【イベントレポート】生成AI有識者によるパネルトーク「2024年の振り返りと2025年の動向予測」
一般社団法人Generative AI Japan(所在地:東京都多摩市、代表理事:宮田 裕章、以下「GenAI〈読み:ジェナイ〉」)と、日経BP(本社:東京都港区、社長CEO:井口 哲也)が発行・運営する経済メディア「日経ビジネス」が共同で開催した「生成AI大賞2024」では、業界の専門家や研究者が一堂に会し、生成AIの最新動向や未来の可能性について熱い議論を交わすパネルトークが行われました。「日本における生成AIの現在地と2025年の展望」をテーマに、登壇者たちはそれぞれの視点から示唆に富んだトークが繰り広げられ、参加者にとって貴重な知見を提供する場となりました。本レポートでは、当日の模様を詳しくお伝えします。
■ パネルトーク「2024年の振り返りと2025年の動向予測」実施概要
日時:2024年12月18日(水)※「 Generative AI Conference 2024」内にて実施
登壇者:
・AIセーフティ・インスティテュート 副所長・事務局長/独立行政法人情報処理推進機構 デジタル基盤センター長
平本 健二 氏
・一般社団法人日本ディープラーニング協会 専務理事 岡田 隆太朗 氏
・経済産業省 商務情報政策局 情報処理基盤産業室 室長補佐 杉之尾 大介 氏
・一般社団法人Generative AI Japan 発起人・業務執行理事/株式会社ベネッセコーポレーション データソリューション部 部長 國吉 啓介 氏(モデレーター)
AIが拓いた科学の新たなアプローチ ノーベル賞に見るAIの可能性
パネルトークはGenerative AI Japan発起人で業務執行理事の國吉啓介氏(ベネッセコーポレーション データソリューション部部長)がモデレーターを務め、2024年の振り返りからスタート。口火を切った一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)専務理事の岡田隆太朗氏が2024年のトピックとして挙げたのは、「AI分野のノーベル賞受賞」でした。
2024年のノーベル物理学賞は、ディープラーニングや生成AIの基礎作りに大きく貢献したアメリカ(米)のプリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授とカナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン教授が受賞しています。さらにノーベル化学賞は、アメリカ(米)のワシントン大学のデビッド・ベイカー教授と、イギリス(英)のGoogle DeepMindののデミス・ハサビスCEOとジョン・ジャンパー氏が受賞。Google DeepMindの二人は、たんぱく質の立体構造を高精度に予測するAIモデル「AlphaFold」の開発に関わり、医薬品開発などの大幅な迅速化や精度向上の可能性を拓いたことが評価されました。
岡田氏はJDLAの立ち上げについて「AIは昔からの学問分野ですが、(協会を立ち上げた2017年)当時、ディープラーニングがものすごい性能を上げ始めていて、敢えてAI協会じゃなくてディープラーニング協会という名前にした経緯があります」と振り返った上で、ディープラーニングが科学の新たなアプローチを切り開いている象徴として、2024年のノーベル賞について触れました。
「ディープラーニングど真ん中で物理学賞、化学賞を取ったというのは紹介しないわけにはいかないニュースです。物理学賞ももちろんすごいですが、化学賞を受賞した意義は特に大きいと感じていて。ディープラーニングのアプローチを使ったことによって、今まで分からなかったことが分かるようになり、解決が難しいと思われていた課題も解決できるようになったわけです。化学に限らず、サイエンスの幅広い分野でAIを使ったアプローチがどんどん出てくる、アプローチが変わっていくのを予見するような受賞だったんじゃないかと思います」(岡田氏)
岡田氏がもう一つ、2024年のトピックとして言及したのが「AIの民主化」です。JDLAが2018年に開始した「G検定」(ジェネラリスト検定:ディープラーニングの基礎知識と事業活用能力を認定する資格)と「E資格」(エンジニア資格:ディープラーニングの理論の理解と実装能力を認定する資格)の取得者数が10万人を突破したといいます。
「政府が目標を設定したデジタル推進人材の数には全然足りていませんが、まずは一つの目標だった10万人を超えられた。今日は(生成AI大賞最終審査のプレゼンで)事例の話がいっぱいあって、AIの民主化なんていうキーワードも出ていましたけど、大事なのはジェネラリストだと思うんですよね。全てのビジネスマンがAIを道具として扱えるようになったら、本当に業務が効率化され、新しい価値も生まれてくる。G検定とE資格の取得者数が10万人を超えたというのは、それが現実になりつつあることの象徴だと捉えています」(岡田氏)
動きは速いが日本も徐々にキャッチアップ AI開発に取り組むエンジニアや企業が育っている
続いてコメントしたのは、経済産業省で生成AIの開発力強化を担当する商務情報政策局情報処理基盤産業室室長補佐の杉之尾大介氏です。生成AIを取り巻く環境の変化が加速しているとしつつ、日本のプレイヤーにも十分にチャンスはあるとの見解を示しました。
