【BCG最新調査】日本はAIの影響を受けやすい産業構造だが、対応力も高い「バランス型挑戦者」タイプ
世界の国・地域をAI成熟度別に6タイプに分類
経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)は、日本を含む世界73の国・地域を対象にAIに関する成熟度を評価・分析したレポート「The AI Maturity Matrix: Which Economies Are Ready for AI?」(以下、レポート)を発表しました。
BCGの「AI成熟度指標」でAIによる影響の大きさと対応力を評価
調査では、BCGが開発した「AI成熟度指標」を活用し、2つの側面に焦点を当てて評価しています。まずは、AIによって引き起こされる、例えば雇用の置き換えや産業全体の生産性向上といった変化にどれだけ影響を受けやすいかという「AIによる影響の大きさ」の観点。次に、AI活用に伴うリスクに対処しながら経済成長を促進する準備が整っているかといった「AI対応力」の観点で評価しています(図表)。
調査の結果、多くの国・地域で、AIが引き起こすディスラプション(破壊的変革)に対する備えが不十分であることが明らかになりました。調査対象となった国・地域の70%以上が、エコシステムへの参画や人材、研究開発(R&D)といった重要な項目において、中央値を下回る評価にとどまりました。
「情報通信」「金融サービス」「小売・卸売業」などの産業はAIによる影響を受けやすい
レポートによると、AIによる変化の影響を特に受けやすい産業は、「情報通信」「ハイテク製品」「小売・卸売業」「金融サービス」「公共サービス」「自動車製造」の6つです。これらの産業がGDP(国内総生産)に占める割合の高い国・地域は、AIが引き起こすディスラプションの影響を受けやすいと考えられます。ルクセンブルク(金融サービスがGDPの約30%)、香港(金融サービスが22%)、シンガポール(小売・卸売業が16%、金融サービスが14%)が該当します。
一方、AIによる変化の影響を受けにくい産業、具体的には「建設業」「農業」「家具製造業」などが多い国・地域は、ディスラプションの影響が比較的小さいと考えられます。インドネシア(農業が13%、建設業が11%)、インド(農業が17%、建設業が8%)、エチオピア(農業が36%)などが該当します。
日本のGDPは、AIの影響を特に受けやすい情報通信・ハイテク産業が合計7%、さらに小売・卸売業(13%)、公共サービス(17%)、ビジネスサービス(20%)といった産業で構成されており、AIによる影響の大きさは中~大程度と評価されました。
豊富なAI人材を享受する米国、R&Dで先行する中国
2つ目の観点である「AI対応力」については、BCGのASPIREフレームワークを構成する6要素に基づいて評価しました。6要素とは、「目標設定(Ambition)」「スキル(Skills)」「政策と規制(Policy and regulation)」「投資(Investment)」「研究とイノベーション(Research and innovation)」「エコシステム(Ecosystem)」です。
評価対象となった73の国・地域のうち、後述する「AIパイオニア」に分類された5カ国(米国、カナダ、中国、シンガポール、英国)のみ、AI対応力が高い水準に達しています。これらの経済圏は、スキル、R&D、エコシステム、投資の項目で特に先行しています。スキル面で見ると、米国とシンガポールが豊富なAI人材を享受しており、これはイノベーションの推進という面でも重要な要素です。投資面では、成熟した投資環境を背景に、多数のAIユニコーン企業を擁する米国がリードしています。R&Dでは中国が、特許数、AI関連の学術論文数で一歩先を行っています。
日本はスキル、政策と規制の2項目で高く評価されました。特に、政府の実行力が表れる後者のスコアは、東アジア諸国の中で最も高くなっています。
AI導入の状況ごとに6タイプに分類
AIによる影響の大きさと対応力という2つの指標を総合的に分析することで、73の国・地域を、導入状況の異なる6つのタイプに分類しました(上図表)。
①AIパイオニア: AI導入の先駆者であり、盤石なインフラを築いて多様な産業でAIを活用している。R&Dや雇用に惜しみなく投資し、教育システムの下で高度なスキルを持つ人材が豊富に育っている。このタイプに該当する国・地域は、世界に向けてより多くのAI技術、サービス、スキル、投資を提供していき、今後数年でAIがGDPに寄与する割合がさらに大きくなると見込まれる。
