遺伝子組み換え作物流通30年 斎藤幸平氏・須賀川拓氏・田部井豊氏・小島正美氏・徳本修一氏がReHacQ(リハック)とコラボで「食料安保・環境・農業の未来」をとことん議論

賛否を超え、対話から見えたバイオテクノロジーの可能性

バイテク情報普及会

(写真左から) 須賀川拓氏、斎藤幸平氏、小島正美氏、徳本修一氏

『遺伝子組み換え とことんディスカッション』開催レポート

バイテク情報普及会(東京都中央区 事務局長 熊谷 善敏)、食品安全情報ネットワーク(代表 唐木 英明、小島 正美)は、2026年9月10日(木)、日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホールにて、「遺伝子組み換え とことんディスカッション」を開催しました。

2026年は、日本で遺伝子組み換え作物の流通が始まって30年にあたります。遺伝子組み換え作物はこれまでも、家畜飼料や加工食品などを通じて日本の安定的な食料供給を支えており、科学的に確認された健康被害や環境被害は1件も報告されていません。一方で、日本国内では商業栽培は広がっておらず、社会には、一定数の不安意識が存在します。

さらに近年は、気候変動、国際情勢の不安定化、飼料・食用油・加工食品などの価格上昇を背景に、日本の食料安全保障が改めて問われています。今回のイベントでは、「安全」「安全でない」という二項対立にとどまらず、食料危機、環境問題、農家の選択、企業や制度のあり方、メディアの役割まで、多角的に議論しました。

■講演プログラム1 「遺伝子組み換えの安全性(健康影響面・環境面)」 
 東洋大学食環境科学部食環境科学科 客員教授 田部井豊氏

 遺伝子組み換え技術も「品種改良の一つの技術」

「遺伝子組換え作物の安全性評価」について説明する田部井豊氏
田部井豊氏

前半の講演では、東洋大学食環境科学部食環境科学科 客員教授の

田部井豊氏が、遺伝子組み換え作物をめぐる議論のベースとなる情報として、品種改良の基本、安全性評価の仕組み、世界での利用状況、食料安定供給・環境への貢献について解説しました。

田部井氏はまず、私たちが日常的に食べている野菜や穀物も、長い年月をかけた品種改良によって生まれてきたことを紹介。交雑育種、突然変異育種、遺伝子組み換え、ゲノム編集などの違いを示し、遺伝子組み換え技術を「品種改良の一つの技術」と位置づけました。

 1996年に除草剤耐性大豆や害虫抵抗性トウモロコシなどの商業栽培が開始して以降、世界の遺伝子組み換え作物栽培面積は拡大し、2025年には約2億1,600万ヘクタール、日本の国土のおよそ5.7倍に達したと説明しました。

安全性については、日本では生物多様性への影響、食品としての安全性、飼料としての安全性について、それぞれ法令に基づいて評価され、審査を通過したものが利用されていることを紹介しました。

また、「ゼロリスク」という考え方ではなく、長い食経験を持つ既存食品と比較し、遺伝子組み換えによって新たなリスクが増えていないかを科学的に評価することが基本だと解説しました。さらに、農薬使用量の削減、不耕起栽培による土壌保全やCO2排出削減、単位面積当たりの収量向上による農地拡大抑制など、遺伝子組み換え作物が食料安全保障や環境面で果たしてきた役割にも言及しました。

さらに、反対運動によって商業栽培が中止されたゴールデンライスにも触れ、科学的根拠に乏しい反対が、ビタミンA欠乏による未就学児の失明や死亡の減少を妨げている懸念を示しました。

最後に、消費者意識についても紹介し、2025年の調査では、若い世代ほど遺伝子組み換え食品に対して好意的・中立的な傾向が高いこと、女性を対象に経年比較すると、好意的・中立的なイメージを持つ割合が20年間で大きく増加していることを示しました。

■ 講演プログラム2 「遺伝子組み換え作物流通30年(メディア報道・市民運動)」
 科学ジャーナリスト・食品安全情報ネットワーク共同代表 小島正美氏 

 「私自身もかつては批判的報道をしていた」―現場取材で変わった遺伝子組み換え作物の見方

フィリピンの小規模農家での遺伝子組み換え作物のメリットについて説明する小島正美氏

続いて、科学ジャーナリスト・食品安全情報ネットワーク共同代表の小島正美氏が、30年以上にわたる取材経験から、遺伝子組み換え作物のメリットとメディア報道、市民運動について講演しました。

小島正美氏

小島氏は、2000年頃には、自身も遺伝子組み換え作物に批判的な記事を書いていたことを率直に紹介。しかし、米国、フィリピンなどの農業現場を継続して取材し、「農薬が減った」「収量が増えた」「重労働から解放された」と話す農家の声に直接触れたことで、自らの見方が変わったと振り返りました。

