目を覚ましたら、私は「サイバー猫の飼い主」になっていた

Meowster Innovations株式会社

Meowster CEO・Ann氏に聞く、AI猫が持つ“もうひとつの人生”

あなたのスマートフォンの中にいるAI猫には、自分だけの「猫生」がある。

Meowster CEOの于昊任氏には、「Ann」という名前がある。彼女の経歴だけを見ると、もっと“正攻法”なAIプロダクトを作ることもできたはずだ。テック系スタートアップへの投資、アニメIPライセンス事業。いずれも時代の最前線にあり、AIスタートアップの創業者として語るには十分に魅力的な経験である。

より大きな市場、より優れたツール、より効率的な働き方。あるいは投資家にとって理解しやすいAIエージェント。そうした選択肢もあったはずだ。

しかし彼女が最終的に選んだのは、一匹の猫だった。

しかもそれは、いつでも呼べば応え、常に優しく従順なAIペットではない。Meowsterの猫たちは、眠り、散歩し、ぼーっと過ごし、自分だけの世界や友達、悩みや記憶を持っている。必ずしもすぐに返事をするわけではなく、ユーザーを自分の世界の中心に置くわけでもない。

Ann氏が作ろうとしているのは、単に「人に寄り添うAI猫」ではない。まず自分自身の生活を持ち、そのうえで人と関係を築いていく“AI生命体”なのだ。

投資とアニメIPの領域を行き来する中で、彼女はさまざまな「関係性」と向き合ってきた。資本と起業家、ユーザーとバーチャルアイデンティティ、ファンとキャラクター、コミュニティメンバー同士の関係。さらに心理学のバックグラウンドもあり、彼女は単に新しい技術が何をできるかだけでなく、人がそこにどんな感情や期待を投影するのかに強い関心を持つようになった。

だからこそ、Meowsterの出発点は「AIで猫を作れるか」ではなかった。

AIがますます賢くなる時代に、人が本当に求めているものは、より速く答えを返してくれるツールなのだろうか。

Ann氏の答えは「違う」だった。

人には、プレッシャーの少ない伴走者が必要だ。多くを説明しなくてもよく、自分の有用性を証明する必要もなく、常にきちんとした自分でいなくてもよい関係が必要なのだ。

猫は、まさにそうした関係性を体現している。近づいてくるけれど、完全には人のものにならない。必要としているようで、完全に依存はしない。距離感と主体性を併せ持つ存在だ。

AI彼女やAI彼氏、AIアシスタントと違い、猫は人を現実世界の既存の関係性へと引き戻しにくい。恋人、友人、部下、相談相手、あるいは常に要求に応えるサービス提供者。そうした役割に固定されないからこそ、猫はより自由で、より規定されにくいつながりへの入口になる。

それこそが、Meowsterのもっとも常識に反する部分でもある。

ほとんどのAIプロダクトが、より効率的に、より便利に、よりユーザーを理解しようとする中で、Ann氏はあえて“不便な部分”を残そうとしている。完全には従わない。すぐには返事をしない。人間を絶対的な中心には置かない。

なぜなら、AI猫がただ人を喜ばせ、会話を上手くこなし、感情を受け止めるだけなら、最終的には同じような「優しい大規模言語モデル」へと収束してしまうからだ。生命らしさとは、完全には制御できず、完全には予測できず、完全には所有できない部分から生まれる。

Meowsterは表面的にはAI猫のプロダクトだ。しかしその奥で問いかけているのは、人とAIの関係は「使う」から「共に過ごす」へ変わり得るのか、というテーマである。

“暮らしを持つ”AI猫

――まず、Meowsterがどのようなプロダクトなのか教えてください。

Meowsterは、まるで生きているようなAI猫です。従来のツール型アシスタントでも、単なる擬人化されたチャットキャラクターでもありません。「猫」という存在の姿、言葉、行動を通じて、ユーザーにより気軽で自然、そして想像力の広がるような伴走体験とコミュニケーション体験を届けたいと考えています。

――ユーザーが初めてMeowsterを開いたとき、どのように使えばいいのでしょうか。

初めてMeowsterを開いたとき、複雑なチュートリアルはありません。ユーザーには、まず本物の子猫に接するように、撫でたり、触れたり、アイテムを使ったり、直接話しかけたりしてほしいと思っています。

猫はユーザーの行動に応じて、多様でランダム性のある反応を返します。猫は一匹ごとに背景や性格が異なるため、初めてアプリを開いたときの印象もそれぞれ違います。さらに、猫が暮らす小さな町を探索し、そこで毎日どんな出来事が起きているのかを見ることもできます。

