世界初、高粘性糸状菌培養に対応したハイブリッド型高効率シングルユースバイオリアクターを開発
従来製品に比べ導入コスト約40%減、ランニングコスト3分の1以下に抑制
ニュースリリース
2023年10月2日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
佐竹マルチミクス株式会社
国立大学法人東北大学
合同酒精株式会社
世界初、高粘性糸状菌培養に対応したハイブリッド型
高効率シングルユースバイオリアクターを開発
―従来製品に比べ導入コスト約40%減、ランニングコスト3分の1以下に抑制―
NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」プロジェクト(以下、本事業)で、佐竹マルチミクス(株)、東北大学、合同酒精(株)は、より低動力で効率良く培養液を撹拌(かくはん)し、通気量を確保することが可能な撹拌システムを確立することで、高粘性糸状菌にも利用可能な200Lのハイブリッド型シングルユースバイオリアクター(以下、本リアクター)の開発に世界で初めて成功しました。これにより従来よりも低い導入コストで、消費動力を低減しながら微生物培養が可能になりました。
今回開発した本リアクターの市場供給価格は、従来のリユース型バイオリアクターと比較すると環境整備を含む導入コストで約40%削減を達成しました。また、ランニングコストも市場での一般的なコスト水準の3分の1以下に抑制しました。
今後三者は、さらなる培養評価、耐久評価を進め、2023年度中の製品化・販売を目指します。
なお、本事業の成果である本リアクターの小スケールモデル(4リットル)を、10月11日から13日までパシフィコ横浜で開催されるバイオテクノロジー展「BioJapan 2023」のNEDOブースで展示します。
図1 開発した本リアクター(200L実証機)
1.概要
近年、循環型社会の実現に向けて、生物資源や生物機能を用いて物質を生産する技術(バイオものづくり)の貢献が期待されており、微生物による物質生産(微生物生産)の重要度が増しています。一方で、一般的に微生物生産には、リユース型バイオリアクター※1などの高額で大がかりな滅菌設備の整備が必要で、新規事業者の参入を阻む一つの障壁となってきました。
そこで、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の本事業※2の一環で、佐竹マルチミクス株式会社、国立大学法人東北大学、合同酒精株式会社は、特に培養難度が高いとされている高粘性の糸状菌を用いたタンパク質高生産技術と、その糸状菌を高効率に培養可能な本リアクター※3の開発に取り組みました。一般的に糸状菌はタンパク質の生産能力に優れるとされており、産業用酵素などの生産に幅広く用いられています。しかし、糸状菌の増殖・菌糸の成長による菌体の凝集や、それに伴う培養液粘度の上昇により、培養槽内の均一な撹拌が困難となることで、糸状菌にとって理想的な生育環境(通気状態など)が維持できず、培養が進むにつれて生産性が低下することが課題でした。
このような背景の下、本事業で、より凝集性の低い糸状菌の開発や、より低動力で効率良く培養液を撹拌し、通気量を確保することが可能な撹拌システムの確立に取り組み、高粘性糸状菌にも利用可能な本リアクターの開発に世界で初めて成功しました(図1)。これにより、従来よりも低い導入コストで、消費動力を低減しながら微生物培養が可能になりました。
2.今回の成果
(1)低動力で効率良く通気量を確保可能な撹拌システムの確立
従来のバイオリアクターで用いられてきたラシュトンタービン(6FT)※4は、通気撹拌を行うことで気泡の分散性と培養液の流動性が低下するため、微生物培養における動力効率に課題がありました。そこで、通気撹拌時の気泡の分散性を向上させた高効率タービン(HS100タービン)と、培養槽内で強力な撹拌作用を有する軸流インペラ(HR100インペラ)を組み合わせた撹拌システムを糸状菌培養に適用することで、より低動力で効率よく培養液を撹拌可能なバイオリアクターを実現しました。
また、この撹拌システムを用いて数値流体力学(CFD)シミュレーション※5と、実際の培養の検証とスケールアップ検討を進めたところ、従来の6FTと比較して、消費動力の抑制、液流動作用およびガス分散作用の向上を確認しました(図2)。なお、本シミュレーションでは東北大学が開発した粘性低減型の菌糸分散株※6を用いました。
図2 6FT(左)とHS100タービン・HR100インペラの組み合わせ(中央)の比較
(2)低導入コストのハイブリッド型シングルユースバイオリアクター(HSF-HSUB 200)の開発
上述(1)で確立した撹拌システムを使用することで、従来よりも低動力で微生物生産を実施できるようになり、バイオリアクターのシングルユース化が可能となりました。シングルユース型でも、培養槽内(バッグ内)の滅菌処理自体は必要とされますが、佐竹マルチミクス(株)の独自技術による新規滅菌システムを本リアクターに適用することで、高額な滅菌設備の導入が不要になりました。同時に、運転負荷の高い糸状菌培養にも対応できる頑強性を維持するため、培養槽と配管のみをシングルユース化して一式をシステム化することで本リアクターを完成しました(図3)。
