東北大学発スタートアップAZUL Energy(アジュールエナジー)がホヤ殻に含まれるセルロースナノファイバーを用いて次世代エネルギーデバイス用高性能触媒を開発

海洋・畜産廃棄物からレアメタルフリーの電極触媒を合成 古来からある「血炭」を次世代エネルギー材料に

AZUL Energy株式会社

東北大学発スタートアップAZUL Energy株式会社(本社:宮城県仙台市、代表取締役:伊藤晃寿)、東北大学材料科学高等研究所藪研究室、北海道大学、宮城大学からなる研究グループは、産業廃棄物であるホヤ殻中のセルロースナノファイバー(CNF)を炭化すると品質の良い炭素となり、畜産業から出る廃棄血液中にはヘム鉄や窒素・リンなどの元素が含まれていることに着目し、これらを混合・焼成することで様々なヘテロ元素が導入されたナノサイズの「ナノ血炭」が合成できることを実証しました。さらに、得られたナノ血炭は白金炭素触媒などのレアメタルを用いた電極触媒に匹敵する性能を示すことを見出しました。本成果は、処理に困っていた産業廃棄物を、次世代エネルギーデバイスとして期待される燃料電池、金属空気電池やグリーン水素を製造するための水電解システム用電極触媒などへ応用して活用する技術として期待されます。
本研究成果は、現地時間の1月18日に英文誌「Science and Technology of Advanced Materials(STAM)」のオンライン速報版に掲載されました。

 

1. 研究の背景
 日本では古来から炭に動物の血液をかけて焼成することで得られる「血炭」を日本酒などの漂白剤などとして用いてきました。これは、炭素が持つ吸着機能と、焼成時に複合化されたヘム鉄などの血液由来のヘテロ元素成分がもたらす触媒作用によるものであると考えられます。現代においてもヘテロ元素を導入した炭素材料(ヘテロ元素ドープ炭素)は有用な炭素材料として利用されており、特に炭素網面に窒素やリン、さらには鉄が4つのピリジン環で錯化されたFeN4構造などが導入された炭素は多様な電気化学反応を触媒できることから、電極触媒としての応用が期待されています。
 例えば、酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction, ORR)は燃料電池や金属空気電池の正極における放電時の反応として知られ、これらエネルギーデバイスの性能を決める需要な反応です。ORRは通常の環境では進みづらいため、反応を触媒するために白金炭素(Pt/C)触媒が通常用いられています。また、ORRの逆反応である酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction, OER)はリチウム空気電池に代表される金属空気二次電池の充電時の反応です。OERは水電解による水素発生における陽極反応として知られています。これまでOER触媒としてはルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)、またはその酸化物などが用いられていました。しかしこれら従来のレアメタルを用いたORR・OER触媒は高価であることや資源制約の問題から、ヘテロ元素ドープ炭素が代替触媒として注目されていました。
 一方、ホヤは東北三陸地方の特産であり、広く珍味として食されています。しかし、食用部を除いたホヤ殻は大量の産業廃棄物となり、その処理が問題となっていました。ホヤは唯一セルロースを産生する動物であり、その多くはCNFとして殻に蓄積されています。ホヤ殻から抽出したCNFは高い結晶性を持ち、炭化すると導電性の良い炭素となることが知られていました。また、畜産業から出る廃棄血液は河川の生物要求酸素濃度(BOD)を上昇させるため、その処理も大きな課題となっていました。廃棄血液を乾燥した乾燥血粉は窒素やリン、ヘム鉄由来の鉄分などの養分を大量に含むため、肥料として利用されています。
 これらの背景から研究グループでは、ホヤ殻由来CNFと乾燥血粉を混合して焼成すれば、窒素、リン、FeN4構造を導入したヘテロ元素ドープ炭素が合成できるのではないかと考えました。 

2. 研究内容と成果
 これまで研究グループでは、FeN4構造を持つ青色顔料の一種である鉄アザフタロシアニンを炭素材料に担持することにより、Pt/Cに匹敵するORR触媒が得られることを見出しています。また、ホヤ由来セルロースをポリドーパミンなどの窒素含有ポリマーで被覆し、焼成することでORR触媒として機能することを報告しています。今回研究グループは、ホヤ殻から抽出したCNFと血粉を様々な比率で混合し、温度を変えて焼成することにより、CNF由来のナノサイズの炭素構造と血粉由来のヘテロ元素がドープされORR・OERの両方に高い活性を持つ両性電極触媒「ナノ血炭」の合成法を見出しました。

本研究の成果は以下の三つの点で重要な成果と考えられます。

①ホヤ殻に含まれるセルロースナノファイバー(CNF)の炭化による炭素と血液中に含まれる鉄・窒素・リンなどが複合化された「ナノ血炭」を初めて合成。

②炭素の導電性とヘテロ元素の触媒活性により、レアメタルを用いた電極触媒に迫る酸素還元反応・酸素発生反応触媒活性を持つ両性電極触媒を実現。

③三陸地域の課題となっていた産業廃棄物の活用と、エネルギー循環社会に資する次世代エネルギーデバイス用高性能触媒材料の合成によりSDGsに貢献。

 本研究成果は三陸地域特産のホヤ殻や畜産から生じる廃棄血液を有効利用することで、資源循環を促すことにつながります。また、金属空気電池は次世代エネルギーデバイスとして知られ、すでに欧米では太陽光や風力により発電された電力を一時的に貯蔵し、電力平準化に金属空気電池を用いる試みが進められており、エネルギー循環の一翼を担うものと期待されています。

 以上のことから、本研究で見出されたナノ血炭に関する研究は資源循環・エネルギー循環を通して、SDGsに大きく貢献するものであると考えられます。

【掲載論文】
著者名 : Hiroshi Yabu, Kosuke Ishibashi, Manjit S. Grewal, Yasutaka Matsuo, Naoki Shoji, Koju Ito
論文題名: Bifunctional rare metal-free electrocatalysts synthesized entirely from biomass resources
雑誌名: Science and Technology of Advanced Materials (STAM)
DOI: 10.1080/14686996.2021.2020597
URL:https://doi.org/10.1080/14686996.2021.2020597

【AZUL Energyについて】
会社名   :AZUL Energy株式会社
設立日   :2019 年7 月11 日
代表者   :代表取締役 伊藤 晃寿
役員    :取締役 最高科学責任者(CSO) 藪 浩、取締役 阿部 博弥
URL      :https://www.azul-energy.co.jp
本社所在地 :〒980-0811
       宮城県仙台市青葉区一番町1-9-1 仙台トラストタワー10階 CROSSCOOP内
開発センター:〒980-8577
       宮城県仙台市青葉区片平2-1-1
       国立大学法人 東北大学 産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)501
資本金     : 90,800,000円


【本件に関する問い合わせ先】
AZUL Energy株式会社
代表取締役 伊藤 晃寿
E-mail:info@azul-energy.co.jp

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会社概要

AZUL Energy株式会社

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URL
https://www.azul-energy.co.jp/
業種
製造業
本社所在地
宮城県仙台市青葉区一番町1-9-1 仙台トラストタワー10階 CROSSCOOP内
電話番号
022-209-5333
代表者名
伊藤 晃寿
上場
未上場
資本金
2億5800万円
設立
2019年07月