【研究発表】避難訓練が、地域の想定災害と合っていない──12都府県2,577名調査で見えた「想定」と「訓練」のズレ
学校・保育現場の避難訓練を「指示を守る訓練」から「状況を見て判断する訓練」へ日本災害情報学会第32回学会大会(2026年3月)で研究成果を発表

保育園や学校で繰り返される避難訓練。
しかし、その訓練は「この地域で実際に起こりうる災害」をもとに設計されているのでしょうか。
NPO法人減災教育普及協会(理事長:江夏猛史)は、日本大学危機管理学部 秦 康範教授との共同研究として、12都府県の教育・保育関係者2,577名を対象に調査を実施しました。
調査結果:想定災害の認識状況

85%
地域の想定災害を「知らなかった」または「想像と異なっていた」と回答

69%
現在の備えや訓練について「想定に足りていない」または「分からない」と回答
見えてきたのは、避難訓練をしていないという問題ではありません。
特に保育園・幼稚園・認定こども園などでは、毎月のように避難訓練が行われており、現場は真剣に取り組んでいます。
しかし、地域で想定される揺れの強さ、津波の有無、避難経路の危険性、建物の条件などと、日々の訓練内容が十分につながっていない可能性があります。
本研究は、こうした避難訓練の構造的課題を明らかにし、地域防災計画や被害想定を起点に、子どもや教職員が状況を見て判断し、行動できる訓練へ再構成する必要性を提案するものです。
本研究成果は、2026年3月、日本災害情報学会第32回学会大会にて発表されました。
発表論文/
「『判断力を育てにくい』避難訓練の構造的課題─地域防災計画と被害想定に基づく訓練設計の再構成─」
著者
江夏 猛史
NPO法人減災教育普及協会 理事長
日本大学 危機管理学部 危機管理学研究所 研究協力員
秦 康範
日本大学 危機管理学部 教授
発表
日本災害情報学会 第32回学会大会
日程・会場
2026年3月14日〜15日・東京大学
調査対象
東京・神奈川・静岡・徳島・愛媛・高知・愛知・福井・栃木・富山・京都・大阪の12都府県、教育・保育関係者2,577名
手法
アクションリサーチ
関連研究:先行論文「避難訓練2.0─Risk to Action型訓練の社会実装」
本研究は、当協会が2025年10月の第57回地域安全学会研究発表会で発表した論文「避難訓練2.0─安全の原理原則に基づくRisk to Action型訓練の社会実装に向けて」(江夏・秦, 2025)の延長線上にあります。
先行研究では、ISO/IEC Guide 51(2014)の安全定義(「許容できないリスクが存在しない状態」)に基づき、リスクを起点に判断と行動を設計する「Risk to Action」の枠組みと、その実装形式としての「避難訓練2.0」を提案しました。先行研究の静岡県・保育者調査(161園・743名)では、99%が訓練のアップデートを必要と回答し、97%が継続的な専門的アドバイスを希望すると回答しています。
本研究は、先行研究で提示した枠組みの社会実装基盤として、より広域での構造的課題を実証的に明らかにするものです。
関連論文:避難訓練2.0論文(地域安全学会2025秋季)
d145929-17-34cdd8e609cd3810a08d064b1dde6370.pdf課題:「想定」と「訓練」のズレ

地域には、地震・津波・土砂災害・浸水・建物被害・避難経路の危険など、あらかじめ想定されている災害や被害があります。
しかし実際の避難訓練では、その想定を確認しないまま、放送を聞く、静かに並ぶ、決められた場所へ移動する、速く避難するといった手順の確認だけで終わってしまうことがあります。
本来、避難訓練は「どんな被害が起こり得るのか」を知ったうえで、「その被害に対してどう行動するか」を練習するものです。
想定される被害と訓練内容がつながっていなければ、想定内の災害であっても、現場では想定外になってしまいます。
避難訓練は、地域の被害想定から設計する必要があります。

避難訓練2.0では、まず「どんな被害が起こり得るのか」を知り、その場の危険を見つけ、より危険の少ない行動を選ぶ力を育てます。
避難訓練は、指示通りに動けるかを確認するだけの時間ではありません。
想定される被害に合わせて、子ども自身が危険を予測し、気づき、判断し、行動できるようにするための教育です。
現場の変化
実証地域では、従来の固定姿勢を反復する訓練から、地域の被害想定を踏まえて状況を判断し行動を選択する訓練への転換が始まっています。
「ダンゴムシのポーズ」など固定姿勢の指導から、周囲の状況を確認し危険を回避する行動への指導方針の転換



徳島県: 地域住民との協働(徳島ゆらし隊)による「こどもユレタキャラバン」の展開、2026年4月14日には徳島県との連携協力協定を締結
これらは、災害時に自ら考え行動する能力を育む上で重要な変化です。

今後の展開とお願い
当協会は、自治体、教育機関、企業、研究機関と連携し、地域防災計画と訓練設計を接続するガイドラインおよび研修プログラムの策定を進めます。避難訓練2.0(Risk to Actionに基づく訓練形式)の実証・標準化に協力していただける教育・保育施設や自治体・企業を広く募集し、研究成果を共有してまいります。災害時に「自ら判断し行動できる力」を育てる教育を全国に広げるため、皆様のご協力をお願いいたします。

NPO法人 減災教育普及協会
私たちは、被害を起点にリスクを捉え、命を守る減災教育に取り組むNPOです。
減災とは、防げない被害や弱点があることを前提に、状況に応じて自ら行動を選択できる力を育てる考え方です。
防災が「防げる」前提で語られがちな中で、私たちは教育を通じて、実災害に耐えうる判断力と対応力の育成を目指しています。
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