パブリック・コメントに〈もやい〉として意見を提出しました
「無料低額宿泊所の設置及び設営に関する基準案」の問題点
現在、厚生労働省では生活保護法や社会福祉法などの改正に合わせ、「社会福祉住居施設」を新たに設置する準備を進めています。とくに、無料低額宿泊所の最低基準を定める省令案が6月7日(金)に公開され、7月6日(土)までパブリック・コメントを募集しています。この度、〈もやい〉ではこの省令案について、厚生労働省に対し、意見を提出しました。
現在、厚生労働省では生活保護法や社会福祉法などの改正に合わせ、「社会福祉住居施設」を新たに設置する準備を進めています。とくに、無料低額宿泊所の最低基準を定める省令案が6月7日(金)に公開され、7月6日(土)までパブリック・コメントを募集しています。この度、〈もやい〉ではこの省令案について、厚生労働省に対し、意見を提出しました。
私たち認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいは、今回の省令案について、生活保護制度における「居宅保護」を後退させてしまう可能性がある点、施設運営者の都合に合わせていると思われる一方で、入居者の権利や尊厳のある生活の保障に配慮したものとなっていない点で大きな問題をはらんでいると考えています。
本意見書では次の項目についてそれぞれ述べております。全文は本リリース最下部もしくは以下のURLにてご覧いただけます。
PDF → https://www.npomoyai.or.jp/wp-content/uploads/2019/06/945a63396b621d556f00475e4574f4c9.pdf
私たちの意見書が、本省令案をめぐる公の議論を活発にし、生活に困窮された方にかかわる制度の改善に貢献できれば幸いです。
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2019年6月21日
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
理事長 大西 連
東京都新宿区山吹町362番地みどりビル2F
Tel:03-6265-0137 Fax : 03-6265-0307
E-mail: info@npomoyai.or.jp
無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)についての意見
私たちは、日本国内の貧困問題に取り組む団体として、生活に困窮された方が生活保護などの社会保障制度を利用するにあたっての相談・支援や、安定した「住まい」がない状態にある方がアパートを借りる際の連帯保証人の提供、サロンなどの「居場所作り」といった活動をおこなっている認定NPO法人です。
2001年の団体設立からこれまでに、のべ約3,000世帯のホームレス状態の方のアパート入居の際の連帯保証人や緊急連絡先を引き受け、また、生活にお困りの方から寄せられる面談・電話・メール等での相談は、年間4,000件近くにのぼります。また、無料低額宿泊所等で生活している生活保護利用者の方からの「アパートに入りたい」という相談や、施設環境の悪さや職員等の対応について等の相談も多く寄せられます。
日夜、住まいがない生活困窮者の相談や、無料低額宿泊所等で生活する生活保護利用者からの相談を受ける立場として、「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)」(以下、省令案)について、下記の意見を提出します。
1.無料低額宿泊所の規模について(第十条)
省令案(第十条)では5人以上の人員を入居させることができる規模を有するものでなければならない、と示されているが、そもそも、定員の規模を明示する必要性はあるのであろうか。地域等の事情や人口規模等によって、無料低額宿泊所の規模はさまざまであっていいはずだ。もちろん、居宅保護の原則の通り、住まいがない生活保護利用者がすぐさまアパートを借りることができる支援を整えることは大前提である。とはいえ、5人未満の人員が認められない場合、地方などでは、定員を満たせないために無料低額宿泊所を運営できなくなる可能性があるほか、5人以上の人員の規模にするために、たとえば、複数の自治体等、広域で生活保護利用者を受け入れる、などの可能性がある。これは、結果的に、生活保護利用者のアパート移行の際の妨げになる危険性もあり、5人以上という規模の制限が適切なものであるとは考えられない。5人以上という文言を削除するべきである。
2.無料低額宿泊所の設備について(第十二条、第十九条)
