デジタル化(DX)は進んだ。だが効果実感は約半数(49.4%)——次はAIが“実行”まで担う「AX」。介護の現場で加速する変化を、公表データと出典で整理しました
DX(デジタル化)は変革の土台。その上でAIが判断・実行まで担うのが「AX」です。“入れた”ではなく“回せた”かで差がつき、国の後押しも令和8年、AIケアプラン支援まで広がっています。

■ 令和6年の姿——ICT導入は進んだが、効果実感は約半数
公益財団法人介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査」では、ケア記録・ケアプラン等の入力・保存・転記の機能を日常的に利用している事業所は75.4%にのぼりました。デジタル化そのものは、着実に広がっています。
いっぽうで、ICT機器・介護ロボットを導入しても、「昼間の業務負担の軽減」に効果を感じている事業所は49.4%、「夜間」は44.6%と、効果の実感はおよそ半数にとどまっています(同調査)。「入れたかどうか」ではなく「日々の仕事に馴染ませ、成果に変えられたか」で差がついています。

■ なぜ半数か——デジタル化は「変革」。だが“実行”はまだ人の手に
DX(デジタル化)は、紙や手作業をデジタルに置き換え、記録・情報共有の土台をつくる構造的な変化=変革です。これ自体が大きな前進です。ただしデジタル化の段階では、入力・確認・転記といった「実行」の多くをなお人が担います。効果実感が半数にとどまる背景には、「基盤はできたが、実行の負担までは変わっていない」段階があると考えられます。
■ AI時代の転機——DX(デジタル化)から AX(AIが業務を実行する)へ
AX(AIトランスフォーメーション)は、DXがつくったデジタル基盤の上に、AIが「判断」と「実行」まで担う段階です。デジタルに置き換えるだけでなく、記録・計画・報告といったアウトプットそのものをAIが下書き・実行し、人は確認と判断に集中します。置き換えた上に“実行”が乗るぶん、DXの段階よりも効果を実感しやすい——ここが分かれ目です。生成AIの実用化が進んだ2025年以降、企業でもデジタル化推進の部署をAI活用(AX)の体制に再編する動きが報じられています。
■ これは介護だけの話ではない——AXは、すでに全産業を動かしている
AIによる業務の作り替え(AX)は、いま産業全体を動かしています。総務省の令和7年版情報通信白書によれば、企業は生成AIを文書作成やカスタマーサポート等に活用し、その主な目的は人手不足対策と業務効率化で、約75%の企業が「業務効率化や人員不足の解消につながると思う」と回答しています。人手が足りないから、AIで仕事のやり方そのものを変える——この動機は、介護と同じです。
そして、導入が進むほど「使いこなせたか」で差が開いています。民間の調査(帝国データバンク・2026年)でも、生成AIの活用は「検討」から「実装」の段階へ移りつつある一方、期待を上回る効果を実感できる企業は限られ、二極化が続くと指摘されています。業種によっても活用の進み方に差があります。なお、日本で生成AIの「活用方針を定めている」企業は42.7%で、米国・ドイツ・中国の約8割に比べ、およそ半分にとどまっています(総務省・同白書)。
介護・看護・医療・障害福祉も、この流れの例外ではありません。むしろ、人手不足がもっとも深刻な分野の一つです。他の産業で「AXした事業者」と「していない事業者」の差が開いているのなら、それは介護・看護・医療・障害でも、やがて——そして前述のとおり、すでに——起こることだと考えられます。
■ 介護に問われるAX——省力化だけでは埋まらない構造
介護(要支援を含む)の認定を受けている方は約690万人(令和4年5月時点・介護保険事業状況報告)。一方、介護職員は2026年度に約240万人が必要とされ、2022年度の約215万人から約25万人を積み増す必要があるとされています(第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について)。従業員が「不足」と感じる事業所は65.2%(前年度64.7%/令和6年度介護労働実態調査)、「今の報酬では十分な賃金を払えない」は約39.1%(同調査)です。
この構造は、入力を少し減らすだけでは追いつきません。記録・計画・報告といった、時間のかかるアウトプットそのものをAIが下書きし、専門職が確認・承認する——そうした「業務の作り替え(AX)」が、次に問われる論点になっていると考えられます。
■ 国の後押しは、旗振りでなく「具体策」になっている
国の後押しは、抽象的な呼びかけにとどまりません。少なくとも次の3つが、すでに動いています。
(1)報酬での後押し——「生産性向上推進体制加算」の新設(令和6年度改定)
見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、国の「生産性向上に資するガイドライン」に沿った業務改善を継続し、事業年度ごとに取組の実績データを厚生労働省に報告した事業所に、加算(Ⅱ)として一月あたり10単位を算定できる仕組みが新設されました。テクノロジーを複数導入し、報告データで成果が確認された場合には、より高い評価(加算(Ⅰ))が設定されています。あわせて、利用者の安全と職員の負担軽減を検討する委員会の設置が義務づけられました(経過措置あり)。「入れて終わり」ではなく「成果を報告する」ことまでを報酬の仕組みに組み込んだ点が特徴です。
(2)対象分野の拡充——「重点分野」を9分野16項目へ(令和6年6月)
国が支援の重点を置く介護テクノロジーの分野が、令和6年6月に9分野16項目へと拡充されました。移乗支援・排泄支援・入浴支援・見守り(施設/在宅)・コミュニケーションに加えて、機能訓練支援・食事栄養管理支援・認知症ケア支援の3分野が新たに追加され、記録や情報共有を扱う「介護業務支援」も分野として位置づけられています。名称も「ロボット技術の介護利用における重点分野」から「介護テクノロジー利用の重点分野」へと改められました。
(3)AIまで含む導入支援——「AIケアプラン原案作成支援ソフト」も対象経費に
介護テクノロジー導入支援事業では、都道府県の実施要綱において、介護ソフトやタブレット等に加えて「AIケアプラン原案作成支援ソフト」も対象経費に挙げられています。デジタル機器の導入だけでなく、AIによる業務支援まで、補助の対象が広がっています。
さらに令和8年(2026年)には、厚生労働省が介護テクノロジーの取組事例集やパッケージ導入モデル(改訂版)を公表し、生産性向上の効果測定事業も実施しています。国の関心は「導入したか」から「成果が出たか」へと移りつつあり、これは“入れただけ”を超えるAX(業務の作り替え)の方向と重なります。

