東北大学発スタートアップAZUL Energy(アジュールエナジー)が低コストで高性能な燃料電池・空気電池用非白金触媒を実現
脱炭素化と持続可能な社会の実現に向けた、レアメタルを使用しない燃料電池・空気電池用高性能触媒に関する研究成果の論文を発表
燃料電池や金属空気電池などの正極において空気中の酸素を還元する酸素還元反応を促進する触媒として、白金やマンガン酸化物に代わる安価で高性能な電極触媒の開発が求められています。東北大学材料科学高等研究所の藪浩准教授、北海道大学電子科学研究所の松尾保孝教授、電気通信大学の中村淳教授、および東北大学発スタートアップであるAZUL Energy株式会社(代表取締役:伊藤晃寿)からなる研究グループは、安価なカーボンブラックと青色顔料であるアザフタロシアニン系金属錯体を組み合わせることで、燃料電池や金属空気電池の正極反応である酸素還元反応を白金と同等以上に触媒する電極触媒の開発とその原理解明に成功しました。燃料電池などの低コスト化と高性能化に大きく貢献できるものと期待できます。本研究成果は、現地時間の2021年12月15日に米国科学誌「ACS Applied Energy Materials」のオンライン速報版に掲載されました。
1. 研究の背景
燃料電池や金属空気電池の正極において空気中の酸素を還元する酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)は効率を左右する重要な反応です。酸素還元反応は自然には進みづらいため、反応を促進するための電極触媒が用いられています。燃料電池では白金を担持した炭素触媒が主に 使用されています。また、補聴器用の金属空気電池などでは安価なマンガン酸化物が電極触媒として用いられています。しかし、白金は高価で資源制約があります。また、マンガン酸化物は安価な一方、性能が不十分であり、高い酸素還元反応効率が必要な燃料電池への適用や金属空気電池の高出力化には不向きでした。そのため、白金やマンガン酸化物に代わる安価で高性能な電極触媒の開発が求められていました。
これまで触媒活性点となる元素を含む原料を高温で焼成することで炭化したカーボンアロイや、ナノチューブやグラフェン等のナノ炭素を用いた電極触媒が提案されてきました。しかしながらこれらの手法は不活性ガス下での高温プロセス等が必要であり、プロセスコストが高いという課題がありました。また、複雑な炭化の過程によりその化学構造を制御することが難しい上、得られた触媒の構造と活性の相関を理解するのに多大な労力が必要でした。
2. 研究内容と成果
これまで研究グループでは、青色顔料の一種である鉄アザフタロシアニンを多層カーボンナノチューブ(MultiWall Carbon NanoTube, MWCNT)に担持することにより、アルカリ条件下で白金炭素触媒と同等以上の触媒性能が得られることを見出しています。本触媒は自然界に存在するヘモグロビンやシトクロムcに含まれるヘムに類似した構造を有しており、中心の鉄原子が触媒活性点として機能します。本研究成果は遷移金属である鉄を用いた高効率な電極触媒の開発につながる成果である一方、MWCNTは高価であり、また触媒の分子構造が性能に与える影響については系統的な研究が待たれていました。
今回研究グループは、鉄だけでなくニッケルや銅を中心金属とするアザフタロシアニンや、同じ鉄を含むアザフタロシアニンでも窒素原子の導入位置を変えた異性体触媒分子を合成し、これらを安価なカーボンブラックの一種であるケッチェンブラック(Ketjen Black, KB)に担持することで、そのORR触媒性能を系統的に評価しました。その結果、異性体を含む鉄アザフタロシアニンをKBに担持させた電極触媒が最も高性能であり、ニッケルや銅では還元反応の中間体である過酸化水素が多く生じることが明らかとなりました。
これら触媒のエネルギー状態の指標であるイオン化ポテンシャルを紫外光電子分光(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy, UPS)により測定したところ、触媒分子結晶と炭素に担持した状態では、鉄アザフタロシアニンのエネルギー状態が異なり、炭素担持状態でORRに好適な状態に調整されていることが明らかとなりました。
さらに理論計算による各電極触媒の性能に関する序列が実験と良く一致することも確認されました。
本研究で得られた高活性触媒は、安価な触媒分子とKBから高コストな焼成プロセスを必要とせず作製できるため、白金やマンガン酸化物に代わる触媒として燃料電池や金属空気電池などの低コスト化と高性能化に大きく貢献できるものと期待できます。
【掲載論文】
著者名 : Hiroshi Yabu, Koki Nakamura, Yasutaka Matsuo, Yutaro Umejima, Haruyuki Matsuyama,
Jun Nakamura, Koju Ito
論文題名: Pyrolysis-free Oxygen Reduction Reaction (ORR) Electrocatalysts Composed of
Unimolecular Layer Metal Azaphthalocyanines Adsorbed onto Carbon Materials
雑誌名 : ACS Applied Energy Materials
DOI : 10.1021/acsaem.1c03054
【AZUL Energyについて】
会社名 :AZUL Energy株式会社
設立日 :2019 年7 月11 日
代表者 :代表取締役 伊藤 晃寿
役員 :取締役 最高科学責任者(CSO) 藪 浩、取締役 阿部 博弥
URL :https://www.azul-energy.co.jp
本社所在地 :〒980-0811
宮城県仙台市青葉区一番町1-9-1 仙台トラストタワー10階 CROSSCOOP内
開発センター:〒980-8577
宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
国立大学法人 東北大学 産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)501
資本金 : 90,800,000円
【本件に関する問い合わせ先】
AZUL Energy株式会社
代表取締役 伊藤 晃寿
E-mail:info@azul-energy.co.jp
すべての画像
- 種類
- 商品サービス
- ビジネスカテゴリ
- 電気・ガス・資源・エネルギー
- ダウンロード