死細胞を除去するしくみを利用した新しい免疫治療法の開発

~免疫を高めて抗がん剤の効果を増強するタンパク質を考案~

地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター

地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター(所在地:大阪市中央区、総長:松浦 成昭)の研究グループは、体内の免疫を高めることにより抗がん剤の効果を増強する新しい人工タンパク質「ストラップ(PStRAP)」の開発に成功しました。本研究成果は、2026年5月26日(米国東部標準時)に、米国遺伝子細胞治療学会 (ASGCT: American Society of Gene & Cell Therapy)の学会誌であるMolecular Therapyオンライン版に掲載されました。(紙媒体では本年8月号に掲載予定)

 本研究成果は、がんの新しい治療法の開発に直接つながると期待されます。

開発した人工タンパク質「ストラップ(PStRAP)」について

次世代がん医療開発研究センター 先進探索研究領域 がん免疫療法開発部主任研究員の溝手雄と臨床研究センター所長の田原秀晃らからなる研究グループは、日東電工株式会社との共同研究により、体内の免疫を高めて抗がん剤の効果を増強する新しい人工タンパク質「ストラップ(PStRAP)」を開発しました。

 私たちの体には外敵を排除する免疫と言うシステムが備わっており、細菌・ウイルスのようなよそ者が体の中に入ってきたら、それを攻撃してやっつけてしまいます。一方、私たちの体の中で細胞が死ぬとゴミとなり、蓄積すると邪魔なので除去する必要があります。これは外敵の排除とは異なり、免疫を起こさないように(相手を攻撃せずに)除去する “静かに処理するしくみ”が使われます。がん細胞は、このしくみをうまく使って、免疫から逃れて生き延びていることが分かってきました。そこで研究グループは、通常は免疫を抑える方向に働く“静かに処理するしくみ”を、逆に免疫を高める方向へと変換する「ストラップ」というタンパク質を人工的に開発しました。この「ストラップ」を、がんを患ったマウスに投与すると、がん細胞に対する免疫が強まり、抗がん剤の治療効果が増強されました。

【本研究のポイント】

・新規人工タンパク質であるストラップを用いると、細胞が生体内で処理されるときの“目印”であるホスファチジルセリンを利用して、がんに対する免疫反応を誘導することができた

・ストラップは、タンパク質の製剤として直接投与するだけではなく、近年注目されている「mRNA医薬」の形にしても、がん治療への応用が可能であることを示した

・今回の研究結果を基にした臨床試験を経て、ストラップがこれまでにない革新的な免疫治療となることが期待される

【研究の背景】

 私たちの体では、寿命を迎えた細胞や傷ついた細胞は「アポトーシス(注1)」と呼ばれる細胞死を起こし、掃除役の細胞に速やかに食べられることで除去されます(貪食(注2))。このとき、死に行く細胞の表面には「ホスファチジルセリン(注3)」と呼ばれる“私を食べてください”と、掃除役の細胞に見つけてもらうための目印が現れます。

通常、このしくみは私たちの体の細胞が死んだ時に、免疫反応を抑えて、周囲に影響を及ぼすことなく静かに処理するためのものです。しかし、がん細胞が治療によって死んだ時も、同じようにホスファチジルセリンが出て、「静かに」処理されてしまうことが、がんに対する強い免疫反応が発揮できない原因になっていると考えられています。

そこで研究グループは、「この処理ルートを、免疫を高めるものに切り替えることができれば、死んだがん細胞を利用して、がんに対して強力な免疫反応を誘導できるのではないか」と考えました。

【研究内容】

研究グループは、死んだ細胞の目印(ホスファチジルセリン)を捕らえるタンパク質「MFG-E8(注4)」の一部と、免疫を高める窓口となる「CD91(注5)」に結合するタンパク質「RAP(注6)」をつないだ、新しいタンパク質「ストラップ(PStRAP)」(注7)」を人工的に設計しました。

この「ストラップ」は、ホスファチジルセリンが出ている死細胞と、CD91を持つ免疫細胞の間に入って両者を橋渡しすることで、通常であれば免疫を抑えてしまう死細胞の処理ルートを、免疫を高めるルートへと変換することができます。

このストラップについて、マウスを使って検討したところ、以下のことが明らかとなりました。

・「ストラップ」があると、死細胞の貪食から免疫反応までがスムーズに起こり、がん細胞を攻撃する免疫細胞であるキラーT細胞(注8)の作用が強化され、生きているがん細胞に対する強い免疫応答が起こった

