根強いシミにつながる皮膚内部の構造的特徴を発見
シミ部位への新たなアプローチにつながる「ビワ葉エキス」を含有した独自の単層リポソームを開発
富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、皮膚内部構造を観察できる「LC-OCT※1」と独自のAI画像解析技術を組み合わせた研究により、シミ部位では表皮と真皮の境界にある基底膜が大きく変形していることを見出しました。また、変形が大きいほど、シミ形成につながるメラニン量が増加し、皮膚組織の維持に重要なタンパク質であるプレクチンの量が減少していることを明らかにしました。さらに、プレクチンが減少した表皮細胞にはメラニンが蓄積しやすくなる可能性が示されました。これらの研究成果を踏まえ、ビワ葉エキスにプレクチンの発現を促進する作用を見出し、ビワ葉エキスを含有した独自の単層リポソームを開発しました。
当社は、本研究成果の一部を、 2026年11月開催の第4回日本化粧品技術者会学術大会および2027年3月開催の日本薬学会第147年会にて発表します。
研究成果
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「LC-OCT」と独自のAI画像解析により、シミ部位における特徴的な基底膜の陥入構造*2を見出した。
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ヒト皮膚解析により、基底膜の陥入が深い部位ほどメラニン量が増加し、プレクチン量は減少していることを明らかにした。
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プレクチン量を減らした表皮細胞では、メラニンの産生が増え、排出が妨げられる可能性を確認した。
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ビワ葉エキスにプレクチンの発現を促進する効果があることを見出した。
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ビワ葉エキスを独自の単層リポソームに含有した「基底膜浸透型リポソーム」を開発した。
同リポソームが、プレクチンの少ない表皮細胞に、より取り込まれやすいことを実証した。
※1 LC-OCT:Line-field Confocal Optical Coherence Tomography(ラインフィールド共焦点光干渉断層撮影)の略称。皮膚の内部構造を高解像度画像で非侵襲的に観察できる撮像機器。
当社の皮膚研究に活用しており、25年5月に発表した「皮膚内部構造と肌理(キメ)の形状に共通点があることを発見(https://www.fujifilm.com/jp/ja/news/list/12381)」は、Nature Portfolioが発行する英国のオンライン国際学術誌『Scientific Reports』に掲載された。(https://www.nature.com/articles/s41598-026-56985-6)
※2 陥入構造とは、表皮と真皮の境界にある基底膜が真皮側へ深く入り込む特徴的な構造。
皮膚内部構造のイメージ図

研究背景
ヒトの皮膚は、表皮、真皮、皮下組織から構成されており、表皮と真皮の境界には基底膜と呼ばれる薄い膜があります。基底膜は表皮と真皮をつなぎ、皮膚組織の構造を支える重要な役割を担っています。また、基底膜は平らではなく、真皮側へ入り込んだ凹凸構造をしています。
シミは、紫外線などの影響によって色素細胞で作られたメラニンが皮膚の中に過剰に蓄積することで生じます。これまでの多くのシミ研究は、メラニンの生成を抑えることや、生成されたメラニンの排出や分解を促すことを中心に進められてきました。一方で、シミが形成される部位の皮膚内部構造に着目した研究は限られており、メラニンの蓄積と皮膚内部構造との関係は十分に明らかにされていませんでした。そこで当社は、従来の細胞機能に着目した研究に加え、皮膚内部の構造や、その構造の維持に関わるタンパク質とシミとの関係を明らかにすることで、シミ形成に関わる新たな知見の獲得を目指し、本研究に取り組みました。
今回の研究成果の詳細
1.「LC-OCT」と独自のAI画像解析により、シミ部位に特徴的な基底膜構造を確認
当社は、シミ部位における皮膚内部構造を詳細に解析するため、皮膚を非侵襲的に観察できる「LC-OCT」を用いてシミ部位と非シミ部位の構造を比較しました。その結果、シミ部位では、表皮と真皮の境界にある基底膜が真皮側へ深く入り込む特徴的な構造を有していることを見出しました(図1)。

■実験方法
「LC-OCT」とダーモスコープを用いて皮膚表面を拡大撮影し、独自のAI画像解析技術を用いて基底膜を抽出(解析対象者数:22名、解析箇所数:57箇所。右図は抽出した一例)。基底膜の高さをヒートマップ化し、シミ部位と周辺の非シミ部位における構造を比較解析した。
■結果
シミ部位では、非シミ部位と比較し、基底膜の深い陥入構造を確認。
2.基底膜の陥入が深い部位ほどメラニン量が増加し、プレクチン量が減少していることを実証
1.で確認した基底膜の陥入構造と、シミの要因となるメラニン蓄積との関係を定量的に評価するため、陥入部を自動検出する新たなAI画像解析技術を開発しました。本技術を用いて、基底膜の陥入の深さと陥入部に存在するメラニン量を定量解析しました(皮膚断面画像のAI画像解析フローについては、Appendix補足資料1を参照)。その結果、基底膜の陥入が深いほどメラニン量が多いことを確認しました(図2)。

■実験方法
メラニン染色した皮膚切片を解析し、基底膜の陥入部を検出した上で、その深さとメラニン量を測定した(解析対象者数:63名、解析箇所数:97箇所)。陥入の深さとメラニン量の散布図(図2)から相関係数rを算出し、両者の相関関係を評価した。
■結果
基底膜の陥入が深いほどメラニン量が増加する正の相関が認められた(r=0.42)。
さらに、基底膜の陥入部で生じている現象を詳しく解析するため、皮膚組織の構造維持に関わる5種類のタンパク質について、陥入部と非陥入部の発現量を比較しました。その結果、プレクチンが基底膜の陥入との関係が最も強いタンパク質であることを見出しました。さらに、基底膜の陥入が深い部位ほどプレクチンの蛍光強度が低く、量が減少していることを確認しました(図3)。

