WHOが最も警戒する真菌「カンジダ・アウリス診療の手引き 第2.1版」公開 多剤耐性真菌アウトブレイクの脅威

 AMR臨床リファレンスセンターでは、政府で策定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023‐2027」に基づき、AMR対策を進めています。AMR対策の基本は抗微生物薬の適正使用と感染対策です。抗微生物薬の適正使用とは、抗微生物薬が必要な疾患に対して、適切な抗微生物薬を、適切な使い方で治療することです。

 2026年3月、「カンジダ・アウリス診療の手引き第2.0版」が公開、その後、 同年7月に第2.1版へ更新されました。Candida auris/ Candidozyma auris(以降、カンジダ・アウリス)は、薬剤耐性の点から、現在、世界で注目されている真菌です。 

今回は同手引きの制作にあたった、国立健康危機管理研究機構の石金正裕先生に、医療者が知っておくべき知識をお話しいただきました。

石金 正裕
(Masahiro Ishikane)

国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 国際感染症センター/

AMR臨床リファレンスセンター WHO協力センター(JPN‐94・JPN‐98)

医師 医学博士

佐賀大学医学部卒業

医学博士 (東北大学大学院医学系研究科, グローバル感染症学講座, 感染症疫学分野)

沖縄県立北部病院 初期臨床研修

聖路加国際病院  内科感染症科後期研修

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP) 修了

本ニュースレターのサマリー

  • カンジダ・アウリスは、多剤耐性を有する確率が高く、長期間、環境やヒトの皮膚・粘膜に定着する

  • 確定診断は質量分析法か遺伝子検査法、スクリーニングは選択培地で

  • 過去1年以内の海外での医療機関入院歴の有無が、カンジダ・アウリス感染症、保菌患者を疑う因子

  • アウトブレイクを防ぐため、最新の手引きを活用し、適切な対策を実施する必要あり

WHOが最も警戒すべき真菌に分類する「カンジダ・アウリス」とは

 カンジダは、ヒトの皮膚、口腔、腸管、腟などに常在する真菌(カビ)です。健康な人であれば重篤な感染症に至ることは少ないとされます※1,2。カンジダの一種であるCandida auris/Candidozyma auris(カンジダ・アウリス)は、一般的なカンジダとは大きく性格が異なります。石金先生は「カンジダらしくないカンジダ。緑膿菌に似ている」と表現します。

 カンジダ・アウリスは2009年に日本で初めて報告され(慢性中耳炎患者の耳漏から分離)、現在では世界各国から感染症例が報告されています※3。カンジダ・アウリスが臨床的に問題とされる1つの理由は、海外で報告されている抗真菌薬への耐性です。複数国で分離された株を調査した研究では、93%がアゾール系抗真菌薬のフルコナゾール耐性、35%がポリエン系抗真菌薬のアムホテリシンB耐性、41%が2種類以上の抗真菌薬に耐性を示しました。さらに、アゾール系、ポリエン系、エキノキャンディン系という抗真菌薬の主要3系統すべてに耐性を持つ株も報告されています※4。このような背景から、カンジダ・アウリスはWHOの真菌優先順位リストで最も警戒すべき「最優先群(Critical Priority Group)」に分類されています。                                                                   

 もう1つの理由は、非常に高い環境への適応力です。環境表面で3週間以上生存し、一部のプラスチック器具では 4週間に及ぶとされます※5。ヒトでの保菌期間も長く、3カ月以上経過しても検出されるという報告があります※6,7。カンジダ・アウリスを保菌している人が実際に感染症を発症するのは、海外の報告によれば、1割程度です。※8,9。しかし、カンジダ・アウリスが血流感染症など侵襲性感染症を起こすと、致死率は30〜60%と非常に高くなります※10。カンジダ・アウリス感染者・保菌者において、侵襲性感染症の発生の注意深い観察は非常に重要だと言えるでしょう。

※1 https://www.jstage.jst.go.jp/article/mmj/52/4/52_4_275/_pdf/-char/en  Med Mycol Journal.2022;52:275-281.

※2   https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/candidiasis/index.html JIHS カンジダ症

※3   https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1348-0421.2008.00083.x Satoh K, et al. Microbiol Immunol. 2009;53:41-44.

※4   https://academic.oup.com/cid/article/64/2/134/2706620 Lockhart SR, et al. Clin Infect Dis. 2017;64:134-140.
※5   https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.00921-17 Welsh RM, et al. J Clin Microbiol. 2017;55: 2996-3005.
※6 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1714373 Eyre DW, et al. N Engl J Med. 2018;379:1322-1331.
※7   https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39565991/ Lionakis MS, et al. N Engl J Med. 2024;391:1924-1935.
※8   https://www.mdpi.com/2076-2607/9/4/807 Ahmad S, et al.Microorganisms.2021;9:807
※9   https://journals.asm.org/doi/10.1128/aac.02242-21 Kilburn S, et al.Antimicrob Agents Chemother.2022;66:e0224221.
※10   https://academic.oup.com/mmy/article/62/6/myae042/7700339 Kim HY, et al. Med Mycol. 2024;62:myae042.

