アーチ、グラフィニカ、アニメーションのルック開発支援を目的とした新規Blenderアドオンを実現し、プロトタイプ作品「Forest Tale」を公開!
アーチ株式会社(以下「ARCH」)及び株式会社グラフィニカは、アーティストが3DCGアニメーションのルック開発を直感的に試行錯誤しやすくし、また従来は困難だった複雑なスタイルを実現可能にすることを目的として、ルック開発支援技術の研究開発を推進してきました。この度、アーティストが利用可能なBlenderアドオンの新規開発に成功し、これを利用してプロトタイプ作品「Forest Tale」を制作しましたので、公開いたします。
▼グラフィニカ 公式YouTubeチャンネル「Forest Tale」 Technical study ver.
https://www.youtube.com/watch?v=EJ_vwZbOFCs
本プロジェクトの狙い
株式会社グラフィニカでは、創造的なアニメーションを実現するためのルック開発工程を重要視しています。しかしながら、従来の3DCGアニメーションのルック開発では、アーティストの頭の中にある理想的な表現を見つけだし実現するまでの道のりが、本質的でないツール操作に阻まれ、試行錯誤の手間が著しいため極めて長大になる課題がありました。さらに、水彩風、油絵風といった複雑なスタイルは、そもそも現実的な3DCGアニメーションの制作工程を実現することが困難である課題もありました。これらの課題を情報技術によって解決することを目的として、ARCH及び株式会社グラフィニカの研究開発チームが協力して本プロジェクトが始まりました。
プロジェクトの研究開発にあたっては、SIGGRAPHに代表される3DCG分野の国際会議などで学術発表が行われてきた「スタイル転写」と呼ばれる技術を参考にしました。この技術を応用することで、アーティストによる手描きの絵の質感を3DCGに適用することができます。当技術は学術的には知られていましたが、アニメスタジオでの実用事例が存在せず、アニメ的な表現のプロダクションで実用できるか、またどのようにプロダクション工程に組み込めば良いかは全くの未知数でした。そこで、3DCG分野において国際的に活躍する研究者で、スタイル転写技術に顕著な専門性を持つ藤堂英樹氏(拓殖大学)を迎え、株式会社グラフィニカの研究開発チームが中心となって、実際の映像制作でも使えるような技術の選定とその組み込み方を検討し、Blenderのアドオン開発を行いました。
当アドオンを利用すると、アーティストが2Dイラストのブラシツールを用いてシンプルな3D形状の上に望ましいルックを描くだけで、Blender上の3DCGシーンにブラシの描線を的確に反映したスタイルが転写されます。さらに、独自の技術的工夫により、静止したモデルへのスタイル転写だけでなく、アニメーションさせた場合でも時間連続性が保たれた破綻のないスタイル転写を実現しました。
当アドオンは、大量の学習データを必要とする生成AIなどの機械学習技術とは全く動作原理が異なります。アーティスト自身が描いた少数のサンプル画像のみを用い、そのスタイルを3DCGシーンに転写するものであるため、一般的な3DCGクリエータ向けPCで十分高速に動作し、またその挙動の制御が比較的容易です。これにより、多様なルックの3DCGアニメーションを、通常のアニメーション制作フローと変わらない機材で、少ない労力で制作可能になりました。
プロトタイプ作品について
本プロジェクトの技術検証のため、プロトタイプ作品「Forest Tale」を制作しました。グラフィニカ 公式YouTubeチャンネルにて、スタイル転写を適用したものと、適用しなかったもの、2バージョンを公開しております。
▼グラフィニカ 公式YouTubeチャンネル「Forest Tale」 Orthodox method ver.
https://www.youtube.com/watch?v=YdiCAhUHXgc
▼グラフィニカ 公式YouTubeチャンネル「Forest Tale」 Technical study ver.
