なぜこの畑は50年も病気知らず?「土壌の健康」の秘密に迫る!長浜バイオ大学が挑む未来の再生型農業

〜微生物ネットワークによる持続可能な未来の農業へ。島本微生物工業株式会社との共同研究が学術誌に掲載〜

学校法人関西文理総合学園

島本微生物工業株式会社の管理する土壌病害の少ない有機露地農地(滋賀県甲賀市)

 学校法人関西文理総合学園 長浜バイオ大学(所在地:滋賀県長浜市 理事長:仁連 孝昭)は、本学バイオサイエンス学部の神波誠治プロジェクト特任准教授、石川聖人准教授らと、島本微生物工業株式会社(滋賀県甲賀市 代表取締役:島本光久)による共同研究成果が、学術誌「Journal of Bioscience and Bioengineering」に受理され、掲載されることが決定したことをお知らせします。

 研究グループは、50年以上にわたり農作物の病害被害がほとんど出ていない有機農地の土壌微生物を解析しました。その結果、有機肥料やタンパク質性有機物を土壌に加えると、植物病原菌への拮抗作用が知られるLysobacter(リソバクター)属細菌が、土壌細菌群集に占める割合を大きく増えることを明らかにしました。さらに、滋賀県を中心とする24農地を調べた結果、本菌の増えやすさは、有機農地・慣行農地の区分ではなく土壌環境や既存の微生物群集に関係することが示されました。本成果は、地域の土壌微生物を活かし、農薬だけに頼らない持続可能な農業を考えるための基礎的な手がかりです。

本研究発表の要点

  • 50年以上にわたり農作物の病害被害がほとんど出ていない滋賀県内の有機農地に着目し、土壌細菌群集をDNA解析

  • 有機肥料、タンパク質、アミノ酸などの添加後に、植物病原菌への拮抗作用が知られるLysobacter属細菌の割合が増加。この応答を2022~2025年の複数の試験で再現

  • 24農地の比較から、Lysobacterの増え方は「有機農地かどうか」だけでは説明できず、土壌にもともと存在する微生物群集が重要であることを示唆

地域企業と大学による共同研究

  • 微生物・酵素を活用した土づくりの知見を持つ島本微生物工業と、微生物・データ解析に強みを持つ本学による滋賀県発の産学連携成果

  • 地域企業の農地管理経験と試験農場での「現場知」に、大学の「土壌微生物解析・統計解析技術」という研究技術を結び付け、農業現場で観察されてきた「病害被害の少なさ」の要因を微生物群集の視点から調査し、Lysobacter属細菌が増える現象を発見

病害被害の少ない農地におけるLysobacter属細菌の増加に関する研究について

図:研究の流れ
図:タンパク質の添加により増加する細菌

研究の背景

 有機農業は、化学農薬や化学肥料の使用を抑え、自然の物質循環や生物多様性を活かす農業として期待されています。一般的な土壌病害対策である劇薬散布は環境や健康への影響が懸念されるうえ、有機農業では使えないことから、人や環境に優しい新たな防除技術の確立が課題となっています。

 一方、自然界には病原菌が存在していても病気が起こりにくい「発病抑止土壌」と呼ばれる特異な土壌が存在します。「発病抑止土壌」では、病原菌と競合したり、抗菌物質や分解酵素をつくったりする土壌微生物の関与が示唆される一方、病害が少ない農地でどの微生物が増え、どのような土壌条件がその増加を支えているのかは未解明でした。研究グループは、島本微生物工業株式会社が管理する農地では、50年以上にわたり有機農業が続けられ、土壌病害がほとんど問題になっていないことに着目しました。この農地を、持続可能な病害管理の仕組みを学ぶためのモデルとして、周辺農地やさまざまな管理履歴を持つ農地と比較調査しました。

研究内容と成果

  1. 病害被害の少ない対象農地には特徴的な細菌群集が存在

     病害被害の少ない有機農地と近隣一般農地4か所の土壌をDNA解析(16S rRNA解析)で比較した結果、農地ごとに細菌群集の構成が明確に異なり、対象の有機農地には特徴的な微生物群集が形成されていることが判明しました。

