AI時代に希少になるのは「人間らしい見た目」ではなく、「人が参加しないと完成しない構造」

〜ブランドナラティブレポート2026年7・8月号「加工できない体験」を公開〜

株式会社manage4

マーケティング戦略・事業開発コンサルティングを手がける株式会社manage4(本社:東京都目黒区、代表取締役:南坊泰司、以下「manage4」)は、国内外のマーケティング事例・ブランド施策・SNS上の生活者反応をもとにブランドの潮流を読み解くレポート「ブランドナラティブレポート2026年7・8月号」を公開しました。今月のテーマは「加工できない体験」です。

「ブランドナラティブレポート」は、manage4が継続的に蓄積している1,000件近い国内外マーケティング事例アーカイブを基盤に、個別事例の紹介ではなく、複数事例を貫く生活者変化とブランドの見立てを読み解くレポートシリーズです。

本号の見立て|「加工できない」の正体は、「ショートカットできない」である

本号でいう「加工できない体験」は、粗い質感や手作り感といった見た目の話ではありません。成果物だけをコピーしても価値が移らず、生活者が自分の身体・時間・場所・判断を実際に差し込むことではじめて成立する体験を指します。

そう捉えると、ブランドが設計をやめて素の状態を見せているわけではないことが分かります。設計する対象が、「表現」から「人が参加する条件」へ移っている。今号はこの移動を追いかけます。

背景:完成度が、差を説明しなくなった

文章もビジュアルもデザインも、破綻のない水準までなら以前よりずっと安く用意できるようになりました。生成AIの普及によって、表現の完成度は多くのブランドで横並びに近づいています。完成度が高いこと自体は、もう差の説明になりません。

その反動として、意図的に整えない表現が広がっています。ニューヨーク・タイムズは、膨らんだ書体や強い色彩、手描き風の装飾、低解像度画像を組み合わせた視覚潮流を、便宜的に「ハイパーグー」と呼んで紹介しました。一般に定着した分類名ではなく、同紙が現象を指すために用いた呼称です。

ただ、この方向に解を求めるだけでは長くもちません。粗さも懐かしさも、有効だと見つかった瞬間に模倣可能なテンプレートになります。実際この潮流はすでに多くのブランドで採用され、Z世代向け表現の定番になりつつあると指摘されています。人間らしさの記号は、量産された時点で人間らしさの証明ではなくなります。

manage4は、問われているのは表現の質感ではなく、体験の側に省略できない工程が残っているかどうかだと捉えています。

参考:ニューヨーク・タイムズ「The Glitchy, Gloppy Look of Now」

今月の見立て:設計対象が「表現」から「人が参加する条件」へ移っている

manage4代表の南坊泰司は、1,000件近いマーケティング・ブランド事例アーカイブを基盤に、今号では4つの事例群を選定した。共通していたのは、生活者が見る対象を整えるのではなく、生活者が関与しなければ成立しない条件のほうを設計している点である。

これは、AIと人間、オンラインとオフラインのどちらが優れているかという話ではありません。AIも画面も、体験を構成する部品として前提に組み込まれています。変わったのは役割分担です。整えられる部分は整えたうえで、どこを生活者に委ねるかが問われています。

成果物は複製できます。一方で、その場に居合わせた時間や、何カ月もかけて積み上がった行動は複製できません。manage4は、この複製できない部分をどこに置くかが、ブランドの独自性を支える設計上の変数になりつつあると捉えています。

着目した生活者トレンド

・整った表現が増えたことで、完成度そのものが選ぶ理由になりにくくなっている

・時間をかけないと積み上がらない履歴や実績を、優遇の根拠として扱う仕組みが増えている

・約200年前に生まれた麻雀が欧米やオセアニアの若者に再流行するなど、手順を省略しない遊びへの関心が広がっている

4事例を横断して見える4つの接触面

今号で取り上げた4つの事例群は、生活者が体験に自分を差し込む地点=接触面の置き方において、それぞれ異なる型を示しています。

1.価値を画面へ持ち出せない場所に置く

2.媒体を現実の行動への入口に戻す

3.同じ時間を通過すること自体を出来事にする

4.探索経路を体験の一部にする

関連事例|国内外4事例

事例1:しんぱち食堂 ― 価値を画面へ持ち出せない場所に置く

概要 しんぱち食堂は、干物・焼き魚を中心とする日本の焼き魚定食専門チェーンです。20種類の干物・焼き魚をそろえ、素材の味を生かしたシンプルな調理を採用しています。店内BGMには歌詞のある音楽ではなく、虫の音が混ざった自然音を使用しています。同社は、歌詞のある音楽は味の感覚にも影響を与えうるとの考えから、この音環境を選んだとしています。