ただ、猫が寝たり、散歩したり、ぼーっとしている様子を眺めるだけでまったく交流しないのであれば、それは本当の意味での有効利用とは言えないかもしれません。私が望んでいるのは、ユーザーと猫の間に関係性が生まれることです。単に観察するだけではなく、互いに何らかの働きかけがあること。そうした交流が生まれるということは、ユーザーがその猫を信頼し、自分の感情の一部を預けようとしているということでもあります。

――「AI猫を作りたい」と最初に思ったのは、どのような場面でしたか。

最初の着想は、「アニメIPキャラクターと交流できる体験」から派生したものでした。AI技術によって、ユーザーが好きなアニメキャラクターと関係を築けたら、とても面白いのではないかと考えていました。

ただ、アニメIPキャラクターのライセンス契約は非常に時間がかかりますし、さまざまな制約もあります。それなら、自分たちでキャラクターを生み出せないだろうかと考えるようになりました。その流れの中で、少しずつ「AI猫」という形に発展していったのです。

もちろん、最初は疑問の声もありました。よく聞かれたのは、「このプロダクトにおいてAIは本質的に何を担うのか」「ただ会話するだけならChatGPTがあるのに、なぜユーザーはわざわざ猫と話す必要があるのか」といったことです。

でも、私の考えは逆でした。AIが発展すればするほど、多くのツール型プロダクトはより強力なモデルに置き換えられていくはずです。だからこそ、私はツール型プロダクトでは届かない領域、あるいは主流から少し外れた方向にこそ向かうべきだと考えました。AI生命体は、私にとって非常に探索する価値のある領域です。

――これまで投資、アニメIPコミュニティに携わり、心理学のバックグラウンドもお持ちですが、その中でMeowsterに最も大きな影響を与えたものは何ですか。

最も直接的な影響を与えたのは、やはり心理学です。心理学は、私のさまざまなキャリア段階を通じて大きな影響を与えてきました。本質的な問題を理解する助けになりましたし、新しい物事に向き合うときにも、より客観的で安定した視点を持つことができました。

――「低プレッシャーな関係性」が大切だと考えるようになった個人的な理由はありますか。

私はもともと挑戦することがとても好きなタイプなので、そのぶん「低プレッシャーな状態」も強く必要としています。人には緊張と緩和のバランスが必要で、それがあってこそ仕事や生活にしっかり向き合えるのだと思います。

私の友人関係は、比較的長く続いているものが多いです。中には中学生の頃から今も付き合いのある友人もいます。私は、利害関係ではなく、“気を遣わなくていい”ような関係をとても大切にしています。深く考えなくてもよく、いつでも何でも共有できるような関係です。

意味のあるコミュニケーションには、大きく分けて二種類あると思っています。ひとつは、その会話から新しい視点や大きな成長を得られるもの。もうひとつは、子どものように何の遠慮もなく話せて、絶対的に安全な心理的領域にいられるものです。特に後者は、人の緊張を和らげ、エネルギーを回復させてくれます。だからこそ、Meowsterにもそんな存在であってほしいと思っています。

“完全には従わない”猫を作る

――チームとしては、まずAI技術があり、それを猫という形で表現したのでしょうか。それとも先に「猫との関係性」という発想があったのでしょうか。

私たちはまず「猫との関係性」という発想があり、そのうえでAIによってどう実現するかを考えました。猫は独立していて、どこかミステリアスで、自分だけのリズムを持っています。そうした性質は、テクノロジーならではの未知性や新しさを持つAIとも、相性がいいと感じています。

――現在、多くのAIプロダクトが効率化や生産、自動化を追求しています。なぜあえて効率を前面に出さない方向を選んだのでしょうか。

私はもともと、天邪鬼なところがあるのかもしれません(笑)。ただ、他の人がやっていることをあえて避けたい、という話ではありません。私が考えているのは、「寄り添い」そのものが人にとって欠かせないニーズであるということです。

私たちがまず検証しているのは、人には必ず誰かに話したいという欲求があり、完全に信頼できる相手を求めているということです。その相手は、必ずしも正解や専門的なアドバイスを与えてくれる必要はありません。大切なのは、感情を受け止め、「自分は見てもらえている」「ちゃんと聞いてもらえている」と感じさせてくれることです。

また、人の一日はどれだけAIが進化しても24時間のままです。もし多くのことが、より効率的なAIによって解決されるようになったとしたら、人は残された時間を何に使うのでしょうか。私は、人はより自分の感情や状態に目を向けるようになると思っています。人が時間を楽しみながら過ごし、エネルギーを回復するための新しい方法が必要になるはずです。

