スポーツ基本法に「気候の変動」はじめて明記 ──より具体的かつ実効性のある気候変動対策を期待

「気候の変動」が明記されたスポーツ基本法に対して、スポーツ業界の環境団体やアスリートは、より具体的かつ実効性のある気候変動対策を期待します。

2025年6月13日、スポーツ基本法が14年ぶりに大幅改正され、「気候の変動への対応」が初めて法文に明記されました。この動きを受け、SDGs in Sports(所在地:東京都、代表理事:井本直歩子)および一般社団法人Protect Our Winters Japan(POW JAPAN)(所在地:長野県、代表理事:小松吾郎)はアスリートやスポーツ団体などと共に、法改正を支持するとともに、今後のスポーツ基本計画において、スポーツ界からの気候変動対策への取り組み姿勢が政策として明記されることを期待します。

◾️スポーツ事故対策にとどまらない「気候変動への対応」が必要

「地球沸騰化」ー地球温暖化が深刻化し、気候変動によって異常気象や自然災害が頻発しています。地球の生態系や人類社会に大きな脅威をもたらしており、スポーツ業界も例外ではなく、猛暑や豪雨による大会の中止、降雪不足によるスキー場の営業への影響など、すでに気候変動はスポーツに多大な影響を与えています。

今回のスポーツ基本法の改正では、第十四条「スポーツ事故の防止等」に関する項目において、国および地方公共団体は「気候の変動への対応に特に留意しなければならない」との文言が新たに追加されました。気候変動とスポーツの関係が法的に位置づけられた重要な一歩です。

しかし、今回の改正が焦点を当てているのは熱中症など、スポーツ事故との関連での気候変動対応に限られています。一方、前述のようにスポーツの実施そのものが脅かされるケースも増えており、スポーツを取り巻く環境はすでに大きく変化しています。人々の健康や文化を育んできたスポーツが持続可能であるためにも、スポーツ業界全体として気候変動に向き合い、適応策に加えて具体的な緩和策が不可欠です。

◾️今後は制度的な後押しが求められる

スポーツ業界においても、温室効果ガスの削減など気候変動の「緩和策」への積極的な取り組みが求められており、特に、施設や大会運営における脱炭素化や持続可能性の確保は、業界として取り組むべき重要課題です。

制度の整備はスポーツ界全体の行動を後押しする土台となります。こうした観点から、次期スポーツ基本計画において、具体的かつ実効性のある気候変動対策が明記されることを期待しています。

◾️各競技団体・アスリート・有識者からのコメント

各競技団体やアスリート、クラブなどの現場からも具体的な対策の明記を求める声が集まっています。

 ◇ 五郎丸 歩(元ラグビー日本代表 )

近年の酷暑により、特に心配しているのが子どもたちのスポーツ環境の悪化です。私自身も経験してきたように、プロ選手には室内競技場の利用や時間帯の調整、万が一に備えたメディカルチームの配置など、万全の体制が整えられています。しかし、子どもたちはそのような環境が整っていない中で、日々の練習や試合に取り組まざるを得ない現実があります。ラグビーをはじめ、屋外で行われる多くのスポーツにおいて気候変動の影響は年々深刻さを増していると強く感じています。そんな中、「スポーツ基本法」に「気候の変動への対応」という文言が加えられたことは、スポーツ界が環境問題と真摯に向き合うための非常に重要な一歩だと受け止めています。長年にわたって受け継がれてきたスポーツの魅力を未来へとつなぐため。そして、次世代を担う子どもたちが安心してスポーツを“選択”できる環境を守るために、元アスリートとして、今できることに常に挑戦し続けたいと考えています。

寺田明日香(陸上・ハードル日本代表) 

種目のほとんどが屋外で行われる陸上競技にとって、最近の夏の酷暑は大きな脅威です。その影響は私たちトップアスリートのみならず、ジュニア世代にとっても非常に深刻です。夏の暑さがピークを迎える7,8月にはインターハイや全国中学などが行われますが、それらの大会で最高のパフォーマンスを発揮するためには、同じ時間帯で練習を積み重ねていく必要もあります。例年8月に開催される世界陸上は、今年の東京大会は暑さを考慮し9月に開催されますが、それでも猛暑が懸念され、対策が求められます。選手たちのパフォーマンスはもちろん、指導者、観客、運営スタッフの命を守るためにも、今回のスポーツ基本法改正により、さらに対策が進むことを期待しています。気候変動の影響を感じながらスポーツをすることが当たり前になっている今、命を守り、スポーツを守るために、私たち全員が環境問題に敏感になり、行動していかなければならないと感じています。

田渡凌(Bリーグ選手会長 )

日々の生活やスポーツ活動を通じて、私たち自身が温室効果ガスを多く排出し、気候変動に加担してしまっているという事実を知り、強い危機感を抱きました。その上で、個人として、そしてアスリートやチームとして何ができるかを考えるようになりました。今回の法改正で、熱中症などの事故を防ぐ対策が進むことは非常に喜ばしいことです。これをきっかけに、気候変動対策の取り組みがスポーツ界全体で加速していくことを期待しています。

