AI創薬企業Elixとウィーン大学、AI技術を活用した創薬に関する共同研究契約を締結
株式会社Elix(代表取締役CEO:結城 伸哉、本社:東京都千代田区、以下「Elix」)とオーストリア共和国のウィーン大学(University of Vienna、生命科学部長:Prof. Mag. Dr. Karl-Heinz Wagner、所在地:オーストリア・ウィーン、以下「ウィーン大学」)は、このたび、AI技術を活用した創薬に関する共同研究契約を締結しましたのでお知らせいたします。

従来の創薬プロセスは、膨大な数の候補化合物の中から有望なものを見つけ出すために多大な時間とコストを要し、なおかつ成功率の低さが大きな課題とされてきました。こうした背景から、AI技術の導入は創薬研究の効率化を実現する有力な手段として注目されています。なかでも、分子設計やプロパティ予測にAIを活用することで、より的確に医薬品候補をデザインし、合成や評価対象を絞り込むことが可能となり、創薬の初期段階から開発全体にわたり、スピードの向上とコスト削減が期待されています。
Elix(https://www.elix-inc.com/jp)は「創薬を再考する」をミッションに掲げる日本発のAI創薬企業です。創薬にかかる膨大な時間とコストを削減し成功率を高めることを目指して、AI・機械学習を活用し、製薬企業・大学・研究機関・バイオベンチャーに向けて事業を展開しています。ビジネスモデルは、「メドケムが本当に使える」をコンセプトに開発した統合型AI創薬プラットフォームElix Discovery™の製薬企業への提供と、Elixが保有する最新のAI創薬技術と豊富な経験を生かしたパートナーとの協業による創薬研究の2つです。
Elix Discovery™は、直感的なGUI(Graphical User Interface)により、最適な化合物プロファイルの予測モデルを自動で構築可能なほか、多様な構造生成の機能を有しており、「人間が思いつかない構造を提案する」点を強みとしています。さらに、当社独自開発モデルを含む厳選された構造生成モデルを活用しながら、GUI上で作成した予測モデルをはじめとする各種パラメータを直感的に最適化することで、高速に化合物設計を行うことができます。また、ファーマコフォアモデリングを含むLBDD(Ligand-Based Drug Design)に加え、ドッキングシミュレーション等を活用したSBDD(Structure-Based Drug Design)手法にも対応しており、幅広い手法を組み合わせた探索が可能です。
Elixは、プラットフォームの提供にとどまらず、バイオベンチャー*1やアカデミア*2などのパートナーとの共同研究プロジェクトも積極的に推進しております。これまでに培った創薬研究に関する豊富な知見と最先端のAI技術を融合し、革新的な医薬品候補の創出に向けた共同研究を継続的に展開しています。
ウィーン大学のJulien Orts准教授が率いる研究グループは、生体高分子の原子レベルでの構造、動態、相互作用を解明するNMR分光法の先端的な研究を専門としています。同研究グループは、タンパク質のコンフォメーション変化やシグナル伝達におけるアロステリック制御に着目し、低分子の結合様式を検証するINPHARMA*3や、タンパク質−リガンド複合体構造を自動決定するNMR²*4など、独自に開発した手法を活用しています。また、0.1 Å*5精度のeNOE距離測定*6を用いてタンパク質構造アンサンブルを解析することで、創薬困難とされる標的へのアプローチや、現代的な構造ベース創薬の発展に資する熱力学的な知見を提供しています。
本共同研究では、ElixとJulien Orts准教授の研究グループは連携し、研究を進めます。本取り組みでは、Elixが強みを有する計算化学的手法およびAIによる分子生成技術と、同研究グループが有する構造ダイナミクスおよびNMRにより検証された分子間相互作用に関する先端的な知見を組み合わせます。