「生成AIは本当に動きが速い分野で、この1週間、2週間でもいろいろなことが起こっています。この1年を振り返ろうとしても、1年前がどんなだったか思い出すのに苦労しますね(笑)。ただ、生成AIの開発という観点では、ChatGPTが出てきたときは驚くことしかできなかったわけですが、2024年末の状況としては、日本も徐々にキャッチアップしてきていると思っています」(杉之尾氏)
経産省とNEDOは、生成AI領域の開発力強化を目的としたプロジェクト「Generative AI Accelerator Challenge」(GENIAC)を2024年2月に開始。基盤モデル開発のための計算資源の提供支援やコミュニティの運営などを行っています。第1期のプロジェクトでは10件のテーマで基盤モデルの開発に取り組み、2024年10月からは第2期プロジェクトが始動しています。
「第1期は一旦(2024年)8月に開発が終了しましたが、予想していたよりもずっと素晴らしい成果が出ているなと思っています。ようやく日本でもAIを開発できる力が育っていて、優秀なエンジニア、企業が生まれてきているという手ごたえがあります。第2期は言語だけじゃなく他のモーダルや、領域特化のモデルにも、取り組んでいます」(杉之尾氏)
ただし、課題も。杉之尾氏は「日本で開発されたモデルがどんどん使われている状況かというと、まだまだこれから。日本のプレイヤーも利活用に向けたハードルを越えていく必要があります。日本のモデルがどんどん使われるという状況に持っていきたい」と強調しました。
AIの社会的な受け皿づくりが進んだ2024年 安全性評価のガイドライン制定や国際協調も
一方、AIセーフティ・インスティテュート副所長・事務局長で情報処理推進機構(IPA)のデジタル基盤センター長を務める平本健二氏は、「AIの台頭を受けて社会的な受け皿づくりが進んだのが2024年だった」と指摘しました。
AIセーフティ・インスティテュートは、AIの安全性評価に関する基準や手法の検討などを担う機関。2024年2月、内閣府や関係省庁などの協力の下、IPAに設置され、諸外国の機関とも連携して活動しています。具体的な活動成果としては、2024年9月、AIシステムの開発者や提供者がAIセーフティ評価を実施する際に参照できる基本的な考え方を提示した「AIセーフティに関する評価観点ガイド」や、AIセーフティ評価手法の一つであるレッドチーミング手法を解説する「AIセーフティに関するレッドチーミング手法ガイド」を公開。また、総務省と経済産業省が取りまとめる「AI事業者ガイドライン」の作成・更新も支援しています。
「(生成AI大賞最終審査で)素晴らしい利用事例を聞かせていただきましたが、我々の活動は、それを支えるもの、皆さんにAIを安心して使ってもらうためのものです。2023年の年末にこういう組織をつくるという話が持ち上がり、1月初旬にはアメリカに行ってNISTとガイドラインの調整をして、2024年の正月はずっと働いているという、そういう1年の始まりでした。ガイドラインなんかも今、世界各国で次々と出てきています。アメリカもヨーロッパも出しているし、法律もできている。皆さんが開発したAIや関連サービスを海外で提供したい、もしくは反対に海外のサービスを活用したいとなったときに、ルールは国際的に揃っている必要があるし、データの流通も適切にやらなければならないわけで、国際調整がすごく活発になっています」(平本氏)
AIセーフティに関するレッドチーミング手法ガイドを公開した際には、海外の大学などからAIセーフティ・インスティテュートに問い合わせがあり、ディスカッションしたいという連絡も多かったといいます。
「私は政府で働いている期間が長いですが、これだけスピード感のある政策は初めてです。法律の制定や改正は1年単位で動いているのに対して、AIの技術は毎月のように進化しています。四半期ごとに次々とガイドラインが出てくるような状況で、どう国際協調を取っていくのか、すごく難しい問題ではありますが、お互いに高め合っていく取り組みがAIの安全な利用のためには重要です」(平本氏)
2025年は本格的な利活用フェーズに 日本のロボティクスには海外からも注目
2025年の展望についてもさまざまな話題が飛び交い、活発なディスカッションが展開されました。登壇者の共通見解として示されたのは、生成AIの本格的な利活用フェーズに移行する年になるという点です。
岡田氏は「Sakana AIの『The AI Scientist』(アイデア創出から実験、論文執筆、査読まで研究プロセスを自動化するAIエージェント)などが注目されていますが、2025年はこのあたりからより新しいトピックが見つかるんじゃないかと思います」とコメント。デジタル化されている業務であればAIエージェントで大幅な効率化や自動化が期待できるとの見方を示し、「プロンプトをウインドウに書き込むだけの世界から、もう一歩も二歩も進んだ使い方になってきそうです。今日の生成AI大賞ファイナリストのプレゼンでも、そこにつながるような事例がたくさんあり、ワクワクしました」と語りました。
杉之尾氏も、2025年はAIエージェントなどがキーワードとなり、生成AIの利活用が進むと見ているといいます。現在進行中のGENIAC第2期や、次期にあたる第3期では、生成AIの開発力強化と合わせて、利活用の支援もセットで展開していく計画であると説明しました。