辻井隆行(Jリーグ執行役員)

Jリーグでは、熱中症や集中豪雨などの影響が増す中、2023年にサステナビリティ部を設置しました。異常気象による試合中止は2018年を境に約5倍に増え、今年は山火事による試合延期も発生しています。2040年のカーボンニュートラルを目指し、60クラブの社会関係資本を活かした地域創生や気候変動の緩和策を強化しています。こうした取り組みにおいて、自治体との連携や支援は大きな鍵になります。基本法の改正、そして今後予定されているスポーツ基本計画の改訂において気候変動対策が明記されることで、クラブや自治体が気候アクションをより一層進めやすくなる土壌が育まれることを期待しています。

長野県スキー連盟

気候変動は、雪不足や雪質の変化を通じて、スキーという競技そのものに深刻な影響を与えています。長野県スキー連盟は、多くのトップ選手を育成してきましたが、その基盤となるトレーニング環境が気候変動によって損なわれつつあり、強い危機感を抱いています。これは競技にとどまらず、雪とともに暮らしてきた地域の文化や観光・ビジネスにも関わる、重要な課題です。私たち連盟としても、フッ素系ワックスの使用禁止など、環境負荷の少ない競技運営への意識を高めてきました。今後のスポーツ基本計画では、事故防止にとどまらず、脱炭素の支援や気候変動に関する教育、人材育成といった取り組みがより一層進んでいくことを期待しています。

小松吾郎(POW JAPAN代表理事)

雪不足など気候の変化による影響は、プレイヤーにとどまらず、スノーリゾートや地域の宿泊施設、飲食店など、多くの人々にとって切実な問題となっています。だからこそ私たちは、ただ気候変動を見ているのではなく、正面から向き合い、スポーツの力も生かしながら、できることから行動を重ねてきました。そして今、脱炭素に向けた前向きな取り組みは、プレイヤーだけでなく、スキー場や関連企業、地域の方々のあいだでも着実に広がりつつあります。今後のスポーツ基本計画において、こうした現場の動きをさらに後押しするような、具体的で力強い施策が盛り込まれることを期待しています。

井本直歩子(SDGs in Sports代表理事)

変わりゆく気象現象からアスリートやスポーツ愛好家、指導者や観客、運営スタッフの身を守るために、今回のスポーツ基本法改正での言及は大きな意味があると認識しています。国際的なスポーツ団体やリーグ、クラブは2040年までの温室効果ガス排出量実質ゼロを目指しており、気候変動対策が国際大会の招致やスポンサーの獲得にも大きく影響し始めています。日本のスポーツ界が繁栄し続けるために、そしてスポーツが持つ求心力がカーボンニュートラル社会の実現に貢献し、子どもたちにスポーツを楽しめる環境を残すために、この歴史的な転換点が、次のスポーツ基本計画においてさらに加速していくことを期待します。


【SDGs in Sportsについて】

SDGs in Sportsは、スポーツを通じて持続可能な社会の実現を目指す団体です。国内外の有識者と連携しながら、アスリートをはじめとするスポーツ関係者に学びの場を提供し、環境・気候変動への理解促進とともに、リーダーシップの多様化、とりわけ女性リーダーの育成に取り組んでいます。スポーツ×気候アクション基礎講座や各種セミナー、女性リーダーのためのサポートネットワークの運営、日本財団との連携事業「HEROs Pledge」では、スポーツ界から使い捨てプラスチックをなくすプロジェクトも展開。国内外のアスリートやメディアとも連携しながら、政策提言・アドボカシー活動を通じて、スポーツが社会を変える力となることを目指しています。

【POW JAPANについて】

Protect Our Winters(POW)は、気候危機から「冬を守る」ためのムーブメント。2007年、気候変動が私たち滑り手にとって大切なフィールドである雪山に大きな影響を与えることに危機感を感じたプロスノーボーダーのJEREMY JONESが仲間とともに米国でPOWを設立。その後、POWの活動は世界15ヶ国に広まり、日本では2019年からスノーボーダーの小松吾郎を中心に、POW JAPANの活動がスタートした。「行動する仲間たちを増やす」「スノータウンのサステナブル・ゼロカーボンを後押しする」「市民の立場から社会の変化を促す」の3つを軸に、長野県白馬エリアを拠点に、全国のスノーコミュニティへと活動を広げる。スノーリゾートのある地域で講演やイベントを行うなど、自然を愛する日本のスキーヤー・スノーボーダーたちの声を集めムーブメントを広げている。

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会社概要

URL
https://protectourwinters.jp/
業種
財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
長野県 大町市平20022番
電話番号
-
代表者名
小松吾郎
上場
未上場
資本金
-
設立
2018年10月