米不足のしわ寄せは、弱い立場の人たちへ。ワーカーズコープは、全国各地で米づくりに取り組み、地域での食料自給を守っています。
全国で150を超える事業所が、地域に根ざして小規模農業で米や農産物づくりを行っています。
8月、全国のスーパー・食料品店の店頭からお米が消えました。日本人の主食である米が品薄になるという事態は家庭の食卓を脅かすだけでなく、社会で弱い立場にある人たちを追い詰めました。
ワーカーズコープ・センター事業団とワーカーズコープグループ(ワーカーズコープ連合会に加盟する組織)では、以前から食と農業、環境・地域を結ぶ事業に力を入れており、今回の米不足においても全国のネットワークを活用して、子ども食堂やフードパントリー、福祉分野への米の供給を守りました。
生きていくための根幹となる米や農業など、食料自給を守る私たちの取り組みをご紹介します。
自分たちの食べる米は自分たちでつくる!
小さな場所からはじめる「お米づくり」と「小規模農業」
日本の食料自給率はわずか38%*。世界の先進国の中でも最低水準です。食は生きていくためのエッセンシャルな事業。労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団では、「資源を活用する」「循環型社会をめざす」「社会の連帯経済に取組む」ことを目標として、生産と消費をつなぎ、安心安全な食の提供、食文化の伝承などに取り組んできました。
現在、全国で150カ所を超える事業所が地域に根ざした小規模な農業(小農)を展開しています。
*出典:関東農政局 食料自給率
「みんなでつくってみんなで食べる田んぼ」(ワーカーズコープ山口)
労働者協同組合ワーカーズコープ山口(山口県光市)では、地域に増えつつある耕作放棄地を減らしたいとの思いから、「職員や利用者の交流の場」「地域との交流の場」「田んぼづくりを通じて環境を考える」をテーマに、「自分たちでつくって自分たちで食べる」田んぼづくりを始めました。初年度2009年の8畝(約240坪)から始め、2024年8月現在では1町5反(約4500坪)の広さになりました。
最初は作り方も分からず、雑草や食害被害にも苦しみながら、あきらめることなく米づくりを継続。WC山口が運営する放課後等デイサービスの子どもたちと一緒に田植え・稲刈り体験を行ったり、東北復興支援の餅つき大会を開催したり、近隣住民の皆様との交流を深めながら食育活動や地域の活性化に努めてきました。2021年からはスタート時から目標としていた全職員に一人一俵(日本人が一人当たり一年間に消費するお米の量)の分配を達成し、児童家庭や近隣住民へもおすそ分けしています。おかげさまでこの夏の米不足も乗り切ることができ、子どもたちも米づくりの大切さと自分たちで育てた米の美味しさを実感できたようでした。
この取り組みの歴史や詳細は、今年、「みんなでつくってみんなで食べる田んぼ」(頒価500円(税込)、問合せ:ワーカーズコープ山口)という冊子にされ出版されています。
http://www.workers-hikari.jp/report.html
都市部や児童館でもできる小さな農業。できることからはじめよう!
私たちの小規模農業は、農地の少ない都市部や職場でも行われています。自ら米を育てることで、毎日ごはんが食べられるのは当たり前ではないことに気づきます。その気持ちが日本の食や環境を守ることにもつながります。
以下に私たちが取り組んでいる小さな農業の、ほんの一例をご紹介します。
「バケツに田んぼ お米の出前授業」
ワーカーズコープ・センター事業団×生活協同組合パルシステム東京
「お米の出前授業」は、パルシステム東京がお米の大切さを体験できるよう学校などに無償で提供している出前授業です。昨年はワーカーズコープ・センター事業団とパルシステムが連携し、千鳥児童館(東京・大田)で実施しました。
バケツに「田んぼ」をつくり、苗を植え、児童がお世話を担当。収穫できた米はみんなで籾摺りをし、自宅に持ち帰って家族と一緒に食べました。収穫量はわずかですが、子どもたちにとっては貴重な体験となりました。今年はタイミングが合わず米づくりはできませんでしたが、庭に畑をつくってナスや枝豆を植える活動を続けています。
都会での屋上農園
「尾久ふれあい館」(東京都荒川区)、「共育プラザ平井」(東京都江戸川区)
ワーカーズコープ・センター事業団が指定管理者として運営を行う尾久ふれあい館と江戸川区共有プラザ平井では、子どもや親子、高齢者など多くの利用者さんと一緒に、トマト、ナス、ピーマン、バジル、スイカなどを育てています。
季節ごとに苗を植えたり、水やりをしたり、みんなで行う野菜づくりは地域の子どもたちや利用者さんの楽しみのひとつ。自分たちの手で育てる喜びを糧に、長年継続しています。
小農プロジェクト「田植えをしよう」(山梨県西桂町)
ワーカーズコープ・センター事業団 西桂地域福祉事業所ばいかも(山梨県)では、2022年春から社会連帯三多摩山梨支部助成企画の小農プロジェクト「田植えをしよう!」を開催中。ワーカーズコープの組合員や家族、地域住民など30人ほどが参加しています。
