこれまでの一般的な概念や慣習を大きく変えました。パンデミック時の世界的な渡航制限や、気候危機の脅威が劇的に増大していく中で、私たちはモビリティの基本的概念をどのように見直すことができるのでしょうか?
田中はこの度、このテーマに対する一つの試みとして、科学的研究から日常的な実践まで様々な分野の専門家たちの視点を通して、「モビリティ」を多様な観点から考えた新しい実験的なギャザリングを行います。田中がモビリティの概念と密接に関連すると捉えている「ケア」と「倫理」についてオープンディスカッションを行います。
ギャザリングの様子は全て撮影され、田中が編集した後に映像作品として7月に発表予定です。「撮影される」ことから発生する心理的な影響は、参加者/主人公たちの物語を解き明かす鍵となり、人々の意図的な行動だけでなく、ズレや誤りを含む振る舞いをも捉え、人間の活動の社会的、歴史的、制度的な側面に対する考えを明らかにしていきます。
私たちが現代の緊急課題にどのように取り組んでいるかを示す、真摯で生き生きとしたドキュメントとして残るでしょう。
ギャザリングの映像収録の一般公開という貴重なこの機会に、是非ともご参加ください。
【撮影概要】
日程:2024年3月16日(土)・17日(日)
*撮影の一部を一般公開致します(要予約・無料/詳細は下記をご参照ください)
会場:旧・富山県赤坂会館 (〒107-0052 東京都港区赤坂7-5-51)
アーティスト:田中功起
ドラマトゥルク協力:マーティン・ゲルマン
出演者(五十音順):今井絵里菜、岡野八代、片山弘子、スザンネ・クリーン、モハーチ・ゲルゲイ、
マフムード・アル・シアー*(予定)、清水知子、根来美和*、森田敦郎*、
柳澤田実、エバ・フォン・レデッカー*
(*マークの方は録画映像での参加)
主催:駐日欧州連合代表部
運営:ゲーテ・インスティトゥート東京
【一般公開される撮影のタイムテーブル】
*当日までに変更の可能性がありますので、詳細は随時ご予約ページをご確認ください
3月16日(土)
公開撮影①
14:00-16:00
テーマ:「ケアの実践はモビリティを獲得できるか——共同体とケア」
*14:00-15:00 出演者全員参加<言語:日本語・英語(通訳無し)>
*15:00-16:00 一部出演者参加<言語:日本語>
公開撮影②
17:00-18:30
テーマ:「倫理的なモビリティは可能か——気候変動と実存」
*同テーマについて、日本語と英語2グループに分かれてトーク
【撮影参加ご予約】
右記予約リンクかQRコードより予約をお願い致します https://caring-mobility.peatix.com
*定員上限に達し次第、締め切らせて頂きます(各回最大約30名)
イベントの詳細や参加に関するお問い合わせ先:
ゲーテ・インスティトゥート東京
制作担当 戸田史子 fumiko.toda.extern@goethe.de
ディレクターズ・メッセージ
田中功起(たなか・こおき)
エバ・フォン・レデッカーの著書『Bleibefreiheit』では、コロナ後の世界で移動の自由がどのように見直されるべきかについて興味深い見解を示している。「Bleibefreiheit(とどまる自由)」と彼女は呼ぶ。これまで私たちは、空間的な移動能力を生きる自由の指針としてきた。しかし彼女は、滞在する自由を空間的な移動ではなく、時間的な問題として考えるべきだと言う。私たちは、いつか自由に旅ができるようになるために、今、ここにとどまることを決めるべきだ、と彼女は書いている。
コロナウイルスの拡大を防ぐために行われた世界的な移動の制限で、人々の飛行機(や車)による移動が減り、その結果CO₂排出量が減った。言い換えれば、私たちがとどまることを選択すれば、気候変動に影響を与えるということをデータが示している。つまり、移動の自由を求めるのではなく、今いる場所にとどまることを選択することで、将来の移動の自由が確保できるということだ。
もちろん、飛行機に乗らないという選択は、それができる特権的な立場にある人に限られる。例えば、極東の島に住んでいる人がどうやって他の国に移動できるのだろうか。私が行ったHKWプロジェクト「Where is the planetary?」の登壇者の一人が、ライブイベント中に興味深い発言をしていた。「ガザの人々に対して自然環境を守るために移動するなということはできるだろうか」。世界的な交通手段である空の旅は、地域レベルの個別の具体的な問題とも結びついている。「飛行機に乗らない」という選択肢を普遍化することはできない。
例えば、この「とどまる自由」は、コロナ禍の状況に見られたように、社会のインフラに不可欠な労働者とどのように関係しているのだろうか?物流、医療、食料供給に関わる労働者の移動にこの社会が依存しているとすれば、すべての労働者が家にとどまればこの社会は崩壊する。「とどまる自由」は普遍化できない。
このプロジェクトでは、「移動の自由」と「とどまる自由」の二つの自由とケア、モビリティ、倫理をキーワードにして、ワークショップ形式の実験的なイベント(ギャザリング)を行い、撮影する。