省令案によれば(第十二条)、洗面所、便所、浴室、洗濯室又は洗濯場に関して、入居定員に即したものを設けること、とされている。しかし、この「入居定員に即したもの」とは一体、どの程度のものなのであろうか。こういった曖昧な表現では基準を定めた、とは言えないのではないだろうか。より具体的な基準を定めるべきである。
また、入浴について(第十九条)、1日に1回の頻度で提供しなければならない、と記されている一方で、やむをえない事情があり、かつ、事前に入居者に説明をおこなう場合、1週間に3回以上の頻度とすることができる、とされている。「やむをえない事情」にどのようなものがあてはまるのかも明示されておらず、これでは、1週間に3回以上の頻度で良い、とされてしまう可能性もある。また、入浴に関しては、集団(複数人)での入浴となることや、非常に限られた時間内での入浴を施設側に求められることもある。アパートで生活する生活保護利用者であれば自分の望むタイミングで入浴できることを考えると、ここでの基準は極めて低いものである。入浴の機会は最低でも1日1回以上は提供されるべきである。
3.居室の床面積等について(第十二条、附則第二条および三条)
省令案(第十二条)によれば、居室の床面積は7.43平方メートル以上、地域の事情によっては4.95平方メートル以上、と提示された。しかし、附則の第三条において、現状でその水準以下の居室面積であっても、新基準への適応に際し、一定の条件を満たせば「当分の間」そのまま利用をすることができるとされている。これでは、現行の狭隘な無料低額宿泊所等の居室の状況を結果的には黙認することにつながりかねない。こういった経過措置は、最低生活保障という観点からも不要なのではないか。仮に、居室基準の一部については附則第二条により経過措置(3年間)を施設運用者のために設置するにしても、附則第三条第一項の経過措置(一定の条件を満たせば「当分の間」そのままでいい)は不必要である。
また、附則第三条第二項には、都道府県との協議の上作成した居室の床面積の改善についての計画による必要な改善が「図られない限り、新たな居室の増築はできない」とあるが、ここには2つの問題がある。第1に、改善が「図られ」るとはどういう事態を指しているのか。具体的な改善がみられなくとも、試みがなされていればよいのであれば、この規定は実質的に意味をなさない。第2に、「新たな居室の増築はできない」とあるが、これは改善が図られていなかったとしても居室の増築をしなければ施設の運営を継続してもよいという意味にとれる。これは居室の床面積に関する規制を有名無実化するものである。居室の床面積の改善が見られない場合には、「新たな居室の増築はできない」とするのではなく、より厳しい規定を設けるべきである。
4.解約に関する事項について(第十四条)
省令案には記載がないが、解約に関する事項のなかに、解約金や違約金等を入居者に求めてはならない、等の内容を盛り込むべきである。
5.利用料(特に基本サービス料)について(第十六条)
省令案では、利用料として、基本サービス費、入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用、が記載されている。(「入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用」は日常生活支援住居施設である場合に限る)
ここでいう基本サービス料等の費用の基準が現段階で曖昧であり、施設ごとの「基本サービス」の質についてもばらつきがみられる恐れがある。そして、この費用を生活保護利用者が負担する場合、生活扶助費から支払うのか、何らかの加算のような形で生活扶助費とは別に支給されるのか、明確になっていない。仮に、生活扶助費から支払う場合、これらの費用は、一般のアパートにおいて居宅生活を営んでいる生活保護利用者には発生しないものであり、施設等に入居する生活保護利用者の負担は増大する。もし、こういった基本サービス料等を徴収するのであれば、その基準を明確にすることはもとより、アパートで生活する生活保護利用者と比較したときに生活扶助分の金額が不足しないように、何らかの措置をはかるべきである。
6.利用者のプライバシーについて(第十二条、十七条および二十条)
省令案によれば、第十七条でプライバシーの確保に配慮した運営をおこなわなければならない、としながらも、状況把握(第二十条)として、原則として一日に一回以上居室への訪問等をおこなわなければならない、としている。また、第十二条第六項ニにおいて、「居室の扉は、堅固なものとし、居室ごとに設けること」とあるが、居室の扉に入居者が管理できる鍵を設置することは基準に含まれていない。
