【徳島大学】DNAをより簡便かつ高速に合成する新手法-RNAにも応用可能で、医療・創薬・生命科学を支える技術-

国立大学法人徳島大学

令和8年6月23日

国立大学法人徳島大学

https://www.tokushima-u.ac.jp/

■ポイント

・オリゴヌクレオチド (DNA/RNA)※1 は核酸医薬の広がりや遺伝子解析の進展を支える医療・創薬・生命科学の基盤です。しかし、その化学合成法には、原料の安定性や合成効率の面で長年の課題がありました。

・本研究では、オリゴヌクレオチドの合成に利用できる新しいビルディングブロック)※2 として、「ヌクレオシド 3′-ホスホロフルオリダート [P(V)–F]」を開発しました。これにより、従来法より簡便な工程で、オリゴヌクレオチドを高速に鎖伸長できる新しい化学合成法を実現しました。

・本成果は、核酸医薬や遺伝子検査用材料のより効率的な製造につながる可能性があります。将来的には、製造コストの低減や安定供給、環境負荷の低減を後押しする新たな基盤技術として期待されます。

■概要

 徳島大学大学院薬学研究科の三原 菜那 大学院生、徳島大学大学院医歯薬学研究部薬学域の田良島 典子 准教授、南川 典昭 教授らの研究グループは、徳島文理大学との共同研究により、オリゴヌクレオチド (DNA/RNA) を、より簡便かつ効率よく作る新しい化学合成法を開発しました。

 オリゴヌクレオチドは、核酸医薬や遺伝子解析を支える重要な分子です。しかし、現在の標準的な化学合成法であるホスホロアミダイト法※3 では、反応性の高い三価のリン[P(III)]※4 型ビルディングブロックの安定性が不十分であることに加え、一塩基鎖伸長するたびにリン原子をP(III) からP(V) へと酸化する必要があることから、合成工程が煩雑になるという課題がありました。

 そこで研究グループは、70 年以上前にオリゴヌクレオチドの世界初の化学合成が達成された際の初期研究※5 に着想を得て、五価リン[P(V)]型の新しいビルディングブロック「ヌクレオシド 3′-ホスホロフルオリダート [P(V)–F]」を開発しました。この原料は保存可能な高い安定性を示し、シリコン系添加剤で活性化することで、酸化工程を必要とせず、従来法よりも速くオリゴヌクレオチド鎖を伸長できることを示しました。さらに、標準的なDNA/RNA 自動合成装置を用いて10 量体、12 量体、20量体の合成にも成功し、DNA に加えて化学修飾RNA※6 への展開可能性も示しました。本成果は、核酸医薬や遺伝子検査を支える合成基盤の新たな選択肢となるもので、将来的には製造効率向上、コスト低減、安定供給、環境負荷低減への貢献が期待されます。

 本成果は、2026 (令和8) 年6 月19 日付で『Journal of the American ChemicalSociety (JACS)』オンライン版に掲載されました。

■研究の背景と経緯

 オリゴヌクレオチドは、核酸医薬開発や遺伝子解析などを支える重要な基盤材料です。そのため、オリゴヌクレオチドを効率よく化学合成する手法は、生命科学や医療・創薬の分野で極めて重要です。

 現在、オリゴヌクレオチドの合成・製造で広く使われている標準技術は、三価のリン[P(III)]基質をビルディングブロックに用いるホスホロアミダイト法です (図1)。1980 年代初頭に開発されたこの方法は、多くの実績をもつ一方で、原料の安定性に改善の余地があること、さらにオリゴヌクレオチド鎖を一塩基鎖伸長するたびに、リン原子をP(III) からP(V) へ変換する酸化工程が必要になることが課題でした。この酸化工程は、操作を複雑にし、合成効率の低下にもつながります。

 これに対して、鎖伸長の際に酸化工程を必要としないP(V)型の合成法は、古くから知られていました。しかし、従来のP(V)型の合成法には、

(1)反応性が低く、鎖伸長が進みにくい

(2)ビルディングブロックの安定性が十分ではない

(3)鎖の伸長に伴って負電荷が蓄積し、反応効率や溶解性が低下する

といった問題があり、主流技術にはなりませんでした。

 近年、P(V)型の新しいオリゴヌクレオチド合成法への関心が再び高まっています。しかし、天然型のリン酸ジエステル結合※7 をもつオリゴヌクレオチドを、安定なビルディングブロックから、酸化工程なしで効率よく合成する方法は、これまで十分には確立されていませんでした。

■研究の内容と成果

 本研究では、1951 年に報告された世界初のオリゴヌクレオチド (二塩基長のDNA) の化学合成研究に着想を得て、「ヌクレオシド 3′-ホスホロフルオリダート [P(V)–F]」 を新しいビルディングブロックとして用いる手法を開発しました (図2a)。その結果、P(V)型でありながら、ビルディングブロックの安定性と優れた反応性を両立できることを示しました。実際に、開発したP(V)–F 型ビルディングブロックは、単離保存が可能な安定性を示しました。

 さらに、シリコン系添加剤を用いてP(V)–F 結合を活性化することで、ヌクレオチド同士のカップリング (鎖伸長) 反応が円滑に進行することを見いだしました。その反応速度は、従来のP(III)型ホスホロアミダイト法との比較において、より速い結果を示しました (図2b)。これは、これまでP(V)型合成法の弱点とされてきた「反応の遅さ」を克服する重要な成果です。

 本手法では、オリゴヌクレオチド鎖を伸長する過程で分子を中性に保つことができます。このため、従来のP(V)型合成法で問題となっていた、負電荷の蓄積による反応効率の低下を避けることができます。加えて、各合成サイクルでリン原子の酸化工程を必要としないため、工程の簡略化も実現しました。本研究は、P(III)型とは異なる原理に基づく、新しいオリゴヌクレオチド合成基盤を示したものです。