今回開発した本リアクターの市場供給価格は、リユース型バイオリアクターと比較すると環境整備を含む導入コストで約40%削減(佐竹マルチミクス(株)自社製品比)を達成しました。また、ランニングコストも市場で一般的なコスト水準の3分の1以下に抑制でき、新規事業者の参入障壁低減が期待できます。
図3 本リアクターの外観(左:シングルユースバック装填前 右:装填後)
3.今後の予定
現在、東北大学と合同酒精(株)は、本リアクターの製品化に向けた培養評価および耐久評価を共同で進めています。これまでの評価で、本リアクターは培養難度が高い糸状菌培養で十分な生産性を達成することを確認しました。今後は、糸状菌だけでなくさまざまな微生物生産で利活用を進め、汎用(はんよう)性をさらに高めていきます。
佐竹マルチミクス(株)は、評価結果を踏まえて2023年度中に200Lスケールまでのリアクターの製品化・販売を目指します。これにより、新規参入事業者が導入しやすい微生物用バイオリアクターの普及を促進し、バイオものづくり技術の適用範囲の拡大、バイオエコノミーのさらなる発展に貢献します。
なお、本事業の成果である本リアクターの小スケールモデル(4リットル)を、10月11日から13日までパシフィコ横浜で開催されるバイオテクノロジー展「BioJapan 2023」のNEDOブース※7で展示します。
【注釈】
※1 リユース型バイオリアクター
主にステンレス材で構成されたリアクターで、培養の都度定置洗浄(CIP)とスチーム滅菌(SIP)を実施して培養を行うリアクターです。またバイオリアクターとは、ここでは微生物などの細胞を用いて有用物質を生産するための装置を意味します。
※2 本事業
事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
事業期間:2020年度~2026年度
事業概要:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100170.html
※3 本リアクター
培養槽および付帯配管のみ使い捨てのシングルユースとし、その他の撹拌軸、タービン/インペラ(撹拌翼)、他通気デバイスなどをリユースのステンレス製としたハイブリッド型シングルユースリアクターで、スチーム滅菌(SIP)を不要としています。通常、微生物細胞の培養では、動物細胞に比べて高動力での撹拌が必要とされるため、耐久性の低いシングルユースリアクターの使用は不向きであるとされてきました。しかし、本リアクターでは、従来よりも低動力で微生物生産の培養が可能となったことから、培養液が触れる滅菌が必要な部分にのみシングルユース化を施し、それ以外はステンレス製のリユース型とするハイブリッド構造を採用することによって、滅菌行程の簡略化・低コスト化を実現しながら、同時に微生物培養の中でも特に高い撹拌動力を要求される高粘性糸状菌にも適用可能な耐久性を両立させました。
※4 ラシュトンタービン
米国のジョン・ヘンリー・ラッシュトン教授によって発明された撹拌翼で、主にガスの分散を目的としています。水平の円盤に流れに正対する複数の小羽根を取り付けた放射吐出型のタービン翼です。
※5 数値流体力学(CFD)シミュレーション
CFDとは “Computational Fluid Dynamics(数値流体力学)” の略称で、CDFシミュレーションとはコンピューターを用いて流体解析を行うことことです。
※6 東北大学が開発した粘性低減型の菌糸分散株
特許第6647653号・USPT11021725 B2:野生型と比較して高い酵素生産能力を示す菌株です。
※7 NEDOブース
BioJapan 2023へのNEDO出展概要
事業ページ:「BioJapan 2023」への出展
https://www.nedo.go.jp/events/EF_100150.html
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:林(智)、田村、秋葉、峯岸 TEL:044-520-5220
佐竹マルチミクス(株) バイオ事業部 責任者:加藤 TEL:048-441-9200
企画室 担当:山口 TEL:048-441-9200
東北大学 大学院農学研究科 応用微生物学分野 担当:阿部 TEL:022-757-4355
合同酒精(株) 酵素医薬品研究所 担当:堀口 TEL:047-362-1158
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:瀧川、根本、坂本(信)
TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp
E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。
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