 特に、「遺伝子組み換え作物は大規模農家のための技術」というイメージに対し、フィリピンなどでは1~2ヘクタール程度の小規模農家でも、農薬散布の削減や収量・所得の向上につながった事例があると紹介。米国で取材した3家族で2,225ヘクタールを経営する農家から、「この技術を開発した研究者や企業に感謝している」と聞いた経験も披露しました。

また、不耕起栽培について、土壌を大きく耕さないことで炭素の放出や土壌流出を抑えることができ、除草剤耐性作物がその普及を後押しした側面があると説明しました。

一方、日本で遺伝子組み換え作物の国内栽培が広がらなかった背景として、小島氏は、市民運動、自治体による規制、政策の一貫性の欠如、ネガティブなメディア報道などを挙げました。

 日本は海外から遺伝子組み換え作物を大量に輸入し、家畜飼料、食用油、加工食品などに利用しているにもかかわらず、「国内で作ろうとすると反対が起きる」という構造を指摘。「不安がある消費者が避ける自由があるのと同じように、技術を使いたい農家にも選択肢があってよい」と問題提起し、後半の討論へとつなぎました。

■ 討論会プログラム
 「遺伝子組み換えは良いか、悪いか」から、「誰が、どう使うのか」へ

(写真左から) 須賀川拓氏、斎藤幸平氏、小島正美氏、徳本修一氏

後半は、YouTubeチャンネル『ReHacQ』のMCであるジャーナリスト 須賀川拓氏の進行で、経済思想家・東京大学准教授の斎藤幸平氏、小島正美氏、農業法人トゥリーアンドノーフ代表取締役・日本バイオ作物ネットワーク理事長の徳本修一氏が登壇。

 「なぜ遺伝子組み換えは30年たっても不安視されるのか」「食料危機や物価高にバイオテクノロジーはどう向き合えるのか」「環境問題に貢献できるのか」「科学的根拠をどう社会に伝えるのか」を軸に、約90分にわたり議論しました。

小島正美氏――「不安がある人が避ける自由と、使いたい農家の自由は両立できる」

小島正美氏

小島氏は、遺伝子組み換え作物への「ふわっとした不安」は完全になくすことは難しいとしたうえで、「不安がある人は避ければよい。一方で、技術を使いたい農家が選べる環境も必要」と発言しました。

 過去、日本国内でも病害抵抗性作物など国産の遺伝子組み換え作物の研究が進められたものの、市民運動や自治体の規制によって研究・栽培が進まなかった事例を紹介し、「海外技術への依存を問題視する一方で、国内で開発した技術まで否定してしまうのは矛盾していないか」と問題提起しました。

また、かつて試験栽培を行った農家の作物が反対運動によって破壊された事例にも触れ、「国産の遺伝子組み換え作物があれば、農家も『日本で開発したものを使って何が悪いのか』と言えた」という当時の農家の声を紹介。消費者の選択肢だけでなく、生産者側の技術選択の自由も社会として考える必要があると訴えました。

 さらに、遺伝子組み換え作物をめぐる報道については、「危険性や不安はニュースになりやすい一方、農薬削減や不耕起栽培、農家の負担軽減といったベネフィットは報じられにくい」と指摘。科学的根拠や現場の事実を基に、メディア自身も情報の出し方をアップデートする必要があるとしました。

徳本修一氏――「推進派ではなく、農家の選択肢を増やしたい」

徳本氏は、自身を単純な「遺伝子組み換え推進派」ではないとしたうえで、「農業経営上の選択肢の一つとしてバイオテクノロジーを考えている」と説明しました。

世界各国の農業現場を訪れてきた経験から、遺伝子組み換え作物と不耕起栽培を組み合わせた土壌保全、燃料使用量の削減、小規模農家の殺虫剤散布負担の軽減などを紹介。

 一方、日本では高齢化や農業人口の減少が進み、これまでの家族経営や地域コミュニティだけでは農地を維持しにくくなる地域もあると指摘しました。

「海外の農業をそのまま日本に持ってくるのではなく、日本の風土や課題に合った品種改良の中でバイオテクノロジーを考えるべき」とし、将来的には飼料米やエネルギー用途などへの応用可能性にも言及しました。

徳本修一氏

斎藤幸平氏――「技術だけでなく、どういうシステムで使うか」

斎藤幸平氏

斎藤氏は、大規模単一栽培やグローバルな食料供給網、企業による技術・種子の所有など、遺伝子組み換え作物を取り巻く社会経済的な構造に疑問を提示しました。

一方、バングラデシュのBtナスなど、公的機関が関与し、小規模農家の課題解決に技術を活用する事例を踏まえて、

「単に遺伝子組み換えそのものがいいか、悪いかというだけの話ではなく、どういうシステムで使うのか」という視点が重要だと発言。

 公的な関与、小規模農家へのアクセス、消費者・農家双方の選択の確保など、技術と制度を組み合わせて考える必要性を示しました。

 ゴールデンライスをめぐる議論でも、貧困や食料システムそのものを変える必要性を主張しながら、目の前で栄養不足に苦しむ人への緊急的な技術利用については「即座に否定するものではない」と語りました。

