【新研究発表】気候変動対策の鍵は「海草藻場」—炭素吸収と経済的損失の抑制に貢献
海草、マングローブ林や藻場などの沿岸植生生態系を保護すれば、2億トンの炭素排出を防ぎ、2000億ドル以上の気候変動による被害を回避できる可能性が明らかに

■要点■
- 海草藻場は、炭素吸収源として極めて重要であり、気候変動、生物多様性、漁業資源の保全に貢献するが、研究と投資が依然として不足している
- コンサベーション・インターナショナルが支援する最新研究により、海草藻場の保全によって最大12億トンのCO₂排出を防ぐ可能性があることが判明
- 熱帯大西洋および温帯南アフリカの海草藻場が、世界で最も高い炭素蓄積量を示す地域であることが明らかに
※本プレスリリースは、2025年5月8日に米国バージニア州本部より発表された研究成果の日本語抄訳版です。
海草藻場が持つ気候変動対策の可能性
コンサベーション・インターナショナルが科学誌『Nature Communications』に発表した最新の国際共同研究により、海草藻場、マングローブ林、藻場などの沿岸植生生態系が、気候変動対策において極めて大きな役割を果たすことが明らかになりました。
この研究では、これらの生態系を保全することで、最大で12億トンのCO₂排出を防ぎ、2,000億ドル以上の気候関連損失を回避できる可能性があると試算しています。これは、米国の約1億世帯が1年間に排出する炭素量に相当します。
海草藻場の炭素吸収能力と地域差
海草藻場は、海底のわずか2%を占めるに過ぎませんが、海洋堆積物中の有機炭素の約50%を蓄積しています。今回の研究では、61か国から収集された3,240点の海草および土壌サンプルを分析し、種や地域によって炭素貯蔵能力に大きな差があることが明らかになりました。
主な研究結果
地理的特性
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熱帯大西洋および温帯南アフリカの海草藻場は、1ヘクタールあたり40.6〜96.2トンの有機炭素を蓄積しており、世界平均(24.2トン)を大きく上回る値を示しました。
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これは、車10〜22台分の年間CO₂排出量に相当します。
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南アフリカ、スペイン、イタリア、ギリシャ、フランス、コロンビア、マレーシアの沿岸デルタ地域も、平均以上の炭素蓄積量を示しています。
経済的影響
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海草藻場が失われると、12億トンのCO₂が大気中に放出され、2,000億ドル以上の経済的損失が発生する可能性があります。
炭素蓄積の最新推定
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海草藻場は、海底堆積物の上部30cmに、1ヘクタールあたり平均24.2トンの有機炭素を蓄積しています。これは、ガソリン車5台分の年間排出量に相当します。
海草の多様性と炭素貯蔵
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炭素貯蔵量は海草の種によって大きく異なり、特に根が発達した種はより多くの炭素を蓄える傾向があります。したがって、藻場の炭素評価には種の特定が不可欠です。
ブルーカーボン生態系保全の重要性
本研究は、既存の海草藻場を保全することが、気候変動を緩和するための最も費用対効果の高い戦略の一つであることを強調しています。今後は、以下のような取り組みが求められます:
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各国のパリ協定へのコミットメントに海草保護を組み込むこと
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炭素クレジット制度における海草の評価方法の拡充
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海草藻場の保全を通じた炭素貯蔵、漁業支援、海岸侵食防止、水質改善といった多面的な共益の実現
■コンサベーション・インターナショナルのブルーカーボン関連プロジェクト
沿岸地域の生計支援と生態系保全を両立する財政的インセンティブを創出
革新的なブルーカーボン研究を推進し、世界的な保全活動を支援
■コンサベーション・インターナショナル(CI)について
すべての人々のウェルビーイング達成のために、自然保護を通じて持続可能な社会の実現を目指す国際環境NGO。現地コミュニティから政府まで、多様なパートナーシップを軸に、科学的知見に基づく戦略と革新的な手法を組み合わせ、世界70以上の国と地域で実践活動を続けている。CIジャパンはグローバルネットワークの一員として、1990年より国内での活動を開始し、保全事業の形成から実施、また途上国の持続可能な支援、企業のサステナビリティ戦略のアドバイスなどを行っている。
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