https://www.youtube.com/watch?v=EJ_vwZbOFCs
なお、「Forest Tale」制作にあたっては、特に、監督を務めたマイケル・アリアス氏と、企画およびプロデューサーを務めたサラマンダーピクチャーズの櫻井氏を始めとするスタッフの皆さまには、プロトタイプ作品の演出面や座組構築だけでなく技術開発へのご意見など多大なる協力を頂いております。このような先進的な取り組みに積極的に取り組まれてきた先人として、幾度となく、映像へのフィードバックや将来性のディスカッションにお付き合い頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。
株式会社グラフィニカのアニメーションディレクター小野竜太による、「ForestTale」制作で当アドオンを使用した所感を記載します。
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スタイル転写技術(以下:当技術と省略)は主にアーティストのスタイルを映像に落とし込む事に長けた技術だと思われます。
とあるスタイルを映像で再現しようとすると、今までは多大な労力をつぎ込まないと中々実現が難しかったが、本技術を用いる事でかなりの労力を抑える事が出来ると感じます。
また、すでに出来上がった映像に対してもスタイルを適応する事が可能なので、このシーンはこのアーティストのタッチで、キャラクターだけは違うアーティストのタッチを組み合わせてみるなど、複数のスタイルを映像に当てはめ、トライアンドエラーを繰り返し行える点も面白いと思います。
または、今までは1枚の絵でしか表現できなかったアーティストも当技術を使う事で新たに映像として自身の世界観を表現できることも可能でしょう。
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本研究開発プロジェクトの途中段階での技術的な検討内容については、2023年8月に開催された日本国内最大のゲーム開発者向け技術交流会「CEDEC 2023」でも紹介しました。ARCHの研究開発部門「Arch Research」Webサイトにて、当時のスライドなどを公開しております。
▼Arch Research「CEDEC 2023」特設サイト
https://research.archinc.jp/events/cedec-2023/
アーチ株式会社について
アーチ株式会社(ARCH)の研究開発部門Arch Researchは、設立以来、アニメ制作に関わる人々が創造性を発揮できる環境を実現するための研究開発を続けてきました。2024年には、絵コンテ制作ツール「Griffith」の研究成果をトップ国際会議ACM CHI 2024で発表し、日本のアニメ制作工程について国際的な場で発信した他、アニメ制作に特化したストップウォッチの無償Webアプリ「Griffith Stopwatch」を公開しました。本プロジェクトもそうした取り組みの一環であり、今後も、アニメ業界に広く裨益する創造性支援技術の研究開発を継続していきます。
会社紹介:
2017年に創業したIP・アニメーション作品のプロデュース会社。アニメをはじめとした映像作品の企画開発・プロデュースや、アプリゲームのIP展開プロデュースなどが主な事業。最新テクノロジーや業界の枠を超えた企画、実装への施策を提供。
主な実績に、劇場アニメ「プロメア」(宣伝・プロデュース協力)、WEBアニメ「みるタイツ」(プロデュース)、「呪術廻戦」領域大展開キャンペーン(企画・プロデュース)をはじめ、サウジアラビアのコンテンツ企業・マンガプロダクションズと東映アニメーションが共同製作する劇場アニメ「ジャーニー(The Journey)」のプロデュースを担当。
本件に関するお問合せ先:info@archinc.jp
アーチ株式会社 代表取締役社長 鈴木哲史
代表取締役 平澤直
株式会社グラフィニカについて
グラフィニカは、作画、CG、色彩設計、美術、デザイン、撮影、編集といったアニメーション制作のほぼ全てのプロセスを社内でカバーすることが出来る総合制作スタジオです。アニメーションの元請制作受注のほか、アニメーションで培った表現や技法を応用してゲーム、CM、実写PV、遊技機、Live2Dなどの幅広いジャンルで様々な映像作品を制作しています。さらに、グラフィニカは研究開発にも力を入れ、ゲームエンジンを使用したユーザーの「体験価値」の高い新世代の映像コンテンツの制作や、論文の技術実装など、最先端テクノロジーを活用したアニメーション制作のイノベーションを推進しています。
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