■実験方法
皮膚組織の構造維持に関わる5種類のタンパク質を染色し、蛍光顕微鏡で観察した皮膚断面像から、基底膜の陥入の深さと各タンパク質の蛍光強度を測定した(解析対象者数:8名、解析箇所数:40箇所)。陥入の深さとプレクチン量の散布図(図3)から相関係数rを算出し、両者の相関関係を評価した。
■結果
基底膜の陥入が深いほどプレクチン量が減少する負の相関が認められた(r=-0.71)。
3.プレクチン量の減少により、メラニンの産生や排出に関わる因子の発現量が変化することを発見
プレクチン量の減少がメラニン蓄積に与える影響を明らかにするため、プレクチン量を減らした表皮細胞を作製し、メラニンの産生や排出に関わる因子の発現量の変化を評価しました。その結果、メラニン産生に関わるPTGS2※3は約80%増加し、メラニンの排出に関わるSTX3※4は約40%減少することを明らかにしました(因子量の増減についての詳細はAppendix補足資料2を参照)。これらの結果から、プレクチン量が減少した表皮細胞では、メラニンの産生が促進される一方で、メラニンの排出は抑制され、メラニンが蓄積しやすくなる可能性が示されました。
※3 PTGS2:プロスタグランジンエンドペルオキシダーゼ2。表皮細胞から産生されるメラニン産生促進因子。
※4 STX3:シンタキシン3。表皮細胞内に取り込まれたメラノソームの細胞外への排出に重要な因子。
4. ビワ葉エキスにプレクチンの発現を促進する効果があることを発見
メラニンの蓄積に影響し、基底膜の陥入との関係が示されたプレクチンの発現を高める素材を探索するため、約70種の候補素材を比較分析しました。その結果、ビワ葉エキスにプレクチンの発現を約30%増加させる効果があることを見出しました(図4)。

■実験方法
表皮細胞にビワ葉エキスを添加し、24時間培養した後、プレクチンの発現量を測定した。ビワ葉エキス未添加の表皮細胞におけるプレクチン量を100%とし、ビワ葉エキスを添加した細胞におけるプレクチンの発現量を相対比で示した。
■結果
ビワ葉エキスを添加した細胞は、未添加の細胞と比較して、プレクチン量が約30%増加した。
5. ビワ葉エキスの基底膜陥入部への送達を目指した「基底膜浸透型リポソーム」を開発
ビワ葉エキスには皮膚に浸透しにくい水溶性成分が含まれており、表皮の奥深くに位置する基底膜の陥入部へ届けることは容易ではありません。そこで当社は、医薬品分野で培った独自の単層リポソーム技術を応用して開発した「表皮用リポソーム」をベースに、成分を基底膜の陥入部付近へ届けやすく設計した「基底膜浸透型リポソーム」を新たに開発しました。本リポソームは、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の知見を応用し、リポソームの外層にオレイン酸(浸透促進剤)を配合することで、細胞に取り込まれやすい設計を実現しました。

プレクチンの発現を抑制した表皮細胞に蛍光色素を含むリポソームを添加したところ、通常の細胞に比較して細胞内への取り込み量が約3倍に増加することを確認しました(図5)。この結果から、今回開発したリポソームは、プレクチンが減少した陥入部の細胞へビワ葉エキスを効率的に送達できる可能性が示されました。


■実験方法
ヒト表皮細胞にsiRNA試薬※5を添加し、72時間培養してプレクチンの発現を抑制した表皮細胞を作製した。同細胞と、通常の細胞それぞれにビワ葉エキスと蛍光色素を含む「基底膜浸透型リポソーム」を添加し、細胞の様子を蛍光顕微鏡で観察。細胞内に取り込まれた蛍光色素の強度を測定した。
■結果
プレクチンが減少した細胞では、通常の細胞と比較して、「基底膜浸透型リポソーム」の蛍光色素の取り込まれる量が約3倍に増加した。
※5 siRNA試薬:細胞内の特定の遺伝子の発現をおさえる試薬。今回は、プレクチンの発現をおさえた。
今後の展開
当社は今後、基底膜の陥入の深さ、プレクチン量およびメラニン量が時間の経過に伴ってどのように変化するかを検証します。さらに、プレクチン量の変化が皮膚組織におけるメラニン産生、排出および分解に与える影響について、詳細に解析していきます。これらの知見を、基底膜構造と色素沈着との関係の解明、および新たなスキンケア研究に活用していきます。
Appendix
【補足資料1】皮膚断面画像のAI画像解析フロー

■実験方法
メラニンの染色を行った皮膚切片の画像からメラニンを検出し、基底膜から真皮側への陥入部を自動で検出する(ピンク、青の囲み部位)新たなAI画像解析技術を開発。本技術を活用し、陥入部の深さと陥入部に存在するメラニン量を解析した。
【補足資料2】プレクチンが減少した細胞におけるメラニン産生および排出因子の発現量変化

■実験方法
ヒト表皮細胞にsiRNA試薬を添加し、72時間培養してプレクチン量を減少させた細胞を作製した。通常の細胞におけるPTGS2とSTX3の発現量を100%とし、プレクチン量を減少させた細胞における両者の発現量を相対比で示した。
■結果
プレクチンの量を減少させた細胞では、通常の細胞と比較して、PTGS2が約80%増加し、STX3が約40%減少した。
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