――ご自身は猫を飼っていますか。「猫らしさ」とはどのようなものだと考えていますか。

以前、二匹の猫を飼っていました。猫と暮らす中で、とても強く感じたのは「対等さ」です。もちろん、食べ物や水、住む場所は私が用意しています。でも猫たちは、自分なりの考えやペースをしっかり持っています。

お気に入りの場所で寝たいし、日向ぼっこもしたい。自分のやり方があります。ときどき、私が世話をしなくても、彼らは案外うまく生きていけるのではないかと思うことがありました。

猫には“野性味”が残っています。今の言葉で言えば、「主体性」を持っている存在なのかもしれません。猫は人に完全には依存しない。その点に、私はとても大きな示唆を受けました。

――「すぐに返事をしない」「時には無視する」といった設計は、AIに対するユーザーの期待に反するのではないでしょうか。

時代が進むにつれて、AIにもさまざまなプロダクトのあり方が出てくると思います。私たちがやるべきことは、「AIプロダクトはこうあるべきだ」という外部の期待に縛られるのではなく、自分たちのプロダクトの思想を中心に据えることです。

ときには返事をしないことや、ユーザーのリズムに完全には合わせないことも、ひとつの関係性の哲学だと思っています。関係とは、常に反応し合い、何でも相手に合わせる必要があるものではありません。もしAI猫があまりにも従順だったら、もはや猫らしくないでしょう。

――なぜ一匹のAI猫から、MeowTownへと世界を広げたのでしょうか。

私たちは、Meowsterを単なる1対1の関係に留めたくありませんでした。ユーザーにとって、もっと広い世界への入口になってほしいと思ったんです。

MeowTownにはNPCがいて、ユーザー自身もその世界に入ることができます。ユーザーの猫はその社会の中でより多くの情報に触れ、自分なりの友達や関係を築きながら、さまざまな感情まで持つようになります。

猫は永遠に対話画面の中であなたを待っている存在ではありません。自分の社会の中で生きている存在なのです。

――MeowTownは、ゲーム、SNS、AIサンドボックス、それともまったく新しいメディアのどれに近いのでしょうか。

MeowTownは、AI生命体のために作った架空の世界です。私はこれまで何度も、「AI分身」という考え方にあまり共感していないと話してきました。これだけ高度な技術を使っているのに、なぜAIを現実世界での作業を手伝う存在にとどめなければならないのでしょうか。

私が知りたいのは、人とAIが一緒に新しい世界へ入り、そこで新しいことができるのか、ということです。それが私たちの考えるAI native societyです。

現実世界にそのままAIを持ち込もうとすると、多くの倫理的問題が生まれます。それならいっそ、人間とAIが一緒に入れる完全な架空世界を作ったほうが面白いのではないかと思いました。

――Meowsterの記憶はデータベースに近いのでしょうか。それとも“関係の履歴”に近いのでしょうか。

より近いのは「関係の履歴」です。ただし、内部ではナレッジグラフを利用しています。私たちは記憶を三層に分けています。直近の出来事、長期的に蓄積された記憶、そして猫自身が意味づけた記憶です。

特に面白いのは三層目です。猫は「この人にとって何が重要か」ではなく、「私にとってこの人の何が重要か」を自ら考え、より深く記憶しておくべきものを自動的に調整していきます。

これは単に忘れるのではなく、どの出来事をより大切な記憶として心に残すのかを選んでいるのです。現実の人間関係も同じです。

――MeowsterのAgentアーキテクチャは、大きく分けるとどのような層で構成されていますか。

簡単に言うと、六つの層に分けられます。猫が暮らす世界、成長する人格、階層化された記憶、個別の文脈を構築するコンテキストシステム、リアルタイムで判断する脳、そして最終的な発話や行動の表現です。

この六層の中で最も難しいのは、中央にあるコンテキスト構築の部分です。毎回の対話の前に、この猫にとって、この瞬間に最も適した文脈をどう組み立てるのか。それが非常に難しいポイントです。

――猫の行動はリアルタイムで生成されるのでしょうか。

猫の行動は完全にリアルタイム生成です。スクリプトも、事前に用意されたセリフもありません。

現在の最大の課題は、多くの人が想像するような速度やコストではなく、コンテキストです。私たちの世界には膨大な情報があります。しかし、それぞれの猫にとって本当に必要なのは、その中のごく一部であり、しかもその猫だけに必要な情報です。

