早稲田アリーナ 第1回SDGs建築賞 国土交通大臣賞を受賞
早大のカーボンニュートラル事業を牽引するZEB Ready施設
国内外で、カーボンニュートラルの実現に向けた取組みが加速する中、早稲田大学も行動を起こすべき時が来たと考え、2021年11月1日「Waseda Carbon Net Zero Challenge 2030s」を宣言いたしました。https://www.waseda.jp/netzero/
早稲田アリーナは、BELS(建築物エネルギー性能表示制度)において、基準一次エネルギー消費量の61%削減を実現した、高効率・省エネルギー施設として、ZEB Ready (BEI=0.39)の認証を受けており、早稲田大学の中でも最も環境に配慮された建築物となっています。
早稲田大学WEBサイト ⇒ https://www.waseda.jp/top/news/87365
SDGs建築賞とは
「SDGs建築賞」は、建築物として優れた作品であるとともに建築主、設計者、施工者および利用者の協力により、建築物の計画、生産、運用、廃棄にいたる全ての段階におけるSDGs達成に向けた顕著な取組で、その普及効果が期待されるSDGs建築物を顕彰する賞です。古くは昭和60年度(1985年)に建築省エネルギー賞として始まり、その後、省エネルギー建築賞、環境・省エネルギー建築賞と名称を変え、平成19年度(2007年)からはサステナブル建築賞として隔年で顕彰しています。2022年度からSDGs建築賞に衣替えしています。この記念すべき第1回目には大規模建築部門26作品、中・小規模建築部門8作品の応募があり、大規模建築部門における国土交通大臣賞(1件)として「早稲田アリーナ」が受賞しました。
「早稲田アリーナ」は、「全体を半分地下に埋めて地中熱を利用した省エネルギーを実現し、屋上部分を緑化して豊かな外部空間を創出している建築です。戸山キャンパスの再開発として長い時間をかけて企画を検討してきた結果、学生だけでなくキャンパス周辺の地域と調和を目指すコンセプトになっており、その多くがSDGsのゴールが目指すところと合致しています。具体的には、ゴール4に関連してバイオフィリックデザインによるキャンパスの知的創造性の向上、ゴール5に関連してユニバーサルデザインの推進、LGBT対応、ゴール11に関連して地域・社会との連携強化、ゴール13に関してZEB Readyの実現、ゴール15に関連して第二の大地「戸山の丘」による生物資源・自然環境の保全を掲げ取り組んでいます。これらのコンセプトにしたがって、設計者と施主である早稲田大学がしっかりと考え方を共有して、進められたプロジェクトになっています。
省エネルギーについては、地下に埋めたことで断熱性を高め、地中熱を利用していることが特徴です。そのうえでモニタリングも行い、施設利用状況をリアルタイムに把握できるBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入し、常時モニタリングを実施しています。これにより、性能検証や最適な運転制御を探り続けた結果、同程度の施設と比べて2021年度実績値として71%のエネルギー削減を実現しています。建物使用開始時には、想定以上のエネルギー使用量になったこともありましたが、原因を突き止めて使用ルールをあらためました。大学の利用状況を把握した上での設計と、その後のモニタリングおよび利用方法の改善を続けています。
屋上のデザインについては、緑化された外部空間および隣接するカフェなどによって、学生の憩いの場として利用するだけでなく、休日を含め地域の方々が公園のように活用できるように開放しています。緑については、近辺の戸山公園や早稲田のメインキャンパス等の植生との関係を意識して、計画しました。早稲田界隈に従来から自生する既存樹種を中心に多種多様な植物を混植し、周辺の緑と連続した環境を形成し、地域の生態系を強化しています。
以上のように、大学の体育館と交流の場の施設として、省エネだけでなく学生や地域の住民に対して快適な空間を創出することに成功したことで、本プロジェクトで実現した建築とその後の運用が、SDGsの幅広い項目と合致していた」と高く評価され、受賞に至りました。
早稲田アリーナ:未来の理念を表出する都心型キャンパス
早稲田アリーナは、旧37号館「記念会堂」の老朽化を契機に計画されました。記念会堂は1964年の東京オリンピックではフェンシング会場に用いられるなどの体育館としての機能と、卒業式・入学式などの大講堂・式典会場としての機能を併せ持った施設でした。そのため、早稲田大学にとって大隈記念講堂に次いでシンボル性の高い施設でした。
