Nyx Foundation、DEXにおける「見えざるマーケットメイキング」の不公平性を分析する手法を提案
あなたの注文はどのように執行されるのか?JIT取引の実態を44万件の取引データで分析。

一般社団法人Nyx Foundationは、中央管理者のいない分散型取引所(DEX)において、一部の市場参加者のみが利用できるプライベートルートでの取引が、市場の公平性を損なっている可能性を定量的に示す研究論文を発表しました。
これまでブラックボックスとされてきたDEXの取引執行プロセスを、44万件以上の取引データを分析することで初めて可視化した本研究は、国際学会「Financial Cryptography and Data Security 2026」のDeFi Workshopにも採択されており、今後の市場設計や規制のあり方に一石を投じるものと期待されます。
なぜ、あなたの取引は“誰か”に監視されているのか?
株式市場で高速取引(HFT)が情報の非対称性を生むように、1秒を争う金融の世界では、情報へのアクセス速度が取引の有利不利に直結します。
実は、急成長するDEXの領域でも、同様の構造が生まれつつあります。
投資家がDEXで取引注文を出すと、その注文はブロックチェーンに記録される前にmempoolと呼ばれる取引の待合室に一時的に保管されます。
この待合室には、誰でも中を覗ける公開ルートと、特定の専門業者しかアクセスできないプライベートルートが存在します。

問題は、このプライベートルートを利用する業者(ブロック構築者)が、他の市場参加者よりも有利な条件で取引を執行できる可能性があることです。
これは市場の透明性や公平性の観点から長らく問題視されてきましたが、その実態はこれまで誰にも明らかにされていませんでした。
研究概要:“見えざる”取引を大規模データで可視化
本研究では、DEXにおける代表的な取引手法の一つである「Just-in-Time 流動性提供」—ユーザーの取引注文の直前直後に割り込むようにして利ざやを稼ぐ超短期取引に着目しています。
そして、2024年1月から2025年9月にかけて、主要なDEXであるUniswap v3上で発生した約44.2万件のJIT取引データを収集・分析しました。

そして、これらの取引が公開ルートとプライベートルートのどちらを経由したのかを特定し、それぞれのルートにおける市場参加者の構造、手数料水準、収益性の違いを定量的に比較しました。
明らかになった3つの事実
今回の分析により、主に以下の3つの事実が明らかになりました。
-
プライベート取引は、一部のプレイヤーに独占されていたプライベートルートでは、ごく少数のプレイヤーとビルダー(ブロック構築者)に取引が集中している一方、公開ルートではより多くのプレイヤーが競争する構造が確認されました。これは、プライベートルートが一部の参加者にとって参入障壁の高い、閉鎖的な市場となっていることを示唆します。
-
手数料は、プライベート取引の方が低い傾向分析した主要な取引ペアにおいて、プライベートルートを経由した取引は、公開ルートに比べてユーザーが支払う総手数料が小さい例が見られました。これは、プライベートルートの利用が、必ずしもユーザーにとって不利に働くわけではないことを示しています。
-
利益と手数料の連動性が、ルートによって異なる公開ルートでは、取引から得られる利益が大きくなるほど、ユーザーが支払う手数料も増加する強い相関関係が見られました。一方、プライベートルートではその連動性が弱く、特に価格への影響によって得られた利益に対する手数料の支払額が小さい傾向が報告されました。これは、プライベートルートでは、公開ルートに比べて利益が手数料に反映されにくい構造がある可能性を示唆します。
金融ビジネスへの示唆
本研究の結果は、特定の主体だけが利益の抽出機会にアクセスしうるDEXの現状を、実データを用いて初めて浮き彫りにした点で意義があります。
この発見は、今後の金融ビジネスや規制のあり方を考える上で、以下の示唆を与えます。
-
DEX・プロトコル開発者:取引ルートによる価値配分や競争環境の違いを考慮し、より透明性・公平性の高い市場設計を検討する材料となります。
-
市場参加者(投資家・金融機関):自身が利用する取引経路の特性を理解し、コスト構造や競争環境への影響を評価する一助となります。
-
政策・規制当局:オンチェーン市場における注文フローの非対称性や市場の集中度といったテーマを議論する際の実証的な基盤となり得ます。
Nyx Foundationは、ブロックチェーン技術がもたらす新しい金融システムの透明性と健全な発展に貢献するための研究を続けてまいります。
-
論文タイトル:Mapping Public and Private JIT Liquidity Dynamics in Ethereum's Builder Ecosystem
-
著者:Koshi Ota and Davide Rezzoli
-
採択学会:Financial Cryptography and Data Security 2026 DeFi Workshop
-
分析対象期間:2024年1月〜2025年9月
Nyx Foundationについて

一般社団法人 Nyx Foundation(所在地:東京都文京区)は、イーサリアム・ブロックチェーンに特化した私設の研究機関です。
すべての活動資金は寄付・研究助成金・スポンサーシップによって支えられています。そのような資金を原資にイーサリアムの重要課題を解決するための活動を継続してきました。
既にイーサリアム財団やブロックチェーン企業・大学との連携を進め、コロンビア・ビジネススクール等で成果を発表しています。
すべての画像
