【福島県矢吹町】着任半年、データが住民の体を「見える化」する。 地域おこし協力隊・森崇氏が現場で実感したスポーツ×デジタルの手応え
矢吹町は令和5年度より、住民の健康増進と地域の活性化を目的に「スポーツ×デジタル振興プロジェクト」を推進しています。その担い手として2025年11月に着任したのが、教員・ITエンジニアを経てトレーナーへと転じた森崇氏(埼玉県さいたま市出身)です。着任から半年、AI姿勢分析・体組成計(InBody)・Wii Fitを現場に持ち込み、子どもから高齢者まで幅広い層に運動と健康を届けてきました。活動の実際と、令和8年度以降の展望を、本人の言葉でお伝えします。
■ 着任の経緯:「なぜ矢吹町でデジタルなのか?」
Q. これまでのキャリアと、地域おこし協力隊に応募した最大の動機を教えてください。
教員とサッカースクールコーチを経てIT業界へ転じ、ネットワーク運用からWeb開発まで経験してきました。仕事を重ねるうちに「自分は人に何を届けられるのか」という問いがずっとあって。ちょうど競技中の怪我をきっかけに機能解剖学を学び始めていたタイミングで、スポーツ×デジタルの協力隊募集を見つけました。これまでのキャリアが一本の線でつながる感覚があって、応募を決めました。

Q. 数ある自治体の中で、なぜ矢吹町を選んだのですか?
正直に言えば、たまたま募集があったことが大きいです。ただ、決め手が二つありました。一つは、実家のある埼玉・さいたま市から無理のない距離だったこと。もう一つは、北京オリンピック陸上400m代表の千葉麻美さんが現役の町職員として在籍していること。スポーツとデジタルで地域を動かしていく上で、本物のアスリート経験を持つ人が身近にいる環境は、そう多くはないと思いました。
Q. 実際に着任して、矢吹町への印象は変わりましたか?
地方に来る前は、外から入ってきた人間に対して閉鎖的な空気があるかもしれないと少し身構えていました。でも実際は、住民の方がオープンに声をかけてくれたり、困ったときに助けを求めてくれたりする。矢吹町が「日本三大開拓地」の一つと言われる歴史を持つ土地だからかもしれません。新しいことを受け入れる下地が、ちゃんとあると感じています。

■ 活動のリアル:「現場で起きた小さな変化」
Q. AI姿勢分析やInBody、Wii Fitを現場に持ち込んだ際、住民の方の反応はいかがでしたか?
「自分の体が数字になって見える」という体験が、健康に関心を持つきっかけになっています。AI姿勢分析は、本人の感覚と実際の姿勢のズレを可視化してくれるので、「こんな姿勢だったんだ」という気づきが相談のきっかけになる。Wii Fitは、筋トレと言うとなかなか腰が上がらない方でも、ゲーム感覚で自然に体を動かしてもらえます。「またすぐに測りたい」「変化を自分で確かめたい」という声が出てきたのは、手応えを感じた瞬間でした。
Q. 高齢者の方や部活動の学生たちと関わる中で、大切にしているコミュニケーションのコツはありますか?
年代を問わず共通しているのは、まず悩みをきちんと聞くこと、そして一緒に変化を喜ぶことだと思っています。矢吹中学校では4回目の測定を迎えた頃から、生徒たちが自分の体について自発的に話してくれるようになりました。練習の合間ではなく、測定という「立ち止まる時間」があったから出てきた言葉だと感じています。信頼は、接触の回数・対話・時間を重ねる中で積み上がっていくものだと考えているので。

Q. 住民の方の変化を「確信した」と感じた、印象的なエピソードを教えてください。
グループレッスンに継続して参加されている方で、膝か股関節に人工関節を入れていた方がいました。何度かレッスンを重ねる中で、体の動かしやすさが変わってきたと、本当に嬉しそうに話してくださって。1回のセッションでも動きの変化は出せるのですが、積み重ねた先に起きる変化はやっぱり別格です。そういう表情の変わる瞬間が、この仕事をする理由そのものです。