「生成AI大賞ファイナリストのプレゼンで素晴らしいなと思ったのが、ベーシックな業務に生成AIを使うだけではなくて、エキスパートの業務フローに入れていく取り組みが見られたことです。そして、トライ・アンド・エラーを重ねて、自分の業務に自分で生成AIを取り入れようとしている。本当に業務に組み入れようとすると、トライ・アンド・エラーは不可欠で、そういう動きを盛り上げていきたいと考えています」(杉之尾氏)
また、杉之尾氏は2025年の注目領域として、「ロボティクス」についても言及しました。「言語以外も音声や画像の生成が可能なAIモデルやサービスの開発が進んでいますが、次なる領域はロボティクスだと思っています。海外企業もどんどん取り組みを進めていて、日本はものづくりに強みがあると言われてはいますが、ここを取れるか取れないかで、製造業の生産性が大きく変わってきます。我々としてもしっかり支援して開発を進めていきたいですし、チャンスはあります」
海外の生成AI関連の技術者や行政関係者と日常的に交流する平本氏も、ロボティクス領域に注力すべきだという主張に賛意を示しました。その上で、海外から日本への期待についてもコメントしています。「海外の関係者と話していると、日本ってやっぱりロボティクスだよねという話題は必ず出てきます。各国、政府にしても民間にしても人が足りない中で、日本には自分たちの強みを生かしてロボティクスや品質といった部分で取り組みを進めてもらい、その成果を活用したいと期待している印象はあります」
ソシオテクニカルやガバナンスの議論も活発化 課題が大きい地方こそAI活用が有効
國吉氏は一方で、「AIを人間のためにどう使っていくか、悪影響も理解、意識した上で社会の中での価値につなげていくことも重要になるのでは」とも問題提起。これに対しては平本氏が、「ソシオテクニカル」や「ガバナンス」をキーワードとして挙げながら、生成AIの本格活用に向けて留意すべきポイントについて言及しました。
「AIの活用が例えば雇用や経済にどう影響するのか、生成結果が人間の心理にどう影響するのかという、ソシオテクニカルの議論が海外では始まっています。また、AIとデータは切り離せない関係ですが、AIガバナンスとデータガバナンスをセットでやろうという議論も活発になっています。先ほど話題に出たロボティクスのようなテクニカルに深く掘り下げていく分野別の展開と、AIを社会にどう定着させてうまく使っていくかという議論は両輪で進めていく必要があり、総合政策としてAIを捉えることが重要になっていると強く感じています」(平本氏)
より長期的な視点でも、生成AI活用の本格化が、「課題先進国」である日本にとっての有効なソリューションになり得るという趣旨のコメントも登壇者から共通して聞かれました。
「JDLAでは『全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)』を実施しています。高専は全国に58校あるんですが、課題先進国である日本でも特に課題が大きい地方で、それぞれの高専が専門分野にディープラーニング、AIを掛け合わせて新しい取り組みをしています。ロードキル対策とか、海苔の養殖をいかに効率化するかとか、東京ではイメージしづらい課題ですよね。そういう事例がいろいろなところで出てくると期待しています」(岡田)
「課題解決を助けてくれるものだという観点でAIを捉えれば、日本は活用の余地が非常に大きい。岡田さんがおっしゃる通りで、課題が大きい地方こそ、AIの受容性も高いという見方もできると思っています。AIもロボティクスも、まさに地域で頑張る製造業を助けるツールになるはずで、地方から事例づくりを盛り上げることも大事な視点だと考えています」(杉之尾氏)
「海外でも、当然、地方ごとに特色や文化の違いはあります。日本の文化が好きで、日本のサービスを使いたい人って、海外にも相当います。特に日本のサービスのユーザーインターフェースは人に優しいと評価されることが多い。店舗で使えるとか、養殖を効率化するとか、日本の地方の課題を解決するソリューションを海外にうまく発信して、展開できるような流れもつくっていきたいですね」(平本氏)
パネルトークの締めくくりでは、國吉氏が「今日のディスカッションを通して、幅広い関係者の活動が積み重なることで生成AIの有効な利活用事例の創出につながり、社会課題の解決にも貢献できることがうかがえました」と一連の議論を総括しました。
【Generative AI Japan概要】
産学連携にて生成AIの活用の促進やルール・ガイドラインの整備、提言などを行い、日本の産業競争力を高めることを目指し2024年1月に発足。代表理事は慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授が務め、理事・顧問には学術界や先端企業の有識者ら18人が就任、70社が会員として加盟。(2024年11月時点)
名称 : 一般社団法人 Generative AI Japan
登記日 : 2024年1月9日
代表理事 : 宮田 裕章
所在地 : 東京都多摩市落合1丁目34番
URL : https://generativeaijapan.or.jp/
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