無料低額宿泊所はあくまで一時的な居住の場(第三条)であり、入居者への過度の「見守り」はその入居者の求めがない限りはプライバシーの侵害である。そして、こういった1日1回の居室への訪問等にかかる人件費等を「基本サービス料」として徴収する、などは言語道断である。第二十条を削除した上で、第十二条第六項ニに、居室の扉に入居者が管理できる鍵を設置することを明記するべきである。
7.金銭管理について(第二十六条)
省令案では、日常生活に係る金銭管理(第二十六条)についての記載がある。ここでは、金銭管理自体を本人がおこなうことが原則としつつも、本人が希望すれば、施設側が一定の条件をもとに金銭管理をおこなうことを許容する内容となっている。あくまで本人の希望のもとにという制約はあるものの、医師や裁判所等の判断を経ずに金銭管理をおこなうことは人権的な観点からも非常に問題がある。施設側が金銭管理をおこなうことを妨げない第二十六条は削除するべきである。
8.全体として
そもそも、生活保護が法上で規定する「居宅保護」の原則が、こういった「施設」での生活を前提とした省令案により、後退するのではないかとの懸念がある。実際に、例えば、都内などで住まいをもたない生活困窮者が生活保護申請をした場合、無料低額宿泊所等での宿泊を事実上、強要されることが多く、「居宅保護」の原則が守られているとは言えない状況がある。安易な施設化は時代に逆行しているとも言える。
施設側に「基本サービス料」「入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用」などの費用科目が設定されている時点で、施設側の都合で「日常生活の支援が必要である」と判断される可能性はある。現状では、上記のように、住まいがない生活保護利用者や施設等で生活せざるをえない状況があり、そういった日常生活のサービスを利用したくなくても(必要がなくても)、施設での生活を続けるために(ほかの選択肢がないために)、不必要な支援を事実上、強いられる可能性もある。
施設等での生活はあくまで一時的なものであることに鑑み、「居宅保護」の原則のもと、アパート生活への移行への支援、そして、アパートに在宅のままでの日常生活の支援の在り方について早急に検討し、法整備等の必要な措置を講ずることが必要である。
また、日常生活の支援が必要であるかどうかの基準について明確にし、また、医師等の専門家による判断や第三者的なチェック機能などを構築し、不必要に日常生活の支援をおこなうことはもとより、本人の意思に反した支援の強要を防ぐための措置を講ずるべきである。
以上
私たち認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいは、今回の省令案について、生活保護制度における「居宅保護」を後退させてしまう可能性がある点、施設運営者の都合に合わせていると思われる一方で、入居者の権利や尊厳のある生活の保障に配慮したものとなっていない点で大きな問題をはらんでいると考えています。
本意見書では次の項目についてそれぞれ述べております。全文は本リリース最下部もしくは以下のURLにてご覧いただけます。
PDF → https://www.npomoyai.or.jp/wp-content/uploads/2019/06/945a63396b621d556f00475e4574f4c9.pdf
- 無料低額宿泊所の規模について(第十条)
- 無料低額宿泊所の設備について(第十二条、第十九条)
- 居室の床面積等について(第十二条、附則第二条及び三条)
- 解約に関する事項について(第十四条)
- 利用料(特に基本サービス料)について(第十六条)
- 利用者のプライバシーについて(第十二条、十七条および二十条)
- 金銭管理について(第二十六条)
- 全体として
私たちの意見書が、本省令案をめぐる公の議論を活発にし、生活に困窮された方にかかわる制度の改善に貢献できれば幸いです。
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2019年6月21日
認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい
理事長 大西 連
東京都新宿区山吹町362番地みどりビル2F
Tel:03-6265-0137 Fax : 03-6265-0307
E-mail: info@npomoyai.or.jp
無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)についての意見
私たちは、日本国内の貧困問題に取り組む団体として、生活に困窮された方が生活保護などの社会保障制度を利用するにあたっての相談・支援や、安定した「住まい」がない状態にある方がアパートを借りる際の連帯保証人の提供、サロンなどの「居場所作り」といった活動をおこなっている認定NPO法人です。
