「第1回 IUT innovator賞」受賞論文決定 IUGC(宇宙際幾何学センター)より10万米ドルを贈呈
「IUT innovator賞」はIUT理論に関する研究の発展と若い世代の研究活動を奨励する目的で、2024年から10年間毎年、IUT理論とその関連分野における新しい重要な発展を含む最優秀論文1編に、賞金2万ドル〜10万ドルを贈呈するものです。第1回 IUT innovator賞はIUGC(宇宙際幾何学センター)が委託した専門家による審査委員会の厳正なる審査の結果、以下の論文に贈呈されることが決定しました。
“Explicit estimates in inter-universal Teichmüller theory”,
by Shinichi Mochizuki, Ivan Fesenko, Yuichiro Hoshi, Arata Minamide, Wojciech Porowski, published in Kodai Math. J. 45 (2022), pp.175-236
受賞した論文を執筆した京都大学数理解析研究所の望月新一氏、星裕一郎氏、南出新氏、Wojciech Porowski氏には、賞金として10万米ドルがIUGCより贈呈されます(Ivan Fesenko氏は賞金の受け取りを辞退)。
なお、望月氏ら4氏は、賞金を「宇宙際タイヒミュラー理論やその周辺にある遠アーベル幾何に関連する研究活動を支援するための資金として京都大学数理解析研究所に寄付する」ことを希望されています。
<受賞論文紹介>
今回受賞が決まった論文には望月新一氏の宇宙際タイヒミュラー (IUT)理論の強いバージョンが含まれている。 この強力なバージョンを適用することで、数学史上初めて、明示的に指定された定数を用いて表現された、いくつかの実効版abc不等式を証明することに成功している。
この論文で証明された実効版 abc 不等式の最初の応用は、数学で最も有名な定理の1つである「フェルマーの最終定理」の新しい証明である。 この証明では、実効版 abc 不等式の 1 つと、より古典的な数論の議論といくつかのコンピューター検証を介して P. Mihailescu によって最近得られたフェルマー方程式の可能な自然数解の下限を使用している。
今回の受賞論文によって、整数係数を持つさまざまなタイプの方程式の整数解は、より古典的な数論を使用して可能な解の下限を導出し、その後、実効的な abc 不等式を適用する、というスタイルの研究できるようになった。 これはディオファントス幾何学と呼ばれる、古代から続く数論の研究方法を根本的に変えるものである。
受賞論文執筆者:
望月新一(もちづきしんいち):京都大学数理解析研究所教授
Ivan Fesenko(イヴァン・フェセンコ):西湖大学(中国)特別招聘教授、IUGC副所長
星裕一郎(ほしゆういちろう):京都大学数理解析研究所准教授
南出新(みなみであらた):京都大学数理解析研究所特定助教
Wojciech Porowski(ヴォイチェフ・ポロウスキ):京都大学数理解析研究所特定助教
■ IUT Innovator PrizeおよびIUT Challenger Prizeについて
IUGCでは、京都大学数理解析研究所の望月新一教授によるIUT理論(Inter-universal Teichmüller Theory)の普及と発展を促すことを目的に、IUT理論に関する論文賞「IUT Innovator Prize」「IUT Challenger Prize」を創設しました。
「IUT Innovator Prize」は、IUT理論とその関連分野における新しい重要な発展を含む論文を対象とし、最優秀論文の受賞者には毎年賞金2万ドル〜10万ドルを贈呈します。
また、ドワンゴ創業者の川上量生(個人)による賞として、「IUT Challenger Prize」を創設。IUT理論について理論の本質的な欠陥を示した論文を執筆した最初の数学者に贈られ、賞金100万ドルが授与されます。
<賞の創設に至る背景>
IUT理論とは正式名称はInter-universal Teichmüller Theory、日本語では宇宙際タイヒミュラー理論といい、京都大学数理解析研究所の望月新一教授によって、2012年にインターネット上で発表されました。IUT理論を用いて、整数を扱う数学理論の分野では「未解決の難問中の難問」ともいわれるabc予想が解決することから、発表時より数学界に大きな議論を巻き起こし、7年半におよぶ審査ののち、2021年に京都大学数理解析研究所が編集する国際専門誌『PRIMS』に掲載されました。
そんな中、IUT理論については数学界では極めて珍しい混乱が起こっており、理論が正しいかどうかに懐疑的な数学者が存在する一方で、正しいかどうかの数学的議論は行われていないという異常な状態が続いています。理論の重要性にも関わらず、このような事態となった大きな要因として、望月教授の理論が巨大であるだけでなく独自性が高く、IUT理論の主張を理解するためには優れた数学者であったとしても、大変な時間と労力が必要とされることが挙げられます。今回、IUT理論にコミットする数学者の労苦に少しでも報いるために、上記の賞が創設される運びとなりました。この試みにより、IUT理論を学ぶ数学者がひとりでも増えることを期待したいと思います。
<IUT Innovator Prizeの審査方法>
2024年より10年間毎年、IUT理論とその関連分野における新しい重要な発展を含む論文1編を選出します。IUT Innovator Prizeの運営・審査および受賞論文の決定はIUGCが行います。
➢ 審査対象:すでに数学専門誌に投稿され自薦・他薦により応募された論文で、IUT理論の新しいバージョンや応用、理論の論理構造に関する新しい解析、またはこれと密接に関連する領域における重要な寄与を含むもの。
➢ 賞金の額は論文内容の新規性や寄与の重要性に応じて決定する。
➢ 応募された論文は投稿先の専門誌における査読とは独立に、IUGCが指名するIUT理論の専門家集団による非公開の審査によって評価される。評価結果はIUGCにより決定・発表される。
<IUT Challenger Prizeの審査方法>
審査は川上量生が個人として独自の判断で行います。 審査の方法については非公開としますが、審査の対象とする論文については、『MathSciNet』に載っていて、かつ、過去10年間に数論幾何の論文が10本以上掲載されている数学の専門誌に査読の上で掲載されたものに限ります。
ZEN大学 ウェブサイト▶https://zen-univ.jp
IUGC ウェブサイト▶https://zen-univ.jp/iugc
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