ためいきをつく子どもたちに、どうすれば寄り添うことができるかーー【本年度・読書感想文 課題図書】『みんなのためいき図鑑』著者・村上しいこさんのインタビュー
株式会社童心社(出版社本社:東京都文京区 代表取締役社長・後藤修平)は、本年度青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(小学校中学年の部)『みんなのためいき図鑑』著者・村上しいこさんにインタビューしました。
コロナ禍の中、学童保育で出会った子どもたちにためいきの理由を聞いたことが、作品が生まれるきっかけになったという本作。著者の村上しいこさんは、ためいきを擬人化することで、子どもたちの気持ちにふれる作品にすることを考えたといいます。
今の子どもたちのリアルな気持ちを、時にユーモアを交えながらいきいきと描いた物語です。
コロナ禍の中、学童保育で出会った子どもたちにためいきの理由を聞いたことが、作品が生まれるきっかけになったという本作。著者の村上しいこさんは、ためいきを擬人化することで、子どもたちの気持ちにふれる作品にすることを考えたといいます。
今の子どもたちのリアルな気持ちを、時にユーモアを交えながらいきいきと描いた物語です。
トピックス:
・『みんなのためいき図鑑』ストーリー
・「ためいき」を図鑑にする ――村上しいこさんインタビューより
・書誌情報
・著者情報
- 『みんなのためいき図鑑』ストーリー
授業参観にむけて、たのちんの班は「ためいき図鑑」をつくることになった。
どんな時にヒトがためいきをつくのか調べて発表するんだ。
でもいっしょの班の加世堂さんは、保健室登校で、教室にはちっともきてくれない。
加世堂さんもいっしょに図鑑をつくれないかと、たのちんがある提案をしたところ、班のほかのメンバーと、もめてしまい……もうためいきばっかり!
家族や友達との関係にゆれる子どもの気持ちを、鮮やかに描いた物語。
- 「ためいき」を図鑑にする ――村上しいこさんインタビューより——
——「ためいき」を図鑑にするという、おもしろい題材の作品ですね。作品を書かれたきっかけなどあれば教えてください。
子どもたちの「放課後児童クラブ」(学童保育)へ見学に行かせてもらったのがきっかけです。
その中に、ためいきをついている子がいて、私は「あれっ?」て思いました。私の中に、時代が変わっても、子どもたちは、元気なものという、固定観念がありました。
「どうしたの?」って聞くと、 「宿題が、多すぎる!」って言うんですね。当時、コロナの初期というのもあって、プリント学習に頼るしかなかったこともありますが、それでも「まだ習ってないのに、宿題に出された」とか、「オンライン授業だと、先生に質問しても、無視される」とか、いろいろあるんですよね。
他にも聞いていくと、「体操クラブに通ってるけど、指のまめがつぶれて、もう行きたくないのに、今日も練習だ」「田舎のおばあちゃんに会えない」とか、「東京にいるお父さんが、戻って来られなくて、もう半年も会っていない」とか、「僕が誰かを叩くと怒られるのに、どうしてお母さんは僕を叩いてもいいの?」とか、「私たちは、なんにもできないのに、どうしておとなは、オリンピックをするの?」とか……。
そうした子どもたちのためいきに、返す言葉がみつからなかったんです。
「そうだよね。みんなどこにも行けないもんね」と言うと、「ちがう! おとなは行ってる。おとなが飲みに行って感染して、おとなが広げてる。ぼくらはどこにも行ってない」と。
小3の女の子が、「子どもには、なんの力もないのに、おとなは何もしてくれない!」と、怒鳴るように言った言葉が忘れられませんでした。
数年前から、SDGs に代表されるような、「環境問題」や「貧困」「高齢化問題」「原発の問題」「戦争」と、社会的なテーマを含んだ児童書が増えてきました。「さあ、子どもたちよ、考えてくれ!」とばかりに。
私も頑張って書いてきました。
でもそれって、本当に良かったのかな、と、一度立ち止まって、本来の児童文学って何なのか、考えるきっかけになりました。
子どもたちの日常に、もっと、よりそった物語を、私は書きたい! 子どもたちの思いに答えるつもりで、この作品は、生まれました。
以前、日本児童文学者協会新人賞を頂いたとき、古田足日先生に「私も頑張って、ロングセラーになるような作品を書きたいです」と言ったところ、先生から、「そんなことは、考えずに、いまの時代を生きている子どもたちに向けた物語を書きなさい」という言葉をいただきました。今でも、迷ったときにこの言葉に立ち返ります。
いま、目の前のためいきをついている子どもたちに、どうすれば向き合うことができるのか、どうすれば寄り添うことができるのか、どうすれば子ども達の気持ちにもう少し近づけるか考えた時に、ためいきを擬人化してお話を書いて、そうした子どもたちの気持ちにふれる作品にできたらと思いました。
——加世堂さんの描いた絵から生まれた、たのちんの分身のような不思議な存在「ためいきこぞう」は、この作品ならではのおもしろいキャラクターですね。
ためいきこぞうは、たのちんの「かけあい漫才」の相手なんです。
私の作品の場合、作品構造の基本となるのは、かけあい漫才だと思っています。