カンジダ・アウリス海外株の脅威が迫る

カンジダ・アウリスは、遺伝子型によってclade(クレード)と呼ばれる複数の系統に分類されます。

カンジダ・アウリスは世界各地で検出されていますが、国や地域によって流行している系統が違います(図1)。

 日本国内で検出されてきたカンジダ・アウリスの多くはcladeⅡで、すべて非侵襲性の局所感染*でした※2。非侵襲性感染とは、感染が皮膚や粘膜などの局所に限定され、血流や臓器には広がらない感染のことです。薬剤感受性も比較的良好とされます。一方、海外で分離されるのは clade I、III、IVです。これらの株は侵襲性感染を引き起こしやすく、また抗真菌薬の耐性頻度が高いという特徴があります。侵襲性感染とは、病原体が血流を通じて体内に広がり、複数の臓器に影響を及ぼす全身性の感染のことです。   

*2025年1月までに報告された国内発生例8例の結果

 カンジダ・アウリスのアウトブレイクは世界各国で報告されています。2011年には隣国である韓国で死亡例を含む侵襲性感染症の報告がありました※11。日本でも2023年にcladeⅠによる死亡例が報告されていますが、これは海外からの輸入例(フィリピンで集中治療歴あり)でした※12。石金先生は「(侵襲感染症を引き起こしやすい)海外由来の株が日本に持ち込まれて、国内で広がってしまう可能性もある」と警鐘を鳴らします。

 このような状況から、日本国内における感染拡大防止の啓発を目的として、2026年3月に「カンジダ・アウリス診療の手引き」を公開し、その後、同年7月に第2.1版へ更新しました。

※11 https://journals.asm.org/doi/10.1128/jcm.00319-11    Lee WG, et al. J Clin Microbiol. 2011;49:3139-3142.
※12   https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1341-321X(23)00079-X    Ohashi Y,et al.J Infect Chemother.2023;29:713-717.

カンジダ・アウリスの診断と治療

 カンジダ・アウリスの検査は、その検査方法によって信頼性に差があります。特に選択培地では正確な同定が困難で、石金先生も「選択培地ではコロニーの性状や色調で菌種を判定するが、カンジダ・アウリスの場合、それだけでは確定診断には至らない」と言います。そのため、診療の手引き第2.1版では、選択培地は疑い例のスクリーニングにとどめ、確定診断には質量分析法あるいは遺伝子検査を用いることとしています。

 保菌者は治療対象にはなりませんが、血流感染症などの侵襲性感染症では抗真菌薬による治療が必要です。カンジダ・アウリスの場合、薬剤耐性の傾向や薬剤感受性試験データから、第一選択薬はエキノキャンディン系、第二選択薬はリポソーマル・アムホテリシンBとされます。

 カンジダによる侵襲感染症の治療においては、治療反応性を確認するために、繰り返し血液培養などを行い、治療効果を判定することが重要です。加えてカンジダ・アウリスの場合は、感受性検査も繰り返し行う必要があります。石金先生は「耐性変化の遅い通常の真菌では、治療効果判定時の培養で感受性検査まで行わないことが多いが、短期間に耐性獲得するカンジダ・アウリスでは必須。重症例では、ミカファンギンとリポソーマル・アムホテリシンBの2剤併用による、通常のカンジダでは行われない治療が推奨される」と言います。

過小評価は禁物、通常のカンジダ以上に厳重な感染予防対策を

 カンジダ・アウリスでも手指衛生を基本とする標準予防策、感染症患者や保菌者に対する個室隔離を原則とした接触予防策が有効であることは変わりません。

 環境表面で長期間生存し続けるカンジダ・アウリスでは、これらに加え、感染症・保菌者病室における高頻度接触物品(ベッド柵、ドアノブなど)の清掃・消毒の徹底、医療機器の専有化といった対策を推奨しています。感染症者・保菌者が退院した後の病室の清掃・消毒も重要です。

 感染者・保菌者が確認された場合、同じ病室・ユニット・病棟の患者などの接触者に対するスクリーニング検査を速やかに行い、感染拡大状況を把握して感染伝播を抑えます。スクリーニングの際のポイントについて石金先生は「カンジダ・アウリスの検出頻度が高いのは腋窩と鼠径部。スクリーニングではこの部位も忘れずにチェックして欲しい」と指摘します。

報告・連絡・相談――カンジダ・アウリス対応の流れ

 カンジダ・アウリス感染症・保菌患者を疑うべき因子として重要なのは海外での医療曝露歴です。石金先生が所属する国立国際医療センターでは、過去1年以内に海外での医療機関入院歴がある人に薬剤耐性菌のスクリーニング検査を行っています。「薬剤耐性菌のスクリーニング検査では、『医療機関における海外からの高度薬剤耐性菌の持ち込み対策に関するガイダンス(第2.1版)』*を活用してほしい」と石金先生は提案します。

 カンジダ・アウリス感染の診断・疑い例が発見されたら、厳重な接触予防策を実施した上で最寄りの保健所に連絡します(図2)。保健所から地方衛生研究所・厚生労働省・国立感染症研究所などの行政機関に情報共有され、その後、施設に確定診断の結果報告や感染対策が指示されます。

https://dcc.jihs.go.jp/prevention/resource/resource05.pdf
国立国際医療研究センター、国際感染症センター 医療機関における海外からの高度薬剤耐性菌の持ち込み対策に関するガイダンス 第2.1版

 日本では、2026年6月時点では院内アウトブレイクの報告はなく、cladeⅡの耳由来の検体から検出された局所感染が主体です。しかし、国を超えた人の移動が頻繁となった現在、日本に海外株が持ち込まれ、国内でアウトブレイクが発生する危険も十分にあります。石金先生は「耐性菌持ち込みを阻止するためにも、最新の手引きをぜひ活用してほしい」と呼びかけています。

手引きのダウンロードはこちらから:

https://dcc-irs.jihs.go.jp/topics/candida-auris/

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業種
医療・福祉
本社所在地
東京都新宿区戸山1-21-1
電話番号
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代表者名
大曲 貴夫
上場
未上場
資本金
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設立
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