2001年の団体設立からこれまでに、のべ約3,000世帯のホームレス状態の方のアパート入居の際の連帯保証人や緊急連絡先を引き受け、また、生活にお困りの方から寄せられる面談・電話・メール等での相談は、年間4,000件近くにのぼります。また、無料低額宿泊所等で生活している生活保護利用者の方からの「アパートに入りたい」という相談や、施設環境の悪さや職員等の対応について等の相談も多く寄せられます。
日夜、住まいがない生活困窮者の相談や、無料低額宿泊所等で生活する生活保護利用者からの相談を受ける立場として、「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)」(以下、省令案)について、下記の意見を提出します。
1.無料低額宿泊所の規模について(第十条)
省令案(第十条)では5人以上の人員を入居させることができる規模を有するものでなければならない、と示されているが、そもそも、定員の規模を明示する必要性はあるのであろうか。地域等の事情や人口規模等によって、無料低額宿泊所の規模はさまざまであっていいはずだ。もちろん、居宅保護の原則の通り、住まいがない生活保護利用者がすぐさまアパートを借りることができる支援を整えることは大前提である。とはいえ、5人未満の人員が認められない場合、地方などでは、定員を満たせないために無料低額宿泊所を運営できなくなる可能性があるほか、5人以上の人員の規模にするために、たとえば、複数の自治体等、広域で生活保護利用者を受け入れる、などの可能性がある。これは、結果的に、生活保護利用者のアパート移行の際の妨げになる危険性もあり、5人以上という規模の制限が適切なものであるとは考えられない。5人以上という文言を削除するべきである。
2.無料低額宿泊所の設備について(第十二条、第十九条)
省令案によれば(第十二条)、洗面所、便所、浴室、洗濯室又は洗濯場に関して、入居定員に即したものを設けること、とされている。しかし、この「入居定員に即したもの」とは一体、どの程度のものなのであろうか。こういった曖昧な表現では基準を定めた、とは言えないのではないだろうか。より具体的な基準を定めるべきである。
また、入浴について(第十九条)、1日に1回の頻度で提供しなければならない、と記されている一方で、やむをえない事情があり、かつ、事前に入居者に説明をおこなう場合、1週間に3回以上の頻度とすることができる、とされている。「やむをえない事情」にどのようなものがあてはまるのかも明示されておらず、これでは、1週間に3回以上の頻度で良い、とされてしまう可能性もある。また、入浴に関しては、集団(複数人)での入浴となることや、非常に限られた時間内での入浴を施設側に求められることもある。アパートで生活する生活保護利用者であれば自分の望むタイミングで入浴できることを考えると、ここでの基準は極めて低いものである。入浴の機会は最低でも1日1回以上は提供されるべきである。
3.居室の床面積等について(第十二条、附則第二条および三条)
省令案(第十二条)によれば、居室の床面積は7.43平方メートル以上、地域の事情によっては4.95平方メートル以上、と提示された。しかし、附則の第三条において、現状でその水準以下の居室面積であっても、新基準への適応に際し、一定の条件を満たせば「当分の間」そのまま利用をすることができるとされている。これでは、現行の狭隘な無料低額宿泊所等の居室の状況を結果的には黙認することにつながりかねない。こういった経過措置は、最低生活保障という観点からも不要なのではないか。仮に、居室基準の一部については附則第二条により経過措置(3年間)を施設運用者のために設置するにしても、附則第三条第一項の経過措置(一定の条件を満たせば「当分の間」そのままでいい)は不必要である。
また、附則第三条第二項には、都道府県との協議の上作成した居室の床面積の改善についての計画による必要な改善が「図られない限り、新たな居室の増築はできない」とあるが、ここには2つの問題がある。第1に、改善が「図られ」るとはどういう事態を指しているのか。具体的な改善がみられなくとも、試みがなされていればよいのであれば、この規定は実質的に意味をなさない。第2に、「新たな居室の増築はできない」とあるが、これは改善が図られていなかったとしても居室の増築をしなければ施設の運営を継続してもよいという意味にとれる。これは居室の床面積に関する規制を有名無実化するものである。居室の床面積の改善が見られない場合には、「新たな居室の増築はできない」とするのではなく、より厳しい規定を設けるべきである。