■ デジタルの価値:「数値化することで見えるもの」
Q. 従来の「感覚に頼るスポーツ指導」と「データに基づく指導」には、どんな違いがありますか?
姿勢分析で大きいのは、「本人の感覚」と「実際の状態」のズレを一枚のデータとして共有できることです。感覚だけだと伝わりにくいことが、数字として見えることでお互いの認識がそろいやすくなる。一方で、骨格や筋肉量は人によってまったく異なるので、感覚をベースにした指導も欠かせません。データは感覚の代わりではなく、感覚をより精度よく使うための道具だと思っています。

Q. 矢吹町において、デジタルツールは「測定器」以上にどんな役割を果たしていますか?
一言で言えば、「対話のきっかけ」と「続けるための根拠」です。私自身、着任時と先日のInBodyデータを比べると、体重が落ちて筋肉量が増え、怪我の影響で偏っていた左右の下半身筋肉量が半年でほぼ均等になっていました。数値として変化が見えると、「やってきたことは間違っていなかった」とシンプルに思えます。そういう体験を、住民の皆さんにも積み重ねてもらいたい。データがあると、続けることに理由が生まれます。
■ 未来へのビジョン:「令和8年度、その先の矢吹町へ」
Q. 2026年度以降、このプロジェクトをどのように発展させていきたいですか?
まずは続けられる機会を確実に設けること。グループレッスン・アスリート支援・企業向けヘルスケアの各事業を継続しながら、2026年度は特に役場職員向けの取り組みにも力を入れたいと考えています。肩こりや腰痛を抱えたまま働くことは、生産性が落ちることはデータで出ていますし、痛みを抱えたままポジティブでいることは難しいと感じています。役場が主体で実践して結果を出し、それを外に向けて発信していく。そういった流れが、役場から一般の方、企業、町の外へと自然と広がりを見せる大きなきっかけになると思っています。

Q. 森さんの活動を通じて、3年後・5年後の矢吹町はどんな町になっていてほしいですか?
一人でも多くの人が、自分の体と向き合う時間を日常生活の中で持てるようになってほしい。僕自身、デスクワークで抱えた肩こりが2年間の鍼灸で治らなかった。それを正しく動かすことに切り替えたらいつの間にか良くなりました。体が楽になれば、気持ちも前向きになる。その輪が少しずつ広がって、町全体の空気感がポジティブな循環を生む空気になっていく。そんな広がりが見える町になっていたら嬉しいです。中高生のうちから体の使い方と知識を身につけておくことが、アスリートになるかどうかに関わらず、一生の財産になると信じています。体は、その人が一生付き合っていくものですから。
Q. 最後に、矢吹町の皆さんとこの取り組みに注目している方へ、メッセージをお願いします。
現代の生活は、どうしても体に負荷をかける動作が増えがちです。座りっぱなし、前かがみのスマホ操作——これらは放置すると慢性化していきます。安静にすれば治るわけでも、急に運動を始めればいいわけでもなくて、正しく体を動かす機会を習慣として積み重ねることが大切です。「ロンジェビティ(健康長寿)」という考え方が広がっていますが、難しく構える必要はありません。体に向き合う小さな一歩を、一緒に踏み出してもらえたら嬉しいです。

矢吹町は令和8年度も引き続き、森氏を中心にスポーツ×デジタル振興プロジェクトを推進してまいります。グループレッスン・ジュニアアスリート支援・企業向けヘルスケアの各事業を継続するとともに、新たに地域の子育て支援施設と連動した産前産後の骨盤改善プログラムや、役場職員向けの健康プログラムにも取り組み、町が率先して「体と向き合う文化」を実践・発信する場を広げていく予定です。
一回の参加で終わらせない「継続できる仕組みづくり」を軸に、子どもから高齢者まで、町民一人ひとりが自分の体の変化を実感できる機会を積み重ねていきます。
■矢吹町スポーツ×デジタル振興プロジェクト
・プロモーション動画
https://youtu.be/4HLhWZoJ250?si=vCxvdu1wNb8jZnFf
・WEBサイト
■福島県矢吹町のプレスリリース一覧
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