西桂町の耕作放棄地を活用し、町から田んぼや畑を無償で借りて、米や野菜を育てています。
農業委員会や組合員、地域住民が力を合わせて田植えや収穫祭などを行い、参加者たちでお米を分け合ったり、事業所の食事で提供したりしています。
センター事業団は2024年4月から、西桂町の「三ツ峠グリーンセンター*)」の指定管理者として運営をはじめており、センターで提供する食事でも、育てた米や野菜を利用しています。
*三ツ峠グリーンセンターは、ボルダリング設備等を有する武道館、テニスコート・フットサルコート等の屋外設備、コテージやバーベキュー棟、宴会や宿泊もできる複合レジャー施設です。
仙台けやきの杜と登米鱒淵 「田んぼの楽校」(宮城県仙台市)
ワーカーズコープ仙台けやきの杜地域福祉事業所(児童館、院内保育、広場など)と登米鱒淵事業所(就労継続支援B型、林業など)は、連携事業「田んぼの楽校」を年3回(田植え、稲刈り、脱穀・収穫祭)開いています。当初は仙台の児童館が主催するデイキャンプとして始まり、職員が引率して田植え、稲刈り、脱穀・収穫祭に登米市を訪問することから始まりました。今日では受け入れ先の地域住民が立ち上げたまちづくり協議会が主催する「田んぼの楽校」へと取組がすすみ、児童館で呼び掛けた親子が直接現地を訪問して米づくりを体験し、自分たちで育てたお米を購入する取組みに活動の幅が広がっています。
都市部でも地方でも。今日からできる小規模な食料自給をめざして!
「小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク」を推進
ワーカーズコープ・センター事業団では、東日本大震災を機に「FEC自給圏 (F:Food(食料)、E:Energy (エネルギー)、C:Care (福祉・介護)」づくりをめざしてきました。人が生きていくために必要なエッセンシャルなモノやサービスについては、できる限り自給していこうというチャレンジです。
その具体的な取り組みとして発足したのが「小農・森林ワーカーズ全国ネットワーク」です。生産・加工を含めた、小規模で自給的な農の事業起こしと、空間を含めた森林の多面的な活用をめざしています。上記に紹介したように、すでに子ども食堂や児童館、全国各地の事業所からこの取り組みは広がりつつあります。
自分が食べるものに興味と責任を持つ気持ちや、食品ロスの削減、ひいては環境を保護する行動にもつながります。ワーカーズコープ・センター事業団はこの活動をさらに広げてまいります。
*「もっと詳しく知りたい」「小規模農業に興味がある」という方や団体は、下記、ワーカーズコープ・センター事業団までご相談ください。
参考資料
労働者協同組合ワーカーズコープ山口
http://www.workers-hikari.jp/index.html
山梨県西桂町 三ツ峠グリーンセンター(指定管理者としてセンター事業団が運営)
https://mitsutoge.roukyou.gr.jp/
仙台けやきの杜(指定管理者として仙台市の児童館・児童クラブ等を運営)
https://wcjidoukan.jimdofree.com/
労働者協同組合 ワーカーズコープ・センター事業団
tel:03-6907-8030(代表)
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1-44-3 池袋ISPタマビル7F
労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団 概要
設立 |
1987年12月 |
代表 |
代表理事 平本哲男 |
所在地 |
東京都豊島区東池袋1丁目44-3 池袋ISPタマビル7階 |
事業内容 |
1 保健、医療又は福祉の増進を図る活動 |
ホームページ |
労働者協同組合法について(2020年12月成立、2022年10月施行)
労働者協同組合(ワーカーズコープ)にはかつて農協・生協・漁協のような法人格がなく、「協同労働」の法制化をめざす動きが1998年から始まりました。協同労働の実践を全国で広げ、団体署名や意見書の採択に取り組む中で、与野党全会派一致で法制化が実現しました。
協同労働とは「協同の関係」で働くこと。働く人が自ら出資して組合員となり、話し合って事業を行う働き方です。企業組合やNPO法人と違い認可認証が不要で、NPO法人のように活動分野の規定もなく3人以上で設立ができます(NPO法人は10人以上、出資不可)。
法律では、出資額に関係なく「一人一票」の権利が認められています。「一人ひとりが出資して組合員となり、意見反映を通じて運営に参加し、自ら事業に従事する」、これが労働者協同組合の基本原理です。この法律を活用し、協同労働が社会を変えていく推進力となることを目指します。
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