4.解約に関する事項について(第十四条)
省令案には記載がないが、解約に関する事項のなかに、解約金や違約金等を入居者に求めてはならない、等の内容を盛り込むべきである。
5.利用料(特に基本サービス料)について(第十六条)
省令案では、利用料として、基本サービス費、入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用、が記載されている。(「入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用」は日常生活支援住居施設である場合に限る)
ここでいう基本サービス料等の費用の基準が現段階で曖昧であり、施設ごとの「基本サービス」の質についてもばらつきがみられる恐れがある。そして、この費用を生活保護利用者が負担する場合、生活扶助費から支払うのか、何らかの加算のような形で生活扶助費とは別に支給されるのか、明確になっていない。仮に、生活扶助費から支払う場合、これらの費用は、一般のアパートにおいて居宅生活を営んでいる生活保護利用者には発生しないものであり、施設等に入居する生活保護利用者の負担は増大する。もし、こういった基本サービス料等を徴収するのであれば、その基準を明確にすることはもとより、アパートで生活する生活保護利用者と比較したときに生活扶助分の金額が不足しないように、何らかの措置をはかるべきである。
6.利用者のプライバシーについて(第十二条、十七条および二十条)
省令案によれば、第十七条でプライバシーの確保に配慮した運営をおこなわなければならない、としながらも、状況把握(第二十条)として、原則として一日に一回以上居室への訪問等をおこなわなければならない、としている。また、第十二条第六項ニにおいて、「居室の扉は、堅固なものとし、居室ごとに設けること」とあるが、居室の扉に入居者が管理できる鍵を設置することは基準に含まれていない。
無料低額宿泊所はあくまで一時的な居住の場(第三条)であり、入居者への過度の「見守り」はその入居者の求めがない限りはプライバシーの侵害である。そして、こういった1日1回の居室への訪問等にかかる人件費等を「基本サービス料」として徴収する、などは言語道断である。第二十条を削除した上で、第十二条第六項ニに、居室の扉に入居者が管理できる鍵を設置することを明記するべきである。
7.金銭管理について(第二十六条)
省令案では、日常生活に係る金銭管理(第二十六条)についての記載がある。ここでは、金銭管理自体を本人がおこなうことが原則としつつも、本人が希望すれば、施設側が一定の条件をもとに金銭管理をおこなうことを許容する内容となっている。あくまで本人の希望のもとにという制約はあるものの、医師や裁判所等の判断を経ずに金銭管理をおこなうことは人権的な観点からも非常に問題がある。施設側が金銭管理をおこなうことを妨げない第二十六条は削除するべきである。
8.全体として
そもそも、生活保護が法上で規定する「居宅保護」の原則が、こういった「施設」での生活を前提とした省令案により、後退するのではないかとの懸念がある。実際に、例えば、都内などで住まいをもたない生活困窮者が生活保護申請をした場合、無料低額宿泊所等での宿泊を事実上、強要されることが多く、「居宅保護」の原則が守られているとは言えない状況がある。安易な施設化は時代に逆行しているとも言える。
施設側に「基本サービス料」「入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用」などの費用科目が設定されている時点で、施設側の都合で「日常生活の支援が必要である」と判断される可能性はある。現状では、上記のように、住まいがない生活保護利用者や施設等で生活せざるをえない状況があり、そういった日常生活のサービスを利用したくなくても(必要がなくても)、施設での生活を続けるために(ほかの選択肢がないために)、不必要な支援を事実上、強いられる可能性もある。
施設等での生活はあくまで一時的なものであることに鑑み、「居宅保護」の原則のもと、アパート生活への移行への支援、そして、アパートに在宅のままでの日常生活の支援の在り方について早急に検討し、法整備等の必要な措置を講ずることが必要である。
また、日常生活の支援が必要であるかどうかの基準について明確にし、また、医師等の専門家による判断や第三者的なチェック機能などを構築し、不必要に日常生活の支援をおこなうことはもとより、本人の意思に反した支援の強要を防ぐための措置を講ずるべきである。
以上
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