  2. 有機肥料やタンパク質性有機物に応答してLysobacterが増加

    土壌への各種有機物添加実験の結果、米ぬか、ウシ血清アルブミン、卵白アルブミン、アルギニンなど特定のタンパク質・アミノ酸の添加後にLysobacter属細菌の細菌群集に占める割合が大幅に増加しました。一方、システイン、キチン、N-アセチルグルコサミンでは顕著な増加は見られず、長年タンパク質性有機肥料を施用してきた農地管理履歴が、タンパク質分解能を持つLysobacterが増えやすい生態的な環境を形成した可能性が示唆されました。

  3. 複数年にわたり繰り返し確認

    2.の結果は、2022年と2023年に行った異なる実験で確認されました。さらに、2024〜2025年に採取時期を変えて実施した計7回の試験でもタンパク質添加によるLysobacterの増加が再現され、季節や採取時期が異なっても同様の応答が得られたことから、当農地の微生物群集が安定した特性を保持していることが示唆されます。

  4. 「有機農地だから増える」わけではない

    研究グループは、滋賀県を中心とする計24農地を対象に解析を広げました。タンパク質性有機物添加によるLysobacterの増加は有機農地・慣行農地を問わず確認された一方、増加しない有機農地もありました。肥料の種類だけでなく土壌の化学的・物理的環境や既存の微生物群集の構成が重要だと考えられます。統計解析からは、Lysobacterの増加と関連する複数の細菌属も見いだされ、単独の細菌ではなく微生物群集全体の関係性が増殖を支えている可能性が示されました。

本研究成果の意義と今後の展望

 本研究は、特定の有機肥料を施用すれば直ちに土壌病害を防げることを示したものではありません。また、今回観察されたLysobacterの増加が、対象農地での病害の少なさを直接引き起こしているかについても、今後の実験的検証が必要です。

 一方で、長期にわたる農地管理によって、特定の有用微生物が増えやすい「生態的な受け皿」が土壌に形成され得ることを示した点に意義があります。土壌に有用微生物を単に加えるだけでは定着しにくい場合がありますが、その微生物が利用できる栄養源や、共存する微生物、土壌環境を一緒に考えることで、農地ごとの微生物の力を引き出せる可能性があります。

 今後は、対象農地からLysobacter株を分離し、植物病原菌に対する作用や実際の植物での病害抑制効果を検証します。また、共存細菌との関係や、有機肥料のどの成分が増殖を促すのかを詳しく調べます。これらの知見を積み重ねることで、地域の土壌微生物を活用する農地管理技術や微生物資材の開発につながることが期待されます。さらに、この開発により、劇薬に頼らない有機農業でも使用可能な人や環境に優しい土壌病害の防除技術の実用化が期待できます。

【バイオサイエンス学部 神波誠治プロジェクト特任准教授・石川聖人准教授 コメント】

 地域の方々が長い時間をかけて育ててきた農地には、目に見えない微生物の生態系があります。今回、島本微生物工業株式会社との共同研究により、現場で長く観察されてきた「病害の少なさ」を、土壌微生物の変化から読み解く手がかりを得ました。Lysobacterが病害を直接抑えているかは今後の検証が必要ですが、農地ごとの微生物群集を理解し、その力を引き出すことは、農薬の使用を抑えた持続可能な農業につながると考えています。今後は、一般の農地においても、有用な土壌微生物が増えやすい環境を整える技術について、さらに研究を進めていく予定です。また、今後、地球温暖化などの影響により、農作物生産量が減少し、食糧不足が深刻化することが懸念されています。本研究は、それを緩和するため、病害防除による食糧増産、持続可能な農業の拡大などによるCO2ネットゼロへの貢献を実現していく予定です。