現在、世界ではSDGsに代表されるように「持続可能な開発目標の設定」と「その実現に向けた方策の立案」が求められています。これに似たような状況が大学を取り巻く環境にも存在しています。地域の持続性を高めるための地域・社会との連携強化や、優れた研究成果や人材を輩出するための知的生産性向上、環境負荷の軽減など、「社会」、「経済」、「環境」の両立を求める課題は多岐にわたっています。
そこで、早稲田アリーナの建築計画にあたっては、設計チームとともに、大学やキャンパス、地域社会が抱える様々な課題を解決するような建築モデルを模索することで、表層的・形態的なものではなく、早稲田大学の未来のビジョンを体現するような環境や風景を生み出し、それらを体験できる場をつくることが、「早稲田アリーナ」が次世代のシンボルとして相応しい施設になると考えました。
早稲田アリーナの最大の特徴は、多機能型スポーツアリーナやラーニングコモンズを内包する複合施設でありながら、建物ボリュームの大半を地下に埋設しているところです。また、その地表に「戸山の丘」と名付けたパブリックスペースを設けています。
関係者のコメント
後藤春彦 早稲田大学副総長(キャンパス企画)、理工学術院教授
- 早稲田アリーナは、「戸山の丘」に代表される周辺環境と調和した生物資源や自然環境の保全と、地下に設置されたアリーナにおける優れたエネルギー効率の実現、この二つの特徴が評価され、環境的側面を重視した建築賞を数多く受賞しています。今日のようにSDGs の思想がまだ普及していない頃に構想されましたが、持続可能な開発目標を具現化していることが先進的であり、今後の建築が担うべきベンチマークを示すことができたと考えています。早稲田大学では、創立 150 周年となる 2032 年を目途にカーボンニュートラルを達成することを宣言しました。今回の国土交通大臣賞の受賞をきっかけに、今後も一層、カーボンニュートラルの実現に向けキャンパスの環境配慮に取り組みます。最後に、早稲田アリーナの建設プロジェクトに携わられた皆様のご尽力に深く感謝いたします。
水越英一郎 山下設計ジェネラルアーキテクト
- 建築分野には多くの賞がありますが、SDGs建築賞では建築作品としての完成度に加え、企画・設計・運用といったすべての建設プロセスについての取り組みや実績が問われています。今回は早稲田大学の将来構想に基づき、設計者・施工者・運営者が一体となった多くの活動の積み重ねが評価に繋がったのではないかと感じています。これからも早稲田アリーナが早稲田大学や地域のシンボルとして多くの方々に愛され続けることを期待しています。
所在地 :東京都新宿区戸山1-24-1
構造/建築階数 :SRC造・RC造・S造/地上4階・地下2階
事業主 :学校法人早稲田大学
延床面積 :14,028㎡
設計・監理
:総合監理)早稲田大学キャンパス企画部
:基本計画・基本設計)株式会社山下設計
:実施設計・監理)山下設計・清水建設設計共同企業体
:ランドスケープ)株式会社プレイスメディア
施工 :2016年2月~2018年11月
竣工 :2018年11月
受賞歴
第6回 鈴木禎次賞 優秀賞(2019年)
第50回 ストアフロントコンクール 銅賞(2019年)
第29回 AACA賞 優秀賞(2019年)
日本建築家協会建築優秀選2019(2019年)
第18回 環境・設備デザイン賞 第Ⅱ部門:建築・設備統合デザイン部門最優秀賞(2020年)
第19回 屋上・壁面緑化技術コンクール 国土交通省大臣賞屋上緑化部門(2020年)
第46回 東京建築賞 東京都知事賞及び一般部門二類最優秀賞(2020年)
第1回 日本建築士会連合会 建築作品賞奨励賞(2021年)
日本建築学会作品選集2021-22(2022年)
日本造園学会ランドスケープ作品選集2022(2022年)
日建連表彰 第63回BCS賞(2022年)
SDGs建築賞(旧サステナブル建築賞)概要
主催 :一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)
(賞の詳細)https://ibec.or.jp/sustainable/building/index.html
後援 :国土交通省
協賛 :(公社)日本建築家協会、(一社)日本建築学会、(公社)日本建築士会連合会、(一社)日本建築士事務所協会連合会、(一社)日本サステナブル建築協会、(一社)建築設備技術者協会、(一社)日本設備設計事務所協会連合会、(一社)日本ビルヂング協会連合会
趣旨 :建築物として優れた作品であるとともに建築主、設計者、施工者および利用者の協力により、建築物の計画、生産、運用、廃棄にいたる全ての段階におけるSDGs達成に向けた顕著な取組で、その普及効果が期待されるSDGs建築物を顕彰するために「SDGs建築賞」の作品募集を実施。
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