このプロジェクトはEUから与えられたテーマ「モビリティ」をめぐって構想されている。科学的研究から日常的な実践まで、様々な分野の専門家たちの視点を組み合わせることで、多角的に「移動する身体」を捉え直すことを目指す。例えば介護や育児などの「ケア」は(あるいは農業も)、身体の移動を制限する。ケアするものはケアされるものを放っておいて自由に移動することはできない。一つ目の問いはこれに関係する。「ケアの実践はいかにしてモビリティを獲得できるか」。
そしてもう一つは、気候変動下において、この「惑星」を移動することはどのような倫理性と結び付けられるだろうか。「倫理的なモビリティは可能か」が二つ目の問いだ。
二つの問いは、移動できないことと移動できることをめぐって、さらに別の問いを誘発するだろう。
プロフィール
1975年生まれ。アーティスト。映像や執筆などによって「共に生きるとは何か」をテーマに、人々の協働や共同体のあり方を問い直す芸術実践を行う。近年は、育児とケアの視点からアートを捉え直す制作、執筆活動を続けている。
主に参加した展覧会にあいちトリエンナーレ(2019)、ミュンスター彫刻プロジェクト(2017)、ヴェネチア・ビエンナーレ(2017)など。2015年にドイツ銀行によるアーティスト・オブ・ザ・イヤー、2013年に参加したヴェネチア・ビエンナーレでは日本館が特別表彰を受ける。著作、作品集に『リフレクティブ・ノート(選集)』(アートソンジェ、美術出版社、2020年/2021年)、『Precarious Practice』(Hatje Cantz、2015年)、『必然的にばらばらなものが生まれてくる』(武蔵野美術大学出版局、2014年)などがある。
出演者プロフィール(五十音順)
【会場でのファシリテーター】
清水知子(しみず・ともこ)
愛知県生まれ。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科准教授。専門は文化理論、メディア文化論。著書に『文化と暴力―揺曳するユニオンジャック』(月曜社)、『ディズニーと動物―王国の魔法をとく』(筑摩選書)、共訳書にジュディス・バトラー『アセンブリ——行為遂行性・複数性・政治』(青土社)、『非暴力の力』(青土社)、アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート『叛逆』(NHK出版)、デイヴィッド・ライアン『9・11以後の監視』(明石書店)他。
柳澤田実(やなぎさわ・たみ)
1973年、ニューヨーク生まれ。専門は哲学・宗教学。関西学院大学神学部准教授。東京大学21世紀COE研究員、南山大学人文学部准教授を経て、現職。編著書に『ディスポジション─哲学、倫理、生態心理学からアート、建築まで、領域横断的に世界を捉える方法の創出に向けて』(現代企画室、2008年)、『知の生態学的転回3 倫理: 人類のアフォーダンス』(東京大学出版会、2013年)ほか。2017年にThe New School for Social Researchの心理学研究室に留学し、以降、道徳基盤理論に基づく質問紙調査を日米で行いながら、宗教などの文化的背景と道徳性の関係について研究している。
【会場での登壇者】
今井絵里菜(いまい・えりな)活動分野:気候変動|気候アクティビズム
1996年生まれ。様々なコミュニティで気候変動に具体的な対策をもたらすための活動をしている。
国連の気候変動に関する会議への参加やドイツへの留学を機に、国内のエネルギー事情に危機感を覚え、若い世代として政策提言や気候ストライキ・マーチの運営を行ったほか、現在も石炭火力発電所をめぐる訴訟運動に関わっている。再生可能エネルギー事業会社での勤務の経験も活かしながら、市民の力で市内の再生可能エネルギー発電設備を増やす取り組みを進める。また趣味は週末に畑へ足を運ぶことで、友人に旬の野菜をおすそ分けすることに喜びを感じる。
岡野八代(おかの・やよ)研究分野:ケア|フェミニズム|倫理学
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教員、専門は西洋政治思想史・フェミニズム理論。
主著に『ケアの倫理―フェミニズムの政治思想』(岩波新書、2024年)、『ケアするのは誰か?―新しい民主主義のかたちへ』(白澤社、2020年)、『戦争に抗する-ケアの倫理と平和の構想』(岩波書店、2015年)、『フェミニズムの政治学―ケアの倫理をグローバル社会へ』(みすず書房、2012年)など。
共著に『女性たちで子を産み育てるということ―精子提供による家族づくり』(白澤社、2021年)、『憲法のポリティカ―哲学者と政治学者との対話』(白澤社、2010年)。 訳書に、ケア・コレクティブ著『ケア宣言―相互依存の政治へ』(大月書店、2021年)、アイリス・ヤング著『正義への責任』(岩波文庫、2022年)、エヴァ・フェダー・キテイ著『愛の労働 あるいは依存とケアの正義論 新装版』(白澤社、2023年)など。
片山弘子(かたやま・ひろこ)活動分野:コミュニティ形成|持続可能性|農業