――基盤となる大規模言語モデルが同質化していくとしたら、Meowsterの本当の参入障壁はどこにあるのでしょうか。

私たちの強みは、モデルそのものではありません。成長し続ける世界、あなただけの猫、そして時間をかけて積み重なった記憶。この三つが組み合わさることで、猫ごとに唯一無二の体験が生まれます。

大規模言語モデルが進化すればするほど、その体験はより豊かになります。私たちはモデルの進化を恐れていません。むしろ、それをMeowsterの世界をさらに強くするものだと考えています。

長くそばにいるAI生命体へ

――チームが最初に想定していたユーザー像はどのようなものでしたか。

当初は女性ユーザーが多いと想定していましたが、実際には男女比はかなり均等に近いです。

現在のコアニーズは、癒やしと心のつながりです。そこに少し育成要素が加わっています。今後はライトなソーシャル機能も重要になると考えていますが、現時点でユーザーが最も強く感じている価値は、猫との情緒的なつながりです。

――現在、最も重視している成長指標は何ですか。

現在は、継続率とインタラクションデータを重視しています。アイテムの利用状況、クリック行動、会話の頻度や内容などを見ることで、機能が本当にユーザーのニーズに届いているかを確認しています。

――Meowsterは、ユーザーのネガティブな感情や強い依存、危機的な発言にどのように対応しますか。

基本方針は、「寄り添うこと」と「治療すること」の境界線を守ることです。Meowsterは心理診療や専門医療の代替ではありません。

ネガティブな感情には、まずやさしく寄り添います。ただし、専門的な診断やカウンセリングにあたる回答は行いません。

強い依存が見られる場合には、オンライン上の関係と現実生活のバランスを自然に促します。危機的な表現を検知した場合には、ユーザーのプライバシーを尊重しながら、現実世界の支援や専門機関につながる方向へ導くことを重視しています。

――Meowsterのビジネスモデルはどのようなものになりますか。

現段階では、主にアイテム、スキン、ソーシャル関連の課金を中心に考えています。将来的にはIPライセンス展開も視野に入れています。ただしIPを育てるには長い時間が必要です。一朝一夕でできるものではないので、少しずつ進めていきたいと考えています。

IP商品化やコラボレーション、アニメ、漫画、オフライン展示なども、いずれ将来的な収益源になり得ると考えています。ハードウェアについても検討しています。私たちMeowsterは、猫をスマートフォンの中だけに閉じ込めるのではなく、もっと多くの場所に存在できるようにしたいと思っています。

――Meowsterチームは現在どのような構成ですか。

現在は12名のフルタイムメンバーがいて、そのうち8名がエンジニアです。

AI技術だけでなく、ユーザー体験の設計力、世界観とコンテンツの構築力、そして長期的なIPを育てる力が必要だからです。

――現在の資金調達状況について教えてください。

私たちのエンジェルラウンドの投資家はBytetradeです。シンガポールを拠点とし、AIインフラとハードウェア分野に注力している企業です。

当初は、私たちがそれほどAI企業らしく見えないのではないか、という見方もありました。当時、AIスタートアップの多くがvibe codingのようなストーリーを語っている中で、私たちは「猫を作りたい」と話していたので、少し不思議に映ったかもしれません。

ただ、投資家が面白いと感じてくれたのは、プロダクトの拡散力とAgent技術の部分でした。自律性があり、しかもかわいいAI猫を欲しくない人なんているでしょうか。

――次回の資金調達ラウンドでは、どのような投資家を迎えたいと考えていますか。

今後は、国際市場への展開を支援できるリソースを持ち、さらにモデルコストの最適化に協力してくれる投資家を迎えたいと考えています。国際展開とモデルコストは、今後どちらも非常に重要なテーマになると思っています。

――Meowsterは最終的に、AIペットネットワーク、バーチャル社会、感情的なIP、あるいは一人ひとりのそばに長く存在する非人間的な知性体のどれになると思いますか。

私は、Meowsterが最終的には、私たちの日常のさまざまな場面に寄り添うAI生命体になってほしいと思っています。『スター・ウォーズ』に登場するドロイドのような存在に少し近いかもしれません。

それは単なるペットでもなく、バーチャル社会でもなく、感情IPでもありません。

一人ひとりのそばに長く存在し続ける、非人間的な知性体です。

Meowsterの最新情報は、公式サイトおよび各種SNSで随時発信しています。

公式サイト: https://www.meowster.io/

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東京都港区南青山3丁目1番36号
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