えん罪と再審制度に関する意識調査 再審制度の実情を知った人の9割以上が「再審法改正が必要」と回答
えん罪は、国家による最大の人権侵害です。再審とは、誤判により有罪の確定判決を受けたえん罪被害者を救済することを目的とした、裁判のやり直しをするための制度です。当連合会は、これまで数多くの再審事件支援に取り組んできました。近年では、足利事件、布川事件、東京電力女性社員殺害事件、東住吉事件、松橋事件、湖東事件で、それぞれ再審無罪判決を勝ち取っています。現在支援している再審事件は、先般話題になった袴田事件を含めいまだ14件あります。死刑確定から再審開始まで、袴田事件では40年以上もかかりましたが(袴田事件はいまだ無罪になっていません。)、それ以外に、死刑確定後再審で無罪となった事件が4件あり(免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)、いずれも、死刑確定から再審開始まで約20年から30年近くの年月を要しています。その間、無実の人が、いつ死刑を執行されるか分からないという恐怖の日々を過ごしました。
個人の尊重を最も大切な価値として掲げる日本国憲法の下では、無実の者が処罰されることは絶対に許されず、再審請求手続においても、再審請求人の主体性を尊重した適正な手続の保障が必要です。ところが、現行の再審法の規定(刑事訴訟法第4編及びその関連規定)は、再審請求人の権利を保障する規定や具体的な手続規定に乏しく、刑事訴訟法においては、全体で500条を超える条文の中でわずか19条しか存在しません。よって、再審の手続をどのように進めるのかは裁判所の裁量に委ねられている点が非常に多いことから、その判断の公正さや適正さが制度的に担保される仕組みとなっていないのです。
半数以上の人がえん罪に関心を持っている。
えん罪の発生原因として、取調べにおける虚偽自白を挙げる人が6割以上、
全ての証拠が裁判所に提出されないことを挙げる人が5割以上も!
今回の調査によると、9割以上の人がえん罪という言葉を知っており、また約6割がえん罪に「関心がある」「やや関心がある」と回答しています。このことから、えん罪に対する関心の高さがうかがえます。
また、取調べにおいて虚偽の自白が生じることが、えん罪発生の原因になると考えている人が一番多く、6割以上という結果になりました。他にも、警察や検察が持っている、被告人に有利な証拠が法廷で明らかにならないことや、裁判所が評価を誤る、ということも原因の一つとして考えられています。
再審手続の実情をよく知っている人は、4人に1人
えん罪についての関心が高いことが分かった一方、えん罪被害者を救済する手段である再審の手続がどのように行われているかということまで知っている人は多くありません。再審という言葉や内容を知っていると回答した人は約9割でしたが、実際に、再審請求で再審請求人やその弁護人が捜査機関が持っている証拠の全てを見られるわけではない、ということを知っている人は24.8%と、その関心の高さに比べて、再審手続の実情はあまり知られていないことがうかがえます。再審の内容までよく知っている、と回答した人は38.8%いたことを踏まえると、自分では知っていると思っていても、実情まで正しく分かっているとは限らないようです。
また、前述したえん罪の原因について、半数以上は被告人に有利な証拠が法廷で明らかにならないから、と考えていましたが、現在の法律では、捜査機関が持っている証拠の全てを見られるわけではないと知っている人は4分の1以下にとどまりました。
「再審手続の進め方が裁判官によってばらつきがあること」に問題意識を持つ人が7割超
現行の再審法には、再審の手続をどのように進めるのかということについて、ほとんど規定がなく、裁判所の極めて広い裁量に委ねられており、その判断の公正さや適正さが制度的に担保される仕組みとはなっていません。そのため、例えば検察官に対して証拠を明らかにするよう求めたり、証人尋問や現場検証などを行ったりして、事実の究明に熱心に取り組む裁判所がある一方で、再審請求人や弁護人の求めに対して何らの応答もせず、何もせずに放置していると言われても仕方のないような消極的な対応をとる裁判所もあるなど、裁判所によるばらつきが大きいのが実情です。これについて、7割以上の人が、「再審の手続をどのように進めるかということについて、担当する裁判官によって大きなばらつきが生じている」ことは「問題だと思う」と回答しています。
また、再審手続において、証拠開示をした方が良いと考える人は86.8%、再審開始決定後すぐに再審公判を開始した方が良いと考える人は72.6%でした。
現行の再審制度についてどう思うかについては、「えん罪で何年、何十年と服役してからの再審なのだから特に高齢者の場合早急に再審開始決定を行わなければならないと思う」という声や、「再審開始決定が出た場合の検察官の抗告禁止。検察官の抗告は、有罪を立証できる新たな証拠がある場合に限る。弁護士の立証と同等にすべき。」という声も見受けられました。
諸外国に遅れをとる日本
世界に目を向けると、イギリスでは政府から独立した強大な調査権限を持つ公的機関が設立されていたり、日本と同じような再審制度であった台湾でも、2019年の刑事訴訟法改正により、通常審・再審手続の区別なく原則的にすべての記録と証拠物の情報を獲得できるようになったりと、各国で再審制度の改革が進んでいます。
一方、日本では戦後70年以上にわたり、再審法は全く改正されず制度改革は一向に進んでいません。これに対して、このような状況を知った85%以上の人が日本でも法制度や手続を改善すべきだと思う、と回答しており、制度改善に対する熱量の高さがうかがえます。
実情を知ると、再審法の改正が必要と考える人が9割以上
えん罪被害者の速やかな救済のためには、とりわけ、再審請求手続における証拠開示の制度化と、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止の2点は、重要な課題であると考えられます。今回の調査結果でも、そうした実情を知った人の9割以上の圧倒的多数が、日本における再審法改正が必要だと回答しています。
再審法改正の必要な点については、「裁判と言えども人間がやることなので、やり直しという再審をする際には、裁判所とは独立した別の機関が再審の可否を決定するべきだと思う。」や、「具体的な証拠があがってきた場合には速やかに再審手続きを取ることができる点が必要だと思う。」という、第三者機関設立や迅速な再審開始を望む声が多く見受けられました。中には、「袴田さんの様にあれほど無実を訴え、おかしいことが沢山あるのに人生の終末になってもまだ解決出来ない。袴田さんのことを思うと無念でならない。」と、いまだ終わらぬ袴田事件を嘆く声も複数ありました。
再審法改正のために!再審法改正プロジェクト「ACT for RETRIAL」始動!
当連合会では、再審法改正プロジェクト「ACT for RETRIAL」を始動します。関心の高さに比べて追い付いていない再審法の理解を促進することはもちろん、今回明らかになった再審法改正を求める多数の声を、実際の法改正につなげていくために、市民の皆様と共に様々な取組を進めていきます。これにより、日本の再審制度の改革、えん罪被害者のいち早い救済を図っていきます。
■コンテンツ一部紹介「リレーメッセージ」スペシャル動画を公開
えん罪被害者、またその家族として、「ACT for RETRIAL」に賛同する方々のメッセージをご紹介します。
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<調査概要>
調査手法: WEBアンケート方式で実施
人口構成比に基づいてウェイトバック集計
調査対象者:全国の18歳から86歳までの市民
有効回答数:1,200名
調査実施期間:2023年5月15日(月)~2023年5月17日(水)
<本ニュースレターに関するお問い合わせ>
日本弁護士連合会事務局 TEL:03-3580-9841
報道関係者:企画部広報課
報道関係者以外:人権部人権第一課
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