低温で高出力発電を実現する次世代燃料電池技術を開発
産業用分散電源の高効率化を支え、カーボンニュートラル社会の実現に貢献
日立は、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて、低温で高出力な発電を可能にする次世代固体酸化物形燃料電池(SOFC)*1技術を開発しました。本技術は、半導体で培った技術を応用し、燃料電池の構造を細かく分割して管理することで各セルごとに性能を評価し、不良セルを事前に除去しています。これにより、全体としての故障リスクを低減し、高い信頼性を実現しました。また、発電に重要な部品(電解質層*2)の厚みを均一に薄くすることで出力密度を向上させました。この結果、SOFCの動作温度を従来の約700℃から519°Cまで低下させながら、1 W/cm²を超える高出力と高信頼性を両立しました。これにより、断熱材の使用削減やコスト低減が可能となり、工場の自家発電や災害時の非常用電源など、産業用分散電源や可搬型電源など幅広い用途への適用が期待されます。今後、日立はパートナー企業や補機メーカーとの協創を通じて社会実装をめざし、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。

*1 固体酸化物形燃料電池(SOFC): セラミックス製の固体電解質を使用した燃料電池であり、高い発電効率が実現できる
*2 電解質層: イオンを伝導させる一方で電子を絶縁する層でありSOFCでの発電を実現するための主要部
■背景および課題
世界的な脱炭素化の流れを受けて、再生可能エネルギーや高効率な分散電源の導入が求められています。SOFCは高効率な発電技術であり、水素やアンモニア、バイオ燃料など多様な燃料に対応できる柔軟性を持つことから、カーボンニュートラル社会の実現に向けて注目されています。一方、従来のSOFCは約700℃の高温動作が必要であり、さらに長い起動時間や厚い断熱材の使用が求められるため適用範囲に課題がありました。低温動作に向けて、電解質層の薄膜化が検討されていますが、信頼性の低下が課題でした。これらの課題を解決することが、SOFCの普及拡大と持続可能なエネルギー社会の実現に向けた鍵となります。
■課題を解決するために開発した技術・ソリューション
そこで日立は、高い信頼性と低温で高出力密度な発電を実現するSOFCを開発しました。主な特長は以下の通りです。
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高信頼性を実現するセル分割および分割管理技術
セル分割および分割管理技術を活用し、小型セルのアレイを形成しました。この技術によって、故障の可能性があるセルをスクリーニングし、不良セルを除去することで、全体の信頼性を向上させました。これにより、電解質層を薄膜化しても高い信頼性を維持することが可能となりました。さらにSOFCの製造プロセスにおける歩留まり向上にも大きく貢献しています。
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高出力発電を支える電解質層の均一化技術
電解質層の厚みを均一化することで、局所的な薄膜部分から発生しやすい電子の漏れ電流*3を抑制しました。これにより、SOFCの動作温度を519℃まで低下させつつ、1 W/cm²を超える高出力密度を実現しました。低温動作による起動時間の短縮や断熱材の削減も可能となり、SOFCの適用範囲を広げ、エネルギー効率の向上にも寄与します。動作温度の低温化によりSOFCの高信頼化と長寿命化が期待できます。
*3 漏れ電流: 膜厚が不均一なことにより固体電解質層の絶縁性が低下し生じる電子の漏れ
■今後の展望
今後、日立は、SOFCのさらなる低温動作化や高出力化の研究開発を進めていきます。また、パートナー企業や補機メーカーとの協創を通じて、産業用分散電源や可搬型電源など多様な分野への社会実装をめざし、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。
なお、本成果の一部は、2025年7月13~18日にスウェーデン・ストックホルムで開催されるSOFC-XIX (The 19th International Symposium on Solid Oxide Fuel Cells)で発表予定です。
■関連情報
■照会先
株式会社日立製作所 研究開発グループ
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