②バランス型挑戦者: AIの影響を受けやすい産業の割合が高いものの、対応力の高さによってバランスを保っている。日本はこのタイプに該当する。主に欧州の高所得国で構成されており、そのひとつであるドイツは、大規模な情報通信技術(ICT)産業や先端製造業の割合が高いため影響を受けやすい。欧州以外ではマレーシアが注目を集めており、国家AIロードマップ、テックハブ、大学での人材育成を通じて、政府がAIに非常に注力している。
③成長型挑戦者: 工業・資源依存型の産業構造のため、AIの影響を受けにくい国・地域が多く含まれる。それが「バランス型挑戦者」との主な相違点だが、このタイプに該当する国・地域の政府も「バランス型挑戦者」と同じくらい、AI導入に積極的に取り組んでいる。インド、サウジアラビア、インドネシアなど。
④脆弱な実践者: AIによる変化の影響を受けやすい産業が多いうえに対応力も低い、ディスラプションに対して脆弱な国・地域。AI導入を加速させ、潜在的なリスクを軽減する必要がある。現在はAIによる影響の大きさと対応力の間にギャップがあるかもしれないが、インフラや教育への投資を通じて早期に巻き返せる可能性は十分にある。マルタ、キプロス、バーレーン、クウェート、ギリシャ、ブルガリアなどが該当する。
⑤段階的実践者: AIを緩やかなペースで導入している中所得国が含まれる。観光、繊維、木材加工、農業といった非ハイテク産業を中心に構成されており、現時点ではAI導入が企業にとって必須ではない状況にある。
⑥AI新興国: AI導入の初期段階にある。AIシステムの統合や競争力の面で基本的な水準に達するために、まずは基礎となる戦略やインフラを構築する必要がある。このタイプに該当する国々には国家的なAI戦略や包括的なアプローチが欠けており、スキルを持つ人材や投資も不足している場合が多く、研究論文、特許、スタートアップ面での活動も乏しい。
レポートではさらに、各タイプに対して、取り組むべき一連の施策を提案しています。
レポートの共著者であり、BCGパブリックセクターグループのアジア・パシフィックリーダー兼日本リーダーを務める東京オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー、丹羽 恵久は次のようにコメントしています。「政策立案者はAIが中核となる社会に備え、レジリエンス(適応力)や生産性の向上、雇用創出、産業の高度化、競争力の強化を実現するために、果断な行動をとる必要があります。特に日本においては、AIの社会実装の促進と人材育成が喫緊の課題になると考えられます。今回の調査は、急速に変化するAIの動向に対応する実践的なフレームワークを提供しています。AIが持つ変革の力を、各国の経済の持続的な成長や社会のウェルビーイング向上に活用するための一助となれば幸いです」(ボストン発、2024年11月20日)
■ 調査レポート
「The AI Maturity Matrix: Which Economies Are Ready for AI?」
■ 日本における担当者
丹羽 恵久 マネージング・ディレクター & シニア・パートナー
BCG パブリックセクターグループのアジア・パシフィックリーダー兼日本リーダー。気候変動・サステナビリティグループの日本リーダー。テクノロジー・メディア・通信グループ、社会貢献グループ、および組織・人材グループのコアメンバー。
慶應義塾大学経済学部卒業。国際協力銀行、欧州系コンサルティングファームを経て現在に至る。
中川 正洋 マネージング・ディレクター & パートナー
日本における生成 AI トピックのリーダー。BCG X、BCG パブリックセクターグループ、およびテクノロジー&デジタルアドバンテッジグループのコアメンバー。
早稲田大学理工学部卒業。同大学大学院理工学研究科修了。グローバルコンサルティングファームなどを経て現在に至る。
■ 本件に関するお問い合わせ
ボストン コンサルティング グループ マーケティング 小川・中林・天艸
Tel: 03-6387-7000 / Fax: 03-6387-0333 / Mail: press.relations@bcg.com
ボストン コンサルティング グループ(BCG)
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日本では、1966年に世界第2の拠点として東京に、2003年に名古屋、2020年に大阪、京都、2022年には福岡にオフィスを設立しました。
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