注目ポイント

・品目を魚に絞り、独自の両面焼き機器によって炭火焼きの品質と提供速度を両立している

・虫の音が混ざった自然音を流し、同じ音が機械的に反復しないよう設計している

・木材が映える照明、席ごとのスポットライト、炭火の焼き台が見えるオープンキッチンを組み合わせている

manage4の見立て これは「素朴だから信頼できる」という話ではありません。音、匂い、調理風景が同時に立ち上がる状態そのものを設計している、とmanage4は捉えています。焼き魚という商品は他店でも提供できますが、その場の音と匂いと焼ける音が重なった状態は、写真や動画に載せ替えるとほとんど落ちます。画面へ持ち出しにくい部分が残っているかぎり、この店は説明ではなく来店によって理解されることになります。

出典:しんぱち食堂 公式サイト

事例2:Spotify「Reserved」― 媒体を現実の行動への入口に戻す

概要 Spotify「Reserved」は、音楽ストリーミングサービスのSpotifyが米国で開始したコンサートチケットの先行確保機能です。プレミアム会員のリスニング行動をもとに対象アーティストのスーパーファンを判定し、一般販売の前にチケットを確保します。同社は過去の直接販売モデルから転換し、ライブネーションなどの外部パートナーと連携して提供しています。

注目ポイント

・再生回数、シェア数、保存数といった継続的なリスニング行動をもとに対象者を判定している

・転売業者やボットを排除することを目的に設計されている

・対象者が購入しなかったチケットは、ほかのリスナーへ再配分される

manage4の見立て manage4は、Spotifyが「聴く媒体」から「現実のライブへの入口」へ役割を広げたと捉えています。注目したいのは、優先権の根拠が支払い能力でも申込の速さでもない点です。何カ月も聴き続けたという履歴は、当日にお金を積んでも作れません。転売業者やボットを排除する仕組みも、裏返せば先回りできる経路を塞ぐ設計です。これまでチケット販売の結果を左右してきたのは、回線速度と資金力でした。Reservedはその手前に、時間をかけなければ積み上がらない条件を置いています。画面のなかの行動が、現実の会場に入る資格へ変換されている、と言い換えてもいいかもしれません。

出典:Spotify「Reserved」

事例3:PACETRONIK ― 同じ時間を通過すること自体を出来事にする

概要 PACETRONIKは、ブラジル・サンパウロを拠点とするランニングレイヴのイベントブランドです。ランニングレイヴとは、電子音楽を流しながら街を集団で走り、終了後にパーティーへ移る体験を指します。ASICSやRed Bullなど、スポーツ・補水・栄養・ウェルネス領域の企業が協賛しています。

注目ポイント

・参加者はクラブに集合し、ウォームアップ後に街へ走り出し、終了後は同じ場所へ戻ってアフターパーティーに参加する

・タイムや順位を競う構成ではなく、参加者は若年層に限らず親世代や競技経験のない層にも広がっている

・安全性や交通量を踏まえて毎回ルートを変更し、参加人数は約800〜900人に制限している

manage4の見立て この体験の中心にあるのは走ることそのものではなく、「同じ夜の同じ集団を通過した」という事実だと、manage4は捉えています。当日の映像や写真は後から見られます。ただ、その時間帯にその集団の一員だったという事実だけは、後から取得できません。参加人数を約800〜900人に抑えている点も同じ方向を向いています。規模を広げれば接触人数は増えますが、一人ひとりが「自分もあの場にいた」と感じられる密度は落ちます。ここでは拡張より密度が選ばれています。

出典:PACETRONIK 公式Instagram

事例4:FUJIFILM「QuickSnap(写ルンです)」― 探索経路を体験の一部にする

概要 FUJIFILM QuickSnap(日本国内名称:写ルンです)は、富士フイルムが1986年に発売したレンズ付きフィルムです。国内の現行主力は27枚撮りモデルです。2017年前後から広がったフィルム写真の再評価の流れのなかで、若年層の支持を集めています。

注目ポイント

・本体に画像を確認するディスプレイがなく、撮影直後に写りを確認することも、その場で削除して撮り直すこともできない

・撮影後はフィルムを現像に出す工程を経て、はじめて画像を受け取る

・撮影できる枚数は27枚に限られ、撮影のたびに残り枚数が減っていく

manage4の見立て manage4は、この商品の価値を「画質が粗いこと」ではなく、「結果に到達するまでの経路を省略できないこと」にあると捉えています。撮る、待つ、現像に出す、受け取る。どこも飛ばせません。同じ被写体を高性能なカメラで撮って、後から似た質感に加工することは技術的には可能です。ただ、残り枚数を見ながら何を撮るか決めた判断と、結果が分からないまま待った時間は、加工後の画像には移りません。仕上がりは複製できても、そこへ至る経路は複製できないからです。念のため付け加えると、これはデジタルの否定ではありません。日常の記録は高性能なカメラが担い、そのうえで経路そのものを味わいたい場面に別の道具が選ばれている、という並存です。