「頭ごなしに全部批判するのはおかしい」―対話から生まれた接点

討論終盤、斎藤氏は、「頭ごなしに全部批判するのはおかしいということは、今日お話ししていて、すごく分かった。僕としては、そこはかなり腹落ちした部分があります」と発言。

 さらに、技術進歩の速い分野では、過去に得た知識や印象のままではなく、新しい事実を踏まえて自身の考えもアップデートしていきたいと述べました。

小島氏も、「よく説明すれば、お互いに接点は見つけられる」と応じ、徳本氏は、「有機農業かバイテクかを目的化すると分断を生む。地域、時代、コミュニティの中で何が最適かを考えるべき」と語りました。

須賀川拓氏

最後に須賀川氏は、遺伝子組み換えやバイオテクノロジーについて、 

「賛成か反対か」「危ないか危なくないか」というゼロか100かで語るのではなく、是非を含めて継続的に議論していくことの重要性を強調。

 異なる立場の登壇者が互いの問題意識をぶつけながらも、科学的根拠、農業現場、消費者の選択、制度設計をつなぎ、「分断から対話へ」という接点を見いだすイベントとなりました。

【イベント概要】

 イベント名:『遺伝子組み換え とことんディスカッション』

開催日:2026年9月10日(木)

会場:日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール(東京都千代田区日比谷公園1-4 地下1階)

主催:バイテク情報普及会、食品安全情報ネットワーク

講演プログラム:

田部井豊氏 「遺伝子組み換えの安全性(健康影響面・環境面)」

小島正美氏 「遺伝子組み換え作物流通30年(メディア報道・市民運動)」

討論会プログラム:

進行:須賀川拓氏(『ReHacQ』)

 パネリスト:斎藤幸平氏、小島正美氏、徳本修一氏

【登壇者プロフィール】

斎藤幸平(さいとう・こうへい)氏

 1987年生まれ。経済思想家。東京大学大学院総合文化研究科 准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科 博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economyによって「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。50万部を突破した『人新世の「資本論」』(集英社新書)で「新書大賞2021」を受賞。同書は19言語に翻訳、世界的ベストセラーとなった。最新刊は、『人新世の「黙示録」』(集英社)。

須賀川拓(すかがわ・ひろし)氏

1983年生まれ、東京都出身、オーストラリア育ち。

ジャーナリスト・映画監督。2006年にTBS入社。ガザ、ウクライナ、アフガニスタンなどで取材を重ね、21年度ボーン・上田記念国際記者賞。

2023年映画『戦場記者』全国公開。『BORDER 戦場記者×イスラム国』『アフガン・ドラッグトレイル』等、Amazon Prime Videoで配信中。2025年にTBSを退職し、 株式会社FACT FORCEを設立。

田部井豊(たべい・ゆたか)氏

東洋大学食環境科学部食環境科学科 客員教授。

 1985年農林水産省入省、野菜試験場や農業生物資源研究所を経て、農研機構。1993年筑波大学にて学位(博士(農学))を取得。おもな研究テーマは、「バイオテクノロジーを用いた作物育種」「遺伝子組換え作物の生物多様性影響評価」。

小島正美(こじま・まさみ)氏

科学ジャーナリスト、「食生活ジャーナリストの会」代表。

 1951年、愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後、毎日新聞社入社。東京本社生活報道部で食の安全・医療・健康問題・環境問題などを担当。2018年退職。東京理科大学非常勤講師(環境科学担当)などを歴任。主な著書は『誤解だらけの遺伝子組み換え作物』(エネルギーフォーラム)『フェイクを見抜く』(共著・ウエッジ出版)『アルコールで走る車が地球を救う』(共著・毎日新聞出版)など多数。

徳本修一(とくもと・しゅういち)氏

農業法人トゥリーアンドノーフ株式会社代表取締役、

日本バイオ作物ネットワーク理事長 グローバルファーマーネットワーク理事、農林水産省 食料・農業・農村政策審議会 委員。

鳥取県内の高校卒業後、消防士として勤務していたが、歌手を目指し上京。芸能マネージャー、歌手、ITベンチャー役員などを経て、子どもが生まれたことを機に食・農への関心を強く抱くようになり、地元鳥取県にUターンし、2012年に就農した。現在は鳥取県鳥取市の農地100ヘクタールにて、米、飼料の生産を行う。農業生産と併せて情報発信にも力を入れており、農業現場のファクトを伝える自社YouTubeチャンネル(農業法人トゥリーアンドノーフ)は、総再生回数2,400万回を超える。「世界で最も影響力のある農家になる」ことを目標に、持続可能な農業の実現に向けた取り組みを行っている。

【報道関係者のお問い合わせ先】

 広報事務局 株式会社ストーリーズ・オン 松本・大貫

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業種
水産・農林業
本社所在地
東京都中央区新川1-3-21 BIZ SMART茅場町3階
電話番号
03-6868-8491
代表者名
事務局長 熊谷 善敏
上場
未上場
資本金
-
設立
2001年10月