“グリーンプラネット®はグリーンウォッシュ” パーム油原料の海洋分解性バイオプラスチックー森を壊して海を守る?!
森林問題に取り組む7団体のネットワークであるプランテーション・ウォッチ(事務局団体 熱帯林行動ネットワーク:東京都渋谷区)は、本日、グリーンプラネットのユーザー企業17社を対象としたアンケート調査*1 (2023年〜2024年)に基づく5つの問題点を発表しました。
今年1月にスターバックスが紙ストローをやめて採用したバイオプラスチック製のストローは、「飲み心地の良さと、環境負荷低減を両立」すると謳っています。原料は植物油などを原料とする株式会社カネカの海洋分解性バイオポリマー「グリーンプラネット」。カネカは「海洋マイクロプラスチック問題の解決をはじめ、地球環境保全に貢献していくことで世界を健康にしていく」と宣伝していますが、グリーンプラネットの原料は、熱帯林破壊の主要な要因となっているパーム油です。植物由来であることでCO2排出量を削減するとされていますが、パーム油生産によって東南アジアでは膨大なCO2が排出され、生物多様性にも壊滅的な影響が生じています。グリーンプラネットの使用は、これらの環境課題を覆い隠すグリーンウォッシュ(隠れたトレードオフ)にあたります。
5つの問題点の詳細は以下の通りです。
1)パーム油が原料であることを、ユーザー企業と消費者に伝えていないこと
パーム油がGreen Planetの原料であることは、カネカのHPでは説明されていません。私たちのヒアリングの結果では、Green Planetユーザー企業の多くも原料についての適切な説明を受けていませんでした。海洋プラスチック問題に積極的に取り組もうとする企業や消費者が、熱帯林減少を引き起こすリスクのあるパーム油を原料としていることを知らないまま、Green Planetを調達・利用していると考えられます。この点でカネカは、ユーザー企業や消費者に対する説明責任を果たしていないと言えます。
2)Green Planetの原料のパーム油が、東南アジアの熱帯林減少の最大要因であり、人権侵害や気候変動とも大きく関与していること
アブラヤシの実から生産されるパーム油は、東南アジアの熱帯林減少の主要因として20年以上にわたりその問題が指摘されています。現在では森林減少を引き起こす作物としてEUが輸入規制(EUDR)を導入するなど、パーム油生産の環境影響には厳しい目が注がれています。
また、アブラヤシ農園開発による地域住民や先住民族との土地を巡る紛争が多数存在し、農園での強制労働、奴隷労働も数多く報告されるなど、パーム油生産と人権侵害の関連が指摘されています。
また、アブラヤシ農園開発に関連する森林・泥炭火災により、膨大な温室効果ガスが排出され「地球の火薬庫」と呼ばれるなど、パーム油生産は気候変動とも強く関与しています。
3)食用であるパーム油を、使い捨てプラスチック製品の原料にしていること
世界のパーム油の8割以上は食用で、特にインドや中国、インドネシアなどでは主要な食用油となっています。グリーンプラネットは、食用であるパーム油をプラスチック原料にすることで、新規の大規模な需要を生み出し、さらにそれを使い捨てにするという倫理上の課題を抱えています。
カネカは「グリーンプラネットで世界が健康になる」としていますが、世界が健康になるためには安易な使い捨て文化との決別が必要不可欠で、医療品など一部をやむを得ないものを除き、使い捨て文化を温存し続けること自体が、世界を不健康にしていると言えます。
今後、バイオプラスチックを含む代替プラスチックの需要はますます増えていくことが予想されますが、それがパーム油需要と熱帯林への脅威の拡大となることは、避けなければなりません。
4)原料であるパーム油の持続可能性は確保されていない
カネカは「持続可能なパーム油」を謳うRSPOのメンバー企業ですが、環境・社会に一定程度配慮して生産されているRSPO認証油をグリーンプラネットの原料としている訳ではありません。また、カネカも含め日本で使われているRSPO認証油のほとんどは、マスバランス方式といって、非認証油が混合されています。非認証油の中には森林減少や人権侵害を引き起こしているパーム油が含まれる可能性があり、責任ある調達として十分ではありません。
仮に使い捨てプラスチックの使用以外に選択肢が無い場合(医療用品など)も、認証に依存するのではなく、ユーザー企業がNDPE(森林減少ゼロ、泥炭地開発ゼロ、人権侵害ゼロ)方針を採用し、サプライチェーンの確認を行って、少なくとも森林減少・人権侵害などを引き起こしていないパーム油であることの確認が必要です。カネカはこれまでNDPE方針を公表しておらず、またRSPOメンバーに求められているミルリストの公開も行っていません。
5)廃食油は解決にならない
カネカは、グリーンプラネットの原料として一部に廃食油を使っていますが、それは全体の中のごく一部であり、多くの原料をパーム油に依存しています。将来的な廃食油への転換を目指しているようですが、廃食油は飼料・肥料などの既存用途があり、昨今ではSAF(再生航空燃料)需要なども急増しています。代替原料としては量的な課題があり、将来的な解決策になるとは考えられません。
パーム油を使い捨てプラスチックの原料とすることは避けるべきであり、熱帯林の減少と海洋プラスチック問題の解決はトレードオフできるものではありません。生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックが、熱帯林減少につながるパーム油を原料としていることについて、メディアの皆様にもご認識いただき、ぜひカネカ及びユーザー企業への取材を進めていただくようお願いします。
*1 プランテーション・ウォッチでは、グリーンプラネットがパーム油を原料としていることを知り、カネカにパーム油を使い捨てプラスチックの原料としないことを求めるとともに、2023〜24年にかけてユーザー企業に対しアンケート兼要望書を送付してユーザー企業の認識とグリーンプラネットの使用状況の調査を行いました。
アンケート兼要望書の送付先は、グリーンプラネットのユーザー企業17社で、このうち回答があったのは5社、調達方針をもって回答とした企業が2社、回答を辞退すると連絡があったのは4社、無回答が7社でした。詳細は以下の表1を参照ください。
表1:企業の回答状況

回答状況 |
企業名 |
回答した企業 |
株式会社ゴールドウイン、日本航空株式会社、エステー株式会社 |
調達方針をもって回答 |
スターバックスコーヒージャパン株式会社、株式会社ブルボン |
回答を辞退 |
株式会社セブン・イレブン・ジャパン、株式会社資生堂、株式会社伊藤園、株式会社ファミリーマート |
無回答企業 |
株式会社JALUX、Salt Group、コクヨ株式会社、株式会社平和堂、東急ホテルズ&リゾーツ株式会社、株式会社大創産業、スズキ株式会社、ソニー株式会社 |
https://jatan.org/archives/10919
プランテーション・ウォッチは、東南アジア地域においてプランテーション開発によって引き起こされる森林問題や開発問題に取り組む7つの環境団体のネットワーク団体です。2011年から継続的に、パーム油生産のためのアブラヤシ農園開発の問題と、日本市場のサプライチェーンとの関係について調査し、パーム油ユーザー企業、金融機関、行政に対し、責任ある調達を働きかけてきました。
お問い合わせ先:
プランテーションウォッチ事務局
一般社団法人 熱帯林行動ネットワーク
メールアドレス:jatan.office[@]gmail.com
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