・mRNA-LNP(注9)技術を用いて全身投与した「ストラップ」でも、同様の抗がん剤増強効果が見られた

PStRAPによる抗がん剤治療効果の増強について

【今後の展望】

本研究で開発された「ストラップ」は、いろいろな種類のがんに対する免疫を高めることで、新しいがんの治療方法となる可能性が示されました。

今後は、実際のがん患者さんの治療法とすべく臨床試験に向けた検討を行うとともに、現在使用されている免疫治療薬と併用することで治療効果を強化する研究も進める予定です。

左より、次世代がん医療開発研究センター先進探索研究領域 がん免疫療法開発部主任研究員 溝手雄、臨床研究センター所長 田原秀晃

◇  論文名と著者:

〇 ジャーナル名:

Molecular Therapy  DOI: https://doi.org/10.1016/j.ymthe.2026.05.013

〇 論文名:

“Restricting efferocytosis pathway to CD91 via phosphatidylserine-targeting chimeric protein augments antitumor immune responses”

〇 著者名:

Yu Mizote1,2,†,*, Hiroki Nishita3,4,†, Kazuki Hashiba4, Chisa Okuma4, Sachiko Akane4, Kenjiro Minomi4, and Hideaki Tahara1,3,5

†:共同筆頭著者、*:責任著者

〇 所属機関:

1.大阪国際がんセンター 研究所 がん創薬部

2.大阪国際がんセンター 研究所 がん免疫療法開発部

3.大阪国際がんセンター 研究所 Nitto核酸創薬共同研究部

4.日東電工株式会社 核酸医薬開発統括部

5.大阪国際がんセンター 臨床研究センター

※「研究所」は、2026年度より「次世代がん医療開発研究センター」に変更となりました。

◇  用語の解説:

(注1) アポトーシス:

細胞が自律的に起こす生理的細胞死。細胞の自殺。

不要細胞や傷害細胞を安全に除去するためのしくみ。

(注2) 貪食(どんしょく: phagocytosis):

掃除役の細胞が細胞や異物を取り込み(食べて)、分解する働き。

マクロファージや樹状細胞などの免疫細胞が担う。

(注3) ホスファチジルセリン(PS)

細胞膜を構成するリン脂質の一種。

生きている細胞では細胞の内側を向いているが、細胞死に伴って細胞表面へ露出し、掃除役の細胞に「食べてよい」ことを知らせる目印となる分子。

(注4) MFG-E8 (milk fat globule-epidermal growth factor-factor 8)

私たちの体の中に自然に存在する、ホスファチジルセリンを認識するタンパク質。

死細胞と掃除役の細胞をつないで貪食を促進する役割を持つ。

(注5) CD91

免疫細胞表面に存在する受容体。

細胞由来情報の取り込みや免疫活性化に関与。

(注6) RAP (receptor-associated protein)

CD91に結合するタンパク質。

本研究では、死細胞の貪食をCD91ルートへ誘導するために利用。

(注7) 人工タンパク質ストラップ(PStRAP)

PS-targeted RAPの略。

免疫細胞が死んだがん細胞を処理するルートを誘導してやり、免疫を高める目的で設計されたタンパク質。

MFG-E8のPSを捕える部分とRAPを人工的につなぎあわせて作製。

(注8) キラーT細胞

がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する免疫細胞。

特定の標的(抗原)を認識して排除する能力を持つ。

(注9) mRNA-LNP

mRNA(メッセンジャーRNA; タンパク質の設計図)を脂質ナノ粒子(LNP)に封入して体内へ送達する技術。

COVID-19ワクチンにも使われた技術で、本研究ではストラップを体内で発現させるために使用。

【本研究に関するお問い合わせ】

大阪国際がんセンター 次世代がん医療開発研究センター

先進探索研究領域 がん免疫療法開発部 主任研究員 溝手雄 Email: mizote-yu@oici.jp

【取材に関するお問い合わせ先】

TEL 06-6945-1181

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター

事務局 経営改革グループ

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医療・病院
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会社概要

URL
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業種
医療・福祉
本社所在地
大阪府大阪市中央区大手前3-1-69
電話番号
06-6945-1181
代表者名
松浦成昭
上場
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資本金
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設立
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