本研究成果を基盤に、国のGo-Tech事業で実用化を目指す

 本研究で得られた知見を基盤として、長浜バイオ大学と島本微生物工業株式会社は、株式会社キャンディファーム(滋賀県近江八幡市)と共に、Lysobacter属細菌を活用した植物土壌病害防除技術の実用化に向けた研究開発を進めています。この研究開発計画「生物学的防除に長けた土壌微生物から成る微生物製剤とそれを用いた植物土壌病害の防除技術の研究開発」は、経済産業省・中小企業庁の「令和8年度 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」に採択されました。

 本事業では、Lysobacter属細菌と、その増殖を促す有機肥料、さらに微生物のすみかとなるバイオ炭を組み合わせた微生物製剤を開発し、一般農地を病害の起こりにくい土壌へ改良する技術の確立を目指します。

用語解説

  • 土壌病害:土の中に存在する糸状菌、細菌、線虫などが原因となり、作物の根腐れ、萎れ、立枯れなどを引き起こす病害。発生後の防除が難しいことが特徴です。

  • 発病抑止土壌:病原体や感染しやすい植物が存在しても、病害が起こりにくい土壌。微生物群集による病原体の抑制が重要な要因の一つと考えられています。

  • Lysobacter(リソバクター)属細菌:土壌などに生息する細菌の一群。タンパク質分解酵素、キチン分解酵素、抗菌性物質などをつくる菌株が知られ、一部は植物病原菌に対する生物的防除への応用が研究されています。

  • 16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンス:細菌が共通して持つ16S rRNA遺伝子の配列を一度に読み取り、試料中にどのような細菌がどの程度の割合で存在するかを調べる方法です。

  • 相対存在量:解析した細菌群集全体の中で、特定の細菌が占める割合。本研究で示した「増加」は、主としてこの割合の増加を意味します。

原著論文

論文タイトル:Enrichment of Lysobacter in a long-term organically managed agricultural field with low soilborne disease incidence

著者:Seiji Kamba, Motomu Kuroki, Ikuyo Takemura, Hiromasa Tabata, Ryuhei Minei, Mitsuhisa Shimamoto, Atsushi Ogura, Makoto Hasegawa, and Masahito Ishikawa

掲載誌:Journal of Bioscience and Bioengineering

掲載状況:オンライン公開済み(2026年8月4日)

DOI:10.1016/j.jbiosc.2026.07.002

 論文URL:https://doi.org/10.1016/j.jbiosc.2026.07.002

学校法人関西文理総合学園 長浜バイオ大学について

 長浜バイオ大学は、2003年に滋賀県長浜市に開学した日本初のバイオの総合大学です。バイオサイエンス学部・バイオサイエンス研究科を設置し、生物学、化学、情報科学などを横断する高度な専門教育と実践的な研究を展開しています。実験・実習を重視した少人数教育で培った専門知識と技術を活かして地域社会と連携しつつ、バイオサイエンスの成果を広く社会へ還元し、地域固有の課題から地球規模の社会課題まで、その解決に貢献することを目指しています。

長浜バイオ大学

設置者:学校法人関西文理総合学園

所在地:〒526-0829 滋賀県長浜市田村町1266

理事長:仁連 孝昭

設立:2003年

HP:https://www.nagahama-i-bio.ac.jp/

島本微生物工業株式会社について

島本微生物工業株式会社は、滋賀県を拠点に長年にわたり微生物と酵素の研究開発に取り組むパイオニア企業です。独自の「島本微生物農法」に基づく土壌改良材や農業資材の製造をはじめ、人々の健康を支える「KOSOLシリーズ」などの健康食品を展開しています。「土と食と健康」をテーマに、自然の摂理にかなった微生物の力を活かし、持続可能な農業の発展と人々の豊かな暮らし、地球環境の保全に貢献することを目指しています。

会社名:島本微生物工業株式会社

所在地:〒528-0023 滋賀県甲賀市水口町本丸1番23号

代表取締役:島本 光久

設立:1965年

HP:https://bym-kouso.jp/

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会社概要

学校法人関西文理総合学園

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URL
https://www.nagahama-i-bio.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
滋賀県長浜市田村町1266番地
電話番号
0749-64-8100
代表者名
仁連 孝昭
上場
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資本金
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設立
2003年04月