本共同研究は、従来の創薬手法では標的化が難しいとされてきた標的に対する新規化合物の設計・創出を目指すものです。特に、天然変性タンパク質(Intrinsically Disordered Proteins:IDPs)や、エピジェネティック制御*7およびがんに関与するタンパク質に焦点を当てます。AIの予測力と、原子レベルで得られる実験データを統合することで、従来の創薬アプローチの限界を超え、複雑な疾患に対する新たな治療可能性や次世代の医薬品候補創出につながる知見の獲得を目指します。
ウィーン大学 Julien Orts准教授からのコメント
このたびElixと連携し、先端的な構造生物学と人工知能の橋渡しに取り組めることを大変嬉しく思います。私の研究室では、NMRが創薬において果たし得る役割を拡張することを常に目指してきました。タンパク質の動態を原子レベルの精度で捉える当研究室の技術と、Elixの高度なAI分子生成技術を組み合わせることで、静的な構造にとどまらず、これまで到達が難しいと考えられてきたタンパク質の複雑かつ一過的な挙動を標的とすることが可能になります。この相乗効果こそが、次世代の革新的な医薬品の創出を加速するために必要なものだと考えています。
Elix 代表取締役CEO 結城 伸哉からのコメント
Elixは、最先端のAI技術と実験的なイノベーションを結びつけることで、「創薬を再考する」というミッションの実現を目指しています。今回、ウィーン大学のJulien Orts准教授が率いる研究グループと協働できることは、AI創薬と世界トップレベルの構造生物学の知見を融合し、このミッションをグローバルに推進する大きな機会です。本共同研究により、従来の創薬手法では到達が難しかった疾患標的に対して、新たな可能性を切り拓けるものと期待しています。
参考:
*1 2025年4月14日プレスリリース:「AI創薬企業Elix、PRISM BioLabと業務提携契約を締結」, URL:https://www.elix-inc.com/jp/news/newsrelease/2144/
*2 2025年10月2日付プレスリリース
「AI創薬企業Elixと東北大学大学院生命科学研究科、AI技術を活用した創薬に向け共同研究契約を締結」
URL:https://www.elix-inc.com/jp/news/newsrelease/2241/
*3 INPHARMA:同じ標的タンパク質に競合的に結合する2種類の低分子化合物について、結合時の相対的な向きや配置を推定するNMR手法です。タンパク質を介して一方の化合物から他方の化合物へ伝わるリガンド間NOE(Nuclear Overhauser Effect:核オーバーハウザー効果)を解析し、医薬品候補の結合様式やファーマコフォアの検討に活用します。
*4 NMR²(NMR Molecular Replacement):既知のタンパク質立体構造とNMRで得られる原子間距離情報を組み合わせ、タンパク質と低分子化合物が結合した部位の三次元構造を迅速に求める手法です。タンパク質由来NMR信号の詳細な帰属を行わず、観測されたNOEを曖昧な距離制約として利用することで、従来のNMR構造解析に要する時間を大幅に短縮します。
*5 Å(オングストローム):原子や分子の大きさ、原子間の距離などを表すために用いられる長さの単位で、1 Åは0.1ナノメートル、すなわち10⁻¹⁰メートルです。例えば、タンパク質中の原子間距離や、医薬品候補が標的タンパク質にどのように結合しているかを示す際に用いられます。
*6 eNOE(exact Nuclear Overhauser Enhancement)距離測定:NMRで観測されるNOE信号の時間変化を定量的に解析し、主に水素原子核間の距離を高精度に求める手法です。得られる精密な距離情報を用いることで、タンパク質の平均的な立体構造だけでなく、溶液中で共存する複数の構造や内部運動の解析にも利用できます。
*7 エピジェネティック制御:DNAの塩基配列そのものを変化させることなく、遺伝子がどの程度働くか、すなわち遺伝子発現を調節する仕組みです。DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン構造の変化などによって制御され、細胞の性質の維持や分化に重要である一方、その異常はがんをはじめとするさまざまな疾患に関与します。
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