抗老化の新しいターゲットタンパク質を発見
幹細胞の分化を抑制するタンパク質「グレムリン2」が多いほど皮膚の老化が進行している
日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市中区丸の内3-18-15、代表取締役社長:野々川 純一)は、藤田医科大学医学部(愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98)応用細胞再生医学講座(教授:赤松 浩彦)及び皮膚科学講座(教授:杉浦 一充)と共同で研究を進め、加齢に伴い産出される「グレムリン2 (GREM2)」と呼ばれるタンパク質が、皮膚の幹細胞の分化を抑制し皮膚組織の再生を妨げていることを突き止めました。また、グレムリン2の量が多いほど皮膚の老化が進行していることが分かりました。
私たちの皮膚は、外側から表皮、真皮、皮下脂肪と大きく分けて3つの組織から構成されています。それぞれの組織には幹細胞が存在し、幹細胞から新しい細胞が供給されることで、皮膚組織の機能が維持されています。しかし、皮膚は老化によって機能低下し、シワ、タルミといった外観的な変化が現れます。共同研究グループは、この皮膚の老化現象と幹細胞との関係について研究を進めてきました。
今回、加齢に伴い表皮や真皮においてグレムリン2(GREM2)と呼ばれるタンパク質の産出量が増え、そのGREM2が表皮幹細胞や真皮幹細胞の分化を妨げることで皮膚組織全体の再生が停滞していることが考えられました。また、高齢者においてGREM2の量が多い皮膚では、表皮が薄く、真皮で作られるコラーゲンの量が少ないことを確認しました。つまり皮膚においてGREM2の量が多いほど、老化が進行していることが分かりました。
以上の結果から、皮膚の再生や老化改善において、GREM2の産生量を減らすことは重要であると考えられました。今後は、これらの研究結果をもとに皮膚の抗老化や再生能力の向上につながる技術開発を進めてまいります。
なお、本研究成果は、国際科学誌「Regenerative Therapy」(2021年12月号18巻)に掲載されます(電子版は7月12日より公開されています)。
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<参考資料>
1.加齢に伴い皮膚のGREM2の産生量が増加している
若齢者(8~31歳、計16名)と高齢者(63~79歳、計21名)の皮膚組織を解析したところ、表皮、真皮ともにGREM2が産生されていることを確認しました。また、GREM2(赤色)は加齢によって産生量が増加していることが分かりました(図1)。
2.GREM2は表皮・真皮幹細胞の分化を抑制する
三次元培養表皮モデルの技術を応用し、培養時にGREM2を添加することよって表皮組織構造に及ぼす影響について検証しました。その結果、GREM2を添加した三次元培養表皮では、角質層の薄い、未熟な表皮が形成されました。実際にGREM2の添加濃度依存的に表皮分化マーカータンパク質(ケラチン10)の遺伝子発現が抑えられていました(図2)。このことから、GREM2には表皮幹細胞の分化を抑制する作用があり、GREM2の量が多いほど薄く未熟な表皮構造になることが考えられました。
同様に、真皮に対するGREM2の作用を検証するために、GREM2を培養液中に添加して真皮幹細胞の分化に及ぼす作用について確認しました。その結果、GREM2を添加した条件ではコラーゲン線維(赤色)が産生されず、GREM2の添加濃度依存的に真皮分化マーカータンパク質(タイプ1コラーゲン)の遺伝子発現が抑えられていました(図3)。このことから、GREM2には真皮幹細胞の分化を抑制する作用があり、GREM2の量が多いほど新しいコラーゲンの産生が滞ることが考えられました。
3.皮膚におけるGREM2量が多いほど老化が進行している
高齢者の皮膚において、GREM2の量が多いものと少ないもので皮膚組織の状態の違いについて比較しました。その結果、GREM2量が多い皮膚では、表皮が薄くなり、真皮のコラーゲン線維が減少していることが分かりました(図4)。つまり、皮膚におけるGREM2の量が多いほど老化が進行していることが明らかになりました。
4.GREM2は皮膚の幹細胞の分化を抑制することで老化を促進させる
これらの結果からGREM2は、皮膚の幹細胞の分化を抑制することで、表皮ではターンオーバーを、真皮ではコラーゲンの産生を遅延させ、皮膚組織全体の老化を促進していると考えられました。
5.掲載雑誌・タイトル・著者について
雑誌名: Regenerative Therapy
論文タイトル: Gremlin 2 suppresses differentiation of stem/progenitor cells in human skin
掲載アドレス: https://doi.org/10.1016/j.reth.2021.06.007
著者: 堀田 美佳1-3, 長谷川 靖司1,2,4, 井上 悠1,2, 長谷部 祐一1,2, 有馬 豪4, 岩田 洋平4, 杉浦 一充4, 赤松 浩彦3
所属:1 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所
2 名古屋大学大学院 医学系研究科 名古屋大学 メナード協同研究講座
3 藤田医科大学 医学部 応用細胞再生医学講座
4 藤田医科大学 医学部 皮膚科学講座
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