■ 現場で起きていること——「デジタル」から「AIで回す」へ
デジタル化だけでなく、AIで日々の業務を回すようになると、現場からは次のような声も出始めています。心理的な負担が軽くなった。到底さばけなかった仕事量が、限られた時間でこなせるようになった。1日では終わらず「夜も気になって眠れない」状態だった業務が、その日の業務時間内に片づき、数年来の悩みが解けた——。こうした変化に触れ、これまでAIに積極的でなかった職員も使い始め、事業所全体へ広がっていきます。この動きは令和6年以降、令和7〜8年で加速しており、令和9〜10年にはさらに大きくなると見ています。
※上記は現場で聞かれ始めている声であり、効果を保証するものではありません。効果は事業所の状況により異なります。
■ “差”は、もう開き始めている——先行して取り組む施設の成果
「入れただけ」と「業務そのものを作り替えた」の差は、数字にも表れ始めています。
・見守り機器を全床に導入した施設では、夜勤職員1人あたりが対応できる利用者数が平均35.2%増えたと示されています(厚生労働省の生産性向上の効果測定・実証)。導入の割合が高い施設ほど、業務時間に占める「直接介護」や「巡回・移動」の時間の割合が下がる傾向も確認されており、リアルタイムに状態を把握できることで、必要なタイミングでケアができるようになったためと推察されています。
・生産性向上に先進的に取り組む特定施設では、介護サービスの質の確保と職員の負担軽減を確認したうえで、人員配置基準の特例的な柔軟化が認められています(令和6年度改定)。取り組みが進んだ事業所は、成果に加えて、経営上の選択肢まで広がる形になっています。
つまり、テクノロジーやAIを「入れたかどうか」ではなく、「業務そのものを作り替え、成果を出せたか(AX)」で、事業所間の差が開き始めています。人手不足が深刻になるほど、この差は経営に効いてきます。

■ 令和6の“DX”と、AI時代の“AX”

AI・AXの導入や、記録をAIに渡す運用にあたっては、利用者の氏名・被保険者番号などの個人情報の扱い(伏字・事業所内ルールの確認)にご留意ください。
■ 整理にあたって
本レポートの割合・推計値は、いずれも国および公益財団法人介護労働安定センターの公表資料に基づいています。数値は1件ずつ原典に当たり、確認できなかったものは掲載していません。割合・推計は各調査・推計の公表時点のものであり、調査年度や集計方法により変わります。AX・DXは業界で用いられている一般的な考え方を整理したもので、特定の製品・サービスを指すものではありません。数値・定義は原典をご確認ください。
■ 出典
出典:厚生労働省ウェブサイト(介護分野における生産性向上、生産性向上の効果測定・実証事業、令和6年度介護報酬改定〔生産性向上推進体制加算・人員配置基準の特例的柔軟化〕、介護テクノロジーの利用促進〔重点分野の改訂〕、介護テクノロジー導入支援事業の実施要綱、介護保険事業状況報告、第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数 等)/公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査」/公共データ利用規約(第1.0版)
本ページは上記を当社が編集・加工したものであり、各府省庁・調査機関の公式見解ではありません。
生成AIの登場以降、多くの企業が「AIに賭ける」「AIで人々の暮らしをより良くする」と動き出しています(総務省白書でも、約75%の企業がAI活用は効率化・人手不足の解消につながると回答)。人手不足がもっとも深刻で、AIが最も必要とされる領域の一つが、介護・看護・医療・障害福祉です。
■ 代表コメント
「介護の“常識”すら、この数年のAXで変わり得るかもしれない——私はそう考えています。5年前からこの課題に取り組み、実際の現場に立ち会ってきました。変化のスピードは加速していて、年・月・週の単位でAXへ進んでいることを、私自身が現場で実感しています。人手不足がもっとも深刻で、AIが最も必要とされるこの領域で、現場の時間を取り戻すAXを、妥協なく本気で進めていきます。」
——株式会社ライフシフト CEO 嶺井政哉
■ 会社概要
会社名:株式会社ライフシフト
所在地:沖縄県南城市
代表者:CEO 嶺井政哉
URL:https://lifeshift-inc.com/
事業内容:国・都道府県・市区町村や調査機関が公表する介護・障害福祉・労務税務の一次情報を整理する取り組み
▼さらに詳しい記事(データ・対照表・進め方の全文)
「介護のDXからAXへ」 https://lifeshift-inc.com/kaigo-dx-ax/
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