 実際に、標準的なDNA/RNA 自動合成装置を用いて、10 量体、12 量体、20 量体のオリゴヌクレオ

チド合成に成功しました(図3)。これにより、本手法が概念実証にとどまらず、自動合成へ展開できることも実証されました。

 学術的には、長年にわたりP(III)型ホスホロアミダイト法が中心であったオリゴヌクレオチド化学合成において、P(V)型でも実用性のある合成戦略を構築できることを示した点に大きな意義があります。これは、約40 年にわたって業界標準であった従来法を補完し得る、P(V)ベースの新たな実用的プラットフォームを提示する成果であり、核酸合成化学の選択肢を大きく広げるものです。

■今後の展開

 オリゴヌクレオチドは、核酸医薬、遺伝子解析、研究用試薬など、幅広い分野で利用されています。その製造技術を高度化することは、将来の医療や創薬を支える基盤の強化につながります。本成果は、生命科学研究や核酸医薬開発を支えるオリゴヌクレオチドの製造プロセスを、根本から見直し、簡略化する新しい基盤技術となることが期待されます。

 今回の成果はまだ基礎研究の段階ですが、酸化工程を省略できること、そして安定なビルディングブロックを利用できることから、今後、合成・製造効率の大幅な向上につながる可能性があります。将来的には、核酸医薬の製造コスト低減、製造工程の効率化、さらには医薬品の安定供給や環境負荷の低減に貢献する、新しい産業基盤へ発展することが期待されます。

 また、長年標準法として使われてきたP(III)型ホスホロアミダイト法に対し、かつては非効率と考えられていた古典的なP(V)化学を、70 年以上を経て独自の工夫で実用的な手法としてよみがえらせた点も、本研究の大きな特徴です。既存の常識を乗り越え、新しいものづくりへつなげる科学技術のブレークスルーといえます。

■用語解説

※1 オリゴヌクレオチド (DNA/RNA):

DNA やRNA を構成する基本単位であるヌクレオチドが、短く連なった分子。遺伝子解析、PCR 用プラ

イマー、研究用試薬、核酸医薬などに広く用いられる。

※2 ビルディングブロック:

DNA やRNA 鎖を合成するために材料として用いられる基本構成単位。DNA やRNA は、A、T(U)、G、C といった核酸塩基を含む基本構成単位が、決まった順序で鎖状につながることで合成される。これらの構成単位を、建物を組み立てる部品になぞらえて「ビルディングブロック」と呼ぶ。

※3 ホスホロアミダイト法:

現在、DNA やRNA などのオリゴヌクレオチド合成に広く用いられている標準的な化学合成法。三価の

リン[P(III)]をもつビルディングブロックを順次つなぎ、各段階でP(III)をP(V)に酸化して目的の結合を形成する。高い実績をもつ一方で、酸化工程が必須であることや、原料の安定性に課題がある。

※4 リン原子の価数 [三価P(III)と五価P(V)]:

三価P(III)と五価P(V)は、原料中のリン原子の化学状態を表す用語であり、リン原子がまわりの原子と結びつく結合の“手の数”の違いに対応する。P(III)とP(V)では反応性や安定性が異なるため、合成戦略を考えるうえで重要な指標となる。

※5 オリゴヌクレオチドの世界初の化学合成が達成された際の初期研究:

1951 年に報告された世界初のオリゴヌクレオチド (二塩基長のDNA) の化学合成研究。二つのヌクレオチドがつながったDNA の化学合成を初めて報告した研究で、Todd 博士らがP(V)型の合成法であるホスホロクロリダート法により実現した初期の核酸化学合成研究として知られる。オリゴヌクレオチド化学合成の原点の一つであり、本研究の着想源となった。Todd 博士は後に、ヌクレオチド及びヌクレオチド補酵素の研究により1957 年ノーベル化学賞を受賞した。

※6 化学修飾RNA:

化学的修飾を導入した、天然型とは異なる構造を有するRNA 様分子。核酸医薬の開発では、生体内安定性の向上などを目的として、天然型RNA に代えて化学修飾RNA が広く用いられる。

※7 リン酸ジエステル結合:

DNA やRNA の骨格を形づくる、リン酸を介して隣り合うヌクレオチド間をつなぐ結合。生体内の天然

の核酸でみられる基本的な結合様式である。

■研究プロジェクトについて

 本研究は、徳島文理大学薬学部の張 功幸 教授らの協力の下、行われました。

 また、科学技術振興機構 (JST) 創発的研究支援事業 (JPMJFR2429)、日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費助成事業 (JP25K02424、JP26KJ1757、JP22K06527、JP24K22023) 及びJST 次世代研究者挑戦的研究プログラム (SPRING) (JPMJSP2113) の支援を受けて実施されました。キヤノン財団、長瀬科学技術振興財団、高橋産業経済研究財団及び内藤記念科学振興財団のご支援もいただきました。

■論文情報

掲載誌: Journal of the American Chemical Society (JACS)

論文名: Nucleoside 3′-Phosphorofluoridates for P(V)-Based Oligonucleotide Synthesis.

著者名: Nana Mihara, Syuya Inoue, Kazuho Okunishi, Yasufumi Fuchi, Yuta Ito,

     Yoshiyuki Hari,Tsubasa Inokuma, Noriaki Minakawa,

             and Noriko Saito-Tarashima (責任著者)

DOI 番号: 10.1021/jacs.6c04623

■関連リンク

・徳島大学×J-PEAKS

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設立
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