2030年の日本の再生可能エネルギー目標の達成に 電力貯蔵システムの導入遅れが課題

政府の野心的な再生可能エネルギー目標の達成には、太陽光と風力発電設備の増加量に現在の2倍である年間12GWが必要

Wood Mackenzie

ウッドマッケンジーは、日本の2030年の再生可能エネルギー目標の達成に関する見通しを発表し、日本は2030年の野心的な再生可能エネルギー目標の達成に対し深刻な課題に直面していると分析しています。普及を阻む要因には、コスト高や送電網強化と電力貯蔵システム導入の遅れが影響しています。再生可能エネルギーの発電比率は、2022年においては総発電量の22%を超える程度ですが、2030年にはわずか31%までしか到達しないと予想しています。これは政府が目標として掲げている36%~38%には不十分な数値です。


ウッドマッケンジーの電力・再生可能エネルギーリサーチ部門でプリンシパルアナリストを務める川俣大和は、次のように述べています。「日本は世界でも再生可能エネルギーコストが最も高い国の1つであり、近年のインフレに伴ってさらに状況は悪化しています。ガスや石炭の価格は今年に入ってから安定してきていますが、送電網や電力貯蔵に対する制約が再生可能エネルギーの導入拡大の足かせとなっています。再生可能エネルギー分野を対象とする投資家にとってはこれらが不安材料であり、日本の電力部門が脱炭素化を推進する上での逆風となっています。」

出典:Wood Mackenzie Asia Pacific Power Service、経済産業省出典:Wood Mackenzie Asia Pacific Power Service、経済産業省


日本の電力市場規模は世界第5位で、化石燃料への依存度が高く2022年には電力供給量の70%以上が化石燃料でした。政府による補助金や再生可能エネルギーへの支援が施されているものの、太陽光発電設備容量の年間増加量は過去3年間で13%以上減少しており、固定価格買取制度(FiT)の転換、コスト上昇や新型コロナウイルス感染拡大による影響を受けていることがわかります。洋上風力発電の開発加速には施策が打たれていますが、ウッドマッケンジーの見通しでは、いくつかの大規模プロジェクトが稼動できるようになるのは少なくとも2028年までかかるでしょう。


川俣は次のように述べています。「日本が2030年の再生可能エネルギー比率の目標を達成するためには、太陽光と風力の設備容量の年間増加量を現在の2倍以上にする必要があります。これには2030年までの発電設備の増加量を昨年の年間5GW未満から12GWに増加させなければなりません。」


2022年の第二次岸田内閣発足後、記録的な物価高が続く中、日本は原子力発電所の再稼働を進めており、原子力発電を推進するセンチメントが高まっています。2022年の原子力発電割合は6%でした。ウッドマッケンジーは、2030年には14%まで増加すると見込んでいますが、政府の2030年の目標である20~22%は下回っています。


川俣は次のように述べています。「政府は原子力発電政策を大きく転換しており、2023年夏以降に17基の原子炉が稼働する見込みです。現在、12基が再稼働しているなか、ウッドマッケンジーでは2025年末までに合計16基の原子炉が再稼働し、15GWの発電が可能になると予想しています。」


ウッドマッケンジーの電力市場予測では、2030年の再生可能エネルギーおよび原子力の発電量は、第6次エネルギー基本計画で示された政府目標をそれぞれ7ポイント、8ポイント下回る見込みです。原子力発電と再生可能エネルギーからの不足分は化石燃料発電で補う必要があり、二酸化炭素排出削減目標の達成は困難となります。


出典:Wood Mackenzie Asia Pacific Power Service、経済産業省出典:Wood Mackenzie Asia Pacific Power Service、経済産業省

日本の再生可能エネルギー目標が下回ると予想される主な要因には、電力貯蔵システムへの投資を加速する政策支援が十分でないことが挙げられます。蓄電池政策と収益メカニズムに確実性が欠けるため、日本の電力系統用蓄電池への投資は今後10年間で4GW未満にとどまります。同期間での比較では、オーストラリアは20GW以上、韓国は6GW以上、インドは9GW以上となっています。一方で、ウッドマッケンジーの予測では、中国は世界のリーダーとして台頭しており、今後10年間で300GWを超える電力系統用蓄電池の導入が見込まれています。


ウッドマッケンジーの電力・再生可能エネルギーリサーチ部門でヴァイス・プレジデントを務めるアレックス・ウィットワース(Alex Whitworth)は次のように述べています。「電力貯蔵と送電網への投資は、再生可能エネルギーを含む高水準の電力システムの基盤となります。日本の再生可能エネルギーの政府目標を達成するためには、ピーク電力負荷に占める太陽光や風力発電の割合を、2030年までに昨年の42%から100%以上に拡大させることになります。日本の政策立案者が貯蔵と送電線への投資を加速させるために必要な施策を迅速に打ち出さない限り、再生可能エネルギーの比率は伸び悩み、投資家たちは他国へ目を向けることとなり、日本の目標達成は厳しいものとなるでしょう。」


ウッドマッケンジーのエネルギー転換の見通し

どの国や地域も、未だネットゼロ目標の達成に向けた道筋は立っていません。現在、世界の気温は2.5度上昇の一途をたどっています。すぐにでも気候変動の抑制につながる行動を起こさなければ、世界の平均気温上昇を1.5度未満に抑えるというパリ協定で掲げた目標の達成が極めて難しくなってきます。ウッドマッケンジーのレポート「Energy transition outlook(エネルギー転換の見通し)」では、目標や困難、投資のレベルに応じたエネルギー転換の3つのルートを示しています。これらはウッドマッケンジーが独自に評価したもので、各国が公表しているネットゼロに向けた公約を実現するために何が必要か、また、地球にどのような結果がもたらされる可能性があるかを記載しています。本レポートの詳細(英語)は、こちら( https://www.woodmac.com/market-insights/topics/energy-transition-outlook/?utm_campaign=wm-press-release&utm_source=pr-email&utm_medium=email&utm_content=eto-landing-page )をご覧ください。


シナリオの定義: 

ベースケース - 中心的かつ最も可能性の高い成果すべてのコモディティおよびテクノロジー事業部門にわたるウッド マッケンジーのベースケースを評価しています。

各国の公約シナリオ - 各国の公約が将来どのように実現されていくかについてのウッドマッケンジーのシナリオです。パリ協定で掲げた2℃目標に合わせた道筋になっています。

2050年のネットゼロシナリオ - 今後30年間で1.5℃に抑えるための行動について調査したウッド マッケンジーのシナリオです。2015 年のパリ協定で掲げた最も野心的な炭素排出量の目標に沿ったものとなっています。


ウッドマッケンジーについて

ウッドマッケンジーは、再生可能エネルギー、エネルギー、天然資源に関するインサイトを、データに基づいた情報とエキスパートの力によって提供しているグローバル企業です。エネルギー革命を迎えている今、企業や政府は持続可能な未来への移行を推進するために信頼できる実用的な知見を必要としています。ウッドマッケンジーは、50年以上にわたる天然資源分野での経験、広範で深い知識を用いて、サプライチェーン全体をカバーしています。現在、世界30か所で2,000人を超えるエキスパートからなる信頼されたチームが、リアルタイム分析、コンサルティング、イベント、ソートリーダーシップを通して、顧客の意思決定に大きく貢献しています。ともに連携しながら、リスクとチャンスを見極め、最も重要な場面で思い切った決定を下せるインサイトを提供します。詳細はhttps://www.woodmac.com/をご覧ください。

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