グローバルエコビレッジネットワーク(GEN)-Japan代表理事。オセアニア・アジア地域Wisdom Keepers。鈴鹿市アズワンコミュニティ在住。次の社会に向けた教育プログラムデザイナーとして、経験をベースにエコビレッジやローカリゼーションの取り組みをネットワークしサポートする。2000年循環共生社会システム研究所(京都市)立ち上げに携わる。2003年インド型マイクロクレジットの調査:「ユルゲン・ハーバマスの市民的公共性の創造とインド型自助組織に関する考察」。2004年、インドの伝統的な森林管理法Joint Forest Managementの調査。2014年より「持続可能なコミュニティのためのカレッジ」。2015年から「人を聴くためのカレッジ」を実施。2017年から、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)認証プログラムとしてガイアエデュケーションを実施。鈴鹿市環境審議会委員(2011年~2013年)。訳書に、国際開発のための科学技術委員会著『ニームとは何か。人と地球を救う樹』(緑風出版)。
スザンネ・クリーン 研究分野:日本への移住|持続可能性|観光
北海道大学メディア・コミュニケーション研究院現代日本学部門現代日本学分野教授。文化人類学専攻。研究テーマは、日本の農村、過疎化、成長期以降の日本における新たなライフスタイルと働き方、国境を越えた移住など。単著にUrban Migrants in Rural Japanがある。Between Agency and Anomie in a Post-growth Society (SUNY Press 2020)は、2020年CHOICE Outstanding Academic Titleを受賞。
モハーチ・ゲルゲイ 研究分野:医療人類学|人新世
大阪大学人間科学研究科准教授。専門は医療人類学で、研究の関心はプラネタリーヘルスや医療をめぐる草の根運動など。近年、北ベトナムと西日本における薬用植物の栽培および薬剤汚染の現場での民族誌調査を中心に、病人と健常者の共生を促進する創薬の比較研究を進めている。一方で、公衆衛生の変化にともなう薬剤耐性のあり方を科学技術人類学の視点から分析し、「プラネタリーヘルス」という近年注目を集める観念の可能性を検証している。京都大学人文科学研究所の共同研究グループ「実験性の生態学―人新世における多種共生関係に関する比較」(2020‐2023年)代表、また科研費プロジェクト「惑星的課題とローカルな変革:人新世における持続可能性、科学技術、社会運動の研究」(2020‐2025年)の共同研究者としても、環境の持続性と人間の健康の両立に焦点を当てる環境衛生の草の根展開を掘り下げている。
【録画映像での参加者】
根来美和(ねごろ・みわ)活動分野:学際的アート|キュレーション
キュレーター、研究者。主にドイツ語圏を拠点に活動。パフォーマティヴィティ、デコロニアル思考と近代の再編成への関心を中心に、展覧会制作や舞台芸術作品の制作、アートマネージメント、翻訳などに携わる。ジェンダーと空間、建築についても寄稿している。2019-2021年、On Curating Project Space(チューリッヒ)のキュラトリアルボードメンバー。早稲田大学創造理工学研究科建築学修士課程修了(建築史)、チューリッヒ芸術大学キュレーティング修士課程修了。
森田敦郎(もりた・あつろう)研究分野:持続可能性|人新世
大阪大学教授(科学技術・文化論)。水文学と水管理のグローバルな知識ネットワークの研究に従事した後、現在は日本の持続可能性運動とそのインフラ再構築への取り組みを研究。最近の著書に、Being Affected by Sinking Deltas: Changing Landscapes, Resilience, and Complex Adaptive Systems in the Scientific Story of the Anthropocene(鈴木若菜との共著、Current Anthropology)、『多重世界:絡み合った世界を知り、生成する日常の政治』(大村敬一/オオツキ・グラント・ジュン/佐塚志保との共編著、Routledge)、Infrastructure and Social Complexity: A Companion(Penny Hervey、Casper Bruun Jensenとの共編著、Routledge)。
エバ・フォン・レデッカー 研究分野: 移動の哲学
1982年生まれ。キール、テュービンゲン、ケンブリッジ、ポツダムで哲学を学ぶ。2009年から2019年までベルリンのフンボルト大学でリサーチ・アソシエイトを務め、2015年にはThe New School for Social Researchの客員講師としてニューヨークで教鞭をとった。2023年5月末に最新刊Bleibefreiheit(とどまる自由)を出版。Bleibefreiheitは、自由という概念を時間的に理解すること、つまり満たされた時間の楽しみとして理解することを追求している。同書はNDRノンフィクション賞の最終選考に残り、シュピーゲル誌の今年の推薦図書に選ばれた。
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