例えば、デビュー作『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)の、「かめきち」と「しんご」。『ももいろ荘の福子さん』(ポプラ社)の「福子」と「ぼんた」。『神さまの通り道 スサノオさんキレてるんですけど』(偕成社)の「ガンちゃん」と「スサノオノミコト」。「ねこ探!」シリーズ(ポプラ社)の「銀ちゃん」と「猫のピース」など、特に中学年向けのものは、かけあい漫才を大切にしたいと思っています。
それは、つらいとき、苦しいときには、単に「大丈夫」だけじゃなくて、くすっと心がほぐれるような笑いがとても大切だと思っているからです。
私自身が、子どもの頃に親から虐待を受けていた経験があるんですが、くすっと笑わせてくれるような作品に、私も子どもの時に救われてきました。子どもの頃そうした作品に出会っていなかったら、自分自身が壊れていたんじゃないかと思うんです。
ためいきをついている子どもたちに寄り添えたらと考え、デビュー当時に古田先生に言われたように、今の時代を生きる子どもたちに向けて書くことを、今回の作品では特に意識して書きました。
——登場する子どもたち、それぞれがリアルにいきいきと描かれていますね。
できるだけリアルな今の子どもたちの気持ちを描きたいと思い、子どもたちから話をたくさん聞くようにしています。そのうえで、子どもたちが言葉にできないところをリアルに描けたら最高です。たとえば尾崎君。こんなことをいう子は確かにいないかもしれません。でも、そういう思いをもっている子は、きっといるはずだし、その部分で共感してくれたらうれしいです。
この作品は、たのちんが主人公ですけれど、読んでくれた子が、もしかしたら加世堂さんに一番共感できる子かもしれないし、小雪に共感してくれる子かもしれない。そんな風に読んでくれたらうれしいです。
——主人公のたのちん、小雪と加世堂さんなど、登場する子どもたちそれぞれが、自分の気持ちや相手の気持ちにむきあって、思いを言葉にして、前へ進んでいく姿がとても印象的です。
思いを言葉にすることは、おとなにとっても難しいことですが、子どもたちにアドバイスがあれば、教えてください。
作中に「加世堂さんは、自由やねんで。やりたいことを、やろ」という台詞を書きました。今の子どもたちには「やりたいことをやろう」ということを、伝えたいと思っています。
子どもたちには、まず、たくさんの言葉を知ってほしいし、その言葉を自分のものにして欲しい。言葉が増えるということは、それだけ考える選択肢だとか、自分がやりたいことを考え、気持ちの整理をつける選択肢が増えるということです。それは今を乗り越えて、成長していく力になります。
特に、3、4年生は、感情や気持ちの、心の枝葉が伸びていく時期だと思います。この時期により多くの言葉や感情にふれることがすごく大事だと思っています。
その意味で、この『みんなのためいき図鑑』の中には、いろんな気持ちを抱えた子どもたちが登場しています。たくさん言葉を知って使える方が、人に共感することができるし、自分の気持ちを伝えることができます。いろんな気持ちをこの作品を読んで疑似体験してくれたらいいなって思っています。
そして、自分の気持ちをグループでもいいし、大好きな気のあう友達でもいいし、家族でもいいので、伝えられるようになってほしいです。
自分の中に気持ちを抱えるのではなくて、ため息をつける相手、ため息を出せる相手をみつけてほしいし、自分のふっと出るためいきを共有できる友達、共感してあげられる友達が増えたらいいなと思っています。
(村上しいこさんインタビューより抜粋)
インタビュー全文はこちら
https://www.doshinsha.co.jp/news/detail.php?id=2707
- 書誌情報
書名:みんなのためいき図鑑
作:村上しいこ 絵:中田いくみ
定価:1,320円 (本体1,200円+税10%)
判型:A5判
サイズ:21.6×15.1cm
ページ数:166ページ
ISBNコード:978-4-494-02070-6
発売日:2021年7月7日
対象:小学校中学年から
童心社ホームページ:https://www.doshinsha.co.jp/search/info.php?isbn=9784494020706
- 著者情報
【著者プロフィール】
村上しいこ:三重県生まれ。『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)で日本児童文学者協会新人賞、『れいぞうこのなつやすみ』(PHP研究所)でひろすけ童話賞、『うたうとは小さないのちひろいあげ』(講談社)で野間児童文芸賞を受賞。「日曜日の教室」シリーズ(講談社)「わがままおやすみ」シリーズ(PHP研究所)『ねこなんて いなきゃ よかった』(童心社)など著書多数。
【画家プロフィール】
中田いくみ:埼玉県生まれ。絵本に『やましたくんはしゃべらない』(岩崎書店)『ママ、どっちがすき?』(パイ インターナショナル)、挿絵に『きみひろくん』(くもん出版)、装画を手がけた作品に『ぼくだけのぶちまけ日記』(岩波書店)『with you』(くもん出版)、漫画に『つくも神ポンポン』『かもめのことはよく知らない』(いずれもKADOKAWA)など。
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