引用元:富士フイルム「写ルンです」

事例から見える共通点

4つの事例群に共通するのは、ブランドが設計をやめて素材のまま差し出しているのではなく、設計の対象を移している点です。

しんぱち食堂が置いたのは、画面に載せ替えると落ちてしまう店内の状態でした。SpotifyのReservedは、聴き続けた履歴を現実の会場に入る資格へ変換しています。PACETRONIKは同じ夜を通過した事実を出来事の中心に据え、人数を絞ることでその密度を守りました。FUJIFILM QuickSnapに至っては、結果へ至る工程そのものが省略できません。

置き場所は違っても、決めていることは同じです。生活者が自分の時間や判断を差し込む余地を、体験のどこに残すか。manage4はこれらを「未加工だから信頼される」事例としてではなく、参加なしには完成しない構造を設計した事例として捉えています。

もっとも、こうした構造があれば信頼が保証されるわけではありません。ただ、成果物の完成度だけでは判断材料が得にくくなった状況では、手掛かりの一つにはなりうると考えられます。

代表コメント

株式会社 manage4 代表取締役 南坊 泰司

「今回の4事例に共通するのは、ブランドが『整えること』から少しずつ手を引いているという事実です。これまで企業のコミュニケーションは、伝えたいことをいかに美しく、いかに破綻なく届けるかを競ってきました。しかし表現の完成度がAIによって誰にでも手に入るようになった以上、その競争で差はつきません。

前号では、UGCは投稿依頼ではなく体験設計から生まれる、という見立てを示しました。今号はその続きにあたります。語りたくなる余白をつくったうえで、次に問われるのは、その体験のどこに『取り繕えない部分』を残せるかです。加工できない領域がない体験は、どれだけ丁寧に設計しても、いずれ生成物と見分けがつかなくなります。

これは、企業が不完全さを演出すればよいという話ではありません。雑味を意匠として足すだけの表現は、すでに新しい同質化を始めています。必要なのは、汗をかく場に人を集める、音や匂いを店内に置く、仕上がりを選べない道具を渡すといった、実際に加工が効かない構造を体験の側に組み込むことです。

ブランドナラティブは、うまく語られた物語のことではありません。生活者が『確かにその場にいた』と実感できる出来事の積み重ねです。これからのブランドの信頼は、見せ方の精度ではなく、取り繕えなさの設計で決まっていくと考えています。」

よくある質問(FAQ)

Q1.「ブランドナラティブレポート」とは何ですか?

A. manage4が国内外のマーケティング事例約1,000件のアーカイブをもとに、複数事例を貫くブランドと生活者の変化を「見立て」として読み解き、定期的に発信するレポートです。

本レポートは、以下のような検討に活用できます。

・店舗・空間における五感体験の設計

・AI時代を前提としたブランドコミュニケーションの見直し

・オフライン接点・イベント体験の企画

・商品仕様に「らしさ」を組み込むプロダクト設計

・生活者が語りたくなるブランドナラティブの設計

Q2.過去の事例アーカイブは閲覧できますか?

A. manage4公式サイトの TREND RESEARCH ページ(https://manage4.com/case-study)で事例アーカイブの一部を無料公開しています。

Q3.自社のマーケティングへの活用について相談できますか?

A.可能です。トレンド・事例を用いたワークショップや講義、ブランド体験設計・コミュニケーション設計のご支援も承っています。

事例アーカイブのご案内

本レポートのもととなる事例スライドをまとめたページはこちら:TREND RESEARCH(事例アーカイブ)

週に一度、厳選されたトレンドと洞察をmanage4代表取締役自らが発信するニュースレターは

こちら:なんぼーのマーケティングアンテナ(ニュースレター登録ページ

レポート概要

・名称:ブランドナラティブレポート2026年7.8月号「加工できない体験」

・発行:株式会社manage4

・対象:マーケティング・広告・PR・ブランド担当者、生活者トレンドに関心のある方

・内容:国内外のマーケティング事例、ブランド・生活者トレンドの見立て、実務への示唆

会社概要

・会社名:株式会社manage4

・代表取締役:南坊泰司

・所在地:〒153-0042 東京都目黒区青葉台3丁目18番3号 THE WORKS

・事業内容:マーケティング戦略・戦術策定、事業開発コンサルティング、プロモーション制作

・URL:manage4 公式サイト

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会社概要

株式会社manage4

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URL
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業種
サービス業
本社所在地
東京都目黒区青葉台3丁目18番3号 THE WORKS
電話番号
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代表者名
南坊 泰司
上場
未上場
資本金
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設立
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